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04.もも色シンフォニー 天羽みう編










 新吾はただ今みうの部屋にお邪魔中。二人きりの時間は楽しくて、いつまでも続いて欲しいとお互いに思う。

「新吾くん」

 新吾にとって、天羽みうという先輩は声も外見も雰囲気も、文字通りふんわりと柔らかく包み込んでくれるような、母性的な包容力に満ちている。このおとなしやかな先輩は誰に対しても優しくて、だけど意外なことに、結構意地っ張りなところもあったりする。そのギャップが魅力をかきたてるんだと、新吾は思う。

「わたし。負けないよ?」

 そして今がまさに、新吾に対して意地をはっているところだったりする。

「先輩。そんなことに本気にならなくても」

「そんなことじゃ、ないよ? 好きな人とのキスだよ? すっごく大切なことだよ」

「それはそうですけど。でも、だからって、キスしながら、どっちが息を長く止められるかなんて、いいじゃないですか、別に」

「別によくないもん。……新吾くん、こっちきて」

 みうは拗ねたように頬を膨らませながら新吾の腕をくい、と引っ張る。普段は大人びているのに、こういうときは妙に子供っぽく見えてしまう。そんなところが可愛いな、と新吾は思う。

 事の始まりはみうの母親……天羽結子の一言だった。

『ふふ。新吾さん』

 結子お母さんはみうの役目を奪うかのように……恋人に甘える少女のように新吾の腕にしがみついて、豊満な胸をむにゅううう、とめり込ませながら言ったものだ。上目遣いで、若々しさと適度な色気を交えながら。

『わたしとキス、してみませんか?』

 あまりにもさりげなく、とんでもない爆弾発言。当然の如く、新吾の彼女たるみうは大激怒。

『お母さん! 何言ってるの〜!?』

『新吾さんが可愛いから』

 娘に対してにっこりと笑顔で答える。台詞の語尾に大きなハートマークでもついていそうだ。

『説明になってない〜! どこの世界に、娘の彼氏さんにキスしようだなんて誘うお母さんがいるの〜!』

『あら、お母さんも一人の女性なのよ? 素敵な殿方がいらしたら、キスをしてもらいたくなるものよ?』

 あくまで余裕な結子お母さん。流石に年季が違うのか役者が違うのか、みうはペースを乱されっぱなし。

『だから、説明になってないって言ってるの〜!』

 ――と、要約するとそのような光景が繰り広げられたりした。しかし、結子お母さんは言うに事欠いて更に問題発言を繰り返した。

『みうは恥ずかしがり屋だから、キスの途中で吹き出したりしちゃいそうね』

『そんなことないもん!』

『そういうわけですので新吾さん。わたしの唇もじっくり味わってみませんか?』

 この眼差しは決して冗談ではない。本気だ。新吾は引きつった笑みを見せながら絶句するしかなかった。

『理由になってない〜! 何がじっくりなの〜! って、新吾くんに抱き着かないで〜! お母さん〜〜〜っ!』

 そんなやりとりの後、結子がその場を去ってからもみうは『キスの途中で吹き出したり、目を開けちゃったり、失敗したりなんてしないもん』と、拘っていたのだ。

 さて、では具体的に、失敗をしないようにするにはどうすればいいのだろうか。散々挑発(?)された鬱憤を晴らすには何をすべきだろうか。

「キスの時、好きな人より長く息を止めていられればいいんだよね?」

 考えた結果が、それだった。

「そう、なのかな?」

 もう何が何だかよくわからない新吾をよそに、ちょっと変わったキス合戦が始まった。

「新吾くん」

 上目遣いでキスをおねだりするみう。切なさを帯びた眼差しは結子と似ていると、新吾は思った。

「はい。じゃ、しますね」

「うん」

 二人そろってすう、っと空気を飲み込んでから止める。互いの視線が交差して近づく。唇同士が触れ、被さる。

「ん、んく」

「……」

 そうしてあっという間に数秒が経過する。互いの様子に異常は見られない。今のところ全く問題はない。しかし……。

『あ……。新吾くんの体に、わたしの……お、おっぱい、当たっちゃってる。あ、あぁぁ。……ど、ドキドキしてるのが伝わっちゃうよ……』

 みうの、身長の割に大きな胸が思い切り当たっていることに気付いてしまう。ほんの少し身じろぎしただけで、ふにゅんと形を変えてしまうのがわかる。今更だけど、猛烈に恥ずかしい。今の今まで夢中だったので意識しなかったのだけど、一度気になり始めたらたまらない。

『あ、あ。新吾くん……。唇、暖かくて……優しい』

 新吾の感触を意識すればするほど、とくん、とくん、と鼓動が高まっていく。本当に、触れてしまっている胸を介して高鳴っている鼓動がばれてしまいそう。かといって振り解くわけにもいかず、みうは小刻みに身をよじってしまう。その動きがまた、胸の形を変えていく。

『あ、あ! 新吾くん、そんな……強……くぅぅっ』

 突然、新吾はみうの柔らかな体をきゅっと強く抱き締めた。その拍子に、みうは顔を少し仰け反らせてしまう。

「んんぅっ!」

 密着していた唇は少しばかりずれて、ぷちゅ、ちゅぷ、と、音を立てる。触れ合うだけの軽いキスは、今やディープなものに早変わり。

『あ、あ、あ……。よだれ……垂れてきちゃう! は、はしたなくて恥ずかしいよ……。こんなの……』

 こすれて十分に湿っている唇から、つつ、と一筋の滴がみうの口元を伝って落ちていく。

「ぷふ……っ。んぅっ」

 動じているみうと違って、新吾は落ちつきはらっている。

「ん、んんっ!」

 ここにきてみうはもう、息がもたなくなっていた。更に、最後の最後まで集中しきれずに余計な事をいくつも考えてしまい、つい息を飲吸おうとしてしまった。それも半端な量だったのか、ちょっとむせてしまいそう。

『ああっ! こんな! 上手にできないなんて』

 後悔してももはや遅い。

「ん、ん、ん……! んんんっ!」

 みうはとうとう限界を迎えてしまい、新吾から離れようとしてちょっと腕に力を込めた。みうの口からぷちゅ、くちゅ、ちゅく、と唾液が糸を引いてこぼれた。勝負は既についていた。

「んくっ! ん……! ん、ん、んんっ! けほっ。あ、ああ。離れちゃった。……ん。んんっ! けほっ! ちょっと、飲んじゃったよぉ」

「俺の勝ちですね」

 その事実は認めざるを得ないけれど、ちょっぴり悔しい。こんな所をお母さんが見ていたら、くすくす笑いそうだと思うと尚更悔しい。

「新吾くんのキス……ちょっと、えっちだったよ」

「そうですか?」

「そうだよ〜」

 それは苦し紛れの負け惜しみ。ちょっと八つ当たり入った抗議。けれど、新吾の指摘は鋭くて反論できなかった。

「みう先輩こそ、おっきなおっぱいを思いっきり俺に当ててきてたじゃないですか」

「え……? そ、それは、その……」

「それで、すっごくどきどきしてましたよね。本当に大胆なんだから」

「……」

 ああ……。ばればれだったんだと思う。もう、かなわないなあ、と。意地を張っていたのか何だかおかしくなって、くすくすと笑ってしまう。

「新吾くんの勝ち、だよ」

 勝者にはご褒美だよね。ということで、みうは宣言する。

「えっと。じゃ……キスだけじゃなくて……わたしのお口で。新吾くんが気持ちよくなること、いっぱいしてあげるね」

「それって」

 淫らと言われるかもしれないけれど、好きな人に思う存分気持ち良くなってもらおうとみうは誓った。けれど、その前にちょっとだけおねだり。

「でも。もう一回だけ、して。……キス」

「はい」

 今度は普通に、優しく、ということ。新吾も了解済み。……の、はずだったのだけど。

「んんっ」

 ぷちゅ、くちゅ……と、湿った音。段々と貪り合うようなキス合戦が始まった。果たしてみうはリベンジなるか?

『好き……。新吾くぅん……。えへへ』

 ずっと優しく包まれっぱなし。ちょっとお株を奪われちゃったかなとみうは思うけれど、今は思う存分甘えさせてねと思うのだった。……勝負に勝てるかどうかは、わからないけれども。










----------後書き----------

 みう先輩編でした。

 あのお母さんに迫られたら新吾もドキドキでしょう。そして、みう先輩の対抗心がすごいことになるのは目に見えてます。



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