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赤の門










 紅のお屋敷へと続く道にて。侵入者迎撃のために待ち伏せるは一人の華人小娘。

「ここから先は、通しません!」

 お決まりのキャッチコピーとばかり、紅美鈴こと中国は、今日も職務に励む。

「いやあの、私の名前……。中国じゃないんだけど」

 そんな彼女の突っ込みはさておき、敵は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。それは弾幕に限らず、時に頭脳戦の様相を呈するのだった。

「おいおい。お前は門番だろう? 門番ってのは読んで字の如く、門の番をしていればいいのであって、その上空を飛んで行く人を止める権限などなければ責務もないはずだぞ?」

 どこをどうみても不法侵入を企んでいる白黒の魔法使い霧雨魔理紗。箒にまたがったまま何やらもっともらしいことを偉そうにぬかすが、内容的にはかなり屁理屈入っている。

「そ、そう云われてみれば……そうですね」

 だが、そこで納得してしまうのが中国クォリティ。

「そうそう。だから、通してくれな」

「はい。どうぞお通りください」

 彼女は職務に忠実なのは良いものの、いつも適当に言いくるめられ、とても簡単に騙されてしまうのだった。

「さーて。今日も本を死ぬほどいっぱい借りていくとするかなー」

 借りる期限は彼女が死ぬまでの無期限という名の、いわゆるどろぼーなのだった。返す気など毛頭ナッシング。





で、結局。





「はい。次は階段のモップかけ」

「しくしく」

 メイド長に『役立たず!』と怒られて、館清掃の罰。

「こ、今度こそ! 負けない!」





でも、彼女はすぐに立ち直る。





「ここから先は、門も上空も通しません!」

「ふーん。そう」

 航空力学など完全に無視してぷかぷか浮いてる紅白の巫女博麗霊夢。彼女はにやーっと邪悪そうに微笑んで、お札を取り出した。

「夢想封印!」

「あ! あ、あ、ああああああーーーーーっ!」

 美鈴の叫びも空しく、下方の建造物……紅魔館の立派な門をいきなりドガドガバキバキと破壊するのだった。

「門という守るべきものを失った以上。あなたはもはや門番ではないのよ。すなわち、侵入者を止める権限は失われた、ということね」

「ああああ。門が……門が……門があああ!」

 ぐすぐすと泣きわめく彼女に対し、霊夢はすべてを悟ったかのように云った。

「中国。勘違いしないでほしいわ。あたしは門というあなたの足かせをあえて破壊してあげたのよ」

「いや、あの。私は中国ではなくて紅美鈴……」

「あんたの名前がこうみれいだかほんみりんだかほっけみりんだかそんなこと知んないけど、いいから最後まで聞いて。門という足かせがなくなった今、あなたは自由なのよ。これからは、館を守ることもなくどこへでもいけるのよ。感謝して欲しいわね」

 魔理紗に負けず劣らずな屁理屈である。

「じ、自由……。うれしいです!」

 なんだかわからないけれど、良いもののような響きがあるのでうれしくなる。

「じゃ、そういうわけで通してね」

「はいっ!」

 やっぱり、簡単に騙されてしまうのだった。

「さてさて。ウチの賽銭の五倍程度の価値のものは何かないかしら?」

 霊夢は慢性的財政難の神社を憂い、何か金目のものはないかと物色に来たのだった。





そして。





「うう、うう」

 哀れ。今度は漬物石の刑に処せられるのだった。メイド長曰く、手頃な石がないのでしばらく罰として重し代わりになって反省してなさい、とのこと。それに加えて破壊された門の修復も命ぜられて、まさに踏んだり蹴ったり。

 もっとも、館の主レミリア・スカーレットお嬢様には『あら。この白菜の漬物、なかなかいけるわね』とご評価をいただいたのだけども。

「こ、今度は負けない!」





そしてまた、すぐに立ち直る。





「こ、ここから先は上空も通しません! 門も破壊させません! これ以上好きにはさせません! あちょおおおお!」

 散々騙されたので、今度は問答無用で先制攻撃を仕掛けてみた。

「あら。あなたは武道家の風上にもおけないわね」

 だが、今度のお相手ことアリス・マーガトロイドは涼しい顔をしながら弾幕を避けて、言い放った。

「え……。な、何でです?」

「あなたは武道家なのでしょう? それなのに弾幕という飛び道具を使うなんて」

 とても悲しそうに、哀れなものを見る目をして彼女は云った。

「武道家としての誇りがあるのなら。腕と足。体術で勝負なさい」

「が、が、ががががーーーーん!」

 かなり図星な一言だった。

「そ。そうですね。云われてみれば、武道家が弾幕張ったり飛び道具で戦うのは不自然というか卑怯というものですね」

「そうよ。わかってくれて嬉しいわ。やはり武道家は徒手空拳で勝負しないといけないわ」

 それでは改めて、勝負再開。が……アリスの目が本気の色に変わった。狙っていたというか、最初からこのように攻略するつもりだったのだろう。

「で、では改めて。いきます! あちょおおおお……」

「魔符・アーティフルサクリファイス!」

「お、お、おおおおおっ!?」

 拳を構えて特攻していったものの、びしびしびしびしと凹られまくってしまう中国だった。

「あだっ! あだっ! あだだだだだだだだ! 痛い痛い痛い痛い痛いいいいいっ! あーーーーーっ!」

 そして、湖の方まで吹っ飛ばされてしまうのだった。結局の所、今回も騙されたわけだった。

「さて。質の良い紅茶の茶葉は、どこに貯蔵してあるのかしら?」

 彼女の目的は云うまでもなく、おいしい紅茶の茶葉目当て。紅魔館にはこんな奴らしか訪れないのだろうか?





段々と、メイド長のこめかみがひくついてくる頃。





「……。倉庫にある薪を全部割っておくこと」

「はい……」

 今度は今度で薪割りの罰ゲーム。

「もう、くじけそうです……」

 大量の薪を見て、泣きそうに……実際えぐえぐ泣きながら斧を振り下ろしている。

「で、でも。今度こそは……負けません!」





彼女はくじけない!





「こ、ここから先は許可なく通しません! 上空も通しませんし門も破壊させませんし武道家でも弾幕張ります!」

 もはや何がなんだか分からない中国。

「あらあら。私はお宅のお嬢さんに会いに来ただけだったんだけど」

 今度のお客さんは、スキマ妖怪の八雲紫だった。会いに来たというより、からかいに来たのだったけど。

「あら。貴方……」

「な、何ですか! もう騙されませんからね!」

「武道家としてなってないわね」

「何故ですか!? 何と云われても弾幕は張りますからね!」

 涙目で襲いかかる段幕をひょいひょいとかわして、紫は笑いながら云った。

「いやいや、そんなことじゃなくてね。武道家は戦う前にきちんとお辞儀をするものよ。有名なところでは、カラテカと呼ばれるような人のように、ね」

「……。それは確かに、そうですね」

 用心深く考える。それくらいなら騙されて逃げられたり凹られたりすることもないだろう、と感じたのだろう。ぺこっとお辞儀をする。

「よろしくお願いします」

「ああ、だめだめ。そんなお辞儀じゃ武道家として通用しないわよ。国際大会はおろか、地区予選でもそれじゃ不合格」

「え……。な、何で……?」

「お辞儀をする時はあまり深すぎず、浅すぎずに腰を曲げるものよ。あなたの適当なお辞儀には礼節というものを感じないわ」

「が、がーーーーん!」

 では、どうすれば良いのか。彼女に指南してもらうことになった。

「武道家にとってお辞儀はとても大事なもの。技を極めるのも大事なことだけど、修行が必要よ」

 とか何とか云って、彼女が教えてくれた修行法とは。

「心を静かに、目を閉じて精神を集中させて。両手は腰のあたりまでピっと伸ばして、腰を折り曲げて。それを五分くらい継続させるの」

「は、はいっ! では、早速……」

 早速云われるままに実行。一分が過ぎ、二分……五分と経過。

「……。ど、どうでしたか? あれ?」

 目を開けて、聞いてみる。……が、そこには誰もいなかった。云うまでもないことだが、また、騙されたのだった。紫はとっくに館の中でお嬢様をからかって怒らせて楽しんでいたのだった。





今度の罰。それは。





「私のナイフ、全部研いでおくように」

「……。はい」

 それこそ何本あるかわからんくらいのナイフを、全部研いでおくことになった。

「うう……」

 研ぎ石にしゃーこしゃーこと音を立てながらこすりつけ、冷たい水に惨めさが加わる。

「く、くじけそうです」





それでも彼女は負けない!





「こ、ここから先は許可なく通しません! 上空も通しませんし門も破壊させませんし武道家でも弾幕張りますしお辞儀もしませんからねっ!」

 もはや何が何だかいっぱいいっぱい。そんな彼女に対し、今度のお客さんは……。

「春を伝えに来ました〜」

 可愛らしい笑顔でぺこりとお辞儀。

「は……? はる?」

 彼女は春の精霊リリー・ホワイト。その名のとおり春を伝えに来たのだが、あまりにも興奮していたので弾幕をばらまいてしまうことになるのだった。

「春を伝えに来ました〜春を伝えに来ました〜春を伝えに来ました〜!」

「だあああああああっ! ななな、何なのよおおおおおっ!」

「春ですよ〜春ですよ〜春ですよ〜春ですよ〜春ですよ〜」

「いりませんッ! 春なんてッ! お引き取りくださいッ!」

「春です春です春です〜〜〜!」

 下手なキャッチセールスよりたちの悪い、まさに春の押し売り。

「きええええええっ! こなくそーーーーーー! てーーーーー!」

 彼女は弾幕を全て気合で避けきり、吹っ飛ばした。

「春〜〜〜!」

「おっしゃあ! 侵入者撃退っ! これで久々にやっと門番の使命を果たせたわっ!」

 が。吹っ飛ばされたリリー・ホワイトはくるくると回転しながらも恐るべき耐久性を発揮し、館の扉をぶち破りそれでも止まらず……。





一方その頃。





「さて。紅茶でもいただこうかしらね」

 館の主、レミリア・スカーレットお嬢様は今まさに、優雅なティータイムに入ろうとしていた。

 熱々の紅茶が注がれたカップに口を付けた……瞬間。

「春ですよ〜っ!」

 リリー・ホワイトがドアをドガっとぶちやぶって入って来て、テーブルを吹っ飛ばしながらお嬢様に激突するのだった。

「ぶぼぉっ!」

 突然のことに紅茶を頭から被ってむせ返るお嬢様。だが、リリー・ホワイトはここぞとばかりに春を伝える。

「春ですよ〜春ですよ〜春ですよ〜春ですよ〜春ですよ〜」

 辺りかまわず弾幕をばらまくリリー・ホワイトによって、館は破壊し尽くされ、図書館はキノコまみれにされ、厨房のジャガイモからは芽がでまくるのだった。悪魔の館に春が訪れたわけだが。

「ああっ! ちょっと、こらーーーー! あーーーー!」

 館の当主にとってそれはかなりのありがた迷惑だったようで。





結果的に





レミリアお嬢様の逆鱗に触れることとなった中国だが。




当然のことながら、お仕置きされることになる。





「あら。あなたが私の遊び相手になってくれるの?」

「ひいいいいいいっ!」

 目の前にはお嬢様の妹様ことフランドール・スカーレット。レーヴァテイン片手にやる気満々。とっても楽しそうだ。

「折角だから完璧に避けきってよね。じゃないとつまらないわ」

「どひいいいいいっ!」

 妹様の退屈しのぎに、弾幕の標的にさせられるのだった。

「あーーーーーー! あちちちちちちちちっ! あーーーあーーーあーーー!」





彼女の明日は果たして?










----------後書き----------

 門番が役にたたねーので、式神(SECOM)でも導入しようかしら、とか思うメイド長がいそうです。



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