B.U.S
普段はきゃあきゃあと騒がしいが、特に寂しい日の夜に側にいてくれるととても楽しくしてくれる。と、滝沢司(たきざわ つかさ)はみさきちこと相沢美綺(あいざわ みさき)のことをそんな風に思っていた。 「さてさて。今回センセに人柱もといレポートしていただきたいのは……」 そんなわけで今回も司が宿直の日に、司にとって最高の相棒にして最愛の少女こと美綺は何かを狙いすましていたかのようにやってきたのだった。云うまでもなく、凰華ジャーナルの記事のネタが目的なのだろう。 「米国バストアップ研究所・通称ABLで長年培われた研究成果を元に開発された、その名も……バストアップシェイカー!」 何でも、胸に巻いてバイブレーションでマッサージをしてふくよかにしようと、そういう器具らしい。ネーミングもそのまんま過ぎてひねりがなかった。 「とてつもなくうさん臭いな」 司にとっての第一印象は、そんな感じ。 「で。例のごとく、通販さんのか?」 「御名答〜! な〜んか面白そなのない〜? って思っていろいろ見せてもらったんだけどねー。そしたらこれを試して見たら、って云われたわけ」 いつも通販番組を見ている『通販さん』のとっておき、ということだった。 「で。何で僕がレポートなんだ? 男の胸をふくよかにしても全然おもしろくないだろう?」 「も〜。違うよ〜。センセがつけるんじゃなくて、あたしがつけるの」 つまり、効果が出ているかいないかの証明役になれということだった。 「そんなの、別に僕が立ち合って証明しなくてもいいような気が……。他の誰かでも……」 「のんのんのんのん。分かってないない」 ちっちっちっと人差し指を震わせて、美綺は断言した。 「いいですかなセンセ。これは、胸につけて激しく強くマッサージをする機械なのですぞ。そんなものを花も恥じらう乙女なあたしがみんなの前でつけて、ああ〜んいっちゃう〜ってな風に敏感になっちゃって感じ過ぎの濡れ濡れになっちゃったりしちゃったりしたら……」 司はつくづく思う。この娘は本当にええとこのお嬢様なんだろか? と。 「そしたらどーなると思う?」 「いや。どーにもならんのでは?」 司は胡散臭い通販商品を、ついついじとーっとした目で見つめてしまう。 「んなこたなーーーーい! 突然れずな趣味に目覚めたかなっぺとか、美しいお姉様をお慕い申し上げますとかすみすみが云い出したりとか、とにかく危なくも よろしくてよ、な禁断の世界に早変わりにゃ! 怖いったら怖いにゃーーー!」 何だか良くわからないが一人で盛り上がっている。かなっぺこと上原奏(うえはら かなで)とすみすみこと仁礼栖香(にれ すみか)が聞いたら抗議してくること間違い無しなことをでかい声で叫 ぶのだった。 「そうか。……そこに高藤陀が居れば完璧だな」 司がぼそっと云った一言は美綺を硬直させつつギョッとさせた。高藤陀とは、レズビアンで有名なクラスメイトこと高藤陀貴美子(たかとうだ きみこ)のことだ。 「……せ、センセ。それ、シャレになってない」 その状況を脳内でシミュレーションしている美綺だったが。さすがにリアルでは想像したくないようだ。じとーっとした目で司を見つめる。 「まあでも、今は小曾川が居るから多分大丈夫だろう」 前述の高藤陀さんには想い人(♀)こと、小曾川智代美(こそがわ ちよみ)が側に居るのだから、きっと大丈夫。 「うぅ……って。そんなことはいいの! いいからしっかりレポート頼むよん!」 おっかない想像を振り払うようにして、美綺はばばばっと豪快に制服を脱ぎ始めた。 「お前。いい歳した女の子だし一応お嬢様なんだから、もーすこし恥じらいというものをだな。それに、服は脱いだらちゃんとたたまないとしわが……」 「いーーーの! いざ、装着〜〜〜〜!」 スポーツブラのようなものを胸に当ててカチッとロックして、おもむろにスイッチを入れる。ゆっくりとバイブレーションが開始され……。 「お、お……おおお……お〜お〜お〜」 うぃんうぃんと蠢くそれに、美綺は感動しているのだった。 「センセ! これすごいよ! すごいったらすごい! 出力最大ーーー!」 つまみを最大にしてみると、震えがさらに強くなる。 「ああ、そうかい」 司は途中からめんどうになったのか、机に向かって書類仕事何ぞをしていた。宿直というある意味何もすることがない時間なので、たまっていた仕事をやってしまおうと思ったのである。 「こらーーーー! センセ、無視すなーーーー! あっあっあっ!」 怒って抗議しながらも感じてしまう。 「わかったから。強すぎるなら外せばいいだろう?」 「それが……」 あはは、と笑いながら困ったように云った。 「取り付け口が……バキッていっちゃって……」 「何!?」 司は美綺の背後に回ってみる。プラスチック製の取り付け口が壊れて、取り外し不可な状態になっていた。 「強度不足だな。これは、米国で売ったりしたらクレームどころか裁判にでもなるんじゃないか?」 「そ、そうかも。う、うぅぅ〜。あっ……んっ」 どうしたものやら。司は考えて行くうちに……。 「美綺」 「あ、あ、あ。……な、何?」 「気持ち良さそうだな」 「さっきから、そう云ってるんだけどなぁ……。あひっ! あっ!」 羨ましそうな司に対し、普段こういうときは冗談の一言でも云うのだが。今はそんな余裕などどこにもないのだった。 「というわけで。僕も交ぜろ」 「ええっ!? あ、あ〜〜〜!」 書類仕事などやってる場合かーーー! とばかりに放り投げて、目の前の据え膳をいただきますとばかりに近寄り、魔手を伸ばす司だったが。美綺はまさにまな板の上の鯉状態。たのしくおいしくいただかれてしまったと、まぁ、そんなお話。 その後どうしたかというと? 美綺は司が満足するまでベッドの上でいっぱいいっぱい色んなことを色んな体位でされてしまってから、ニッパーで強引に取っ手を外して解放されたそうな。解放されたときはもう息も絶え絶えで、失神するかのよーにベッドで寝ちゃったのだったとさ。 ----------後書き----------
かにしのこと『遥かに仰ぎ、麗しの』初作品。 最高の相棒にして最愛の少女みさきちは、リアルでも欲しくなるよーな娘だと思った次第。 ご意見ご感想シチュエーションのリクエスト、誤字脱字報告はWeb拍手にてお願い致します。 |