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-One Scene 〜彼と彼女の日常〜-
沢渡真琴編
沢渡真琴編















「祐一〜。いる〜?」

 真琴はノックもせずに祐一の部屋に入った。頭の上に、小さな猫をのせながら。そんな様がとても子供っぽい、というよりもそのまんまお子様だった。

「あ、いたいた。……漫画読んでるんだ〜」

「……」

 祐一はベッドにうつぶせになりながら、漫画雑誌を読んでいた。

「あたしも一緒に読む〜!」

 そういって真琴は祐一の背中にバフッと覆い被さるように乗っかる。すると、猫も釣られたのか真琴の背中に乗っかった。

「……ふんふん。あ! これ、この前の続きだ〜」

 真琴も愛読してるラブストーリーものの作品だった。

「……」

 祐一が急にページをめくろうとすると。

「あぅー! まだだめ〜! そこまだ読んでない〜!」

 仕方なく、ページを戻す。そして、数秒が経過するとまた……。

「読んだよ。次いって次ー!」

 今度は今度でうるさいので、次のページをめくる。と、そこは。

「……あぅーーーーっ! え、エッチな展開ーーーっ!」

 ヒロインが霰もない姿で、主人公と事を致そうとするシーンだった。意地っ張りで、素直になれないヒロインと、そんなヒロインの事が好きなのに意地悪してしまうような主人公の。

「祐一のエッチーーー! 何じーーーっとみてんのよぅーーー!」

「真琴」

 祐一はばんっと音を立てて雑誌を閉じ、うつぶせの体をゴロンと転がせた。祐一が転んだら皆転んだ。

「あぅっ!?」

「にゃっ!」

 猫はぴょーんと飛び跳ねるように逃げて、やがて二人から離れたところで丸まった。

「うるさい」

 ひっくり返され、仰向けにされて、両手首をがっしりと掴まれてしまった。

「な、な、何すんのよぅ〜!」

「……。えーと。さっきのページの続きみたいなこと?」

 結果的に、真琴を押し倒すような形になってしまったのだけど。その後どうするかはまるで考えていないのだった。

「ど、どんなことよぅ!」

「どんなだろう。……えーと。どれどれ」

 先ほどのページの次のページを見てみる。すると……。

「うっわ、えろい。すげぇ。……っていうか真琴。成年誌読んじゃ駄目だろ?」

「これは少女漫画よぅっ!」

「……。あ、そうだったんだ。すげーなぁ」

 で、その『続き』がどんなシーンだったかというと。

「えーとな。強がるヒロインの唇を主人公が無理矢理奪って、まぁ……ファーストキスを自分のものにしてしまう、と」

「なにそれ〜!? あたしはもう祐一のものよぅ!」

「って。あっさり云われてもな」

 苦笑する祐一。

「ああ、この漫画続きがあるぞ。そのまま服をたくし上げて……」

「何すんのよぉ〜〜〜!」

「したくないのか?」

「そ、それは……。あぅーーーっ! 真琴からするのっ!」

「何を?」

 何だかもう、支離滅裂なやりとりと化していた。

「つ、続きみたいなことっ!」

「続きねぇ。云っておくがこのシーン、寸止めで終わってるんだが?」

「……」

 確かに、思わせぶりなシーンはあっさりと中断していたのだった。怖じ気付いた主人公曰く『ご、ごめん』とか何とか云って、ヒロインはそれに対し『バカぁっ!』と涙をこぼしながら走って行っちゃうのだった。

「……ぷっ」

「何よぅっ!」

「いや。真琴は可愛いなーって思って」

「馬鹿にするんじゃないわよぅ! ぎゃふんと云わせてやるんだからぁっ!」

「どうやって?」

「ゆ、祐一の……あたしの中に……。あぅ……何云わせようとしてるのよぅ! ばかゆういちいい!」

 それは、真琴なりの精一杯の強がり。寸止めなどで許すわけがなかった。

「自分で云っておいて何だよ。やれるものならやってみるといいだろ?」

「あ、あぅ……あぅ〜……あぅぅ〜〜……」

 祐一はぎゅーーーっと力を込め、真琴の体をがっちりと固定。力の差は歴然としているので、真琴はまるで動けなかった。

「はは。ごめんな」

 真琴がとても悔しそうなので、離してやった。

「好きだよ。真琴」

 そして、キス。ちゅ、と軽く唇が触れるだけの短い時間。

「ん〜〜〜! な、な、何よぅ。……いきなりそんな、優しくしないでよぅ」

 突然そんなことをされて、混乱しまくる真琴。

「なんだよ。優しくされるのが嫌なのか?」

「あ……ぅ。い、嫌じゃ……ない……」

 嫌どころか、嬉しい。

「じゃ、いいじゃないか」

「うん。……いい」

 祐一は真琴を抱きしめながら、再度ゴロンと体をひっくり返す。今度は真琴が祐一の上に覆い被さるようになって。

「……キス、したい」

「そか」

 見つめ合い、抱きしめ合いながら、二度目のキス。

「え、えっちも……したい」

「後でな」

「うん」

 素直になれた二人には、とても甘い時間が流れていく。

「……そういえば。冷蔵庫に肉まんあるぞ」

「わっ。食べる食べるー」

「そう云うと思ったから買ってきておいたんだ。一緒に食べるか?」

「うんっ! 祐一ありがとぉっ!」

そんなわけで、二人は部屋を出て行くのだった。




















----------後書き----------

 機嫌が良くなったり、悪くなったり、良くなったり。

 そんな様子が真琴の魅力なのではないでしょか。



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