ことみのゆーわく
秋風も肌寒くなってきた頃のこと。夜八時の一ノ瀬家。ご飯も食べて洗い物も終わってお風呂も入って、後は寝るだけだけどさすがにまだ早いので、読書でもしようかな。ことみはそう思って、読みかけの本を持って居間へとやってきた。 柔らかなソファーにちょこんとこしかけて、ポットのお湯をカップに注ぐ。紅茶のおいしいいれ方という本を読んでみて、実際に試してみたら美味しかったので、ずっと同じやり方をしているのだった。 さて、読書の準備は完了。新たな好奇心を胸に、いざページをめくろうと、そう思った時の事だった。 「……?」 タイミング良くチャイムの音が居間に響く。こんな時間に誰だろう? 新聞の勧誘? それともセールス? こわい人じゃないといいなと思いつつ、気が付くとドアの前に来ていた。 「どなたなの?」 可愛らしくも間延びした声でドアの向こう側の人に聞いてみる。帰って来た答えはことみをびっくりさせた。そして同時に喜ばせた。 「岡崎だ」 (あ……) それはとっても聞き覚えのある男の子の声。ことみにとってはほとんど唯一と云っていい、世間話をしたり一緒にデートに出掛けたり、その他諸々かつ色々と関係のある男の子。そして唯一にして無二の大切な人。幼馴染み、とは果たして云えるかどうかはわからないけれども、今でははっきりと断言できる深〜い関係が成立していた。『彼氏さん……なの』と、自分で思うたびに赤面してる。ことみはのぞき窓からちらりと朋也の姿を眺め見て、改めて嬉しそうにドアを開ける。そこにはなんだか恥ずかしそうな照れくさそうな朋也の顔。どうしたの? と、そんな顔をしながら首をかしげることみに、朋也は先手を打つ。 「いやその。……なんだかことみに会いたくなって。ってのはだめか? こんな時間に非常識だとは分かっているんだけど」 女の子の一人暮らしに、と朋也は云っている。全くの本音なのだけど、云ってから恥ずかしいことに気付いた朋也。ことみは笑顔でふるふると頭を振った。だめなわけがないの。むしろ大歓迎なの。寂しくなったらいつでも会いに来てなの、と、ことみは強く思った。最も自分から朋也の所に行くとなるとなかなか恥ずかしいから、どうしても受け身になってしまうけれど、そんな常識は気にしなくてもいいのとことみは云いたかった。 「上がってなの」 丁度紅茶をいれたばかりなので、一緒に飲むの。と、ことみはうきうき気分。 ……
擬音で表すなら『ぎゅむーーーっ』と云ったところ? 好感度も密着度も共に限界で全開の120%。そして常にふにゅふにゅと柔らかな感触と弾力。ことみのふんわりふっくらしたバストがもろに当たっているのだから。ことみは何故だかとっても嬉しくて楽しくて、自然と笑顔がこぼれる。抱き着いている先は云うまでもなく朋也。それはあたかも大好きなぬいぐるみを抱きしめるかのように、ぴったりと張り付いていた。 「ことみ」 朋也も笑顔。が、ことみに比べちょっとばかり困ったな、と云った感じ。可愛らしい小動物に徹底的に懐かれて足元にまとわりつかれているような、そんな気分。でも、ことみは動物で例えるならやっぱりうさぎだな、と朋也は思った。いつだったか杏のやつがことみを捕まえながらそんなことを云っていたっけ。ことみ自身は脅えて涙目で尻尾なんてないのと否定していたけれど、あっても全く不自然じゃないぞと思った。 「?」 首をかしげることみに朋也は更に困った。可愛らしい表情と仕草に、苦しいからちょっと離れてくれとはとてもじゃないけれど云えなかった。だからそのままでいた。そしたらことみはずーーーっと笑顔。けれど朋也には、腕に当たるやわらかな感触が気になるわけで。本音としてはそのままではいたかったけれど、無防備過ぎることみに注意を促す必要もあるのかも、と野暮な事を考えてしまった。保護欲と云うのだろうか、父性本能と云うのだろうか。朋也のそれを呼び起こしてしまった。 「ことみ。さっきから胸が当たってるんだが」 「……」 それを聞いてことみは頬を赤らめる。恥ずかしい。けれど離れたりはしなかった。思い切ったかのように、更に強く朋也に抱き着いた。ぎゅ、と力が込められるのが朋也にもわかった。 「ゆーわく……してるの」 その一言は精一杯の背伸び。ことみは大人の女を気取ってみるけれど、朋也にはとても子供っぽく見えた。その意味で、いたずらしてしまいそうな気分になってしまった。 「……。変な気を起こしてしまいそうなのだが」 実際、いかがわしい気を起こしても問題ない関係であり、シチュエーションなのだけど。改めてよくよく考えてみると朋也は何故か手を出したらいけないような気持ちになっていく。背徳感と云うべきか、犯罪的なものを感じてしまって。でもでも、あまりにも可愛らしいことみにいたずらをしてみたくも……。朋也の中で二つの感情がせめぎ合う。 「起こしてもいいの」 朋也の気持ちを見透かしたかのように、無邪気に云い放つことみ。 「お前な……」 いつでも準備OKとばかり。ことみは無邪気な笑顔を見せる。そんなことみに朋也は苦笑しながらキスをした。 「んん」 温もりに身を任せることみは熱い吐息と共に甘ったるい声を出してしまう。 「あとは」 短いキス。唇同士が離れ、ことみはうっとりとした目で呟いた。もしかすると『ゆーわく、成功なの』……とか魔性の女でも気取っているのかもしれない。 「朋也くんのお気に召すまま、なの」 そうしてくすっと微笑んで、今度はことみからキスをした。こりゃもう完全にペースを握られてしまったな、と朋也は思って観念するのだった。 大好きな読書は、今日はお預け。
二人の夜はこれから始まる。
----------後書き----------
CLANNADでほのらぶ書くならことみ。と、そんな風に思えてきた今日この頃であります。
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