ザ・薬
「いいこと。ウドンゲ」 それは主に、紅くて白いのとか、黒くて白いのとか、時を止める犬っぽいメイドによって色々とひどいこと(彼女の弾幕が実は座薬ではないのか? だの、あいつの尻尾は実はお尻の中に棒を突っ込んで固定されてるのでは? だのの、所謂誹謗中傷の類)を云われて云われまくって、精神的にも肉体的にもいじめられて、悔しくて悲しくて師匠に泣きついてきた月の兎ことウドンゲこと、フルネーム鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・いなば)だったが。泣きついた相手こと、彼女の師匠八意永琳(やごころえいりん)に、優しく諭されるように云われたのだった。それはあたかも、母親が子供に接するかのような包容力溢れるものであった。 永琳は薬剤のエキスパートであり、こと薬関係に関しては作れないものはない。そして、その技術の一つを愛弟子のウドンゲに教えたのだった。ただそれだけだった。だが、世間の目は厳しいというよりも、残酷なものだった。 「あなたに教えた弾幕は世のため人のため、とても役に立つものなのですよ」 「師匠……」 「世の人は。……いいえ、人に限らず妖怪に限らず幽霊に限らず人間に限らず悪魔に限らず鬼に限らず天狗に限らず魔法使いに限らず中国に限らず。ありとあらゆる種族職業を問わず、いつか絶対に必要とするものなのですよ。それを馬鹿にする者達に、あの弾幕の価値などわかりますか? 価値をわからずしてその対象を馬鹿にするということは、無知の極みというものよ」 「……」 ただ一人にして最大の理解者がいる。その事実はウドンゲを感激させるのに充分だった。 「まあ……。人というものは、一度痛い思いを受けてみない限りわからないものですけどね。学習せぬ類の愚かさとは、とても悲しいものですが」 そして彼女は全てを悟ったかのように呟きながら、スッと立ち上がり。 「ともかく。座薬を馬鹿にするなんて、とても愚かしいことなのよ。これは確か」 「で、でも……」 確かに永琳の云うことには一理あるかも知れないけれど。頭ではわかっていても、どうしようもない問題はある。これはもはやイメージの問題なのだった。弾幕の形が座薬に似ているのは、認めたくなくても認めざるを得ない事実中の事実なのだから。 「良く聞きなさい。 「わ、わかります! ですが、師匠っ! でもやっぱり……!」 なかなか思うようにいかない事を打ち明けようとするけれど。 「いいから落ち着いて聞きなさい。専用の座布団を用意して、座るときは恐る恐る。用を足すときは『うぉっしゅれっと』と呼ばれる式神の存在が必須……そんな辛い境遇の者達が、幻想郷にも外の世界にも大勢いるのですよ。そのような人たちの苦痛を少しでも和らげてあげられるあなたの能力。素晴らしいと思わないのかしら?」 「う……う……」 永琳の意見は最も過ぎる。だから反論に窮するウドンゲ。……つまるところ彼女は『先生。私の弾丸の形を変えて欲しいです』とでも云いに来たのだろう。彼女が愛を持って与えた弾丸を、否定しようとしているのだ。 「そう……。あなたにはまだわからないのね。まあ、無理も無い事ね。でも……。そう。いい機会だわ。そう。とても。ふふふ」 永琳はふっと妖艶に笑って、ウドンゲに云った。 「え? え? し、ししょ〜!? あーーーー! あーーーーーー!」 「今からあなたの弾幕の、真の使い方。たっぷりと教えてあげるわ」 と。ウドンゲのブレザーを掴んで引きずり、思い切り宙に放り出して、永琳は弓をぎりりと引いて狙いを定め、矢を放った。 「坐符・簿羅技埜烏流! 受け止めなさいウドンゲ! 私の愛を! 愛の弾丸をッ!」 「んごふっ!!」 ずどぶっ! というか、ずぶんっ! という感じの、所謂『思いっきりぶっ込まれた!』ような音が夜空にこだました。最も威力の高いゼロ距離射撃……絶対回避不可能な、最強の一撃……。 それはつまりどういう状況かというと。……矢の先端に付いた特大の弾丸座薬が、うどんげの中にぐりぐりぐりぃっずぶぶぶずぶぶぶと、ねじ込まれたのだった。ドリルのように下着すらぶちやぶって一気に。 「お゛、お゛、お゛お゛お゛お゛お゛っ! しししししょお゛お゛お゛お゛お゛お゛ーーーーっ! ししし、しぬぅぅぅーーーーーっ!」 壮絶な圧迫感に、びえええええんと滝のような涙を流しながら悶絶するうどんげだったが。永琳は全てを悟ったかのように、穏やかに口を開くのだった。 「ふふ、安心なさい。すぐにその苦痛は快感へとかわるのだから。大粒の涙を流して悦ぶような……」 永琳が云うとおり、圧迫感はやがて弾けるようなしびれるような感覚へと変化していく。 「んひょあああーーーーーっ! あ゛ふお゛お゛お゛お゛ーーーーーっ! んがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーっ!」 「やっとわかってくれたようね。嬉しいわ」 永琳は、心底嬉しそうににっこりと微笑む。
ウドンゲはその瞬間。最高の快楽……
エクスタシーを迎えるのだった。 そして、時は過ぎ……。 「ここで会ったが百年目! この前の仕返しに来たわ!」 「会いに来たんだか偶然会ったんだかわからないわね」 館に遊びに来た(?)紅白の楽園巫女、博麗霊夢。ぷかぷかと意味もなく空に浮かんでる彼女をウドンゲが待ち受けていたのは、歓迎の意からではなく、復讐を果たそうという一心から。 「あー。あたしはあんたに用があるんじゃなくて、あんたの師匠にちょっと風邪薬をもらいに来ただけなんだけどー」 おまえは邪魔だからどけ、と暗に云っているのだが。ウドンゲは怯まなかった。 「そう。私の特製弾丸座薬をもらいに来たのね。それは大歓迎よ。遠慮なくお受け取りなさいッ!」 「ええっ!? ち、違……あ、あーーーーっ! 嘘ぉーーーーっ!」 霊夢が気がついたとき、ウドンゲの弾丸は目標の至近距離にあったのだった。インビジブルでオールレンジなミサイルのようなそれは結界をも決壊させ、霊夢の中にどごっと注入完了。 「復讐完了……っ!」 「あ゛ーーーーっ!」 霊夢……陥落。
白と黒の魔法使い、霧雨魔理沙も。
「お、おいちょっと。冗談きついぜ……。ま、まじ……か?」 「問答無用! 坐符・矢羅納維華……!」 マスタースパークの強烈なエネルギー波をも貫通。ウドンゲの弾丸は軌道を逸らさない。 「嘘だろぉっ!? ……ぐ、ぐぎゃのぁああああああああっ!」
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜も。
「ど、どうして!? 嘘っ!? 時が止まらない!?」 「無駄よ」 ハッと振り向く咲夜の後ろには、赤い目を光らせた狂気モードのウドンゲがターゲットのロックオンを完了していた。 「この弾丸は、一度射出されたら最後。目標を射抜くまで、止まることはない! それは、あなたの能力を持ってしても止めることは不可能」 そして、放つ。 「兎捕・威詑御渡去……!」 「えーーーっ! えええええーーーーっ! 嘘嘘嘘ぉっ! あーーーーーっ!」
このようして永遠亭は。
老若男女種族職業問わず。近付くもの全てが掘られる恐怖の館…… という、凄まじく強烈なイメージが付いていくのであった……! 「ちょっと永琳! 一体これはどういうことっ!? 説明しなさい!」 で。そんな不名誉なイメージを快く思うわけがないのが、永遠亭の主である蓬莱山輝夜。 「ふふふふ。……喜んでください。ウドンゲがやっとわかってくれたのですよ」 月の光に照らされた永琳の妖しい笑みは、どこか狂気を帯びているのだった。 「ち、ちょっと永琳! ……う、撃つ気満々?」 「ええ。この悦び、姫にも絶対にわかってもらえると思います」 「ま……マジ?」 「大マジです。蓬莱の薬をも越える快楽に、身を任せる事ができるのですから」 「ままま、待ちなさいえーりん……! 話せば……話せばわかる、と思うのよきっと」 「姫。問答無用、という言葉がそれに続くのは、お約束ですわ」 そしてえーりんは一気にずいっと近づき、快楽の弾薬をぶっ込むのだった。 「んッぎゃあああああーーーーーーーっ!」
嗚呼今宵も狂気の色を帯びた月の元。
快楽の叫びが轟くのであった! ----------後書き----------
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