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書感・その7:うらバン! 浦和泉高等学校吹奏楽部




部活度(5):★★★★★
楽器度(5):★★★★★
学園度(4):★★★★☆



 本作はどこぞのゆずソフトなデビュー作のぶらばん! と非常にタイトルが似ているわけではあるが、決してぶらばん! の亜種ではなく、一世を風靡したけいおん! のようなメジャーさはなく、まさにそこはかとなく裏でこっそりとやっているような静けさと言うべきか慎ましさを感じるのは偶然の所業ではあるまい。そして当然の事ではあるが、本作は決して福島の裏磐梯辺りを舞台にしたお話ではなくタイトルの由来も別に何も関係は無く、裏で番張ってるヤンキー達が強敵(とも)と拳と拳で熱く語り合うバトルものなわけでもないがしかし、かと言って赤いダイヤモンドと言う名のサッカーチームで有名なさいたまは旧浦和市の泉と言う所を舞台にしているわけでも、かなり紛らわしい事ではあるのだがないのである。和泉と書いていずみと読むのであるが決してどこぞの狂言師の事を意味している訳でもない。

 絵について。当初、デジャヴと言うべきかどこかで見た絵だなと思っていたら、ましろ色シンフォニー(ぱれっと)の作中のSDキャラ絵だったり、かみぱに!(クロシェット) の四コマだったりしたのを知ったのだった。うむ。確かにチビキャラが可愛らしい感じの絵であると言わざるを得ない。

 さて、本作を読む上でのポイントについて。とてもさりげなくだが、実はどこぞのムギお嬢様ばりに眉毛が太かったりするのに、何故だか全然ネタになっていないという、愛玩動物なゆみちゃんには巨大な楽器チューバがよく似合う。本当によく似合う。小さな娘にでかい楽器という比率が極めて最強であることは今更言うまでもない事なのでありポイントが高く、紛れも無い真実なのである。というかゆみちゃんはとても良い娘で、一家に一台欲しいといったところであり、部長の千夏や幽霊顧問の先生が欲しがるのは至極当然なことなのである。ちっちゃくて素直な性格で努力家なのだから、とてもキュートなのである。けれど、体はちっちゃいのに楽器はでかいという、まさにツボを心得ていると言ったところなのだ。小柄な娘がでかい銃だの剣だのを構えてる事に対し言いようの知れない興奮を感じるのには全く同意できるものである。

 また、暴走担当なコハルのような典型的なボーイッシュ娘が、実は私服で可愛い系のミニスカなワンピースを着ていたりするとか、ついスパッツをはき忘れてしまいノーパンでもないのに何故だか思いっきり恥ずかしがるという様がとても心地よい微笑みを誘うことは言うまでもない事なのであり、これまた真実なのである。ギャップと言うものはキャラクターの見えざる魅力を表現するのにとても良い手法であろうと考える。

 更に、フルートひとりこと川坂千夏がとてもクールな、言うなれば初期の頃の泉こなたじゃね? などと思える件についてはまあ当然の事として、実力者の割りには地味と言うべきか、それでいて色々と作中にて話のコントロール役になっており、なかなか他には見られないタイプのキャラクターではなかろうか。その他とんこつこと秋桜美(あさみ)についてはああこいつは人気投票やったらまず間違いなくブービーだろうなと思える程の地味で目立たない眼鏡という、かなりのどうでもよさげ的ないらない子っぷりもまた、計算しつくされている事象であり、かといっていないとどこか寂しく感じるのだろうなと思うのは、枯れ木も山の賑わいを体言していると言えることなのである。で、葱子こと京浜萌葱(きょうはまもえぎ)はまさにお約束のごとくツインテであり強きであり口調はどこかお嬢様っぽいがどじっこであり、その割に演奏技術は良いのだが楽譜を逆さまにしていたり弁当と習字道具を間違えて持ってきたり、ワンピースと勘違いしてスカートをはき忘れてきた挙句の果てはパンツはきわすれかよといった行動様式のクォリティが高く、これもまた良いものなのである。

 それにしても幽霊顧問こと黒目つつじ先生は……やはり学生時代に限るであろう。それがどうしてあのような残念なことになったのだろうか。時の移ろいはあまりにも残念で、いろいろなものを忘却の彼方へと連れて行くものだが、どうしてこうなったのか! 残念でならないのもまた真実なのである。

 それなりに部活動。適当なようでいて結構真剣だったりなんだかとても楽しそう。そんな良作なのだと思った。






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