記憶喪失の女の子、沢渡真琴。
…彼女が水瀬家に来てから、しばらくの時が過ぎ去った。
今もなお大部分の記憶は戻らないが、もうそんなことはどうでもいいのかもしれない。
相沢祐一に対し相変わらず鬱陶しい悪戯は続いてはいるが、出会いの時に比べ格段に仲良くなったことは確かだ。
事実、二人は恋人同士。
今では全てを解り合えるような…そんな仲になっていた。
しかし、異変はすぐに訪れた…。
そして、それは一つの予兆でもあった。
解りあえた者との別離。
解りあえた者との出会い。
変わりつつある自分…。
変わりたくない!
でも、もう、どうすることもできない!
『過去には戻れないのだろうか』と…。
その問いは、繰り返される。
奇跡という名の。
永遠に…。
「あれ、真琴。お前リボン変えたのか?」
夕食の時間、祐一が私の髪を見てそう聞いてきた。
「あ、本当だね。真琴、可愛いよ〜」
「了承。くすっ(謎)」
あうう…何のこと?
みんなが言ってる『リボン』って?
私はいつもと同じリボンだけど…。
「あうー、真琴のリボンって何のこと?」
「何って、その某ハイブリッド猫耳娘『デ・○・キャラッ○』のような、耳つきリボンのことだよ」
『○・ジ・○ャラット』って、目からビームを出す某ゲー○ーズの、大人気『猫耳メイドロリ娘』のこと?
「ミッ○ーマ○スみたいで可愛いね〜、私も欲しいなぁ」
あう…○ッキー○ウスならわかるけど…。
「了承。くすっ(謎)」
『みみ付きリボン』って、ますますわからないよ〜。
思わず頭に手を当ててみる…。
ふにゃっ!
「…………なにこれ?」
髪の上に変な感覚がある。思わず鏡を見ると、そこには…。
「き…きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「な、なんだなんだどーしたっ!?真琴っ!?」
「あううう、み…みみーーっ!みみーーっ!みみがあるよぉッ!!私の頭にみみがぁッ!!」
「そりゃ、人間なんだからあるだろ!」
「あう〜、違うんだよっ!普通じゃない耳があるんだよ〜っ!!」
「真琴はいつも普通じゃないと思うぞ!」
バキッ!
「ぐはっ!」
「あうー、祐一の馬鹿ぁっ!」
真琴は真剣に困ってるのに〜!
「え、じゃあ…もしかしてその耳って…」
「本物みたいなんだよ!あう〜〜」
感覚がものすごく変だよ〜。
「でも、すごく似合ってるよ」
「あう〜、嬉しくないよ〜、なんなの〜この耳……」
あう、朝起きたらいきなり狐みたいな変な耳が出てきて…。
こんな格好じゃ恥ずかしくって、お店に肉まん買いに行けないよ〜。
くすん…。
「ほほう。キツネ耳とはな。これは面白いっ♪」
「面白くないよっ!」
あう、祐一、何ビデオカメラなんて構えているんだよ!
「いや、ビデオに写せば高く売れるかと思って…(笑)」
バキッ!
「ぐはっ!」
あうー、祐一なんか大嫌いッ!
「あう…まこと、どうすればいいの……ぐすっ」
「ふっ!心配いらんよ真琴っ!」
「え?祐一、ひょっとして治す方法知っているの?」
やっぱり祐一、頼りになるよねっ!
「ふっ、そんなことしらん!」
…前言撤回!
祐一のばかぁッ!
「威張っていうなぁ!!」
ガンッ!
「ぐはっ!……で、でも、心配いらないのは事実だよ」
「どうしてよ?」
ぐっ!(両拳を握りしめて)
「ふっ!お前のようなお子様にはわからないだろうが、この広い世の中には『獣娘』好きの人が大勢いるのだッ!猫耳とかッ!しっぽ〜とかッ!!肉球とかッ!!!だから、今お前がやっているようなコスプレは、この時代大歓迎されるから全く心配要らないのだよッ!!『獣娘』は、熱き漢(おとこ)の浪漫(ロマン)なのだからなッ!!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!獣娘ばんざーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいッ!!!!」
あう〜、拳を振り上げてなに熱く語ってるんだよ〜、祐一!
そんなマニアックな人が世の中にいっぱいいるなんて、よけい心配だよ〜。
「あう〜、これはコスプレじゃないよっ!」
「うううッ!この世に生を受けて17年余…。まさか本物の獣娘に出会えるとは。『我が人生に悔い無し』だぜ……ううッ!!」
あう〜、祐一のばかぁっ!
何涙ぐんでるんだよッ!
「あう〜、真琴、こんな耳嫌だよ〜!」
「俺は全然嫌じゃないぞ。まあ、多分大丈夫だよ。『その手の人』に見つかったら、捕らえられて監禁させられて縛られて写真撮られて、あ〜んなことや、こ〜んなことをさせられるくらいだからさ。全然心配ないよッ♪」
ううっ、祐一のばかばかばかぁッ!!そんなの全然大丈夫じゃないよぉ…くすんっ。
「真琴、変身ついでに、この葉っぱを万札にしてくれないか?」
「そんなことできないっ!祐一のばかっ!」
「何を言うか!昔からキツネは葉っぱを使って何でもできるものなんだぞッ!」
「私は人間なのっ!」
あう〜、真琴のこと馬鹿にして!
祐一なんてだいっきらい!
「困ったね〜…お母さんどうしよう…」
「可愛いから了承しますよ。くすっ」
あう〜、秋子さんまで…ぐっすん。
「あうう、秋子さんの意地悪〜!」
「くすっ。御免なさい。つい可愛らしくて。しばらく様子を見ましょ。それでも治らなかったら病院行きましょうね、真琴」
「あう、わかったよう…」
早く治って、この変な耳。
それから数日後。
「あうううーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
鏡を見た私は驚いて、部屋を出て階段を駆け下りた。
ダンダンダンダンッ!
バタンッ!
「ふあぁぁ〜。何だよ真琴、朝っぱらからでかい声出して…」
「おはよう。今日も元気ね、真琴」
「うにゅ、まこと…おはよう…く〜」
「あうう、そ、そそそそそっ!それどころじゃないんだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
あう〜大変だよ!
「何だよ、どうした?」
「あううう、しししし、しっぽ〜〜〜〜〜〜!!今度はお尻からしっぽが出てきたんだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
フサフサしておっきなしっぽが出てきたんだよ〜!
「はぁ?しっぽだぁ?」
「ホントだよ、ほらっ!」
祐一が信じてくれないので、私は後ろを向いて見せてみた。
ぴょこぴゅこ♪
「ありゃりゃりゃ…。ホントに本物の狐のしっぽだわ、こりゃ…」
ピンピン!
「あう、引っ張らないでよ〜、祐一!」
痛いよう〜!
「真琴…。油揚げ、食うか?」
バキッ!
「ぐはっ!なにしやがるっ!」
「あう、そんなものいらないっ!」
「何を言うか!昔からキツネは油揚げが大好物だって決まってるんだぞッ!」
「あう〜、私は人間なのっ!」
あう〜、真琴のこと馬鹿にして!
「真琴、かわいそうだけど…でもしっぽ、可愛い…」
「了承。くすっ(謎)」
「あうう〜、もうやだよう〜!秋子さん助けてよ〜、お願い〜」
祐一はあてにならないし、秋子さん助けて〜。
「困ったわね。…わかったわ、私が治す方法を調査しておくわね。それまでちょっと我慢していてね。え〜と、獣人科に関する薬品関係の学術書は何処にしまったかしら…?」
パタン
部屋を出ていく秋子さん。
「あうう、秋子さんお願い…」
「う〜む、日に日に獣人化していくなぁお前は…。完全体になるのはいつかな?」
「ええ!?真琴、狐になっちゃうの!?」
「最初が耳で、次に尻尾だから…この次は肉球かもな。はっはっはっは、それもまた一興(笑)」
「あうー、そんなの嫌だよ〜!!」
「楽しみだなぁ、熱き漢(おとこ)の夢がまた一つ叶ったぜ!」
「全然楽しくないよっ!」
それからまた、数日後。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
ダダダダッ!
バンッ!!
「ふぁぁぁ……こんな朝っぱらからど〜したんだ?真琴よ」
「く〜、真琴…おはよう……うにゅ」
「くすっ。おはよう真琴。今日も元気ね」
「そ、そそそそそ、それどころじゃないんだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」
「なんだぁ?今度はどしたぁ?」
「にににににくきゅうッ!!朝起きたら手が肉球になってたんだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」
「な、なにぃ〜!?肉球だとぉっ!!!」
ふにふにふにふにふに♪
きゅきゅきゅきゅきゅ〜♪
「ありゃホントだ。柔らかくてきーもちい〜♪(笑)」
バリバリッ!
「ぐはっ!猫みたいに爪でひっかくなぁ〜〜〜!!」
「祐一のばかぁっ!真琴は真剣に悩んでるのっ!!」
「も、もうすでに獣人化してるぞ、お前…」
「あう〜〜〜〜〜こんなの、もーーーーやだよ〜〜〜〜〜〜〜ぐすっぐすっ」
「真琴、かわいそう…けど、肉球かわいい…」
「御免なさいね、治療方法はまだ良くわかっていないのです。もう少しで何とかなるんですけどね…」
あう〜、秋子さんは協力してくれるけど、でもやっぱり難しいみたい。
もうやだよ〜!
すっ!
いきなり祐一が私の頭をなでてきた。
「秋子さん、俺に任せてください。真琴を何とかしてやりますよ」
「そうですか。お願いしますね祐一さん。私もまだ調査してみますので…」
「え、祐一、治す方法知ってるの?」
「具体的にはともかく、昔から伝わる方法に覚えがあるんだよ。とりあえず俺に部屋に来い!」
「あう…。うん、わかったよ」
…やっぱり祐一、頼りになるよ〜。
バタン!
「それで、どうやって治すの?」
「ふっ!そんなことは古今東西、全国各地、地球創造の45億光年前よりSSのお約束と決まっている!!」
…なんか単位が変だけど、でも気になるよ〜。
「うんうん」
「原因不明の病を治す方法は、ただ一つ!」
「あう、なになになに〜?」
「それは…」
勿体ぶらないで早く教えて〜!
「『お互いのお肌を重ね合わせ、漢(おとこ)の熱き愛を体内に注ぎ込むこと!!!!』だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
ばっ!
「あうーーーーーーーーーーーーーーーーきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!何するのよッ!へんたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!!」
ぽかぽかっ!
「ふははははははははっ!!心配するなッ!!優しくしてやるぜぇッ!!かわい〜かわい〜きつねちゃぁんっ♪」
祐一の変態〜〜!!
「あう〜、ばかぁ〜、離してよう〜!」
「はっはっはっはっは!昔からよく言うではないか!不治の病に冒された娘さんと○○○をしたら奇跡的に病が治り、愛が芽生えると!」
「あう〜、そんなこと知らないわよ〜!」
「むふふふふふッ♪この、ピンピンピョコピョコした感触のキツネ耳!ふにふにしていて柔らかくて、触るときゅきゅきゅきゅ〜っといった感触のにくきゅう!!狐色でフサフサしていて触り心地のいい、大きなしっぽ〜!!!ああ、甘美だ、さいこーだよ〜〜〜〜♪」
「やぁ〜〜〜〜ん、この鬼畜〜〜〜〜〜!野獣〜〜〜〜〜!へんた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いッ!!」
「ううう!親父、お袋、俺を生んでくれてありがとう。まさか、本物の獣娘と○○○できるとは!僕はもう、人生に悔いはありませ〜ん!獣娘、さいこ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っす♪」
「あう〜、真琴は人生に悔いありまくりだよ〜!」
「それでは!いただきま〜〜〜〜〜〜す♪」
「祐一さん」
「うげッ!…どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!あ、あ、あ…秋子さんっ!?」
「あ〜う〜、秋子さん助けて〜」
「な…なぜに秋子さんがこの部屋に!?ドアにはちゃぁんと鍵がかかってたはずなのに??」
「くすっ。この万能キーセンサーを使ったんですよ。…ちなみにこれも、私のお手製です」
「は…はは……は…(汗)」
「祐一さん。漢(おとこ)の人が『獣娘』を好きだということはよ〜くわかりますが、少し場所をわきまえてくださいね」
「す、すすすすすっ、すみませ〜〜〜〜ん」
あはは、祐一のやつ、怒られてんの。ばっかみたい♪
「それで、薬ができたんですよ。真琴を元に戻す薬が」
「えっ?秋子さん本当?」
「ええ。これですよ」
秋子さんが取り出したのは、瓶に詰まったオレンジ色のジャムみたい。
薬には見えないけど…。
ビクッ!
あれ?
祐一が固まっちゃった。
どうしたのかな?
「あ、秋子さん…。そ……それ……は………(汗)」
「はい。私のお気に入りジャムの『強化改良発展型Ver12.5』です。あのジャムの味をベースに、医薬品効果を追加してみました。祐一さんもどうですか?くすっ」
「あ…い…いや、俺は腹がいっぱいなので遠慮しますっ!!……よ……用事ができたので…失礼しますねっ!」
バタンッ!
ダダダダッ!
慌てて部屋を出ていく祐一。
「…祐一変なの。いきなり出てっちゃってどうしたのかな?」
「これをパンに付けて沢山食べれば大丈夫よ。真琴」
「うんっ。秋子さんありがとう〜。いただきま〜す♪」
パクッ!
人は…
過去には戻れない。
残されるものは…
事実のみ!
「ううう、秋子さ〜ん・・・ぐすっぐすっ(涙)」
「『良薬口に苦し』といったところだな。ま、治ってよかったじゃないか」
「よくないよっ!」
「祐一のばかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!だいっきらい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
「ぐはあっ!(x_x)」
人は…。
現実と共に、生きる…。
それが、運命(さだめ)だから…。
(Fin)