-願い-
帰りたいと、少女達の誰もが強く思ったがもはや全てが遅過ぎた。
勝沼紳一の死後。主人を追い殉死した直人を除き、残った部下二名による徹底的な凌辱がようやく終わりを告げた時のこと。
『帰してやるぞ。お嬢ちゃん達』
『帰れれば、だけどな』
男達は少女達を見下ろし、馬鹿にしたように笑いながら地下牢を出て行く。そうして二度と戻ることはないのだろう。
――牢の中には十数人の少女達が横たわっている。皆一様に全裸で、体中を精液まみれにさせられていた。
「う……」
小さく、消え入りそうなうめき声。クラス委員の柚流。凛々しくも真面目な少女の面影はもはやどこにも残されていなかった。
(かえ……た、い……)
うつ伏せの柚流は右を向いていた。隣に、同じように横たわっているクラスメイトの虚ろな視線が交差する。
そこにはひながいた。柚流は修学旅行前の事を思い出す。ウサギのぬいぐるみを持って行ってもいいかと担任に相談しに行って欲しいと言われたことを思い出す。妹のような愛らしい少女達はしかし、既に瞳孔は開き身動き一つしない。疑うことすらできない事実。既に死んでいるのだ。体を動かせない柚流はただ、涙をこぼすだけだった。助けられなかった哀しみと悔しさに加えて諦めが柚流の心を支配していく。自分もすぐにこうなってしまうだろうとわかるから。
柚流の後ろの方では文が横たわっていた。精神を病み、支離滅裂な事を云っていたのだが、最後の最後で正気を取り戻していた。幸福なのか不幸なのか、恐らくは後者。
「あ……う……」
枯れ果てたと思っていた涙がまた込み上げてきた。こんなにもひどい目にあわされ、何度も死にたいと思ったのに、文は最後の最後で生きたいと心の中で叫んでいた。それがもはや適わぬ望みであることを嘆く涙が溢れていく。紳一は……男達は、自分達を犯し尽くしただけでは飽き足らず、少女達の若い命をも奪い去っていった。
「う……」
帰りたい。帰ってお父様とお母様に生きていることを報告したい。そして、お茶を立てたい。今一度……もう一度……。お父様とお母様は、もはや私のことを諦めてしまっているだろうか。死んだものだと思っていらっしゃるのだろうか。それほどの時間が悠に経過しているはずだ。
体中がきしむように痛い。秘所もアヌスも未だに挿入された痛みが残っている。口内へと無理やりつっこまれ、咥えさせられた記憶がよみがえる。思い切り揉まれた胸がじんじんと痛む。力が全く入らない。首輪と鎖が憎い。
「た……す……け……」
それに加え冷たい鉄格子には堅く鍵。絶対に逃げることなどできない事がわかりきっている。
散々犯されたあげくにこんな暗く寂しいところに閉じ込められ、人知れず死んで行く。
(私が……何をしたと……いうの)
あまりにも理不尽な運命に、文はしゃくり上げる。
(お父様……お母様……)
来ることのない助けを呼びながら、自分の意識が薄れていくのを感じる。死の足音が少しずつ聞こえて来る気がした。
「はぁっはぁっ」
突如、彩乃の声が牢の中に響く。
「い、やぁ。こんなのいやぁ! しにたくないよぉっ!」
男達の陵辱が終わり、突発的に我に帰ったようだった。
「だして! ここからだしてえぇっ! いやあああっ!」
必死に鉄格子を掴み前後に揺さぶる。無論少女の力でどうにかなるようなものではない。ガシャガシャと騒々しい音を立てるだけでびくともしなかった。
「い、やだ……。やだ。やだぁぁ。や、だあ……。だして! だしてよぉっ!」
大きかった声は小さくなっていく。彩乃は絶望し、涙をこぼししゃくり上げながらうずくまる。
「だして……うっ。だしてよぉ。どうしてこんな……。ひどい……う、う……」
床と鉄格子の冷たさが彩乃の小さな体を刺すように伝わる。
「だ、れか……。外して。これ、外してよぉ。柚流ちゃん……。誰かぁ。お願いだよぉ……」
横たわっているクラスメイト達を見て助けを乞う。無論、誰も応じたりはしない。したくてもできないし、できていたのなら最初からしている。彩乃もわかっていて聞いている。
「う、うう。う、う……。ぐす……。ひっく……う、う……」
全てが無駄だと改めて悟った彩乃は子供のように両手を目に当て、泣きじゃくるだけだった。
「なんじゃ。騒がしいのう」
「あれだけ犯されてまだ壊れてない娘がいたとはな」
突如、聞こえるはずのない声が響く。
「あ……」
何の気紛れか、古手川と木戸が戻って来たのだ。
「だして……。おねがい。なんでも、するから。だから……だして。ここからだして……。おねがい……。いえにかえして……」
彩乃は立ち上がり、鉄格子を握りしめて哀願した。可愛らしい顔をくしゃくしゃに見出しながら、恥も外聞もなく……。
「ふぉっふぉ。いいとも。だしてやろう」
いつ以来だろう。彩乃は首輪を外され、牢の外へと出された。首輪の跡が痛々しく残っているのを気にする間もなかった。
「かえして……くれるの?」
「ま、いいじゃろ。一人くらい帰しても、な」
「そうだな」
彩乃の顔がぱあっと明るくなる。
ガチャリと音をたて、牢が開かれる。そして彩乃は首輪を外され、牢から出される。よろめき、倒れそうになりながらも彩乃は歩みを進める。クラスメイト達の事を振り返ることもなく。
けれど、そこまでだった。
「あ……ひっ!」
突如背後から襲われてしまう。木戸のものが彩乃のアヌスを大きく貫いていった。
「まったく。今更帰れるだなんて思えるとは、どれだけお嬢様なんだ」
「そうじゃな」
「ひぐっ!」
古手川のものが前から彩乃の秘部を貫いていく。そうして両足を持ち上げられ、彩乃は宙に浮かされながら前と後ろを同時に犯されていく。
「あ! あぐ! あ、あ……やぁぁ……。か、かえして……くれるって……あぐっ!」
「残念じゃがお嬢ちゃん。わしは一つ忘れものを取りにきただけじゃよ」
「まったく。この爺さん、下着を持っていくのを忘れていたとか。変態だな」
「ふぉっふぉっふぉ」
みんなから剥ぎ取った下着を、古手川は集めていたらしい。
「あっあっあっあっあっ!」
極太の肉棒が彩乃のアヌスと秘部を容赦なく侵入していく。忘れていた痛みが蘇り、彩乃はわなわなと目を見開いてのたうち回る。痛くて熱くて、暴れたくても前後から押さえ込まれていてどうしようも無い。
「あっ! ひぃぃ! だ、めぇぇ。ボク……もう……あ、あ、あっ!」
静かに二人は射精した。ごぽ、と音を立てて熱いものが込み上げていく。同時に彩乃の心は完全な絶望に満たされていく。
男達が去り、辺りは再び静けさを取り戻した。
彩乃だけが苦しそうに呻いている。
「う、ふぅ……う、ぐ……ぅ」
誰のだかわからないけれど、友達のショーツを何枚か口内に押し込まれ、喋ることすらできなくされていた。そして更に、両腕を背中でまとめて縛られ、再び首輪を着けられていた。首輪から伸びた鎖は鉄格子に巻き付けられていた。彩乃は牢の外に出ることは許された。が……もはや中も外も同じ。
「うぅ、ううぅ……うぐ……うーーー! うぐぅーーーっ!」
無駄だとわかりつつもがく彩乃。誰もが助けを求め、必死に願う。誰かが来てくれること。そして、自分達を解放してくれること。僅かな光しか残されていない地下牢に……。もう時間がない。早く……早く助けてと、誰もが心の中で叫び続けていた。
(死んじゃう……。死んじゃうよぉっ! 誰か……誰かぁぁ! パパ……助けて、助けて……)
彩乃は両足をばたつかせ、何とか前に進もうと試みる。我慢しきれずに失禁し、床をびしょびしょに濡らしてしまう。処女を奪われ、複数の男に散々汚された挙げ句に死んでいく。一クラス全員同じような目に遭わされて、苦しみ抜いて死んでいく。あまりにも惨めな最期を迎えようとしていることに、彩乃は耐えられなかった。
(やだよ……こんなの。ひどいよ……。ボク……なにもしてないのに。ひどい、ひどい……。しにたく、ない……やだ、やだ……こんなのやだ……。誰か来て……誰か、助けて……はやく……。たすけ……て……。かえり……た、い……)
牢の中でドサリと誰かが崩れ落ちる音がした。それが誰かはもはや彩乃にはわからない。誰かがまた、死んだのだろう。自分の体もどんどん冷たくなっていくのがわかる。彩乃は半狂乱になりながら叫ぼうともがくが、くぐもった声を出すことしかできなかった。
――少女達の安否は未だに確認されていない。
これまでも、これからも、ずっと。