もう無理なのよと紫音は云い放った。

 クラスメイト達との再会の時を喜ぶ紫音は最初、笑顔だった。……突如、一粒の雫が流れて落ちた。それはあたかも青天の霹靂のように。はっきりと一筋の線を描いて。

 修学旅行中に起きた悪夢からどれほどの時が過ぎた事だろう。少女達は全員徹底的に陵辱を受け、壊されていった。皮肉なことに、救助の手が差し伸べられたのは男達が全員姿を消し去ってからのことだった。事件の顛末がどうなったか、誰も知らされてはいなかった。

 体の弱い娘や、特に激しく陵辱された娘のうち何人かは監禁される過酷な環境に耐えきれず、衰弱死していった。

 そして、今……。

 人里離れた海辺。プライベートビーチとも云えるような、広大な私有地を持つ西九条家の別荘があった。そこで何年も隠れ住むように療養を続ける娘がいた。西九条財閥の令嬢、紫音その人である。

 その別荘に、かつてのクラスメイト達が訪ねてきたのだ。

「どんなに忘れようとしても、無理だったわ」

 どんなにカウンセリングを受けても、精神安定剤を投与されても……いつかはあの時の悪夢がフラッシュバックされてしまう。諦めが紫音を支配していく。

『あっあっあっあっぁっ! いやああぁっ!』

 硬い首輪を付けられ、鎖で繋がれ、犬のように引きずり回されながら犯された。紳一という名の男によって処女を奪われ、その後何度か犯された。更にその後も醜い老人に、粗暴な大男に、若い残忍な目をした男に。延々と。

 訪ねてきたクラスメイト達も同じだった。未だに入院し、意識を取り戻せない娘もいる。それでも生き延びられただけで幸福なのだろう。果たしてそうなのだろうかと、誰もが思う。

「紫音……」

 礼菜はアイドルを引退し、普通の少女になっていた。というよりも、引退を余儀なくされていた。今はただ、紫音と同じように人前から姿を消し、ひっそりと療養生活を続けていた。

「が、頑張り……ましょうよ」

 帆之香が消え入りそうな声で呟く。過酷な環境から必死に立ち直ろうとし、ポジティブに考えようとしている。帆之香の前向きさに紫音は苛立ち、つい強い口調で返してしまう。正しいことを云っているとわかっているから。

「できないわよっ!」

「っ! ……ご、ごめんなさい」

「あ……。ごめんなさい」

 紫音は我に帰って謝り、脅える帆之香を抱きしめた。

「ごめんなさい……」

 あなたの云う通りなのに、と紫音は涙をこぼした。

 しばらく泊まって行ってと紫音は云った。かつてのクラスメイト達は皆、無言のまま頷いた。元よりそうしてもらうつもりだったから。





…………





(あ……)

 そんなある日のこと。テレビを観ていたら緊急のニュースが流れた。

 聖セリーヌ学園……どこかで聞いたような学園の名前。確か、西九条財閥も学園の資本提携か何かで関わっているとか聞いた。その敷地内にあるとアナウンサーが説明している旧校舎は、今まさに燃えさかっていた。大勢の少女達が何者かによって連れ去られ、監禁されているであろう建物が激しく燃えている。紫音には見えてしまった。少女達の魂が泣き叫ぶ声が。

(同じ……だ……)

 きっと……そうだ。

『いやあああああっ!』

 あの古い建物の中で、恐らくあの時と同じような行為が行われたのだ……。少女達の絶叫が響き渡っていたのだ……。紫音は心臓がどくんと高鳴ったような気がした。

(もう無理。もう無理なのよ! だったら……)

 壊れてしまえばいい。心の底からそう思った。拭えない絶望感に紫音は心の中で絶叫した。必死に押さえ込んでいた悪夢が解放されてしまった。引き金は……引かれてしまったのだ。

「紫音さん。どうしたんですか?」

 優しい笑顔の文が話しかけてきた。

「……何でも、ないわ」

「そうですか。……お茶、お飲みになりませんか? わたくし、たてますので」

「いいわね。いただくわ」

 茶道家元の娘だからか、文は時折皆を集めてお茶会を開いてくれた。それはとてもアットホームで、堅苦しさなど全く無い楽しいお茶会。ソファーに座っていてもいいし、頬杖を付いて寝そべっていてもいいし、胡座をかいていても構わないと文は云ってくれた。皆さん、どうぞ楽にしてくださいねと着物姿の文は云った。季節感の合った風流な着物。文は犯された事など微塵も感じさせないように努めていた。ゆったりとした癒しの時間だった。

(楽に……なりたい)

 しかし文の優しさは、深淵のような絶望に彩られた紫音の心の底までは届かなかった。





 ある日のこと。また、文の提案で楽しいお茶会が開かれていた。

 別荘の広いリビングルームには、見知らぬ男達の姿。異変は何の予兆もなく現れた。

「い、いやああああああっ!」

 文の絶叫が響く。男が文の茶器を乱暴に蹴り飛ばす。お湯がぶちまけられ、お茶碗が割れ、茶器がひしゃげた。同時に着物姿の文に男達が襲いかかっていた。

「な、何よあなた達っ!」

 必死に抵抗する礼菜にも同じように男達が群がる。

「や、やめてぇぇっ!」

 帆之香は大きな胸をまさぐられ、泣きじゃくった。眼鏡がずれるのも気にせずに男の腕を引き剥がそうとするが、力の差は歴然としていた。

「助けて! 助けてぇぇっ! ボク達を虐めないでよぉっ! またっ!? またなのぉっ!? もうやだよぉっ!」

 悪夢を思い出す彩乃の口元に、男達のものが押し当てられ、突っ込まれようとしている。既に限界にまでそそり立ったものが。

「し、紫音さん! これは一体……!」

 元学級委員の柚流は男達によって床に組み伏せられながらも気丈だった。ただ一人、中央のソファーに座り何もされていない紫音を見て察し……追求した。事の首謀者は、紫音であると。

「もう無理、なのよ……」

 紫音の頬は幾筋も雫が流れ落ちていた。

「どんなに忘れようとしても、誤魔化そうとしても……無理だった」

 紫音の背後にも男の姿が忍び寄る。無理心中を図るかのように、紫音は決意したのだ。身勝手とわかっていながら……。

「私は犯された娘。西九条家の汚点。どんなに心を癒しても、ずっと一生こんなところで隠れたように暮らすしかないの」

 あまりにも惨めな自分に嫌気がさしていた。

 救助された後のことを思い出す。紫音の存在は隠匿され、療養と云う名の隔離をされたのだ。体の中に精を出され……もはや、誰のかわからない新たな生命を宿していることが明らかになったから。

 宿した生命がどうなったかは、紫音は何も知らされていなかった。

「誰もが皆、私の事を見ていたわ。犯された娘だって。汚らわしいって。西九条財閥の娘ともあろうものが、とか云ってた」

 いつしか紫音は笑っていた。

「フフ。フフフ。……もう、いやなのよ。あんな、気持ちの悪い老人のち○ぽをしゃぶらされて……飲まされて……。ヤクザみたいな男に引きずり回されて……犯されて……。お尻の穴もずこずこされて……」

 誰もが皆、やっとここまできたのに。一つ一つ、乗り越えてきたのに……紫音は崩壊した。そしてまた、気付いてしまった。あの時共に悪夢を見た友達。その誰か一人でも生きて幸せになっていったら……自分は我慢ができないことだろう。醜い程に嫉妬してしまう。どう我慢しても押さえられなかった。

「みんな壊れてしまえばいいのよ! あなたたちも……私もっ! あの時と同じように犯されてしまえばいいのよっ! もう……もう、死んでいったお友達の所に行くしかないのよっ! さあ、あなたたち! 始めてちょうだい! 徹底的に……っ!」

 紫音が男達に命令を下す。最後の命令を……。私も含めてお友達をみんな楽にさせてあげて、と。





皆の絶叫が響いた。





「いやああああああっ! 痛いいいいいいっ! お尻が! お尻があああっ! 裂けちゃうううううっ!」

 はだけさせられた着物。文は背後からアヌスを貫かれ、ボリューム感のある豊かな胸を強く揉みしだかれていた。処女を奪われた時とまるで同じ格好だった。

「やめてえええええっ! ああああああっ!」

 その横で長い髪を捕まれ、引きずられ、礼菜は仰向けに寝そべる男の上に又がされていった。下からがんがん押し上げられ、全身をがくがくさせながら喘ぐ。礼菜の胸はゆっさゆさと揺れ、男達を誘う。

「ぐぶうううううっ! うぶうううううっ!」

 右手、左手に男のものを握らされ、激しくしごかされている。口には二本も同時に男のものを突っ込まれる。彩乃は目を見開いて涙を流し続けている。すぐ隣にいる少女……鈴も同じ目に遭わされていた。

「あぐ! うううううっ!」

 彩乃と鈴。二人の視線がたまたま合うけれど、涙にぼやけて何も見えはしなかった。

「いやぁっ! いやああああっ!」

「やめてええええええっ! ひどいいいいいいっ!」

 帆之香と柚流。豊かな膨らみに大きなモノを挟み込まされ、パイズリを強要させられていた。乳首はつねられ、引っ張られ、赤く腫れている。

「やああああああっ! ママあああああああっ!」

「やああああああああっ!」

 流花は持ち上げられ、背後からアヌスを貫かれていた。そして、むき出しになった秘所にはひなの顔が押し当てられる。もちろんひなも背後から犯されていた。

「嫌い……! 嫌いいいいいっ! 男なんて……男なんてええええっ! ひいいいっ! やめてえぇぇーーーっ!」

 背後から貫かれながら、お尻を何度も叩かれるせりか。大嫌いな男。だけど、抵抗することすらできずに犯される。あまりの無力さに涙を流し続ける。ただ、やめてと惨めに哀願し続けるだけ。

「は……ぅ……っ。あ……ふ……っ」

 前から後ろから……。紫音は立ったまま犯されていた。必死に男にしがみつき、苦痛に耐える。望んだことだから、自ら腰を上下に動かす。

「み、んな……」

 ふと、辺りを見てみる。引き倒されたソファー。割れたグラス。破れたレースのカーテン。そして……数人の少女達が四つん這いにさせられ、ずらりと横一列に並ばされていた。皆首輪を着けられ、犯されていた。ばん、ばん、と体同士が激しくぶつかり合う音が響く。紫音にはその様がとても壮快に感じられた。

 時折男の動きが止まる。中に射精しているのだ。大量に。出された方は絶望の叫びを上げ、わなわなと口元を震わせていた。

 時折、しょろしょろと雫が流れ落ちる音。豪奢な絨毯の上で誰かが失禁した。悪ふざけした男が床に転がっていたお茶碗を取って雫を溜め……文の口に押し当てた。飲ませる魂胆なのだろう。

「げほっごほっ! がふっ! や、め……あっ! ぶふっ!」

 私の大切なそれを、そんな風に使わないで。文の瞳は深い悲しみに彩られるが、浸る暇は与えられなかった。またもずぶりとアヌスに男のものが押し込まれ……大きく口を開けてしまう。その口にも男のものが押し込まれ……奥まで入れたところで男は小便をした。

「ぐ……が……むぐうううううっ!」

 帆之香も、柚流も、礼菜も……丁度皆、文と同じような事をされ、むせ返りながらもがいていた。吐き出そうものなら、思い切り平手打ちされるだろう。

 そう。皆の側ではせりかが……。

「ひぃ……! ひぃぃっ……!」

 両手を背中で縛られたせりかは顔を床にこすりつけさせられていた。彼女のお尻は散々叩かれ、赤く染まっていた。そうしてお尻を高く上げさせられる。大きく開いた秘所に、男のものが押し当てられる。それも……二本同時に。

「ひいいいいっ! 無理いいいいいいっ! ぎゃあああああっ!」

 全ては男の小便を吐き出してしまったから。ああいうふうにはなりたくない。誰もがせりかから目を逸らし、必死に飲み込み続ける。

「う、あ、う、あっ……」

 紫音は男達に代わる代わる犯されていた。時折走馬燈のように、死んでいったお友達の顔を思い出す。紫音は薄れ行く意識の中、誰にともなくごめんねと云った。望んで破滅したのか……あるいは……。紫音には既に、考える事ができなくなっていた。どうしてこうなってしまったのだろう。





それからどれほどの時間が過ぎ去ったことだろう。





静かな海辺の家で、火事があった。





 全員を犯し尽くし、反応すら返せなくなったときに……屋敷に火をつけるようにと、紫音は男達に命令していたのだ。

 火に包まれていく屋敷の中――。精液まみれの少女達……の、残骸。

「うふ、うふふ。ふふ……」

「あは、あははは」

「あん……いい……。もっと……あふん」

 狂気の笑みを浮かべ、友達の股間に顔を埋め舌を猛烈な勢いで動かしなめ回す少女。指どころか手自体を友達の秘所やお尻の穴に突っ込んで、けらけら笑っている少女。媚薬の過剰投与により快感が止まらなくなり、自分で自分の乳房を揉みしだき乳首をくわえてしゃぶりひたすら喘いでいる少女。うつぶせになったままぴくりとも動かない少女。

「きゃはは。うふふ」

 紫音は……小さな子供のように、友達の体をおもちゃにしていた。乳首をなめ回し、キスをし、口元で放尿し……飲ませようとしていた。

「あ……あ……」

 ただ一人、文はほんの少しだけ我に帰った。

「あつ……ぃ……」

 体はぴくりとも動かない。みんなの体を貪る紫音の姿だけが見えた。舌で友達の顔をなめ回していた。

「たす……け……て」

 死にたくない……。文は強くそう思ったけれど、手遅れだった。

 誰もが笑顔でいられたらいいのに。誰もがそう思うのに、どうしてこうなってしまうのだろう。

 ぐしゃ、と建物が崩れ落ちてくる音がして……少女達の意識は途絶えた。