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春先の屋上にて










 三月中旬。季節はまさに春真っ盛りと言ったところ。ぽかぽかした陽気に加えて爽やかなそよ風がふいている。それにつられて蝶蝶もひらひら呑気に飛んでいるように見える屋上にて、小毬と理樹はお菓子を食べながら楽しくくつろぎ中。

「理樹くん、はい。あ〜ん」

「あ〜ん」

 小毬に言われるがままに口を開け、差し出されたものをぱく、と食べてみる。春だからと言うわけじゃ無いけれど、いつしか自然に二人の仲はそんな風に進展していった。

 けれど理樹はその時丁度陽気にあてられてぼ〜っとしていたので、小毬に差し出されたものが何なのかわかっていなかった。それでも丸くて甘酸っぱいものだったことくらいは夢見心地のまま理解したようだった。そして試しに歯で噛んでみると少し固い感触がしたので、ようやく飴玉だということに気付いた。だけど理樹はその飴玉を何故だか無意識のうちにぼりぼりとかみ砕いていたのだった。

「理樹くんだめ〜! 飴はゆっくり味わってなめるの〜!」

 小毬に言われて始めて気がついたようで、理樹はしまったと思い頭をかいた。

「小毬さんごめん。僕、ゆっくり飴をなめてられない性格みたいで」

「じゃ、挑戦してみましょう。何事もれっつちゃれんじなのです。はい、あ〜ん」

「あ〜ん」

 リトライということで、小毬が差し出した飴玉を唇で掴む。唇……ということで理樹は魅了されるように小毬の唇を眺め見る。小さくて薄い桜色の可愛らしい唇――。春の陽気は無邪気な妖精。きらきらとした明るい光が小毬を照らし、じっと見つめているうちに、本当に今更だけれども大好きな人が余りにも可愛くてついつい理樹は悪戯をしてしまう。

 その悪戯はほんの一瞬の事。理樹は飴玉を唇でくわえ込んだまま、小毬とキスをしてしまったのだった。勿論ただ単にキスをするだけじゃなくて、互いの唇同士で飴玉の受け渡し。

「ほえ?」

「小毬さん、はい。パス」

「ぱす、うへほっは(パス、受け取った)。……って、りりり理樹くんいったひななな何ひてますかっ!」

 小毬はようやくのことでとんでもなく恥ずかしい事をしていると気付き、素っ頓狂な声を出してしまう。口を開けると飴玉が落っこちてしまうので、とても変な声だった。

「甘くておいしいね」

 理樹の突然かつ大胆な行為に慌てふためき、目をまん丸にしてしまっている小毬。だけど、理樹はくすくす笑いながら、小毬が唇でくわえたままの飴玉をなめ回すのだった。
 
「り、り、理樹くん〜! ん〜〜〜っ! ん〜〜〜〜〜〜っ!」

 目と目が向き合い、互いの呼吸すらはっきりと感じる距離。

 二人が一緒になめているその飴は、恥じらう小毬の真っ赤な顔と同じような色のリンゴ味だったとさ。










----------後書き----------

 ちょっとしたあまあまもの。この後の展開は……ご想像にお任せします、ということで。


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