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春先の河原にて










 それは果たしてデートと言うべきか単なるお散歩と言うべきか、何も考えずに辿り着いた先は近所の河原。さらさらと流れる水音は緩やかで、土手を覆う色はふんわりと柔らかな黄緑色。名前はよくわからないけれど所々に花が咲いていて、結構綺麗で飽きない配色。そんなところにごろんと寝転んで見上げてみれば雲一つ無い青空が一面に広がっていて、何だか吸い込まれそうな気持ちになっていく。それに加えて春の空気は生暖かくて心地良く、意識が簡単に失われてしまいそうな陽気だった。

「リキ。気持ちいいですか?」

 理樹はふと、名前を呼ばれていることに気付く。重くなりいつの間にか閉じかけていた瞼を無理やりこじ開けてみると、ぼんやりと見える青空に何か蓋でもしたかのように、少女の顔が自分の寝顔を覗き込んでいた。今日の澄み切った青空と同じような色の瞳をした少女、クド。

「クド?」

「はい〜」

「僕、寝ちゃってた?」

「そうかもしれません」

 亜麻色の長い髪が風に煽られてかすかに揺れて理樹の鼻をくすぐる。ふんわりとした感触のいい匂い。

「ごめん。気持ちよくて」

 理樹の言葉にクドはくすくす微笑む。

「男の人は『ひざまくら』されると喜んでくれると聞いたのですが。リキはどうなのですか?」

 あ、そうだったのか。と、理樹は思った。確か僕は、クドに膝枕してもらっていたんだ。と。膝枕が男の人に喜ばれるって、クドがそんなことを誰に聞いたのかはわからなかったけれど、多分あの人かあの人あたりの入れ知恵かなあ、と推測してみる。嬉しいことを教えてくれるね、と理樹は思った。

「うん。嬉しいよ」

「それは何よりなのです〜」

 照れることなく素直に言葉が紡ぎ出されていく。

「クドに……。好きな人にしてもらえるんだから。最高に嬉しいよ」

「私も嬉しいのです〜」

 クドの言葉は『私も、好きな人にしてあげられて、喜んでもらえてとっても嬉しいです』の略。笑顔が可愛い小さな女の子の柔らかな太ももを枕にして微睡む。本当に幸せだなと理樹は心底思い、また目を閉じた。

「リキ」

 何秒過ぎたのか、何分過ぎたのか、もはや理樹にはわからなくなっていた。また誰かに名前を呼ばれたような気がした。けれど、多分夢を見ているんだろうと思っていた。夢の中でもこんな風に一緒にいられて幸せでいられることだろう。どこまでも幸せな一時だった。

「わふ〜。リキ、また寝ちゃいました〜」

 何だか嬉しそうなクド。リキの顔をじっと見つめてみると、好きな気持ちが込み上げてきて頬が緩んでしまう。

「お昼寝の邪魔をしてはいけませんね。……わふっ!?」

 突然違和感。膝の上に乗っかっている理樹の頭が急に動いた。どうやら無意識のうちに寝返りを打ったようで、仰向けからうつぶせの体勢にチェンジ。

「びっくりしました〜。とってもさぷらいずなのです」

 しかしクドは本当のサプライズにすぐ気付くことになる。クドが着ているのは制服。チェック柄のスカートの布地はとっても短い丈。そんなところにうつぶせの体勢をとられるということは、ぱんつが見えてしまうような状態。気がつき意識をし出すと猛烈に恥ずかしさが込み上げてくる。

「わふ〜!?」

 更に、理樹が寝返りを打った拍子にスカートの布地がまくれ上がっていた事に今気付く。つまり理樹は今、クドのとっても恥ずかしい所に顔を埋めたまま気持ちよさそうにすーすー寝息をたてているのだった。僅かな寝息がクドの太ももに辺り、とってもこそばゆくてぷるぷると震えてしまう。

「り、リキ。目を覚ましてなのです。……あ、ああでも、起こしたら可哀想なのです。わふっ! で、でも、こんな恥ずかしい所誰かに見られたりしたら更にいっぱい恥ずかしいのです! それにそれに、くくくくすぐったいのです〜〜〜!」

 あたふたと周りを見回してみるけれど、幸いなことに誰もいない。恥ずかしいけれど動いて起こしたりしたら可哀想。金縛りにでもあったかのように動けない。動きたいけれど、でも動けない。

「わふぅ〜〜〜! 動けないのです〜〜〜!」

 どきどきな時間がひたすら続き、クドは身もだえしながら耐えていくのだったとさ。










----------後書き----------

 クド×理樹のあまあま短編ものでした。



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