【健二と日和のワケあり情事♪】
最近。いや、既にかなり前からなのだが。俺には一つ、とても楽しいと感じられる事がある。
「健ちゃ〜ん。遊びに来たよぉ〜」
「おう。開いてるぞ」
チャイムの音と共に、間延びした声が玄関の方から聞こえてきた。
「こんにちは〜」
側にいるだけで眠たくなるような声と雰囲気を持つ少女の名は早坂日和。こんなポンコツ少女でも、一応俺の大切な彼女という立場にあたる。
「あ。日和お姉ちゃん、こんにちは」
「雪希ちゃんこんにちは〜」
日和はキッチンの方から現れたマイシスターこと雪希と挨拶をしてから、リビングのソファーに腰掛けた。
「よく来たな。日和よ」
俺にとって、とっても楽しいことをしてくれるために。
「えへへ〜。あのね健ちゃん。今日はとってもいいお天気だよ〜。お散歩に行こうよ〜」
「うむ。それもいいな」
「でしょ〜。海辺なんかとっても気持ちいいと思うよ〜」
勿論俺の言葉には、『後でな』という発音無しのニュアンスが含まれているのは云うまでもない。
「さて。早速だが日和よ。ちょっと俺の部屋までオツキアイ願おうか」
「いいけど。どうしたの?」
相変わらず、のほほんとした表情のまま答える日和。恐らく彼女には、俺がどのような行為を行おうとしているか、理解しているはずもないと思われる。
「いやなに。実はお前と部屋でゲームでもして遊びたいなーなんて思ってな。俺の部屋で」
…少し、『部屋で』という言葉を強調しすぎただろうか。誘導作戦の行方に影響を与えるかも知れない言動に、ちょっとだけ焦りを感じた。
「ゲームなら、ここでもできると思うけど?」
ぐ…。そう来るとは、さすがにぼけーっとしたポンコツな日和もなかなか防衛術を身につけてきたと思える。
「日和よ」
「なぁに?」
ここは少し、否定的な返答に窮する追いつめ方をしようと思う。
「日和は俺の部屋が嫌いなのか?」
「え、ええっ?」
日和に取って俺の質問は予想外だったらしく、戸惑う。
「いや。むしろ、俺のことが嫌いなのかと問いたい。部屋というのは心理学的には、部屋主の心を忠実に反射する鏡のようなものであるといわれているしな」
…無論。そんな理論があるかどうかなんぞ俺にはわからない。要するに、口からでまかせ。デタラメな知識である。が、そのバカバカしいような知識は日和の精神をおおいに揺さぶることに成功した。
「はぅぅっ! そ、そんなことは絶対にないよぉ〜!」
「折角日和が遊びに来るって云うからたまにしかしない掃除を数時間かけて必死にして、ピカピカの一年生を越えるくらいまで磨き上げた俺の部屋が嫌いというのか? おお、答えたまへ我が愛しの日和よ!」
と、ミュージカルの俳優の如く、大げさな身振りと口調で演技かかったように日和の精神に揺さぶりをかける。
「はぅぅ……。き、嫌いなんかじゃ…」
「ならば問題なかろう」
「そ、そうだけど。でも、健ちゃん……その」
コレでも煮え切らない返答の日和。
「何か?」
日和は、はぅ〜だのはぅぅだのぐっすんだだめ〜だのしくしくだの。わけのわからん言葉を吐き、涙目になってもじもじしながら…。
「あの……。その……。え…えっちなこと……しない?」
「する」
「そ、即答〜!」
おろおろと慌てる日和。
「…日和」
「はぅ〜。ぐっすん……」
「ガタガタ言わんとさっさと来んかーーーーーーっ!」
「はぅぅぅぅっ! わ、わかったから、ちゃんと行くから引っ張らないで〜〜〜!」
あくまで煮え切らない態度の日和に俺はキれて、強引に引っ張って行くことに決めた。
「キリキリ歩けぃポンコツ日和!」
「はぅ〜〜〜。あぅ〜〜〜ん」
……そうだ。一つ言い忘れていたことがあった。
「雪希」
「は、はいっ!?」
呆然と、俺と日和のやりとりを眺めていたマイシスター雪希に、一言云うべきであった。
「………見ての通りだ。というわけで少しばかりの間、俺の部屋に入ったり近づいたりしないように。地震があろうと雷が落ちようと火事があろうと親父が来ようとどんな重要な用件があろうと開いてはなりませんぞ。よろしいな、マイシスター雪希よ?」
純情な妹にもしかすると悪影響を与える行為であるかもしれないから、事前に警告を与えておくことで回避しようと心がけたわけである。
「う、うん。わかった…」
「け、健ちゃん〜〜〜! 雪希ちゃんも納得しないで〜〜〜!」
「ひ、日和お姉ちゃんごめんなさい〜。でも、でもっ…。お兄ちゃんには……うぅ」
我が家では絶対権力を誇る俺に逆らえず、うつむく雪希とひたすらおろおろと落ち着かない日和。
「あぅ〜〜〜。はぅ〜〜〜ん」
「ええい鬱陶しいぞ日和っ! 落ち着かんか!」
「だ、だって…。健ちゃん何をする気なの〜!?」
「ナニをする気にきまってんだろがっ! お前のために常日頃から研究にいそしんでやっているんだからな。楽しみにしてくれぃ」
当たり前のことを聞いてきたから当たり前のような返答をしてやると。
「け、研究って……。お兄ちゃん……」
「はぅ〜〜!」
「はぅ〜〜! じゃないっ! いーからさっさと来なさいっ! 男と女が一つの部屋にいりゃ、自ずとなにをするかぐらい想像がつくだろうがっ!」
「そ、そんなの知らないよ〜〜〜っ!」
「ちゃっちゃと階段を上がらんかーっ!」
「はぅぅ〜…ぐっすん……」
このように、毎度の事ながらぎゃーぎゃー騒ぎながらも。日和は二階の俺の部屋へと連行されていくのであった。
一階に、ぽつんと残された雪希は、消え入るような声で独り言をつぶやいていた。
「………日和お姉ちゃん。が、がんばって」
何故、そのような悲壮な感情描写になるのかというと。俺自身はまるで意識していなかったことなのではあるが。
「お兄ちゃん…。い、いつも…すごいエッチばかりするから……」
……ということらしい。だが。今の俺はそのようなことを考えている余裕はないのであった。
…
「さて、そういうわけで」
「はぅん。……。しくしく……ぐっすん………」
俺と日和は、仲良く(約一名泣いているヤツがいるが)ベッドの上に腰掛けて。
「早速、ゲームをして遊ぶとするかね。日和ちん」
とても楽しげに、日和をリラックスさせるように爽やかに答えてやる。
「健ちゃん嘘ついてるよぉ〜! ゲームなんてしないんでしょ〜」
「………嘘なんてついてないぞ」
「何なの、その間は〜!?」
図星であり、ギクギクとしないこともないが。一応、ごまかしを入れておくことにする。
「細かいことを気にしていたらポンコツマスターにはなれんぞ」
「なりたくないもん。そんなものに……」
一風変わったゲームではあるが、決して嘘ではないと心の底から言える。
「じゃあ…。どんなゲームをして遊ぶの?」
それは勿論。
「日和と○○○で×××で□□□□なゲームをしたい。勿論リアルタイムで今すぐここでお前と一心同体に」
「はぅぅんっ! や、やっぱり〜〜〜!」
「あのな。日和よ」
やれやれ、と両手をヒラヒラさせながら日和を悟らせるよーに云ってやる。
「別に、ゲーム機で遊ぶのだけがゲームともいえんからな。運動にもなるし気持ちも良いし、良いことづくめではないか」
「だ、だからってそんなぁ〜〜〜っ!」
「相変わらずポンコツだな。っていうか、さっきから何度も云ってるだろうが。男と女が一つの部屋の一つのベッドの上に乗ったからには、やることは既に一つに絞られていると」
「やだよぉ〜。それに、そんなこといわないよぉ〜……」
いつまでたっても煮え切らない(というより、日和のこの様子はもしかして嫌がっているといえるのだろうか?)日和に対し。俺の寛大で頑丈であった精神もさすがに防波堤が決壊するかのようにヒビが入り、やがて。
「日和っ」
俺の瞳は、獲物を狙うどう猛な野獣と化していたと推測されなくもない。
「はぅっ! な、何する気なのよぉ〜!?」
「俺とするのがそんなに嫌か?」
「だだだ、だってだって……。健ちゃん……その。いつも変な事ばかり……」
「変なことだって!? 日和君。君はSEXを否定してプラトニックにいこーというのかね!? 愛し合う恋人同士として至極自然な行為ではないか。ぼかぁ全くもって誠にもって君の言動が信じられないでありますよっ! ああっ?」
「そ、そうだけどそうじゃなくてそのあのはぅぅん。………け、健ちゃんはその……」
「日和がなにを云いたいのかさっぱりわからない。理解できない。読解できない。解読できないっ! 云いたいことがあったらはっきりいわんかぃっ! はっきりとッ!」
「はぅんっ…! そ、その……。健ちゃん……いつも………へ、ヘンタイさんみたいなえ…えっちばかり……するから」
「例えばどんな?」
あまりの恥ずかしさに顔を背ける日和であるが、構わず口から云わせようとする。
「…………○○○に×××したり……。××△○を×□○〜Σしたり……。他にも激しく○○○○を××××したり……はぅん……」
その瞬間であった。俺の純情で柔肌のように汚れの無い心に、毒針のように悪意を持った一撃がぐさりとめり込んだのは。
「へ…ヘンタイって。そんな風に思ってたのか。折角、日和の△△△に〜〜〜自主規制〜〜〜をやさしく$$$$$して感じてもらおうと思ったのに…。俺の100%善意果汁の真心はお前には伝わっていなかったというのか!?」
「はぅぅぅぅっ! け、健ちゃんすごいこといってるよぉ〜! そんなの嫌だよぉ〜〜〜っ!」
そこまで嫌がることはないじゃないか…と、思う。
「……日和。俺は決めたぞ」
わなわなと、怒りと欲求不満と悲しみを拳に集中させてこらえながら。
「な、なにを?」
「折角。日和が楽しんでくれるようにと予習復習を繰り返してきた技は日和の乗り気じゃない態度によって封印することにした。…その代わりだ」
「そ、その代わり……なに?」
「りょーじょくビデオで学んだ強引さで日和と遊ぶことにしたわっ!!!!」
がばっという音がそのまま耳に入るのも気にせずに、俺は日和に強襲攻撃をくらわせるのであった。それはあたかも、飢えた狼が弱った獲物をにとどめを刺そうとした時と似ている。
「はぅぅぅぅ〜〜〜〜〜んっ! け、健ちゃん落ち着いて〜〜〜〜〜〜〜っ!」
その時であった。日和を裸にひんむいてあーんなことやこーんなことを楽しむ為に、ベッドに押し倒そうとした時…。
「…………ぐはああああっ! い、痛いぃぃぃぃっ!!!!」
「あ、あは…あはは…は。け、健ちゃん大丈夫〜?」
「大丈夫なわけあるかーーーーーーーーっ!!!! あああああ〜〜〜〜〜〜〜っ!」
俺の股間のあたりに、云いようの無い激痛が走ったのであった。…イキナリ押し倒されてびっくりした日和が、反射的に足を出してしまって、もろに(男の)急所に直撃してしまったのであった。
「うひょおおお〜〜〜〜〜〜っ!!!! 痛い痛い痛い痛い痛いーーーーーーっ!!!!」
ぴょんぴょんと、やりたくも無いのに痛いのを紛らわすためうさぎのようにあたりを飛び回るしかなかった。
「はぅん……。け、健ちゃんごめんなさいぃ〜〜〜っ!」
「い〜〜〜〜〜〜た〜〜〜〜〜〜〜〜い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
よくプロ野球なんかでキャッチャーが、打者が当て損なったボールを股間にくらって今の俺のような動きをしていることがあるが。それがリアルだといかに痛いことであるか、地獄のよーな一時を我が身を持って知ることになってしまった。
「日和……貴様。よぉも俺の男の象徴にケリをくらわせてくれたな。不能になったらどーしてくれるっ! この恨み晴らさでおくべかああああッ!」
「はぅぅんっ! そ、そんなこと云われても健ちゃんがイキナリ押し倒してくるから……」
「こうなったらモード変換だ。情け容赦なく濃厚ハードコアなりょーじょく風えっちモードでお前と犯りまくったるわい!」
「そそそ、そんなぁ〜! 健ちゃんやめて〜〜〜っ! はぅぅぅぅぅ〜〜〜〜んっ!!!!」
今度こそ先ほどのようなヘマはしないように気を付けて、小動物の用におびえる日和をベッドのわきに追いつめて。
「覚悟せぇっ! いっくぞぉぉーーーっ! GOGOGOGOOOOおおおーーーーっ!」
「はぅ〜〜〜んっ!」
熟練した合気道の達人のように完璧な間合いで、完璧なまでのタイミングでターゲットを補足した。その時はそう思った。だが…。
「お兄ちゃんっ! あ、あのね」
バタンッという強い音と共にドアが開かれ、マイシスター雪希が飛び込んできた。おそらくは、日和の実を案じてのことだろうが。
「あ、あは…あはは……。ゆ、雪希ちゃん…どーしたの?」
と、同時に。雪希に気を取られ、完全にタイミングを崩された俺はターゲットから位置をそらしてしまい『ゴンッ』という強烈な音と共に壁に激突していたのであった。
「お、お米買いに行くの…手伝って欲しいな〜。あは…は……。お、お米って……重いから……」
お米を買いに行くのが……それほどまでに大いなる用事なのであろうか。
「ぐふっ…」
俺は、雪希の汗マークがぴったりきそうな笑顔を、朦朧とする意識の中で見ていたのであった。
…
「うう……痛いぞ」
ひんやりとしたタオルを、壁に強打した頬に当てて冷やしながら歩く。片手には無洗米の重い袋を持って、だ。
「ご、ごめんねお兄ちゃん。でも……その。……やっぱりその……そういうエッチは……日和お姉ちゃんの同意も得ないと…その」
それは極めてまともで道徳的観念に沿った意見である。だが。
「雪希よ。よく言うだろう。やりなれた相手同士では物足りなさを感じるものであると。倦怠期の主婦なんかが不倫に走るのもそういう一因があったりするのだぞ」
「お、お兄ちゃん……。はっきり云わないで……」
顔中を真っ赤にして恥じらう雪希はとても可憐で、純情な魅力を感じる。それはあたかも、美味しく頂いてしまいたくなってしまうこともありえなくもないようなくらい……。…それはともかく。
「まぁ、お前の気持ちはよくわかっているつもりであるしありがたいとも思っている。だが、日和との同意の件に関してはもう問題は解決済みだ」
「そ、そうなの?」
「おうよ。…なに。買い物に出る前に日和と一丁賭けをしてだな」
「どんな?」
「雪希は、俺の部屋にツインフ○ミコンがあるのを知っているだろう?」
「う、うん。あの古いゲーム機だね?」
因みに。ツイン○ァミコンとはシャ○プが発売した、ファミコ○とデ○スクシステムの合体型マシンのことである。古い代物ではあるが今となっては結構な貴重品であり、未だにディスクの書き換えサービスを行っている任○堂の姿勢をみるように、愛好家は少なくない。俺もその例に漏れていないというわけである。
「あれでだな。俺が買い物から帰るまでに、オホーツ○に消ゆを完全攻略して犯人の名前を明らかにしろ、といっておいたのだ。それができなかったら賭けは俺の勝ち、とな」
「え、ええ〜〜〜っ!?」
オ○ーツクに消ゆとは、ドラ○ンクエストで有名なシナリオライター堀井○二氏が手がけた、北海道を舞台にした本格派推理アドベンチャーゲームでありポー○ピア殺人事件と並んで名作とうたわれる……と、蘊蓄はさておき。結構時間のかかるゲームであるし、日和のようなポンコツには更にかかると思える代物である。
「詰まるところ、俺らが外出してる30分程度ではパスワードでもしらん限り、絶対に終わらない。……まぁ、結末知ってる雪希にゃわかることか」
「お兄ちゃん……。それは卑怯だよ〜……」
はぁ〜と、諦めたような口調で溜息をつきながらうつむく雪希。
「勝負事は勝負する前から始まっているのだよ。雪希君」
「勝負なの……?」
「………多分な。それより。どーせ日和のヤツ、『はぅぅ〜ん。全然進まないよぉ〜』とかいいながら焦っているだろーから。慌てた顔を見に行ってやろうじゃないか」
「日和お姉ちゃん……かわいそう」
まぁ、あまりいぢめすぎるのもあれだから。雪希に対しても言い訳という名のフォローを入れておくことにする。
「ん…。まぁ、えっちは優しくしてやるとするかな。……雪希に免じてな」
「う、うん。……そうしてあげて、お兄ちゃん」
それを聞いてホッとしたような、『仕方ないなぁ』といったような、可愛らしい表情を見せる雪希。
「不満はあるがな。折角、日和のやつの×××に○○○○○○と△△△な□□□□をしてやろうと思ったのになー。ビデオもじっくりみたし、イメージトレーニングもかなりやりこんだのに、本当に残念だ」
「お、お兄ちゃんっ!」
極めて卑猥なワードに、真っ赤になって叫ぶ雪希を横目に。
「まぁいい。日和のヤツが待っている。さっさと帰ってやるとするか」
「あ、待ってよ〜! お兄ちゃん〜!」
**** その頃。渦中の人こと、早坂日和嬢は。 ****
「はぅぅ〜〜〜ん! お、おわんないよぉ〜〜〜! 『ばしょいどう』って、どこに行けばいいのよぉ〜〜〜!?」
ゲームの趣旨をよくわかっておらず、ただひたすら同じコマンドを実行するだけの、ポンコツぶりを発揮していたのであった。
「電話かけてもヘンなとこばかりにつながっちゃうし、誰か呼んでも誰もきてくれないよぉ〜〜! はぅ〜〜んっ! 晴海埠頭ってところからどうやって出ればいいのよぉ〜〜〜っ!」
日和がこの後どのような目にあったかは語るまでもないことであった、とだけ云っておこう。
オシマイ
※たまれん祭り収録作品