【Living Day Lights.】
ども。
Minardi改です…。
香里「あら?今日はテンション低いわね…(・_・)」
ああ。
そらそうでしょう。
香里「何かあったの?(^^;)」
このSSに苦労したのでね…。今回はホントに疲れたよ(x_x)
香里「ふ〜ん。それで、どんな内容なの?」
苦労に苦労を重ねて出来た香里さんシリアスSSだよ(;_;)
香里「…ついにできあがったのね!(^▽^)」
そ。
明るくシリアスなお話のつもりさ(嘘)
香里「早速いきましょ!ねっねっ!(^▽^)」
ハイハイわ〜りやしたよ。全く現金なんだから…(;_;)
ではどうぞ〜。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
光
光が見える…
すぐにでも消え去り
失われてしまいそうな…
小さく…
弱々しい…
光
いつからだろう?
私には、見えなくなっていた…。
いえ…
見えない『ふり』をしていた…
小さな
光
漆黒の闇に
ただ一つ…
浮かび上がる
小さな…
光
風は止み
辺りは静けさに包まれていく…
その中に
塵の如く舞い降りる
雪と共に
輝きを失い
やがて…消え去る…
小さな
光
そして
偽りの
朝が
訪れる…
Living Day Lights.
現実 −シンジツノウソ−
「ゴホッゴホッゲホッ………ウッ………グッ………ゲボッ…」
ポタポタ……
「し、栞っ!」
今日、私の実妹…美坂栞は発作を起こし大量に吐血した。
いえ…。
『今日も』と言った方が正しいかしら?
部屋が隣の私は、それに気付き看病する。
いつものこと…。
もう何年も続いていること…。
…だけど、それが無意味なことであるという『現実』からは…どうしても目を背けられなかった。
ほんの数日前。
『残念ですが妹さんは……誕生日まで……生きられないかもしれない…』
『………そう………ですか………』
悲痛な表情を浮かべ、重い口を開く先生。
それだけで。……その……たった一言だけで…全てが闇に包まれてしまったかのように、私は身動き一つできなかった…。
取り乱すようなことだけはなかったけれど。
目の前が真っ白になったように何も…考えることができなかった。
勿論、最初はそんな現実を信じることはできなかったわ。
私は現実を……全てを疑った。
しかし二件、三件と病院を回り同じ答えを聞き続けているうちに、私はそれを理解していた。
「ゴホッゴホッ…ぉ……おねえ……ちゃ…ん。…ゲホッ…私……つらい………つらいよぉ……ゲホッゲホッ…うぐっ…」
ポタッポタッ…
サスサス…
栞の服の上に落ちた血をタオルで拭き取りながら、私は背中をさすってあげた。
こうすれば少しは楽になるから…。
でも、そんなもの気休め程度にしかならない。
いえ、気休めにすらならないでしょう。
「栞…」
私はそんな栞に何も言ってあげられなかった。
慰めの言葉、一つすら。
だって。
それは、嘘をつくことだから。
まだ栞には伝えていない…決して逃れられない…。
『現実』を…見て見ぬ振りをするだけだから…。
虚無 −ヒテイセザルコト−
私の妹は…。
美坂栞は、生まれつき体が弱かった。
毎週…毎日のように病院に通い、入退院を繰り返し…人生の大半を大量の薬と共に過ごしてきた。
それは私が一番…誰よりもよく知っていること。
実の両親よりも。
だって、彼女の看病は殆ど私がしてきたのだから。
だからこそかな?
いつもいつも『いいお姉さんにならなくては』
そう、意識して思いこんできたのは。
それは今でも、正しいことだと思っている。
これまでも、これからも…ずっと。
学校では良い成績を収め、クラス委員などにも自ら進んでなった。
そんなことは別に苦痛でも苦労でもなんでもなかった。
自惚れているわけではないけれど、自分には多少の才能はあるのかも知れない。
でも、それが何だというのだろうか?
今は、全てが無意味に感じられてしまう。
妹の存在そのものも…。
全ては『虚無』なのだと
そして…ある日のこと…。
『栞。あなたは、誕生日まで生きられない…』
ただ一つの言葉…。
自然に言葉が紡ぎ出されていた。
悪意でも何でもなく、自然に…。
無意識のうちに…
栞は…。
『…そっか。…そうなんだ』
と、呟いた。
まるで、全てを悟ったかのように。
全てを理解して諦め切ったように。
それはクリスマスのこと。
いつもは楽しいはずの…クリスマスのこと…。
ほんの数週間前のこと。
拒絶 −ナキゴエ−
夢。
夢を見ている…。
浅い眠りの中…。
私の夢の中…。
果てしなく広がる、漆黒の闇…。
そこに…一人の少女がいる…。
「ぐすっ…うわ〜ん!うわぁぁ〜んっ!!おねえちゃぁ〜ん…」
鳴き声が聞こえる。
少女の泣き声が…。
ずっと昔から聞き慣れていたはずなのに…。
私は振り向かない。
だって…。
私に妹なんていないから。
私は一人っ子だから…。
ずっとずっと…昔から…。
一人っ子なんだから!
「うっ…ぐすっ……ぉ……おねえちゃん………どこ?………どこにいるの………?」
暗闇の中、迷い泣き叫ぶ少女。
「うっうっ………一人に………一人ぼっちに………しないで……お願い…………うっうっ………こわいよぉ………」
闇の中に嗚咽が響き渡る…。
「うっうっ………うわぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん……ぐすっひっく……ぅっ…」
私には何も……聞こえない。
聞こえないのよ…!
「ひくっひぐっ……うっく……ううっ……ぐすっ…」
うぐっ!
…き、聞かせないでよっ!
やめてっ!
「ぉ……おねえ…ちゃん………うっ……うっ………ひっく………」
あっちに行って!
お願い!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん……………ぐすっ…………うっうっうっ………」
耳を塞いでも、目をつぶっても…。
泣き叫ぶ少女の姿は消えない。
「お姉ちゃん……助けて……うっ。………お願いだよぉ……ひっく……ぐすっぐすっ………」
……妹なんて……知らないっていってるでしょっ!
「お…………ねえ…ちゃ………ん……」
うぐっ………ぐっ!
だ、黙れっ!
「ここ………くらくて………さむくて………こわいよぉ………………ううっ…………ひぐっ………」
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇっ!!!
「たすけて。……たすけてよぉ…………おねえ…………ちゃん…………ううっ」
うぐっ………私を……私をっ!………惑わさないで……!
「あっ……あれ?………お姉ちゃん。……来て……………来てくれたんだね?」
妹なんて……知らないって…………知らないっていってるでしょっ!
すっ
「えへ…お姉ちゃん大好きだよ…」
やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!
「どうしたの?……泣いているの?おねえちゃん」
っ!!
ガシッ!
私は無言で少女の襟首に掴み叫かかった。
あんたなんて!
あんたなんてっ!
私の前から…消えてよっ!
「すごく…悲しそうだよ?…お姉ちゃん」
う、うるさいっ!
「きっと、悲しいことがあったんだね…」
違うっ…!
悲しくなんか……ない!
……あんたさえ……いなければ・・・
悲しくなんか……!
「えへ。一緒にいてあげるね。お姉ちゃんが……悲しくなくなるまで」
きゅっ…
ぐっ!?
うぐっ……!
余計な………余計なお世話よっ!
パシィィィンッ!
「あ………」
…あんたなんか消えろ!
私の前から消え失せろ!
「ぐすっ。………お姉ちゃん…………怒ってるんだね…………」
黙れぇっ!
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろぉぉっ!!!!
「きゃっ!」
パシィッ!
パシィッ!!
パシィィィンッ!!!
私は無我夢中で少女の頬を……打っていた。
「あぅ………おねえ……ちゃ………ん。……ごめん………ね…………うっ………ひぐっ…………ううっ………」
うぐっ!
…消えてって……消えてって言ってるでしょ……ぐすっ………ううっ………うっ………。
「ごめん……ね。…………もう…………わがままいわないから…………ゆるして。…………おねが………ぃ………えぐっ」
…う、うるさいっ!!
バシッ!!
「あぐっ!………そん…………な。…………ぐすっ………えぐっ………いやだ…よぅ………うっ……ぐっ………ううっ……いたい………よぉ…………えっえっ………」
辺りに響き渡る少女の嗚咽…。
どうしても……耐えきれず、私は…絶叫していた…。
い………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
対峙 −ウラギリトツミ−
「あなたは栞を裏切ったのよ」
暗闇の中に、鋭く声が響く。
私と同じ姿の……もう一人の『ワタシ』の声が……。
これは『ユメ』の続き。
いえ、もしかしたら…現実なのかもしれない。
「…違うわ」
「何が違うというの?」
「…ああするしか。…ああするしか……なかったのよ……」
「それは言い訳よ」
「違うって言ってるでしょ!」
「あなたは自分が傷つくのが怖いから……あの娘を裏切り…見捨てたのよ」
「…違うわっ!」
「あなたはあの娘を……妹を傷つけたのよ。自分自身が一番可愛いからね…」
「違うって言ってるでしょっ!」
パシィィンッ!
バタッ!
私は…もう一人の『ワタシ』を殴りつけ、吹き飛ばしていた。
倒れたまま、立ち上がろうともしない『ワタシ』に私は叫ぶ…。
「私に……!私に!……どうしろと…言うのよっ!………どうすればいいと………言うのよっ!」
「…」
「……傷つくのが避けられないのなら。………最初から何もなければよかったのよっ!」
いずれいなくなってしまうのなら……。
「…」
「私には……栞なんて名前の妹は…いないし…。うぐっ………あの娘には香里なんて名前の姉など……いなかったのよ!……ううっ…」
「…」
それはいつも…自分に問いかけてきたことだった。
「ぁ………うっ…………グスッ…………全て。………全部。………なにもかも………なくなってしまえばいいのよっ!………妹なんてっ!」
大切に思っている……大切に思っているからこそ……!
私は……あの娘がいなくなってしまうという事実に……耐えられない……!
「あなたは罪を犯したのよ。決して逃れられない罪……を……」
「う……うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!」
そんなことわかっている!
他人にとやかく言われるようなことではないわっ!
わかっているからこそ……。
だから……あの娘を……。
否定したのよ!
そんなことも知らずに……!
腹立たしい!
殺してやりたいくらいに!
「さっさと消え失せなさいよぉっ!!」
「…」
私は、力の限り怒鳴りつけた。
もう一人の『ワタシ』を…。
「うっ………うっく……ひっく……」
私は……自分の罪を知っている…。
そして……一生罪の重さに苛まれ続けるでしょう。
所詮これは夢だから…。
だけど……私があの娘を裏切った事実の証明だから…。
すっ
空間がねじ曲がったように、もう一人の『ワタシ』は姿を変えていった…。
靄になったものが形作られて……そして再び人間の姿を象っていく…。
私の親友、水瀬名雪の姿に。
「な、名雪?」
「香里」
能面の如く無表情なまま、名雪は口を開いた。
「栞ちゃんを裏切ったんだね…」
「…うっ」
一瞬全身を…貫かれるような感覚…。
「最低だよ…」
「っ!」
ズキッ
痛い。
まるで、針で断続的に貫かれるみたいに…。
「う………っぐ…………名雪…まで………」
ズッ
やがて、先ほどと同じように名雪を象っていたそれの形が変わっていった。
靄になったそれが再び人の姿を象ったとき…。
「北川君…?」
いつもお調子者の友達…。
けれどさっきの名雪と同じように無表情で…。
「栞ちゃんを裏切ったんだな」
「…ぁっ!」
「最低だな。美坂…」
ズキッ
「そん……な。北川……くん……」
再び痛みが繰り返す。
そして…。
ズッ
「相沢く…」
靄は…あの娘の恋人…相沢祐一に変わっていた。
「栞が苦しんでるのに…香里。お前は…」
相沢君が私に向ける…憎しみの眼差し…。
「……ぅ」
いつまでも……決して途切れることなく続く痛み…。
「香里。最低だぜ……」
ズキッ
「あ……う……もう……嫌ぁ……ひっく」
頭を抱えうずくまっても…。
まるで、終わることのないカセットテープの如く。
姿を変え、無表情で私を睨み付ける人達。
もう一人の『ワタシ』…。
名雪、北川君、相沢君、お父さん、お母さん、仲の良い従兄弟や親戚たち、学校の友達、部活の先輩・後輩、恩師の先生、旧友達、学校の先生………。
皆、口を揃えて言い放つ……。
「最低」
と。
ズキズキズキッ!!
「ぃ………やぁっ!……やあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
私は夢を見続ける。
決して……終わることのない…。
夢……を……。
私は罪の重さに苛まれ続ける…。
あの娘が本当に………いなくなるまで………。
疑問 −シンジツヅケルワケ−
私は栞を完全に否定したはずなのに。
あれから、つらい毎日が続いているけれど。
そうしなければ…それをしなければ…もっと…つらくなるだろうから…。
そう思って、あの娘の存在を…否定したのに…。
それなのにあの人は…。
「どうして…?」
どうしてあの人は、一緒にいてあげられるのだろう。
数週間前に出会ったばかりだというのに。
たった二週間という僅かな間だけで……何故そんなに…解り合えるの……?
『現実』を……知っていて…。
何故。
何故なの?
なぜ…?
その問いに、彼は答えた。
迷いなど微塵もなく。
答えた。
「香里。俺は奇跡なんか無いと思ってる。神様だって天使だって……本当はいないのさ。どこにも…ね」
彼の口は淡々と言葉を紡ぎ出す。
まるで、全てを悟ったかのように。
「…だってさ。本当に神様や…天使がいたら…みんな幸せになってるよ。この世の全ての人が…幸せに…」
…。
「でも。よくよくよ〜く考えてみなよ。果たしてそれは本当に幸せなのか?みんなが幸せで、不幸な人など一人もいなくって…それで本当に幸せなのか?」
…。
「俺はそれが幸せだとは決して思わない。…勿論…不幸は嫌だよ。悲しいのもな。痛いのもつらいのもこわいのも全部な。でも…」
「俺は『現実』を信じる!」
どうして、信じ続けられるの?
私たちには、決して…変えることのできない…『現実』を…。
「何故なら。『現実』こそが『奇跡』だからさ。俺達の周りで起こっている『奇跡』は、全部『現実』なんだからさ」
でも…それは、変えることはできないことなのよ。
誰もがわかっていることなのに…。
傷つくことがわかっていて…相沢君は…。
「それは香里の思いこみだよ。俺達は『奇跡』は起こせないけど…『現実』を生み出しているのだから…」
…じゃあ栞は…助かるとでも言うの?
「いや、恐らく…助からないだろうな。でもっ!」
でも…何よ?
綺麗事ばかり言って結局は『現実』に流されているだけじゃない!
「俺はずっと…栞と一緒にいる!」
わからないわよっ!
どうしてそんなことができるのか・・・・。
「簡単だよ。栞は俺の大好きな……可愛い……恋人だからさ!………一緒にいたいよ。たとえ、後僅かの…儚い命であっても…だ!」
…ただそれだけで。
大きな苦しみを背負うことになるのに。
一生消えない傷を背負うことになるのに。
…ただそれだけで……相沢君は……。
私は……私は…………私は……………………わたしは…………………………………………。
私は何?
あの娘の姉?
本当にそうなの?
本当にそうだと言えるの?
あの娘を見捨てたというのに?
人間失格とまで言われ続けているというのに?
エゴイズムに侵された愚かな人間だというのに?
私は…………わたしは…………。
わたし………………………………………………………………は………………………………………………………………。
別離−ユキノヤムコロ−
サラサラ……
塵のような光が…。
消えかけた街灯に照らされ、輝き。
そして、夜空を舞いはじめた…。
消えてはまた……繰り返す……波のように……。
まるで。
命を吹き込まれたかのように。
一つまた一つ。
舞い落ちる………凍り付いた雪………。
金剛石の……塵……。
風は止み、辺りはシンと静まり返っている……。
ただ一つだけ、噴水の水音を除いて。
チョロチョロ……
静かに響き渡る水音。
それを聞きながら…。
私は、一つの『光』を見つめていた…。
失われゆく命……を……。
降り積もる新雪を踏みしめながら、一歩一歩……進む……。
サクッサクッ……
「…香里?」
「…………おねえ……ちゃん………」
足音に気づいた二人は、私の名を呼んでいた。
「あは………きて。………きて…………くれたんだね。…………おねえ…………ちゃん…………ごほっ…………」
あまりにも弱々しい、栞の笑顔。
噴水に腰掛け、相沢君に支えられている。
少し押せば、崩れ去ってしまいそうなほど……白く……弱々しい………病に冒された身体………。
「えへ………。おたんじょうび………いわって…………くれるんだね。……………わたし…………うれしい…………よ…………」
噴水の上にある時計台の針は、午後11:55を指していた。
後少し…。後少しだというのに……栞は…。
もう……自分で立ち……歩くことすら………できない……。
まともに話すことすらも………もう…………できない…………。
「栞は幸せだな。こんなに優しいお姉さんがいてさ。俺は一人っ子だから……うらやましいよホント」
「おねえちゃんは…………わたしの………じまん…………なんですよ………えへへ………」
「……なぁ、良かったら俺にくれないか?お姉さんを。………はははは」
「…………だめ…………です。…………あげません……………よ………ゆういちさん。…………くすっ…………」
違うっ!
「違うわっ!………私……………私は優しくなんか…………優しいお姉さんなんかじゃ…………ないわっ!」
「………おねえ………ちゃん………」
「私はっ!…………自分が傷つくのが怖いから…………自分だけが傷つくのが怖いから…………長い間…………栞を…………妹を…………拒絶し続けてきたのよっ!………栞が傷つくことなんて無視して……自分だけのために…………長い間。…………あなたをっ!…………あなたを拒絶し続けてきたのよっ!………うっ…………うっ………えっ…………ひっく…………ううっ…………」
許されることではない。
償いなどできない。
私は……私は……。
ずっと逃げ続けてきた……。
何もかも見て見ぬ振りをしてきて。
大事なことも………大切なことも………何もかも………。
自分勝手な………自我(エゴ)だけを守るために………。
「でも………。きてくれたじゃない……。わたしは………それだけで………じゅうぶん………うれしい………よ………」
「香里が優しくなかったらこの寒い中、わざわざこんなところにまで来たりはしないよ。それに……ちゃんとプレゼントまでもってきてくれたようだしな」
相沢君はお見通しだった。
見せないようにしていた包み……栞のお誕生日プレゼント……。
「そう…………なんだ。…………うれしい……な。…………やっぱり……おねえちゃんは…やさしい……ね。………えへへ。……………………あうっ」
ポトリ……
栞の身体に残った僅かな血が。
一滴だけ白い雪の上に落ち……赤く染める……。
「…栞!」
もはや外にいられる身体ではないのだ…。
「ぐすっ…………うっ……………知らないっ!…………知らないわよっ!!……………バニラアイスが大好きな…………妹の…………ことなんて…………ううっ…………えっえっ…………」
それは……私の負け惜しみ……。
カパ
包みを破って…最後のプレゼントを見せる。
「う……ぁぁ。……………わ、わぁ。……………しょうてんがい…………の……………ひゃっかやさん…………の………………ばにら……………あいす……………だね。……………わたし………………すごく…………………だいすき………………なんだよ。……………えへ………………へ………………」
プレゼントは……栞の大好きな……バニラアイス……。
「ぐすっ。す、好きなだけ………気が済むまで………食べなさいよ!…………もう………注意なんて…………しないから…………くっ………うっ………」
もう……できないから……。
栞はいつもアイスを食べ過ぎて……お腹を壊していた。
その度に私が注意して……嫌がる栞からアイスを取り上げていた……。
もう……注意することすら………できないから………。
私は大きめのスプーンで、できるだけ多くのアイスをすくうと、栞の口に運んであげた……。
もう…………最後なんだから…………。
ぱく……
「ん……………あまくて……………おいしい……よ……。………ぁ………ぅ………」
栞の目が閉じかけ、私たちは涙を抑えることができなくなっていった……。
そんな栞に…私は懺悔を繰り返す…。
「うっ……ひっく………わたし…………わたし…………しおりといっしょに…………うくっ…………しんじて………あげられなかった……………ぐすっ。……………ごめん………………ねぇ……………こんな……バカな………………おねえさんで………………ごめん……………ね……………うぐっ……………うううっ…………」
フルフル……
「ぅぅ……ん。………………ぃぃ……の。……………わたし……………は……………しあわせ……………だから。……………みんな……………いっしょに……………いて……………くれた……………から。……………も……………ぅ……………」
時計の針は……もうとっくに………12:00を回っていた。
「栞…十二時まわったぞ。……誕生日おめでとう……な……」
時計の針など……涙で見えなくなっていたけれど……相沢君が教えてくれた……。
「うっく…………ひっく……………おめで……………………とう…………………しおり……………」
「……………あり………………………が………………………と。………………さよ………………な……………………ら…………………」
カクン……
「栞っ!」
「栞っ!しおりっ!しおりしおりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
雪は…
やみ
栞はこの世を…
去った。
お気に入りの
ストールと
儚い
笑顔だけを
残して
Living Day Lights.
−Fin−
終焉 −ノコサレシモノタチ−
ゆったりとした時が流れていた。
あれから…まだ…一週間もたっていないというのに。
まるで、何事もなかったかのように。
妹の死など、なかったかのように。
ゆったりとした時が………流れていた………。
私は当然……立ち直れてなどはいなかった。
キーンコーンカーンコーン……
昼時の教室。
何事もない日常のざわめき……。
チャイムの後に…相沢君が話しかけてきた。
「香里。ちょっと話があるんだが…いいか?」
「相沢君…。いいわよ、何かしら…?」
「………ここじゃ話せない。悪いけど、人目を憚りたい」
「ふふ。……変なこと………しないわよね……?」
「……大丈夫だ。今はそんなことする気力すら無い。……信用しろ」
「……そう。わかったわ」
冗談好きの相沢君だけど。
今のは、本音だろう。
私と同様……彼も打ちのめされたのだから……。
事実の傍観者は……私だけではないのだ。
・
・
・
「…」
すっ
相沢君は、無言でそれを差し出した。
『読め』
ということね…。
私も無言で受け取り、読み始める。
「これ……は!?」
「……手紙だよ。栞からの……な」
ブルブル……
手紙を持つ手が震え、まともに読めない……。
まさか……こんな形で栞と………再会するなんて………。
私は絶句した。
−お姉ちゃんへ−
お姉ちゃんがこの手紙を読む頃。
私はもう、この世界にはいないでしょう。
えへっ。なんだかこの台詞、ドラマみたいで格好いいね。一度やってみたかったんだよ〜♪
夢が一つ、叶ったよ。
「……あの娘ったら。………ぐすっ」
まるで、いつものように。
「ははは。栞らしいな」
でもね。私はいなくなっちゃうけど………悲しまないで。
お姉ちゃんは私のことを否定したけれど……私は恨んでなんかいないから………。
だって、私がお姉ちゃんだったら………きっと………同じことをしていただろうから。
だから…………苦しまないで…………。
お姉ちゃんはずっとずっと………お医者さんから私の身体のことを聞いたときから………ものすごく苦しんできたんだから。
お姉ちゃんには言わなかったけれど……私はそれを知っているから。……誰よりも。
だから………苦しまないで……。
私からのお願いだよ!
一つ目の……ねっ♪
「うっ………うっ…………あの娘。………全部…………わかっていたんだ………ひっく………うっ」
正直言って、私はまだ………死にたくありません。
我が人生に悔いありまくりです!
あは。これも漫画やコントみたいで格好いいね♪
私は……もっともっと生きたいです。
もっともっといっぱい生きて、大好きで美味しいアイスクリームをお腹…お腹を壊すまでいっぱい食べて、ゲームセンターで日が暮れるまで遊んで、エキサイティングな雪合戦をいっぱいやって、大好きな絵もいっぱい……上手になるまで書いて、大きな………屋根より高い雪だるまを作ったり………したかったよ。
勿論……お姉ちゃんや祐一さん…名雪さんといっしょに…ね。
「…」
嗚咽ばかりで言葉が出なかった…。
決して叶わない夢だけどね。
二つ目のお願い……いいかな?
「うっ………」
次に会えるときは………またお姉ちゃんの妹に………なりたいよ。……生まれ変わっても………ね。
私は『人は、いつか生まれ変わる』ということを………信じているよ……。
それが『奇跡』だと思うから………私は………信じ続けられるよ………。
その時は、また…………一緒に…………遊んでね。
これが…………二つ目のお願いだよ!
「うっく………わ………かった……わ。………わたし………も………………信じる…………わ…………ぐすっ」
「俺もだ。栞の言う『奇跡』を信じる………」
もう一つだけ………いいかな?
最後なのに我が儘ばかり言っちゃって………ごめんね。
でも昔から………願い事は三つまでというから。
もう一つだけ……。
「うっ………なんでも………………きくわよ。………………なんでも……………ひっく…………うっ…………」
栞の最後のお願い……。
お姉ちゃん。絶対に…幸せになって!
これが最後のお願いだよ…。
じゃあ、またね…。
誰よりも大好きなお姉ちゃんへ −栞より−
手紙はそこで終わっていた。
まるで…いつものように…。
本当に……何事もなかったかのように……。
「香里。もう一つだけ…お前に渡すように言われていたものがあるんだ…」
ファサッ
「っ!」
それは。
栞が着ていたストールだった。
かつて私が……プレゼントした……。
栞がすごく気に入ってくれた………フワッとした感触の……。
ストールだった。
「うっうっ………ひぐっ………あたた……………かい……………わよ。……………しおりぃ……………ぐすっ…………」
栞のストールを身体に掛け…。
目を瞑ってみると。
浮かんでくる。
あの娘との………想い出が………。
ぱくっ♪
「やっぱり私はバニラアイスが一番好きだよ〜。えへへ」
大きめのバニラアイスを嬉しそうに頬張る栞。
「わ。お姉ちゃんはチョコミントだね…」
「私はこれが一番好きなのよ」
「それも美味しそうだよ〜」
ちょっとだけ、物欲しそうな栞。
その瞳が可愛らしくて…。
「ふふっ。ちょっとだけなら、一口だけならあげるわよ」
「わあっ♪ありがとうお姉ちゃん!」
ぱくっ♪
「ち、ちょっとだけっていったでしょ〜!」
小さな口を目一杯開けて、大量にもっていく栞。
「えへへ。ちょっとだけだよ。ほんの一口だけだよ〜♪」
いたずらっ子の瞳…。
かきかき…。
「ちょっと栞。…まだなの?」
「後少し……もうちょっとだよ……」
かれこれ一時間以上たっている。
椅子に座っているからといって、同じ姿勢を崩さないでいるのは辛い。
その間、真剣な表情で、モデルの私とスケッチブックを見つめている栞…。
一心不乱な瞳が可愛らしくて…。
「できたっ!できたよお姉ちゃん!」
「ほんと?見せて!」
「はいっ!」
ぱっ!
「………」
「えへへ」
「し、しおりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
グリグリグリッ!!!
「あーーーーーーーーーーーーーん………やっぱりダメなの〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?いたいよおねえちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜んっ!」
いつまでたっても上達しなかった絵…。
ガサゴソ………
「お姉ちゃん。似合う……かな?」
「似合わないわ」
鏡の前で悪戦苦闘していた栞。
「う〜……こんなときはお世辞でも『似合ってる』とか言うものだよ?」
「私…なるべく嘘はつかないようにしてるから」
「ヒドイよ〜!」
「ふふっ。髪のばせば少しは似合うようになるんじゃない?」
「そんなこと言うお姉ちゃん、嫌い!……ぷんっ」
パタン…
「あらあら…」
栞は怒って部屋を出ていってしまった。
僅かな間しか、着ることができなかった制服…。
寂しそうに揺れる…緑のリボン…。
「あなたは……誕生日まで生きられない………」
命の宣告が部屋の中に響く。
「だから………私はあなたのことを……………忘れる……………わ。…………うっく………うっ……………」
すっ!
必死に引き留めようとする栞の腕を払って…部屋を出る…。
「ま、まって!まってよ!………お姉ちゃん………」
「……………………ごめん……………………ね……………………」
どうしようもなかった…。
パタン…
部屋の中からは…栞の鳴き声が聞こえてくる…。
「そ……んな。……ぐすっ………おねえちゃん……………ぐすっひっ…………えぐっ…………」
私は……戻れなかった……。
「いや…だ。………………やだ……よぉ。……………おねえ……………ちゃん………………」
けれど。
「ひとりに……………しないで………………ぐすっぐすっ……………ぅ……………ううっ」
その日、私は栞を裏切り………傷つけた。
過ちと……後悔と……悪い夢の……はじまりだった……。
全ての想い出が
現れては消え
消えては現れ
私はただ…
信じ続ける。
小さな少女の言う…
キセキ
を…。
再び出会う…。
その日まで…。
This memory is Endless.
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(後書き)
ふ〜…滅入るなぁ…(x_x)
香里「ち、ちょっとちょっとっ!……暗すぎない?今回のお話……(;_;)」
だってさ〜。
君が僕にシリアスSSを書けというからさ。
本気で挑戦したんだよ(・_・)
香里「そ、そうだけど、もうちょっとこう……なんというか……明るいお話を書いて欲しいのよっ!(;_;)」
はいはいわかりましたよ(−_−;)
明るいお話ですね明るいお話っ!
ま、それはともかく今回は。今まで僕が書いたタイプのSSから180度異なるような作品にするつもりだったんだ。
試行錯誤したけど、結局このような形になったよ。
完全に試験的な作品と言っていいね。感想や批判など…どんと来いだぜ(^▽^)
基本コンセプトは『香里さんをとことん追い込む!』ことさ(^_^)
香里「あ、あなたという人はっ!」
美坂姉妹の間には、ゲームには決して出せないようなもっともっと…暗くて深いやり取りがあったのではないか?
また、病弱な栞は祐一と会っているときは平然としているが、一人になったときはどうなのか?
それらをまとめて表現したつもりです。
香里「結構頑張ったのね。じゃあ、今度は『明るいシリアスSS』を書いてねっ♪(^▽^)」
栞「ダメです!次は私のSSですっ!(T_T#)」
香里「あら栞?(^^;)」
栞「今回の私はさんざんいじめられましたからね!言うことは聞いてもらいますよっ(T_T#)」
香里「作中で叩かれまくって殺されちゃったものね。今回の栞は(^^;)」
栞「わかりましたね(T_T#)!」
あわわっ!…わ、わかったよぉ……コワイよ〜栞ちゃん………(x_x)