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こぽこぽ










 こぽこぽと音を立て、熱い雫が落ちていく。

 微睡みの中、どこか遠くから聞こえてくるような、そんな曖昧な感覚もやがてコーヒーの香ばしさが覚ましてくれる。

「……ん」

「よぉ」

 誰かの声が聞こえて、目が覚めたことに気付く。資料室にて、有紀寧は机に突っ伏したまま眠ってしまっていた。時間にすると一時間というところか。相も変わらず、柔らかな午後の日差しが部屋の中に差し込んでいる。

「コーヒー飲むか?」

 いつのまにやら朋也がやってきて、気を利かせてくれたのかコーヒーを入れてくれた。

「あ。いただきます」

 寝顔を見られていたからか、ちょっと恥ずかしさも含んだ笑顔を見せる。珍しく朋也以外に誰も来ていないのは、彼らなりに気を遣っているからなのだろう。

「朋也さん」

「んー?」

 小さなコーヒーカップ二つにコーヒーが注がれていく。

「えっと」

「ああ。砂糖とミルクは?」

「あ……。そのままで」

 寝起きの鼻孔に暖かな湯気を感じながら、一口飲む。資料室は『喫茶有紀寧』とか茶化して云われているけれど、今日は朋也にお株を奪われてしまったようだった。

「また、おまじない……してみませんか?」

「いいけど。どんな効果の?」

 そう聞かれて、何故か少し恥ずかしそうに視線を逸らす。

「効果は秘密、です」

「そりゃまた何で?」

「恥ずかしい、から……」

 どんなことだろう? と、朋也は思った。

「どんなこと?」

「それは、その」

 答えられなくて困っている様が可愛かったので、朋也は少し意地悪をしてみたくなってしまった。

「例えば……。こんなこととか?」

「きゃっ」

 いきなり、有紀寧の華奢な体を抱きしめてみた。

「と、朋也さん……!」

「外れ?」

「は……ずれ、です……」

 その言葉のニュアンスから、案外外れ過ぎでも無いと見て、朋也は更に追求を続ける。

「じゃあ。……こんなこととか?」

「んうっ!」

 朋也は有紀寧を抱きしめたまま唇を塞ぐ。長い髪をかき分け、うなじを手で押さえて……。

「当たり?」

「……です」

 唇が離れていき、目と目が至近距離で合ってしまい、有紀寧は慌てて逸らした。

「キス、したかったのか」

「……はい」

 二人にとってそれは、あの時……有紀寧の兄のお墓参りをした時以来。

「わざわざおまじないなんかしなくても」

「でも」

 キスしてください、だなんて恥ずかしくてとても云えるわけがなかったから、だからおまじないに頼ろうとしたのだった。

「お安いご用、なんだけどな」

「あ……ん」

 二度目のキスは不意打ちのように突然に。

「朋也さ……ん」

「宮沢は、甘えん坊だな」

 唇が離れるのも束の間。三度目のキスは落ち着いて。

「んんっ」

 今はもう、二人にはおまじないいらず。

「満足?」

 有紀寧が望めば、いつでもいくらでも……と、朋也は云った。

「は……い」

「キスのおかわりは、自由だぞ?」

 冗談めかして云う朋也に、有紀寧はくすっと笑ってしまう……。そんなわけで、四度目のキスは楽しい笑顔で。

「ん……」

 コーヒーの香りが漂う部屋の中、二人だけの時が過ぎていくのだった。




















----------後書き----------

 有紀寧アフターな一コマ。だだ甘を心がけました。

 資料室に集う連中も、何だかんだで二人のことを認めて気を遣ってくれるんではないかな。……等と思った次第でありました。



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