ぱくぱく…
「祐一、どうかな?」
私は、緊張しながら祐一にいいました。
私の作ったお弁当…どうかなぁ。
…う〜、心臓がドキドキしてきちゃったよぉ…気になるよ〜。
感想…早く言って、お願いっ!
…そうしてしばらくしてから、祐一が出した言葉は。
「ああ。美味いよ。名雪の作る弁当は最高だよ!」
「くすっ。誉めてくれてありがと。これが私の『本気』だよっ、えへへ」
やったぁ!
祐一が誉めてくれたよ〜。
私、嬉しいよ〜♪
祐一がこの街に来てから三ヶ月がたちました。
雪はまだ少しだけ残っているけれど、季節はもう春です。
風も次第に暖かくなり始めて、木々の緑と眩しい太陽が鮮やかに光り輝いています。
とっても過ごしやすくて、気持ちのいい季節になりました。
そして、三年生に進級した私たちは、今年も同じクラスになれました。
祐一と一緒…。
えへへ。私、うれしいよ〜。
香里も一緒だけど、でも…北川君は別のクラスになってしまいました。
残念…くすん。
「な、何故俺は美坂と別のクラスにされてしまったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!(涙)」
(作者:北川に、合掌)
私たちはお昼はいつも学食です。
お母さんもお仕事が忙しいから仕方のないことなんだけど、毎日毎日となると飽きてしまいます。
いくら大好きなAランチでも…。
だから私はある日、思い切って祐一に聞いてみたんです。
「これからは、私が毎日祐一のお弁当作ろうか?」
と…。
そしたら祐一は
「是非頼む!」
って言ってくれました。
けれど…。
「…朝、本当に大丈夫か?」
なんてことを言うんだよ!
う〜、私だって頑張れば早起きなんてできるもん!
美味しいお弁当を作って、絶対に祐一をびっくりさせてやるもん!
よ〜し、頑張っちゃうよぉ〜〜ッ!!
ふぁいと!だよっ!
ぐっ!
ガッツポーズで気合いを入れます!
…ご飯は蒸れないように少し堅めに炊きます。
おかずはカリッとした唐揚げに、アスパラのベーコン巻き…。
コトコト…
今煮ているのは、鶉の卵です。
お玉を使って、小さくてかわいい鶉の卵をお湯から引き上げます…。
殻を剥いて爪楊枝に刺して出来上がり。う〜ん、可愛いよ〜♪
デザートはもちろん、赤くておっきなイチゴだよっ!
他にもいっぱい…いっぱい詰めました。
エプロンと同じ柄の、ネコさん鍋掴みもフル稼働!
「る〜んるんっ♪」
思わず歌い出しちゃうほど楽しいお料理。
一生懸命作ったお弁当は、みんなとっても美味しそう。
お昼がすごく楽しみだよ〜、えへへ。
トントン…
新鮮なサラダも作って、栄養バランスも満点だよ!
今日はレタスが美味しいな〜。
あ、ミニトマトも一緒に入れよ〜っと♪
コトコト…
あ、ご飯が炊けたみたい。
炊きたての熱いご飯を団扇でパタパタと扇ぎながらお弁当箱に詰めます。
熱すぎると、悪くなってしまうかもしれないからです。
パラパラ…
…それから、ご飯に黒胡麻をたっぷりまぶして完成です!
「できたよ〜…ふ、ふわぁぁぁ…」
できたけど、早起きしたからすっごく眠いよ〜…。
でも、祐一喜んでくれるかなぁ?
はう〜、ドキドキしちゃうよぉ。
いっぱい食べてほしいな…。
祐一に。
今日も祐一と一緒にお昼ご飯。
ぱくぱく…
「…どうかな?」
わき目もふらず箸をすすめる祐一に、お弁当の感想を聞く。
「ああ。すっごく美味いよ名雪の弁当は」
「くすっ。喜んでくれてありがと。一生懸命作ってよかったよ〜、えへへ」
ここは中庭。
私と祐一は、敷物を引いて一緒にお弁当を食べています。
暖かくなってきたので、私たちと同じように、お弁当を食べるている人がいっぱいいます。
えへ、なんか遠足みたいで楽しいな。
「祐一…私のお弁当、また食べてくれるかな?」
「…いいのか?」
「勿論だよ!だって…祐一に食べて欲しいの。いつも…いつも…」
「大変じゃないのか?」
「大変だけど…でも、大丈夫」
早起きはつらいけれど…きっと大丈夫…。
だって、祐一に喜んでほしいもん…。
「ダメ…かな?」
「無理だけはしないでくれ」
「…うん」
「くしゅんっ!…こほっこほっ…」
…今日も私は、二人分のお弁当を作ってから学校に行く支度をします。
でも、今日はなんだか体が熱くって…。
思うように動いてくれません…。
くしゃみも出てきちゃって、調子がよくないです。
パタン…
「あ、祐一。おはよ…くしゅんっ!」
「…名雪。お前、顔が赤いぞ。風邪じゃないのか?」
「ん…だい…じょうぶ。大丈夫だよ…こほっ…くしゅんっ」
「全然大丈夫じゃないだろっ!熱計ってみろ!」
「う…ん…」
そして夕方…
部屋で寝ていると、祐一がお粥を持ってきてくれました。
「名雪、夕飯だ」
カタッ
「ありがと…」
あの後、熱を計ってみたら三九度もあって。
私はどうしても学校に行きたかったのだけど、祐一が『絶対に休め!』というので、今まで家で寝ていました。
でも、全然眠れなかった。
今日は祐一にお弁当を作ってあげられなかったから…。
私、悲しくて…自分自身が情けなくて…。
「今日はごめんね、お弁当…作れなくて…」
「いいって。それより、風邪早く治せよ」
「うん…」
「…たく。お前は無茶しすぎなんだよ。いつもいつも一生懸命で頑張りすぎるんだからさ…部活もまだあるんだから…。ほら、お粥と一緒にお前の大好きなイチゴももってきてやったぞ。『あ〜ん』してみな」
「いいよ。自分で取るから…」
「いーから、病人は素直に言うことを聞きなさい」
なんだか祐一、お父さんみたい。
本当のお父さんって、こんな感じなのかなぁ?
暖かくて…力強くて…。
「…わかったよ。あ〜ん」
ぱく
「美味いか?」
「うん」
そのイチゴは、ものすごく甘くて美味しく感じました。
だって…。
祐一、優しいんだもん。
お粥も祐一が作ってくれたってお母さんが言っていたし…。
私…祐一に支えられてばかり…。
「……ありがと………ぐすっ…ぅぅっ…」
「名雪…?…ど、どうしたんだ?」
「ぐすっ…ごめん…ね。祐一が……喜んでくれたから……いつもいつも…毎日…お弁当を作ろうと思ったのに……風邪なんかひいちゃって……」
「名雪」
「私…ねぼすけで…朝が弱いから…毎朝毎朝…起こしてもらっちゃって…………祐一に………迷惑ばかりかけちゃって……ぐすっ……」
「…」
「ぅ…ぐすっ…祐一は……こんな女の子……キライ…だよね?……お弁当…ひとつ…作って……あげられなくて…ごめんね……ぐすっ…」
すっ!
「…ぁ」
泣いている私を、祐一は優しく抱きしめてくれました。
祐一の体は、暖かくて…大きくて…力強くて…。
「…名雪。俺はそんな名雪が大好きなんだ。…それに、美味しい弁当をいっぱい作ってくれるのは…すごく嬉しいけど。でも、名雪が元気に笑っていてくれるほうが、嬉しいんだよ」
す…
静かに重なり合う唇…。
「ん…」
祐一は…優しいキスをしてくれました…。
泣きじゃくる子供をあやすかのように。
「それからな。俺は絶対にお前のことをきらいになったりなんかしない。絶対にだ!」
まじめな顔をして、声を荒げる祐一。
「……」
「だから…いつでも…いつだって…ずっと笑顔でいてくれ。俺のために…」
「……うん……。わかった…よ。ぐすっ……」
「いつも元気でいてくれ…。名雪」
私。祐一に必要とされてる…。
そのことが、嬉しくて…でも、申し訳なくて…。
「…祐一、変わったね…。ぐすっ」
「…そうかい。俺自身、七年前と何ら変わってないと思うけど…」
「ううん。すっごく…変わったよ」
「良くなってりゃいいけどな」
「昔からそうだけど…。すごく…もっともっと優しくなったよ…」
私は素直にそう思うのに『優しくなった』と言う言葉を聞いた途端、祐一の表情が曇った。
きっと、七年前のことを思い出したのでしょう。
あの日のことを…。
傷ついた瞳の…祐一…。
「ちがうよ。俺は…優しくなんかないよ。…だって、俺は…七年間もお前を苦しめてきたんだ。あの時の…お前の想いを踏みにじって。…お前がくれた手紙の返事だって出せたのに……。ずっと、見て見ぬフリをしてきたんだよ…」
ううん。
それは、私が祐一を傷つけた罰だよ。
私は、自分が傷ついたと思いこんできて…こんどは逆に…祐一を…最愛のヒトを傷つけてきたの…。
ずっとずっと…長い間…。
「そんなことないよ。私は…祐一が本当に優しいことを…誰よりも知ってるもん」
それに私は七年前…そして、今も…祐一が凄く苦しんでいたことをよく知っているよ。
でも、私にはそんな祐一を助けてあげられなくて…なにもしてあげられなくて…。
気がついたら…私は祐一に支えられっぱなし。
「だって。私の作ったお弁当、すごく喜んで食べてくれたし…今だって私のこと看病してくれてるじゃない。それに…ぐすっ。…お母さんが……事故にあったときも……私を…守ってくれたよ…。ずっと、側にいてくれたよ…」
あのとき…祐一が一緒にいてくれなかったら…私は…。
「なゆ…き…」
「祐一が優しくなかったら、そんなことしてくれないよ」
「でも、ごめんな。いまさら謝っても、償いきれないけど」
…違うのに。
…償うのは私のほうなのに。
これじゃ…ダメ…。
「ぐすっ…じゃあ…さ。これからも私の作ったお弁当、一緒に食べてくれる?」
「え?」
「そうしてくれたら、七年前のことは全部無かったことにしてあげる。どうかな…?」
「本当に、それでいいのか?」
「うん。…ちょっと、ズルいかもしれないけど、私は祐一のお弁当を作りたいんだよ。いつもいつも…一緒に…祐一とお弁当を食べたいの…」
「…」
「やっぱり、ダメ…なのかな?…ぐすっ」
ズルイよね?
私って、ヒドイよね…。
でも…それをさせてほしいよ…。
「そんなこと無い!」
ぐっ!
「あ…」
「名雪…ありがとう。愛してる…」
「ぐすっ…。えへへ、私もだよ〜」
チュッ
長い長い…口づけ…。
キーンコーンカーンコーン…
「はふう…。ようやく終わった。…腹減ったなぁ〜」
「ゆういちっ!はいっ、お弁当だよ〜!」
「おおっ。名雪、さんきゅっ!一緒に食べようぜ」
「うんっ!」
パカッ
「…」
「えへへ」
「な、名雪。これ…は…(汗)」
「えへへ。私の『本気の気持ち』だよ〜!」
「お…俺に、この…実に…美味しそうだけど、実にカラフルで、実に愛情いっぱいのお弁当を…実に人の多いという…実に恥ずかしいシチュエーションで…実に恥ずかしがり家な俺に……食べろと!?」
「うん。そうだよ〜」
もちろんだよ!
ザッ
「い…いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「あ、祐一!逃げちゃダメだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
ガシッ!
「もう、かんべんしてくれ!にがしてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「だめだよ〜。えへへ、いっぱい食べてね〜♪」
そのお弁当には大きなハートマークと一緒に、こう書いてありました。
『ゆういちだいすき!』
と…。
「祐一、大好きだよ〜!」
(おしまい♪)
バキバキバキッ!!
ぐはっ!!!(x_x)