二度寝日和
ある晴れた日曜日の、朝十時頃のこと。名雪は祐一の部屋へとやってきた。とことこと僅かに足音を立てながら。 「ゆ〜いち。起きてる〜?」 ドアの前で軽くノックをしつつ問いかけるも、部屋の主からの返事はなかった。 「まだ寝てる?」 再度問いかけても、やっぱり返事はない。 「じゃあ、入るよー」 そんなわけなので、一言断ってから部屋の中に入ることにした。……すると、ベッドの上には気持ち良さそうに寝る祐一の姿があった。 「今日はでーとだよ?」 名雪はにこにこ笑いながら、祐一の耳元で囁く。今日は、前々から約束していたデートの日。とはいっても、待ち合わせ(同じ家に住んでいても待ち合わせ、と云うのだろうか?)の時間はお昼過ぎなのだけど。 「イチゴサンデー、一緒に食べようね」 とっても待ち遠しかったので、来ちゃったわけだった。でもでも、祐一はまだまだ夢の中。 「うーん」 名雪が自分の『彼氏さん』の寝顔をじーっと見ていると。 「わたしも寝たくなってきちゃった。ふあぁ」 連鎖反応か、伝染したのか、軽くあくびをしてしまうのだった。 「ちょっとだけ、一緒に寝てもいい、よね? わたし。祐一の彼女さん、だし」 くすっと笑って、ちょっとだけ恥ずかしそうに祐一の横にもぐりこむ『彼女さん』だった。 「んーん。ふかふかで気持ちいいよ。……んにゅっ!?」 そんな時。祐一はたまたま無意識に寝返りを打って、名雪に覆いかぶさってしまった。図らずも、抱きしめ合ってしまった二人。 「ゆ、祐一……! あ、あ……。恥ずかしいよ〜!」 祐一の鼓動はおろか、呼吸まで感じる至近距離。 (び、びっくりしたよぉ。いきなり……って。寝返りくらい打つ、よね) ほっとして、でも、そんな自分がなぜだかおかしくて、くすっと笑ってから祐一の耳元で囁いた。 「祐一。好きだよ〜……。聞こえてるー? ないよね〜? だから、もっと強く……抱き締めちゃうよ?」 名雪は祐一にしがみつくかのように、抱き締め返した。ぎゅむーっと強く。 「んーにゅ……。えへへ〜」 好きな人の鼓動を感じて、幸せいっぱい。名雪は今、そんな気持ち。 (このまま一緒にいたいな) そして祐一の寝息を聞いていくうちに、ドキドキした鼓動は収まっていき、心地よい温もりが名雪の体を包み込んでいく。例えるなら春眠暁を覚えず、的な睡魔を誘う気持ちよさが。 (祐一。ちょっとだけ、ごめんね) そして名雪が祐一に『ちゅっ』と、ほんの一瞬だけの軽〜い『おやすみキッス』をしてから目を閉じると、あっと言う間に夢の中。 ………… 名雪が気がつくと、部屋の中は夕焼け色に染まっていた。 (ん、んん……あれ、わたし寝ちゃったんだ) どれくらいたったのだろう? しょぼつくまぶたをこすりながら、体を起こそうとした。けれど、それはできなかった。理由は簡単。 「おはよう名雪」 「え!? ゆ、祐一?」 名雪の真横。数センチメートルくらいの至近距離に、祐一の顔があった。びっくりしている名雪を見て、くすくす笑っていたのだから、起こそうとした体が硬直化してしまったのだった。 「よく寝てたな」 「え……。う、うん」 羞恥に顔が熱くなって行く。何しろ今、名雪は祐一に腕枕してもらっているのだから。 「驚いたよ。目を覚ましたら、俺に覆いかぶさっているんだから」 無意識のうちに寝返りを打ち、打ち返し、絡み合いながらころころ転がって、いつの間にかそーいう体勢へと変化していったようだった。 「ご、ごめんね。祐一が気持ち良さそうに寝てたから……。つい」 一緒に寝てしまった、という言葉は出てこなかった。 「謝ることなんてないぞ。名雪の体、とても気持ち良かったから」 「……え?」 ニヤニヤ笑って、祐一は云う。 「胸は押し当ててくるし、お尻はふにふにしてるし、ほっぺはぷにぷにしてるし。最高の抱き枕だったぞ。」 「う、うー。えっちだよ〜」 とはいっても自業自得なので、あまり強く抗議(?)はできないのだった。 「はは。……ところで、もう夕方なんだけど」 「あ」 楽しいデートのことはすっかり忘れていて、代わりにもっと楽しいお昼寝になっていたのだった。 「今から行く?」 「ん、ん〜。もうちょっとだけ、このままでいたいよ」 名雪は軽く頭を振る。デートはとりあえず、順延ということで決定。 「俺も」 祐一はそう云いつつ、名雪の体を引き寄せてキスをした。 「あ」 名雪は目を閉じて、されるがままに身を任せた。 「祐一。あついよぉ」 胸と胸が密着して、互いの鼓動が高まって行くのがわかる。 「あの。夜も……一緒に寝て、いい?」 「もちろん」 祐一は名雪のさらさらした髪をかき分けて、撫でる。 「えっち、しような?」 「……」 微かにこくんと頷く。恥ずかしさに、返答の声はとても小さくなった。 「いっぱい、しよ」 そしてまた、照れ隠しのキス。 「んんーん。ゆういちぃ。んにゅ〜」 こそばゆくて、照れ臭くて、猫なで声をあげる。 「何だ猫さん」 祐一も面白がって、名雪を子猫のようになでなでして可愛がるのだった。 「にゃ。にゃ〜ん。わたしは祐一の猫さんだよ〜」 すりすりとじゃれあうように、お互いふざけあう。 「よしよし。可愛いぞなゆねこ」 「ごろごろごろ〜」 あごを撫でてあげると、名雪は嬉しそうに笑って甘えた。 「えへへ」 「あはは」 そしてまた、軽くキスを交わす。 「好き、だよ」 「俺も」
二人は見つめ合いながら笑顔。
そんな風に、今日は一日 ずーっと一緒に、ごろごろしてたのだったとさ。 そして、夕食の席。 「二人とも。よく寝られた?」 秋子さんは笑顔でそう聞いた。 「え……っ?」 「ど、どうして知ってるの!?」 二人が一緒に寝てたということを、なぜか知っていた。 「気づくわよ。なにしろ、二人ともお昼ごはんも食べずに寝ていたんだから」 秋子さんはとても楽しそうに、嬉しそうに、くすくすと笑う。 「気持ち良さそうに寝ていたから。起すのが可哀想になっちゃって」 で、そのままにしておいたということだった。 「……」 「……」 当然のことながら、祐一も名雪も顔がかーーーっと真っ赤になってしまうわけで。 「さ。晩ご飯にしましょ。お腹すいたでしょう?」 「う、うん」 「は、はい」 キッチンに向かおうとして、秋子さんは思い出したように云った。 「そうそう。名雪の布団、干しておいたから。きっと気持ちいいわよ。ふかふかで」 「あ、ありがとう」 「というわけで祐一さん。寝る前に、換えのシーツを持って行ってあげてくださいね。名雪の部屋に」 他にまくらカバーと布団カバーも洗濯したそうな。 「……え?」 「……!?」 『というわけ』がどういうわけかというと。 「二人とも。仲がよくて嬉しいわ」 そういうわけ。くすくす笑う秋子さんは、何もかもお見通し。
……やっぱり、夜の約束は完全に見抜かれているんだと
二人とも感じるのだったとさ。 -おしまい-
----------後書き----------
原点回帰な気分で書きました。シンプルに、短く、容量を制限して。 最近書くお話がことごとく肥大化していっているので、あえて短く区切るということの重要性を感じる今日この頃。 で、えっち無しの甘ったるいほのぼの話といいますか。ただいちゃつくだけといえばそれまでだけど、幸せいっぱいなのは良いことだと思うのです。キャラクター萌えってものは実に様々だけど、カップリングにかかわらずほのぼのものに一つの答えがあるとみた! それにしても。散々昼寝しまくったんだから夜なんか寝られなさそうで余計に密着度が高まりそうな気も書いていてしてきたのでした。 ご意見ご感想シチュエーションのリクエスト、誤字脱字報告はBBSまたはWeb拍手にてお願い致します。 |