書感・その1:孤独のグルメ
孤独度(4):★★★★☆ 男度(2):★★☆☆☆ 空腹度(5):★★★★★ 短所であり長所でもあること。それは、この作品は決して腹が減っているときに読んではいけないということだと思うのであった。その理由は至極簡単、余計に腹が減るのだ。ああ、何てうまそうに食うんだ五郎ちゃん、俺にも食わせろ。畜生腹が減っちまったじゃねぇか。……といったような気分にさせられてしまうに違いない。 実の所、真夜中の空腹な時に読んでみて、くぉぉぉぉっ! 食いてええええ! と言う気分にさせられたわけで、その上で何か食えるもんを探してみたがなんもなく、最低最悪の拷問状態を味わうこととなったのであった。 で、この作品のジャンルとは『THE 独り飯』とでも言うべきであろうか。古い作品ではあるけれど、いつの間にかじわじわじんわりと売れてきて、何故かオンリー同人即売会なんぞも開かれたとかなんとかで、いいのかそんな孤独趣味の人がいっぱい増えてきて、世も末と云われてしまうんじゃないのかと思わなくもないがだがしかし、誰でもそういう一時を体験したことがあるのではないだろうか。つまりそれは、これだよこれ! と、何がこれなのかわからんが一つの真理と云うべきか答えに辿り着いたときの悦びを感じたことであると思うのだ。それ故にこの作品を読むと、どこかしらで共感を感じるのだろう。多分。 さて、ストーリーっつーか、作品のあらすじとゆーか、内容をなるべく簡単にかいつまんで云うとしたらまあ『古物商やってる30代後半の冴えないのおっさんがタダひたすら飯を食う。食い続ける。それも高級料亭とか伝説の料理とかそんなんではなく、どこにでもあるよーなふつーの飯屋の飯。コンビニの弁当やらデパートの屋上にあるうどん屋のうどん屋、果ては病院食まで。ただひたすらに、食うだけだ。そして心の中で語る。語りまくる。熱く』と、ただそれだけなのだが、極めて名言が多しなのである。そしてうんうんと頷けるわけだわかるぞわかるぞ五郎ちゃん。ソースの味って男の子だぜ、まったくその通りだぜ。と、そのように同意したくなるような身近さがこの作品の魅力ではなかろうかと思う。 しかし、昼飯を外に食いに行けるっていうのはいいものだ。安かろう悪かろうな全然代わり映えしねぇ仕出し弁当や、量も少なく味もまじぃ社食なんかでもさもさ食わされた日にゃ、それこそ仕事をしている意味というものを考えてしまう。否、それどころか何のために生きているのかを問うくらいの苦痛である。つまり本作は、何気ない日常の中にあって、食というものの重要性を再度認識させてくれる作品であるとか抜かしたら大げさになるだろうか? ならんかもしれないとちょっと思った。 とても個人的な話になってしまうが、当方がいつしか転職した理由の一つに、かつて所属していた配属先の社食飯があまりにもまずくてまずしくて泣きそうなくらいまずくてお盆をぶちまけたくなったくらいで、かといって量が多いかと言えばンなこともなく少なく、人生の意味を考えさせられたというのが冗談抜きで何十%かの割合であった。つまり、体ぶっ壊すほどストレスフルな激務やらせておいて、んであんなくそまじぃ社食なんかで満足できると思ってんのかど畜生め! やってられっかーーーー! ざっけんな! ということである。そして仕方なく自販機のしけたアンパンかなんかをもさもさ食っていたらそれについてねちねち文句云ってきおったアホたれプロパーが居るようなところで、辞めておいてよかった。正解。……って、これでは単なる過去への恨み積もりであり、レビューとあんまり関係ないけど、つまり食すと云うことはそれだけ人生におけるささやかではあるが重要なエンタテイメントであるというわけであり、基本でありベースでもあるのだ。食の楽しみがない人生とはかくもつまらんものであると断言でき、生きている価値などないと云っても過言ではないのだ。だから、一人食う飯の時間はそれだけでエンタテイメントであるのだ。この作品はどこか、そんなことを気づかせてくれるのだ。 一度読んだら独り飯の時、心の中で語る癖がつく作品には違いない。例えばではあるが、この前のこと。吉野屋で独り牛丼食っているだけでもそんな状況になってしまった。『どうして牛丼には紅ショウガは良く合うのだろう』とか、『生野菜サラダ。加工の時点で栄養価が飛んでいそうだけど食えば体に良さそうな気もしないでもない』とか、今日からおれも評論家だぜ! てなくらい、段々虚しくなりそうな独り飯ライフだが、何度も云うが食は人生の楽しみの一つであることは真理だろう。戦争中に砂漠で貴重な水を大量に使ってパスタ茹でるとかいうのはさすがにネタだと思いたいし実際そーなんだろうがだがしかし、陽気なイタリア人みたいにメニューを見て真剣になってみてもいいじゃないかと、五郎ちゃんのように思ってみるのだった。 ちなみに本作はスパで不定期連載してるとかで。惜しむらくは、時間がたっていてモデルの店が無くなっていたりすることがあるそうで、そこらへんが欠点というか残念なところではないかと当方は判断するのであった。 あともう一つ言えることは、独り飯の邪魔をする奴にはアームロックが有効だと言うことに気付かせてくれる作品でもあるということだ。 了
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