【子守歌の果てに】

ソ○モンよ!私は帰ってきた!(T▽T)/
香里「なに訳のわかんないこと言ってンのよっ!(T_T#)」

ごすっ!

ぐふっ!(x_x)
い、いや…長い間離れていた場所に戻ってきたときは、そのよ〜に格好良く発言するのが礼儀だと聞いたもので…(^^;)
香里「あらそうだったの。でも、あなたがそんな挨拶する必要は全くと言っていいほど無いわよ(^^)」
な、なにぃッ!?なぜだッ!?何故なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?(T_T;)
香里「決まってるでしょ。誰もあなたのことなんて覚えていないもの(^^)」
ううっ…ひ、ひどいよう〜。香里さん(;_;)
香里「そんなことより、ちゃんとご挨拶したら?」
ううっ…僕の存在は『そんなこと』だけで片づけられてしまうのか…うううっ!(x_x)
香里「あー、はいはいわかったからわかったから訂正するから。いじけてないで早く自己紹介ねっ(^^;)」
くすん…(;_;)
ええっと、改めてご挨拶を。
初めましての方初めまして〜。お久しぶりの方、ひじょーにお久しぶりです〜(^^)
Minardi改vbx(みなるでぃ改vbx)と申すものです。
以前、KeyHPの旧SS掲示板(レス付きね)でよくSSを投稿していた者です。
香里「しばらく何やってたの?」
KeyオフィシャルのSS掲示板があーいうことになって、しばらくKanonSSからは完全に離れてました。
その間は永遠なSSや、とらいあんぐるなSSを細々と書いておりましたです。
香里「で、今回の作品は何?」
今回のSSは・・栞ちゃんのシリアスなお話で〜す(^^)
完全なアナザーストーリーということで、ゲーム本編とは設定が微妙に異なりますが、あらかじめ御『了承』してくださいね(^^)
香里「ふぅん。栞のお話ね…。念のために聞くけど、栞をいじめていないでしょうね?(T_T#)」
あ…いや、その…あははは…(^^;)
香里「笑ってごまかすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ゴキッ!

ぐはぁっ!(x_x)
うぐっ…。え、ええと…今回は異様に長いお話になってしまったので、根性のある方はどうぞ〜。ぐふっ!(x_x)
香里「力尽きたわね…(T_T#)」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇











それはただ










嬉しかった










一言だけでも










失われた言葉を










聞くことが・・・できたから。










『栞は私の・・・妹なんだから』










お姉ちゃんの一言で私は救われたんです。
私の命は後わずか。
拒絶されて否定されて当然のこと…だけど。
それでもお姉ちゃんは私のことを認めてくれた。
私、美坂栞は…『美坂香里の妹』だと。
…本当に…嬉しかった。
もう、お話しすることなどできないと…思っていたから。
諦めていたことだから。
だから…嬉しかった。
そして…悲しかった。
不意に頭を過ぎる…かつて自分の言った言葉。

『起こらないから奇跡と言うんだよ』

ううん…違うね。
奇跡は起きたよ。
信じられない形でね。
「お姉ちゃん」
だから私も話しかける。
私の『お姉ちゃん』に。
これから訪れるであろう悲しみなど、考えずに。
私に与えられた…僅かな時を胸に。
キセキと言う名の…ただ一度だけの…僅かな季節の中で。










コンコン

夜。
時計の針は十一時をまわり、そろそろ寝ようかと思っていたらドアをノックする音が聞こえた。
こんな時間に誰だろう?
「どうぞ」
静かにドアが開く。

カチャ

「…栞」
「お姉ちゃん?」
信じられない。
お母さんかお父さんかと思ったけど…お姉ちゃんが私の部屋に…来てくれるなんて。
お姉ちゃんとお話しするのは久しいことじゃないけど。
でも。
今日の夕方。百花屋さんの帰り道の……あの一言を聞いてから…だけど。
お姉ちゃんが私の部屋に来てくれるなんて。
本当に信じられない。
「入ってもいいかしら?」
「うん。いいよ」
それからしばらく…無言の間が続きました…。
お姉ちゃんは夜遅くまで外を歩いてきて、今さっき帰ってきたみたいで…まだ制服を着たままでした。
よく見ると…かすかに目が赤く染まってる。
うさぎさんの目みたいに。
「あ、お茶…入れるね」
きっと…また……私のことで泣いたんだね。
お姉ちゃんを傷つけたのは…私。
「…」

スッ

私は場を紛らわそうと、ポットに手を伸ばしました。
「…」
そうだよね。
あの言葉まで…。
今日の夕方…言ってくれた言葉まで…すごく…時間がかかったんだから…。
お話できるわけなんて…ないよね…。
「お姉ちゃん…。…紅茶はアールグレイでいいかな?」
「…」
目を伏せながら、無言で俯くお姉ちゃん。

トクトク…
紅茶の香ばしさが湯気を伝わって漂ってきた。
「…あは…暖かくておいしそうだね…」
「…」

トクトクトク

お気に入りのカップに紅茶を注ぐ音が部屋に響きます。
スッ

「はい」
それでもお姉ちゃんは。
「…」
眉一つ動かさず、無表情なまま。
「このマグカップね…商店街で買ったんだよ」
瞬きすらできないみたい。
「…」
何を話しても。
「かわいいでしょ。えへへ…」
「…」
悲しい。
けれど。
「私の…お気に入りなんだよ…えへ…」
「…」
何を話しても…無言のままのお姉ちゃん。
やっぱり…ダメなのかな?
「えっと…冷蔵庫にアイスあったよね?…取ってくるね」

スッ

「…」
「あ…え、えっと…何にする?」
必死で…笑顔を作って。
「…」
「えっと…。私はバニラにするけど…お姉ちゃんは?」
私は何とか…場を取り繕うとして立ち上がった。
「…」
「…えっと…お姉ちゃんは確か…チョコミントが好きだったよね?…私…もってくるね」
けれど…重い空気に耐え切れなくなってしまい…部屋を出ようとした。
「栞っ!」
「え?」

すっ

「……おねえ……ちゃん?」
突然。お姉ちゃんが私の背中に抱きついてきた。
「ぅっ………ごめんな……………さい…………」
「え?」
小さな…声…。
私の背中に、お姉ちゃんのぬくもりが……伝わってきた…。

「……ごめんなさい………ごめんな………さい………うっく………」
弱弱しくしゃくりあげ…小刻みに震えながら。
か細い声で……必死に…。…私に…許しを請うお姉ちゃん。
「ど…どうしたの?」
「うっ……ぐすっ……私……私………今まで………自分のことしか考えて………いなかった…………」
「お姉ちゃん…」
普段、全く見せることのない…。
「栞のことなんて……………あなたが…………傷つくことなんて……………なにも……うっく……」
今まで見たこともない………脆く弱いお姉ちゃんが…そこにはいました。
「ごめん……ねぇぇ………うっうっ………ぐすっ…………」
「…いいよ。お姉ちゃん」
「私。……相沢君がいなかったら…………今もあなたを………拒絶している…………私……」
それでも…仕方のないことだから。
私は怒ってなんかいないのに。
それなのに。
「ごめん……ね…うっ……」
ただひたすら……謝り続けるお姉ちゃん。
私も…少しでも…昔の関係に戻りたいから。
「ふふ。お姉ちゃん、紅茶冷めちゃうよ」
私は笑顔で…答えるんだ。
「ごめんね………うっく………。こんな…馬鹿な…………お姉さんで…………ぐすっ…………」
だけど。
それでも。
「ごめんね…………ひっく…………ひっく…………ぐすっ…………」

ギュッ……

「もう……いいのっ。もう…いいからっ……これ以上私のことで……傷つかないでっ!」
大好きなお姉ちゃん。
これ以上…私のことで…。
だから私も強く……お姉ちゃんを抱きしめた。
少しでも楽になって欲しいから。
もう………私のことで……苦しんで欲しくないから…。
「そうだ。お姉ちゃん……。今日は一緒に…寝よ。……ねっ」
「うっく……わ………かった………わ…………ぐすっ………」
昔みたいに…ね。





















夢を見ている…










幼い頃の










二人の夢…を










「うわああぁ〜ん」










劈くような泣き声










どこにでもいる、いじめられっこ










弱弱しく、大人しい子供はいつも同じような目に遭う










私もそうだった










今となっては笑い話だけど










「うっ…ぐすっ…いたいよぅ…いやだよぅ…」










私はいつもいじめられていたんだっけ










同じクラスの男の子達に










そんなときはいつも…










「あんたたちなにやってるのよっ!」










突然の大きな声にビクッとする男の子達










「…私の妹に!…いい度胸ねあんたたちっ!」










普段と違ってすごくこわい…










私より大きなお姉ちゃん










拳を握り締めて男の子達ににじり寄っていく…










ザザザッ!










悲鳴を上げながら一斉に逃げていく男の子達…










だけど










「逃がすとでも思ってるのっ!」










ガシッ!










バキッ!










ガンッ!










ボカッ!










「えぐっ……ぅ………おねえ………ちゃん………ひっく」










ゴンッ!










ベキッ!










バンッ!










「ぐすっ………おねえちゃん…………もお…………いいよぅ…………えぐっ…………」










ゴスッ!










ドカッ!










ベキッ!










「もう……やめてよぉ…………ぐすっ…………う…………ひっく………」










ピタっ!










「ふん!栞に免じて今日はこれくらいで許してあげるわ。さっさと行きなさい!」










ササササッ!










悲鳴をあげて逃げていく男の子たち










そして私はいつも……










「う………ひっく………ひっく………ぐすっ……えぐっ」










「ほら。もう大丈夫だから、泣いちゃだめよ」










優しいお姉ちゃんに慰めてもらった










「う………ん……………ひっく………ぐすっ…………ぐすっ………」










それでもなかなか泣きやまなくて










「あら。いいのかしら〜、泣き止まなくても。くすっ」










「ふぇ…?」










「栞が泣き止んだら一緒にアイス食べに行こうかと思ったんだけどな〜」










「ぐす…あいす?」










「ええ。お小遣いもらったから何でもいいわよ」










「…ほんとに?」










「ホントよ。でも、泣きやんだらね」










「わあい、おねえちゃんありがとう…えへへ」










「ふふ…現金ね栞は」










服の袖で涙を拭い、無理矢理に笑顔を取り戻す










忘れ去られた…日々










記憶の…かけら…










ちゅんちゅん

「…ん」
まぶしい朝日。
目を覚ました私は、ベッドから抜け出し学校に行く支度をはじめます。
「ふ…わぁぁ…………うう………んんっ!」

ググッ!

思いっきり体を伸ばし、眠気を吹き飛ばします。
「…久しぶりだなぁ」
なんだかすごく懐かしい夢を見たような気がする。
内容はよく覚えてないのだけれど。
それでも、こんなに目覚めのいい…気持ちのいい朝は。
本当に久しぶりです。
「…お姉ちゃんはもう下にいるのかな?」
そう思ったとき。
「栞〜!早くしなさい!遅刻するわよ!」
部屋でのんびりしていた私を呼ぶ声。
お姉ちゃんだ。
「うんっ!」
新しい生活のはじまりになるといいな。

タタタタッ!

「ほらっ!急ぎなさいっ!」
「あわわわっ…ま、まってよ〜!おねえちゃ〜ん!」
…のんびりしていたらホントに時間がなくなっちゃった。
遅刻しちゃうよ〜!
う〜…明日からはもっと早起きしよう。
「ごはん〜…」
「そんなの食べてる暇ないわよ!急ぐわよっ!」
「でもでもパン〜…」
お腹すいたよ〜。
「なら、こうしなさい!えいっ!」

ガボッ!

「む、むぐ〜〜〜〜!」
いきなり食パンを丸ごと私の口の中に押し込むお姉ちゃん。
「おねへはんひほいほ〜!(お姉ちゃんヒドイよ〜!)」
「いーから走るのよっ!」
「ふへ〜ん(ふえ〜ん)」

バタンッ!

学校まで一直線に走る!

タタタタッ!

息を切らして走っていくと学校が見えてきた。
後少し!
私達は一気に駆け込みます。
何とか間に合いそうです。
そのとき。

ぴたっ!

「きゃっ」

ぽふっ!

「お、お姉ちゃん…急に止まらないで〜!」
急に止まったから、私は顔からお姉ちゃんの背中に突っ込んでしまいました。
ぶつけた鼻がヒリヒリするよ〜!
「…栞!」
すっごく深刻そうな顔のお姉ちゃん。
ど、どうしたのかな?
「…私達…一生懸命走ったわよね?」
「え?」
「朝ご飯も食べずに全速力で…家から走ってきたのよね?」
「そ…そうだけど…?」
「…残念だけど私達…本当に遅刻みたいだわ」
「え?…で、でも、まだチャイム鳴ってないよ?」

フルフル

「いいえ、『あれ』が私達の遅刻を証明してしまってるわ!」

ビシッ

お姉ちゃんが指差した先には。
「香里ひどいよ〜」
「ぜえ…ぜえ………お………俺のせ〜じゃ……ないぞ………ぜえ………ぜえ………」
名雪さんと、息を切らして俯いてる祐一さんがいました。
「名雪さんって、朝弱いんですか?」
「う、うん。…ちょっと…ね」
眉を寄せて恥ずかしそうに言う名雪さん。
「ちょっとじゃないわよっ!」
「どこをどうすりゃ『ちょっと』だなんて言えるんだっ!」
強烈に抗議するするお姉ちゃんと祐一さん。
う〜ん、息が合ってるね〜、お姉ちゃんと祐一さんって。
「う〜、二人ともヒドイよ〜。栞ちゃんは味方してくれるよね〜?」
私に同意を求めてくる名雪さん。
「えっと…多分二人の言うことのほうがあってるようですから」
「う〜、栞ちゃんまで私のこといじめるよ〜」
あ、名雪さんいじけちゃった…。

キーンコーン

「!!」
目前で鳴り響くチャイム。
「…って!そんなことしてる場合じゃないわ!急ぐわよ栞っ!!」
「う、うん…」
「名雪!つまらん事でいじけてないで行くぞ!」
「つまらなくないよ〜!」
「つまるわっ!」
「いいから早くッ!!」
「う〜…みんなきらい」

タタタタッ!!

……私が望んでいたものは…日常。
こんなに身近なものだったんだ。
どうして今まで…ダメだったんだろ?
少し……悲しい。
でも。
「こういうのも、いいかもね。えへっ」
「ぜ……ぜんぜんよくないわよ〜!!」
取り戻すことが……できたから。
失われた日常を。










これで、いい










後少しだけど、それでも










私にキセキは……起きたから










失われた日々を……取り戻すことが……できたから










これで……いい……










後は時を待つだけ










『ほんとうに……いいの?』










どこからか、問う声がする










私の答えは変わらないけど










いいんだよ。










『それはウソだよ』










ううん、ウソじゃないよ。










『本当は、もっともっと生きたいのでしょ?』










そうだよ。でも……。










『本当は、もっともっと……祐一さんやお姉ちゃんと一緒にいたいのでしょ?』










そうだよ。でも……










『本当は……まだ、死にたくないのでしょ?』










そうだよ。でも……










『奇跡なんて…起きないものだと思っているの?』










ううん。それは違うよ……。










『それじゃあ、どうして信じられないの?』










私にキセキは……もう、起きたからだよ。










『…』










何度も起きたら、それはキセキじゃないよ。










『ちがうよ』










違わないよ。










繰り返される問答










だけどそれも…すぐに終わる










所詮これは、夢でしかないから










次第に私の中の…暗闇は去っていく










そして、目覚めのはじまり…










浅い眠りからの…










ちゅんちゅん

「…?」
いつもの朝。
浅く、長い眠りから目を覚まし、ふと気付く。
自分が泣いていることを。
「どうしてこんなに…悲しいのかな?」
何故だかわからないけど、すごく悲しい…。 今の私は命の瀬戸際と呼ばれるような状態だけど。
それでも、私はまだいい方。
少しの間でも、生きていられるのだから。
好きな人に………大切な人に………多くの人に………お別れを言う時間くらいは残されているから。
だから……いい。
「学校…行かなくちゃ」
時計を見ると、もうお昼前。
喉がカラカラだった。
気だるさが身体全体を覆っている。
けれど。
「あ……遅刻しちゃった……」
何故だろう?
ちゃんと目覚ましもセットしていたのに……起きられなかった。
私は朝起きは苦手じゃない方なのに。

ぐっ!

熱っぽい体を無理矢理ベッドから起こそうとする。
だけど。

ぐらっ!

「きゃっ!」
『ダンッ!』という鈍い音と共に私の体は冷たい床へと落ちた。
私はその瞬間…全てを理解していた。
そっか。
そおなんだ。
私には…もう。
お別れを言う時間なんて……残されていないんだね。

バタンっ!

「し、栞っ!」
「…ぅ」
おねえ……ちゃん?
「あは…は。おは……よ…」
「栞っ!」
「ごめんね。がっこう……遅刻しちゃったよ」
やっと…やっと一緒に……登校できるようになったのにね…。
「うっ……もう…もういいからっ!学校なんていいから!……それ以上……喋らないでっ!」
思うように動かない私の体を、お姉ちゃんが抱き起こしてくれた。

『命のカウントダウン』

今時の……つまらないドラマでも使われそうなフレーズ。
そんな陳腐な言葉が私にも当てはまるなんて…正直、実感がわかなかった。
この後、お姉ちゃんから詳しく聞かせてもらった。
私は寝過ごしたのではなくて…そのまま目覚めずにしばらく…死の淵にいたそうです。
日付の感覚がわからなくなるほど…長い時間。
祐一さんと名雪さんもお見舞いに来てくれたそうだけど、私は眠りから覚めなかった。
お医者さんも家に来てくれて…点滴や注射をしてくれたらしいけど。
苦いお薬は嫌いだけど、それでも飲まないよりはマシ。
ほんの少しだけでも私に、時間をくれるから。










つらい










とても…つらい










病院は嫌い。
錠剤は嫌い。
カプセル剤は嫌い。
注射は大嫌い。
点滴はこの世のものとは思えないくらい嫌い。
薬と名の付く物は…全部…大っ嫌い!
でも、アイスクリームは大好き。
…どうしてお薬ってあんなに苦いものばかりなんだろう?
お薬がみんな、小さい頃よく飲んだ…風邪薬シロップみたいに甘いものなら病院も少しは楽しくなるかもしれないのにね。
薬漬けの毎日。
私は…真っ白な天井を見上げていた。
ずっとずっと…長い間。










つらい










とても…つらい










ふと目に入る、壁に掛けてある制服。
「折角着ることができたのにな」
私はもう…学校に行くことすらできない。
制服に袖を通すことも。
「緑のリボンがお気に入りだったのにな」
お姉ちゃんと…お揃いの…。
はじめて着た時、間髪入れずにお姉ちゃんに堂々と。

『全然似合わない』

なんて言われたけど。
「そんなこというお姉ちゃん、嫌いだよ」
お世辞くらい言ってもいいのにね。










つらい










とても…つらい










『お姉ちゃん。私今日、男の人から告白されたんだよ〜。えへへへ』
『そうなの?ま、世の中物好きな人も大勢いるしね』
『そんなこというお姉ちゃん嫌いっ!』
『ふふっ。冗談よ。それよりどんな人なの?』
『二年生の人で、名前は…えっと…”北川さん”だったかな?』
『あ……そ、そうなの……(あ、あいつめぇ!)』
『お昼ご飯食べにお姉ちゃんの教室に行ったとき……口説かれたの』
『…ふうん。そおなのッ!(いい度胸ね。北川君!)』
あれ?
お姉ちゃんどうしたのかな?
なんだかワナワナと震えているよ?
『もしかしてお姉ちゃん。北川さんのこと知ってるの?』
『ば、馬鹿なこと言わないでっ!知らないわよっ!北川君なんてっ!(北川君。明日滅殺決定よっ!)』
『そうなの?…でも、北川さんには悪いけど…断るよ』
『あはは。栞はほんとに相沢君のこと、好きなんだ』
『もぉっ!お姉ちゃん!何ニヤニヤしてるの〜?』
憧れていた…学校生活。
もう、行くことはできないけど。










つらい










とても…つらい










ふと目に入るもの。
枕元に置いてある写真。
私とお姉ちゃんが笑顔で写ってる。
いつ見てもお姉ちゃんの髪は…綺麗だなぁ。
私の憧れなんだよ。

『う〜…。お姉ちゃんの髪……綺麗』
お風呂上がりの、しっとりと濡れた髪をタオルで乾かすお姉ちゃん。
『ありがと。でも、栞の髪も綺麗だと思うわよ』
『う〜ん。でも私……ウェーブをかけようとしてもすぐに元に戻っちゃうんだよ〜』
私の髪は硬いから。
『栞はそのままでもいいじゃない?』
『でもでもでもっ!私はウェーブのかかったロングヘアに憧れてるんだよ!』
『悪いことは言わないからやめておきなさい』
『どうして?』
『栞にウェーブの髪型なんて全然似合わないもの。くすっ』
『それって私が子供っぽいってこと?』
『そっ。よくわかったわね』
『そんなこというお姉ちゃん嫌い!』
『ふふ。でもね、それが栞の魅力だもの。別に嫌みで言ってるわけじゃないわよ』
『フォローになってないよっ!』
『ふふっ。怒らない怒らない。その髪型はすっごく可愛らしいんだから。ねっ』
笑顔のまま私の頭をぽんぽん撫でてくるお姉ちゃん。
私の大好きな……綺麗なお姉ちゃん。










つらい










とても…つらい










『栞。お誕生日プレゼントよ』
『わぁっ!お姉ちゃんありがと』
『そう』
何故だか浮かない顔のお姉ちゃん。
つい先程まで……私は体調を崩して寝込んでいたのだから。
『ろうそくの火、消してもいいかな?』
『いいわよ』
『すー……………せぇ〜のっ!』

ふうううううっ!

ケーキに刺さったろうそくの火を思い切って吹き消す。
最後までゆらゆらと揺れていた火も、やがては消えた。
『おめでとう栞』
『えへへ。お姉ちゃんありがと』
お姉ちゃんは私のお誕生日をずうっと…長い間一緒にお祝いしてくれた。
すごく楽しくて…嬉しくて…待ち遠しくて。
よく笑って、お姉ちゃんに言ったものだよ。
”百歳になっても二百歳になってもずうっとお祝いしてねっ”と。
お姉ちゃんの答えはいつも同じだった。
冗談交じりで…笑いながら。
『ふふ。栞はいつまで長生きする気なの?でも…そのときは私も百一歳のおばあちゃんになっちゃってるわね』
『約束だよっ』
『はいはいわかったわよ。ふふっ』
互いにいつも同じようなことを言い合っていた。
だけど、それが最後だった…。
『お姉ちゃん。来年もまたお祝いしてねっ!』
笑顔でお願いする。
けれど。
ある日の……一つの言葉。
『………栞………ごめんなさい……』
もう、それはできないということの…証明。
拒絶の言葉。
事実を知ってしまった人の…痛み。










恨んでなんかいない。
それはずっと変わることはないけど。でも!
今ならお姉ちゃんの痛みが…はっきりとわかる。
どうせ…失われてしまう幸福なら。
無かった方がよかったのかもしれない。
「私なんて」
生まれてこない方がよかったのかもしれない。










つらい










とても…つらい










今になって










楽しかった思い出だけが










頭の中を駆けめぐる。










つらい










つらい










「つらい…よお……ぐすっ」










ゆっくりと…止めどなく溢れてくる涙。










「死にたく…ないよお…」










つらい










つらい










ツライ…










『本当は恨んでいるのでしょ?』










え?










『自分を独りぼっちにするみんなを』










ちがう










『お姉ちゃんも祐一さんも……結局はみんな、あなたから離れていくんだよ』










そんなことないよっ!










『そんなことあるんだよ』










ないっ!










『それはあなたが認めていないだけ』










ち、ちがうっ!










『認めてしまえば、楽になれるよ』










ぐっ!……ちが……う……










『じゃあ、もう一度聞いてみなよ。お姉ちゃんの言葉を』










…?










「私には…妹なんていないわ」










っ!










『くすっ。ほらね』










私はお姉ちゃんを恨んでなんかいない!










『本当にそう?』










恨んでなんかいない!
恨んでなんかいない!
恨んでなんかいない!










『本当は、すっごく恨んでいるんじゃないの?』










ちがうったらちがうっ!










『意地っ張りだね』










うぐっ!










きらいっ!










『私は私。美坂栞…あなた自身だよ』










違うって言ってるでしょっ!










大っ嫌い!










『ふうん。…自分自身のことが大っ嫌いなんだね』










うるさいっ!










私の偽物なんか消えちゃえっ!










『ふふ。……まあ、それも後少しのことだけどね』










うう……。










目が覚めていく。
身体中を嫌な汗が覆っていた。
「うっ……くっ……」
私は誰も恨んでなんかいないのに。
なのになのに……どうしてこんなに悲しいの?
現実でも夢でも……こんなにつらいなんて……。
自分が……自分が……くやしいよお……。
「ぐすっ………もう………いやだよ………うっ!」
全部夢だったらいいのに。
頬を伝う冷たい涙は……全て現実。
「うっうっ………ひっく………」

コンコン

「栞。入るわよ」
ドアをノックする音。
だけど私は…嗚咽でまともに声が出なかった。
「うっ……うっ……」
「どうしたの?」
懸命に言葉を紡ぎ出す。
「………ぐずっ………。お姉ちゃん。私………すごく………こわい夢を………見たんだよ。………えぐっ………」
私のまわりからみんな………いなくなってしまう夢。
「ぐすっ………あのねあのねっ!………大嫌いな人が言うんだよ。………みんなみんな………私の大切な人は私から離れていっちゃうって………。お姉ちゃん。私………私………こわいよ………。ぐすっ………ひぐっ」
一気にまくし立てる私。

すっ!

「ふふっ………もう大丈夫よ」
お姉ちゃんはベッドに腰掛け、微笑みながら私の頭を撫でてくれた。
「ほんとに?」
「ええ。だって……私がずっと一緒にいるもの。あなたは決して一人じゃないから。だから大丈夫よ」
「ぐすっ………あり………がと………お姉ちゃん」
「ふふっ。何言ってるのよ。昔っからそうだったじゃない」
お姉ちゃんの言うとおりでした。
病気がちな私はいつも……熱を出して悪い夢にうなされていた。
そんなときはいつもお姉ちゃんが助けてくれた。
昔も今も何も変わってはいないんだ。
震えていた身体が少しずつ落ち着いていく。
ううん。身体だけじゃない。
心も落ち着いていく。
「朝まで一緒に添い寝してあげる」
「う…ん……ぐすっ」










…………










「お姉ちゃん。もう寝ちゃった?」
「起きてるわよ。何?」
「うん。あのね……その……聞きたいことがあるんだけど」
「何でも聞いてあげるわよ。何?」
「あのね………『死』って、どんな感じなのかな?」
思わずそんなことを聞いてしまった。
「栞。あなた…」
「ごめんねお姉ちゃん。……けど、どうしても気になっちゃうんだよ」
今は落ち着いたけど、あんな夢を見た後だから尚更。
頭から抜けてくれないよ。
「…」
「ごめんね」
言ってから後悔した。
明らかに失言だった。
折角お姉ちゃんが一緒にいてくれてるのに……雰囲気が重くなっちゃった……。
けれど、お姉ちゃんは少し考え込んでそして。
「『死』…か。そうね。私たちは体験することはできないから。気になるわよね」
「…え?」
自分の正直な考えを教えてくれた。
「ほら。子供の頃…自分が眠る瞬間を待ったことってない?あれと同じことよ。気になって気になって仕方ないことよ」
「お布団の中でずっと待ってたこと?あは。勿論あるよ」
「ずーっと眠らないように努力しているんだけど」
「そのうち、いつの間にか寝ちゃってるんだよね」
「そうそう。うふふ」
互いに思ったことを話し合う。
しばらく、女の子同士の会話が花を咲かせる。
「……」
「……」
そうして……いつしか会話も途切れていった。










…………










「栞」
しばらくして、今度はお姉ちゃんが話しかけてきた。
「なぁに?」
「……こわいの?」
ただ一言だけ。

コクン

核心をついた言葉。
私は無言で頷く。
お姉ちゃんが言いたいことはわかる。
そう。死ぬのは………コワイ。
だけど、どうしようもないこと。
避けられないこと。
もう………受け入れたと思っていたこと。
でも私は………受け入れることすらできなかったから………だから………コワイ。
「あは………。やっぱり、お姉ちゃんに隠し事は…できないね」
「ふふ。当たり前よ。何年あなたの姉をやってると思ってるの?」
おかしな言い方。
だけど…。
自然に心が落ち着いていく。
考えるだけでもこわかったことなのに。
『死』という事実を。
「栞は……アイスクリームは好き?」
「え?…うんっ!バニラアイスが一番好きだよっ!」
「それと、栞が一番好きな男の人って……相沢君よね?」
「お、お姉ちゃん……私、恥ずかしいよ……。いきなりそんなこと面と向かって言わないでっ!」
「ふふ。あわてないあわてない。……それじゃ決まりね」
「?」
お姉ちゃんの言ってることがよくわからない。
「明日の夜。相沢君と名雪を誘ってあなたのお誕生日会を開こうと思っているのよ」
「え?」
「安心しなさい。プレゼントもケーキもちゃんと買ってあるから」
「そ、そうじゃなくて…」
「名雪も相沢君も言っていたわよ。『プレゼントは期待してて』ってね」
「…」
「嬉しくないの?」

ぶんぶんっ!

「そんなこと……ないよ。けど……」
嬉しかった。
けれど……明日は。
「いいのかな〜?お誕生日会に出ないのなら私が全部もらっちゃうわよ」
「え?」
「お菓子もケーキもアイスも……栞のプレゼントも。みんな私がもらっちゃうわよ〜。くすくす」
からかうように笑うお姉ちゃん。
あ〜、ひどいよっ!
「そ、そんなのずるいよ〜!」
「ふふっ。冗談よ。冗談に決まってるでしょ」
「う〜!冗談でもそんなこというお姉ちゃん嫌いだよっ!」
「それで、どうなの?」
「う……ん」
すごく嬉しいけど…だけどだけど。
明日は私の…。










『命の…限界』










そんなとき…お姉ちゃんは言いました。










「栞。絶対に生きなさい」










「…お姉ちゃん」
お姉ちゃんのその一言で吹っ切れた。
そうだ。
お医者さんが言っていたのは、私は『死ぬ』ということじゃなかった。

『生きられないかもしれない』

という…曖昧な言葉だった。
それなら…。ほんの一パーセントでも…生き延びられる可能性があるのなら。
このまま…ただ死を待つくらいなら…信じてやる!
だから、笑顔で頷く。
これからも…ずっと一緒にいたい人に向かって。
「うんっ!…私……生きるよっ!」
確率なんて気にしないで。










「お姉ちゃん……ありがと」










少しだけ…心強くなれた










私はまだまだ生きていたい










大切な人たちのために










自分自身のために










失われた日々を…取り戻すために










「そう。じゃあ…そろそろ寝なさい」










「うんっ」










「そうだ。子守歌…歌ってあげるわ」










「え?」










小さい頃から聞き慣れた










お姉ちゃんの、子守歌










「ふふふ。子守歌歌うのも久しぶりね…」










「そうだね…」










「お姉ちゃん。おやすみなさい」










「おやすみ。栞」










お姉ちゃんは…私のお腹に優しく手を当てて…










静かに…歌い出す










「ねんねんころりよ…」










瞼を閉じて










微睡みの中に身を投じる










「おころりよ…」










身体が眠りに落ちていく










心地良く…










「ぼうやはよいこだ…」










夢も見えない…深い…眠りに……










おねえちゃん










またあした










あおうね…










「ねんねしな…」










子守歌はもう










聞こえなくなっていた…




















Fin










◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

(後書き)

ふいいい……ようやっとおわったおわった〜(^▽^)
香里「相変わらず何なのよ。この長さは(T_T;)」
できれば短くまとめたかったんだけどね〜。
そっちの方が読みやすいしね(^^)
香里「それで、栞はあの後どうなったの?」
さあ?(^^;)
香里「『さあ』って、あんたねっ!」
その後の展開は、読者のみなさんにお任せするよ。
最初からそのつもりでいたんだけどね(^^)
だけど、しおりんのお話は難しいんだよ。
現実を追求しすぎると『ただ単に救いようのない話』になるし、かといって幸せなエンディングを用意すると『都合がいい話』になっちゃうもん。
香里「確かにそれはそうね」
だから、今回はこのように締めてみました。
いかがでしたでしょうか?(^^;)
香里「次は何を書くの?」
それはっ!(T_T)
香里「そ、それは?(T_T)」
未定だっ!

ベキッ!

ぐはっ!(x_x)
香里「そんなことだろうと思ったわよ(溜息)」
で、ではまた…次回をお楽しみに…(x_x)