【夢幻残影剣】

今回は、舞SSです。それではどうぞ〜

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闇は、影の集合









影は、残されるモノ…









そして、それは









影の剣。









無限かと、思わせるほど深い…闇の中に









『彼女』は、いた。









長剣と









凍りつき…









心を…失った瞳を持った少女が…。










辺りは闇に包まれ、そして、静まり返っている。

カタカタ…

時折、校舎の窓が揺れて音をたてる。他には僅かに、風音がヒューヒューと聞こえるだけである。
少女は。どれほど…時が過ぎようとも、瞬き一つせず、ただ…立ちつくしている。全身で、気の流れを感ずる…とでもいうのだろうか?
周囲の空気の流れを読み、敵の存在を知るという…一種独特の雰囲気を醸し出している。『彼女』には何か特別なモノの気配を察する…そんな能力があるようだ。
そうしているうち…。

ピシッ!

「…」
突然、窓ガラスにヒビが入ったような音…ラップ音が響き、『彼女』は眉一つ動かさず身構えた。

スルリ

ギン!

長剣を鞘から引き抜き身構える。そこまでは映画などで観るような剣士と寸分変わらぬ動作だろう。しかし、『彼女』が普通と違っていたのは…剣の先を床に軽く付けるという、常識ではまず考えられないような構えをしているのである。
そのような構えでは防御が後手に回り、敵の速い攻撃に対処しきれない。それに、理論的に言えば『彼女』はもう一つ重大なミスを犯していた。一見しただけで、少女の細い手には重すぎるわかる長剣を、片手で軽く握っているだけなのである。
細身の彼女は、どう見ても力の面で見劣りする。それでは攻撃はおろか、例え防御がうまくいったとしても相手の力…腕力だけでねじ伏せられてしまうことだろう。
それほどまでに、『彼女』の構えは、セオリー(理論)からは完全にかけ離れていた。
だが、ここで述べたのはあくまで世間で言うセオリーでしかない。専門家が見たら言うまでもなく、素人と判断するような…そんな構えで『彼女』は戦い、勝ち続けてきた。
これまでも。そして、これからも…。
それは『彼女』の残した結果が証明しているのだから、セオリーなど無駄に等しいことなのだろうが。結果が伴わないセオリーなどは例え正しくとも無用の長物にすぎないと、『彼女』は無言でそう語っているように見える。

キィンッ!

その、滑稽に見える構えで、『彼女』は敵を迎え撃つ体勢を整えた。床に剣の先を軽く付け、自身の周囲に弧を…円月を描くように…。 自分自身を軸に、ゆっくりと半円を描き始めた。

キイ…キイ…

剣先とリノリウムの床がこすれる音が響く。正確に言えばそれは『剣』ではなかった。月光に照らされた刀身がギラリと輝く。その光ようは紛れもない日本刀である。
その刀は、数百年前に存在した剣豪。かの有名な、巌流島の決戦で宮本武蔵と戦い破れた…佐々木小次郎愛用の長剣『物干し竿』を彷彿とさせるほど、鋭く…長かった。

キイキイ……キッ!

「…」
『彼女』は刀を動かし、弧を描くのを止めた。突然の敵襲にも全く動じた表情は見られず、落ち着き払っている。
恐らく『彼女』にとっては、いつものことなのだろう。

ズゥゥン!

「…」
遠くの方から地鳴りのような音が響いてきた。まるで、巨大な動物がすぐ近くにいるかのような。
「…」

スッ!

刹那。
『彼女』の姿は消えていた。

ギィィッン!

刀の先を引きずり、摩擦で床に火花が散る。そのまま、低い体勢で何もない空間…『見えざる敵』の懐部分に入り込み、そのしなやかな腕からは想像できないほどの、強力な一撃を繰り出していた。人並みはずれた早業で!大男にすら手に余りそうな長剣を、驚異の力で軽々と扱っている。
見えざる『魔物』を切り裂く瞬間、それまで離していた片手をガシッと柄に添え、渾身の力で刀を叩き付けた!
地の底から突き上げるような刃が『魔物』を完全にとらえ、切り裂く!

ズバァァァアッ!

ガッ!………キィィィィ………ンッ!

僅かに肉を切り裂くような音と、同時に鈍い金属音が響く。
「…ッ!」

キシャァァァァーーーーーーーーッ!

傷を付けられ怒り狂う『魔物』の叫び声。…傷を付けたとはいうものの、別に血が吹き飛ぶわけでもない。ただ単に空間を引き裂いたという不確かな手応えがあっただけだ。
だが、『彼女』は悟っていた。
「浅い…」 仕留めそこなった…と。『魔物』の懐を切り裂こうとした瞬間、金属質の腕で防御された。与えた傷は僅かなものだ。
『彼女』は軽く舌打ちをして、後退した。もう一撃加えなければならない!次の一撃で仕留める!と、確固たる意志を持って。
…それまで、後退して体勢を立て直す。実に冷静な判断能力である。現在の戦況からすると最適な選択だろう。

スッ!

『彼女』は俊敏で無駄のない動きと共に廊下の向こうへと姿を消した。

ズズゥゥゥゥンッ!

しかし『魔物』の動きも速く、決して距離を離さない。それどころか『彼女』の動きより優り…。『彼女』の予想を遙かに上まるほどの高速性を持ち…背後に気配が迫る!

ズバァァァァァッ!

(しまった…)
空間を思い切り引き裂くような『魔物』の一撃が『彼女』をとらえた!
その軌道は。どんなに運動神経が高くてもかわすことは不可能なまでに標的を捕らえていた。『彼女』には絶体絶命とも言うべく…。
だが。

ガキィィィンッ!

ドサッ!

「くっ……ぅっ」

ポタッ…

とっさに剣を盾代わりにして、受け止めていた。だが、その衝撃によって『彼女』は床に叩きつけられ、僅かに吐血した。
しかしそれを気にしている暇はない。『魔物』はまだ至近距離…すぐそばにいるのだから。
『彼女』は血を拭う間もなく刀を握りしめ…ようとした。

ズシュゥッ!

「うぐっ!」
回避するまもなく、『魔物』の第二撃が『彼女』の肩をとらえていた。間一髪、身を転がしてかわしたものの制服に赤い染みが浮かんでくる。激痛を堪え、壁にもたりかかる『彼女』に対し、『魔物』は容赦なく波状攻撃を加える。

ゴロゴロゴロッ!

床を転がりながら、必死に攻撃を避ける。先程の一撃も直撃だけは避けたものの、傷口は確実に広がっている。表情は変わらないものの、額には大粒の汗が浮かんでいた。

タタタタタッ!

剣を杖代わりにし、肩を押さえたまま階段を転げるように走る『彼女』は、素人目にも満身創痍の状態と見て取れる。絶体絶命…といったところか。
「う……グっ…」
(…そのままついて来い)
階段を下りきったところで『彼女』はまたも常識外れの動きを見せていた。

チャッ

懸命に痛みを堪え、剣を杖代わりにして立ち上がり、そして…階段の下で身構える。
これもまたセオリーからはほど遠いことなのである。兵法で言えば『下に位置する者』とは絶対的に不利な立場にあるのにも関わらず…。攻撃をする者は『上方から攻める』というのは戦場において鉄則である。

ズズゥゥゥゥゥゥゥンッ!

『彼女』を見つけたらしい『魔物』が一気に階段を下ってきた。

ガラッ!

ギギギィィッ!

鉄製の手すりが鈍い音を立ててへし折れ、重みで階段のコンクリートが砕ける。それすらも意に介さず…新たなる一撃を加えるため、『彼女』は先ほどと同じように動き出していた。

スゥッ!

ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!

それは『魔物』とほぼ同時…いや、心なしか少しだけ遅れたか…。

キシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!

この世のモノとは思えないほど禍々しい雄叫びを発する『魔物』…。
餓えに餓え、乾きに乾き…そして、獣を目の前にした凶悪な肉食獣を思い浮かばせるほどの…。
重く…速い『魔物』の一撃と『彼女』の鋭い一太刀が繰り出されたのは…ほぼ同時だった。

ズズゥッ!!

ズバァッ!!

「…!」










二つの影が交差した瞬間!









ズシャァァァァァァァァァァァァァァァァッ!









『魔物』の影を切り裂く音と…









バギィィィィンッ!









『彼女』の刀が真っ二つになって…









粉々に砕け散る…音が









響いた。









「…っく。……うっ」
大粒の汗を掻き、ぜぇぜぇと、肩を使って呼吸をする『彼女』…。その手は痛々しく、ベットリと…血が滲んでいた。
繰り出した一撃により魔物は息絶え、消えた。
「…」

ドサッ!

『彼女』は痛みに体を崩し、呟いた。
「…ゆう…いち。うっグ。……さゆり」










『彼女』の心の中に生き続ける…二人の名を。









だが…。









『彼女』の戦いは終わらない。









無限に続くユメ、と…









深く…悲しみに満ちたマボロシを…消すまでは…









二人のカタキを…









うつ









までは…









Fin









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(後書き)

川澄舞シナリオBadEnd以後のお話です。
救いの無い内容ではありますが。こう言うのを考えてしまう人も中にはいるかなぁと思って書いた作品です。
真の意味で一人になってしまった彼女は…。これからどうなるのか。
作者としては続編を書きたくなるのですが。それはまた、別の機会と言うことで。