03.もも色シンフォニー 乾紗凪編
自室にて、紗凪はじれったさにぷるぷると震えながら思う。本当にもう、どうしてなのか。まったく、何でわざわざこんな苦行に挑まなければいけないんだ! と、大きな声で叫びたい程に体が疼いて堪らない。 「う、うぅぅ……!」 けれども、決して人に対して文句を言える筋合いではない。ここに至った原因というべきものは他でもない、紗凪自身にあるのだから。つまるところ紗凪は、自ら進んでやせ我慢をしようとしているのだった。 「紗凪。無理しないで、普通にしようよ」 あくまで意地を張り通そうとする紗凪に、新吾は優しく声をかける。 「う、ぅぅ。あぅ……。だめ。……そりゃ、したい。したいよぉ。でも、だめ……。だめなの。キスばっかりしてちゃ、おかしくなっちゃうから」 新吾にデレデレの紗凪はもはや、二人きりの時を見計らってはひたすらいっぱいキスをしまくりたくなってしまうという、まさに中毒症状発症中なのだった。これではいけないということで紗凪が下した自制の案とは、せめて雰囲気だけで我慢しようということで、互いの唇が触れる寸前で止めてしまうという、エアギターならぬエアキスなのだった。今のところ、自制できるどころか逆効果に終わっている模様。 「それに、キスばっかりしたら……新吾に嫌われちゃう。馬鹿みたいだって。しつこい娘だ。って」 独占欲が強いと思われてしまうと、紗凪は不安そう。 「嫌わないって」 新吾はいつもそう言ってくれる。本当に優しいなあと、紗凪は心から思う。けれど、その優しさに甘えてばかりいたら、いつか何かがおかしくなってしまうような気がするのだった。 「いいの。我慢、する。……できる。だから、新吾。……うう」 紗凪は新吾に抱き着いて、キスをする。……寸止めだけども。 「んんん〜〜〜!」 うるうると紗凪の瞳が悲しげに揺らめく。キスをしたくてたまらないのに、しちゃいけないぞと自らに言い聞かせ、思い留まらせている。 そんな紗凪を見ていて新吾はいたたまれなくなり、そして……。 「紗凪。……じゃあ、これならいいでしょ? 俺が勝手にしちゃうのなら」 「え? あっ! むぐっ!」 意外なことに、新吾の方から積極的にキスをしてきた。突然のことに、紗凪は目を見開いたまま呆然としてしまう。こんな風にされることはなかったから。 「俺もさ。紗凪とキスをしたいんだよ?」 だから、寸止めなんてしないでいいんだよと、新吾は行動で示してあげたのだった。 「なっ!? なっ!? なあぁっ! し、新吾ぉ……」 「嫌だった?」 「う……」 ぶんぶんぶん、と激しくかぶりをふる紗凪。そんなことない。あるわけがない。もしかして、好きな人に不安な思いを抱かせてしまったのかもしれない。あたし、何やってんだろうと自己嫌悪に陥る。 「嫌じゃ、ない。うぅ……。ごめんね。気を使わせちゃって。あたし、バカだ。何やってんだ、本当に」 「ううん。気を使ってるのは紗凪の方だよ。俺は、自分の気持ちに正直になっただけ」 「あ……」 「だから、さ」 「んぁっ!」 軽く頬に触れるキス。優しくて暖かくて、紗凪は目を細める。新吾の手が、紗凪の頭を軽く撫でてくれる。 「新吾ぉ。ん……んにゃ、ぅ」 紗凪の様はまるで、ごろごろと、猫が気持ち良さそうにしているかのようだった。 「本当に……キス魔でごめん。……でも、好きなの。新吾が大好きだから……キスばっかり、したくなっちゃうの。でも、やっぱり……我慢できないの。お願い……いっぱい、させて」 もうこうなったら意地を張ることなく、素直な気持ちを言葉にする。 「俺も。紗凪が好きだから、いっぱいしたいよ」 こつん、とおでこ同士をくっつけ合わせてみたりする。視線が交差して、恥ずかしさのあまり紗凪は頬をほのかに赤く染めながら目を逸らす。 「新吾ぉ」 「紗凪。おいで」 「うん。あふ……。はふ……」 そうして今度は抱きしめ合いながらのキス。ああ、やっぱり……包み込んでくれるように優しい。我慢なんてできるわけがないよと心底思う。 「んん……。あたし、頭の中とろけちゃいそう」 「いっぱい、とろけちゃっていいよ」 「新吾ぉ。んにゅー……。ほんとにとろとろしちゃうよぉ。あは……」 紗凪の、普段はちょっと強気な目はもう、完全にたれてしまっていた。 「ん、ん。……好き。しゅき……。ん。んふ……。新吾ぉ。ね……。ベロとベロで、ぺろぺろしよ? れろれろって」 「いいよ」 「んぅん」 新吾はまったく紗凪のお望み通りにしてくれる。 「ん。ぷふ……。あ、ふ。お口の中……くしゅぐったいようぅ。んんぅ。んぅ……んく、んく。ざらざらしてて、とろとろで……変だよぉ」 「そうだね」 ちゅく、ぷちゅ、と互いの舌が擦れ合う音。ねっとりとして濃厚で、吐息も鼓動も温もりも、全てダイレクトに感じられる。 「ああぁ。あたし……何だか体が熱くなってきちゃった」 「キスで、気持ちよくなっちゃった?」 紗凪はこくん、と僅かに頷く。 「あぅ……。えっちな気持ちになっちゃったよぉ……」 小さな体を抱え込むように縮まる紗凪。そんな彼女を抱きしめながら、新たなキスを繰り出す新吾。 「んん、ん……。……キスだけじゃなくて、あたしの体……触って。撫でて。……貧相な体でごめんね」 「ううん。そんなこと、ない。本当に可愛いよ」 「ありがと。あ……ん……」 やがて体同士を擦れ合わせる二人。彼女が言うところのBカップのバストも、意外に(とか言ったら失礼だなと新吾は認めつつ、思う)ふくよかで、手の平で撫で回す度にふにふにと潰れたりしているのがわかる。 「紗凪」 「あ、ん。はふ、ん……。くしゅぐったいぃぃ……。新吾……好き……」 新吾は紗凪の体を両腕で軽々と抱きかかえる。いつだったか勢いに任せてしてしまった、所謂お姫様抱っこ。そんな恰好でまた、キス。 「あぁぁ」 力の差は圧倒的。あたしはまるで子供みたいだねと、紗凪は自分自身を評して思う。勿論嫌な気持ちなんて微塵もなくて、おかしくて笑みがこぼれてくる。 「紗凪は軽いなあ」 「んん……。新吾だけのお姫様に、なりたいよぉ」 もうなっているよと、新吾は笑顔で答える。そうしてまた、ディープキス。紗凪の八重歯の方にまで新吾の舌が侵入していく。 「んんぅっ! んふぅっ! あ……あ、ん。も、もう……新吾。あたし……」 はあはあと、紗凪の呼吸が小刻みになっていく。 「もぉ、だめ……。んん……。……触って。舐めて。もっといっぱい、あたしにいろんなこと……して……」 恥ずかしさと嬉しさのあまり、ぽろぽろとこぼれていく涙。物憂げな表情で上目遣い。好きな人の温もりを更に求めていく。 「好き……。お願い。あたしを……あたしを、めちゃくちゃにしてぇ! ……あ、あ、あぁぁっ!」 紗凪の首筋に噛みつくようにして、新吾がキスを繰り出した。余りにも敏感な紗凪はびくんと体を震わせる。 「あひっ! あ、くすぐった……ぃ。あぁぁ、あ、あぁ……好き。好きぃ……。新吾ぉ……。あ、あっ! んあぁぁっ! キスで……あたし。あ、あ、あっ!」 こうして二人はキスもしながら、いっぱいいろんな事を始めていく。紗凪の宝物……。新吾から貰った白いリボンが、一つにまとめられた尻尾のような髪と共に揺れている。熱く楽しい時はまだまだこれから続いていく。いきつく先は例えば、感じすぎて紗凪の意識が飛んで、全てが真っ白になってしまったりとか。 ----------後書き----------
紗凪きち編でした。 彼女にはキスの我慢はよくないものかと思うのです。てなわけで、思う存分してみるに限るんじゃないかなということで、こんな展開になりました。
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