突如ハッとしたかのように少女達が息を飲む。皆、地下牢の中に入れられた上に鎖で繋がれ監禁されている。辺りを頼り無く照らすのは小さな裸電球が一つ。そんな薄暗い闇の中、みしみしと古い木造の床をきしませる音が聞こえたのだ。
こうして少女達にとって恐怖の時が始まる。誰もがこっちに来ないでと心の中で叫ぶ。震えながらきつく目を閉じ、壁に寄り目立たぬよう体を縮ませる。牢の外にはあの男達しかいない。逆に、牢の中にはクラスメイト達――大広間から連れて行かれ、無理やり引き倒されて服を剥ぎ取られ、必死の抵抗も虚しく全裸にさせられ、挙げ句の果てに処女を奪われ、傷つき疲れ果てた哀れな少女達しかいない。牢の外から誰かが来ると云う事は、牢の中の誰かを連れ去りに来た事に他ならない。もう、あんな思いは嫌。怖い、助けて。少女達の震えは大きくなり、恐怖に顔が青ざめていく。
足跡は更に大きく、はっきりと聞こえてくる。地下牢へと続く階段を一段、また一段と降りてくる音。そして一瞬静寂が訪れ、がしゃんと金属同士が擦れる音が一段大きく聞こえる。階段の途中にも鍵の付いた鉄格子があるのだ。男達は用意周到だった。万が一少女達が脱獄を企てた事も想定して二重の牢を構築していたのだ。少女達の首に巻かれている鎖の付いた首輪も入れると三重のガードと云えるだろう。万が一の事――少女達が奇襲を仕掛け集団で男達に襲いかかり、逃げ出そうとしても第二の牢の途中で立ち往生し捕まるであろうという抜け目のない算段だった。
そしてまた足跡が聞こえてくる。階段を降りきった男の目前には鉄格子に覆われた部屋が一列ずつ四つ並んでいるはずだ。このクラスは全部で二十四人。六人ずつ四部屋に閉じ込められている。
「……」
牢の外の廊下に少女達のかすかな息づかいが聞こえてくるかのようだった。
男……古手川が最初の牢を横切った時のことだった。古手川が誰かの手を引いている事に少女達は気付く。まただ。また誰かが犯されたのだ。恐らく、紳一が犯した娘を牢に入れておけと命令され、連れてきたのだろう。
古手川は最初の牢を通り過ぎる。同時に、最初の牢に監禁されている少女達が『ふう……』と安堵の溜息を付くのが聞こえる。そして今度は第二の牢でも同じような状況が生まれる。第二の牢も目的ではなかったらしく、通過。第三の牢も同じく通過。第四の牢に差し掛かり、止まる。そして牢の鍵を開ける。第四の牢に入れられた少女達は脅え、カチカチと歯を鳴らしながら震える。しかし古手川の目的は誰かを犯すことではなかったようだ。牢の鍵を開け、抱えた少女を静かに床に寝かせ、他の少女と同じように鎖着きの首輪を巻いた。
「う、う。ひっく……。ぐす……」
連れてこられたのは全裸の鈴だった。力なく泣き、小刻みにしゃくり上げている。用件を済ませ、古手川は何事もなかったかのように牢を出た。誰も鈴の元に寄って行きはしない。誰も――同じ事の繰り返しに疲れ果てているからだ。慰めたくても助けてあげたくても何ができることだろう。誰もが皆同じような目…… もしくはそれ以上に酷い目に遭わされてきたのだ。むしろ、『今まで犯されなかっただけマシ』だとすら云えるかもしれない。無論誰もそんなこと云ったりはしない。早いか遅いかの違いはあれど、同じなのだから。
ふと古手川が歩みを止める。二つ目の牢を通りかかった所で少女のくしゃみを聞いたから。
「寒いのかな?」
そしてにたりと笑いながら牢の中を眺め見る。少女達はギクリとし、一斉に震え始めた。それを見て古手川はにやにやと嬉しそうにしながら牢に近寄っていく。
「可哀想じゃのう。どぉれ、着るものでもやろうかの。丁度いいもんがあるぞ」
そしてごそごそと上着のポケットを漁り、何かを掴んで放り投げてきた。柔らかい感触の布地がふさ、と一人の少女の上に落ちる。丸められてしわが付いたもの――白く柔らかいショーツ。そしてもう一つ同じく白い大きめのサイズのブラジャー。少なくとも、この牢に閉じ込められている少女のものではない。他の牢の誰かから剥ぎ取ったものだろう。古手川はそんなものを取っておいているのだ。コレクションにでもしているのだろう。
「ふぉふぉふぉ。暖かそうじゃろう? ちょっと染みておるがのぅ」
少女達を挑発するかのように古手川は笑う。ポケットの中からもう一着、水玉模様のショーツを取り出して、右手の人差し指に引っかけてクルクルと回しはじめた。それはつい先程犯され、処女を奪われたばかりの鈴がはいていたものだった。
(ば、かにして……っ!)
みんなうつむいてしまっているけれど、一人だけ違う反応の少女がいた。下着を投げ入れられた牢の中の少女、美紗紀だった。
堪えきれなかったのだ。どんなに怖くても、この男の事が憎いと心底思った。涙を拭く間もなく無意識のうちに、キッと古手川をにらみ付けていた。自分も数日前に全裸にさせられて処女を奪われて徹底的に傷つけられ心細くても、あまりにも人としての尊厳を蔑ろにされた怒りが込み上げてきたのだ。とても正しい行為ではあるけれど、時としてそれは災いの元になってしまう。
「お嬢ちゃん。何か云いたいことがありそうじゃのう?」
目立つことをしてはいけない。挑発に乗ってはいけない。何もしてはいけない。可能な限り関わってはいけない。そんなことわかっている。わかっていてもどうしようもないこともあるのだ。
「寒そうなんじゃから、はけばいいじゃろう?」
「ふざけないで! できるわけないでしょ! お友達の、なんて。ひどい……」
下着の主が誰かは分からないけれど、衣服を強引に剥ぎ取られたであろう光景が脳裏に浮かぶ。きっと自分の時と同じような状況だったのだろう。美紗紀は自分でも気付かない間に新しい涙を流していた。頬を幾筋もの滴が伝う。それでも気丈さは失わずに古手川を睨みつける。
「この人でなし! 出してよ! 私達を……ここから、出してよ!」
少しでも人としての心が残っているのならば、と美紗紀は訴えかける。無駄な事をしているとわかっていても、云わずにいられなかったのだ。
「ふぅむ。木戸には後で娘を一人くれてやろうかの」
「……っ!」
美紗紀を値踏みするようにしながら古手川は云い、ずかずかと牢の中へと入ってきた。美紗紀は木戸に割り当てられた娘。交換に、古手川に割り振られた娘の誰かを差し出そうと云うことだった。
「あ……ぐっ!」
美紗紀はビクッとしながら後ずさりする。が、古手川は美紗紀を拘束している鎖を壁から外し、ぐいと掴んで引っ張った。犬のように扱われ、苦しさに美紗紀は首元を抑える。
「今日は静かにしているつもりだったんじゃがのう。元気なお嬢ちゃんを見て気が変わったわ」
「ぐ、ぐぇぇぇ! やめ……っ。くるし……っ」
美紗紀は牢の外に引っ張り出される。むせ返りそうになりながら呼吸を整える。と、目の前には古手川の下半身。いつの間にかチャックを降ろしたのか、老人とは思えないくらいに大きくそそりたったものが露になっていた。それは、少女達にとって恐怖の象徴。
同時にがしゃんと鉄格子が閉じる。牢の外もまた牢。古手川と二人きりにされた美紗紀は恐怖のあまり悲鳴を上げるが全ては遅かった。
「いっ……いやああああああっ! やああっ! やめてぇぇーーーっ!」
もはや体を覆う衣服も何もない全裸。美紗紀は力無く手足をばたつかせるものの、何の意味も成し得なかった。
古手川は更に鎖を引っ張り、美紗紀の体を引っ繰り返しては押さえ付け、四つん這いにさせてアヌスに突っ込んだ。愛撫すらせずに突然。
「いっ……ぎっ!」
「くぅ……。締まりよるわい」
「あああっ! あああっ! い、痛ああああいっ! あーーーっ! やだああああっ!」
美紗紀は目を見開き、絶叫。アヌスを貫かれ、痛みにのたうちまわりながら頭を振る。その度に長い髪が揺れていく。
彼女のせいではないと分かっている。それでも、古手川を睨みつけたりしなければ今日は何もされないはずだったのに。余計なことを、と。回りの誰もがそう思ってしまう。もちろん口には出せず、ただうつむき涙をこぼしながら。誰もが美紗紀の気持ちが痛いほどわかるのだから。同時に全てを諦めてしまえば、少しは楽になれるはずなのにと、犯されている友達を見て誰もが思う。
「ほれ、ほれ、ほぉれ」
古手川が腰を進めていく。ずん、ずん、と奥まで力強く強く挿入する。その度に美紗紀の体は跳ね上がるように震える。
「あっ! がっ! あぐっ! ああああっ!」
美紗紀は悲鳴を上げながら、きつく目を閉じて嵐が去るのを待ち続けた。……突如、胸に新たな痛みを感じる。
「ひっ! や、やああっ!」
背後から古手川が手を回し、胸を揉み始めたのだ。処女喪失の際、木戸に捻り上げられてしまった胸。強い力で形が変わるほど揉まれ、痣がついてしまった。古手川も同じようなことをしてるのだ。手を引き剥がしたくても、もはやそんな力も余裕も失われている。
「も、もぅ……だ、め……」
断続的に古手川の責めが続いて行く。美紗紀は力無く呟き、やがて意識を失ってしまった。それでも古手川は構わず腰を振り続けた。
「気を失うほど感じておるんじゃの。いけない娘じゃのう」
違う、とはもう云えなかった。
どれ程の時が過ぎ去ったのだろう。
「……」
美紗紀が意識を取り戻す。牢の中に戻されていた。アヌスと秘所がどろどろに汚されているのに気付く。それだけじゃない。散々しゃぶられたのか、乳首や胸が唾液にまみれている。あの後も古手川は美紗紀を汚し続けたのだろう。どれほど中に出されたのだろう。美紗紀はただ呆然としながら、冷たい床に横たわるだけだった。
と、牢の外からぱんぱんという聞き慣れた音が響いている。誰かが犯される音と共に、少女の悲痛なうめき声が聞こえる。
それも一人じゃない。あの後、古手川の行為に触発された木戸と直人が牢の中の少女を犯し始めたのだ。
(わたしの……せい……)
きっとそうだ。何てことをしてしまったのだろう。私のせいで友達が更に痛い目に遭わされている。美紗紀はもう何も考えたくなくなっていき、そしてそのまま心を閉ざす。永遠に。
「い、や、あ……。はっ……あっ……あふっ」
両手で鉄格子を掴み、直人による背後からの激しい衝撃に耐えるはるか。幾度の陵辱により髪を束ねていたリボンが解け、ふわりと舞い続ける。左右の胸もむんずと掴まれ、握りつぶすように揉みしだかれている。
「う、う……あ、あ、あ……」
小さな体を完全に持ち上げられ、ゆさゆさと激しく揺さぶられているみお。犯しているのは木戸だった。恐らく美紗紀を犯した交換に差し出されたのだろう。小さな体に木戸のものは凶器と同等だった。身も心も傷つき、木戸の体に抱きつく力すら失われ、目から涙をこぼし開け放たれた口元から涎を垂らし、あらぬ方向を向き小刻みにうめき声を上げるだけ。
「も、う……やだ……あ、あ、あ」
木戸が犯しているのは奈緒。また、交換に誰かを差し出すのだろう。床の上に組み伏せられ、覆い被さりながら古手川が激しく腰を動かしていた。密着し、時折濃厚なキスを交わす度に奈緒の顔が赤く火照る。
時間が過ぎていく。……突如男の動きが止まる。また、少女の中に射精したのだろう。出した方は大きな溜息をつき、快感を貪る。出された方は絶望し、力なくうつむく。
「さて、次は誰にするかな」
遊び飽きたおもちゃのように、犯していた少女を床に放り投げ、牢の中に目をやる。まだまだ終わり等ではないという証拠。
(もう……嫌だ……)
少女達の心はすり切れていく。また、新たな悲鳴が上がるのは数分と立たないうちの事だろう。
負の連鎖はこうして続いていくのだった。