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-One Scene 〜彼と彼女の日常〜-
水瀬名雪編
水瀬名雪編















「みんな、おつかれさま〜。後はやっておくよ〜」

 部活動も終わりの時間。夕焼けの色は段々と濃くなり、暗闇が辺りを少しずつ染めていく。

「さて、後片付け後片付け。もうちょっとだからがんばろー」

 泥と汗にまみれながらも、心地よい風が火照った体を冷ませてくれる。達成感と充実感を感じるような、名雪はそんな時間が大好きだった。

「すみませんー。どいてくださ……あ」

「よぉ」

 ハードルを倉庫にしまおうとしたときだった。ドアの前に男子生徒がいたので、ちょっとどいてもらおうとしたのだが。

「祐一? どうしたの?」

「別に。何となく、名雪と一緒に帰りたいって思ってさ」

「そうなんだ」

 祐一はそのためだけに、放課後からずーーーっと待っていたのだった。名雪にもそのことはすぐにわかって、何だか嬉しくなる。

「もうちょっとで終わるから。そしたら、一緒に帰ろ」

「ああ」

 そして一通り機材を倉庫にしまい終え、鍵をかける。そんな名雪を見ていて、祐一は何かに気付いたようだった。

「名雪」

「なぁに?」

「その、なんだ」

「どうしたの?」

「とても云いにくいことなんだが。……お前、その。思いっきりはみパンしてるぞ」

「え……。わっ!」

 赤いブルマが少しお尻に食い込んでいて、下着の白い部分が結構はみ出てしまっていた。

「わ〜! どこ見てるの〜! 祐一のえっち!」

 抗議しつつ慌てて手で隠し、直す。恥ずかしさに顔が熱くなっていく。

「馬鹿。何がえっち、だ。……気をつけろよ」

 祐一は少し改まり、真剣な表情で云った。

「俺以外の野郎に、見せるなよ」

 彼女の恥ずかしいところを見ていいのは、祐一だけなのだから。

「名雪は、その……。か、可愛いんだから、さ。黙ってりゃ……」

 言葉につまってしまい、普段は云わないようなことを口にしてしまう。

 事実。名雪はクラスの枠を飛び越え、学年全体でも人気がある方だった。容姿といい、性格といい。もっとも、本人にはそんな自覚はまるでないけれど。

「……。ありがと」

 そんなことを云われてちょっと嬉しくなって、くすっと笑う。

「うん。……わたしのえっちなところを見ていいのは、祐一だけだもん。ちゃんとわかってるよ〜」

 名雪がくるっと背中をむけると、ポニーテールが揺れて、少し火照ったうなじが艶めかしく見える。

「当たり前だ」

「だから。帰ったら、見せてあげるね」

 腰をかがめ、ちょっと上目遣いに云った。

「……。き、期待しないで待ってる」

 それは明らかな照れ隠し。名雪にもやっぱりわかっていたので、追い打ちをかけてみた。

「ね。もう一回云ってよ。お願いだから」

「何をだ」

「わたしのこと『可愛い』って」

「云わない」

「えー。云ってよぉ〜」

「二度と云うものか」

「祐一照れてる〜」

「照れてない!」

 もはや完全にムキになっていた。今日はどうにも名雪のペース。

「ふふ。そんなこと云って、祐一はわたしのこと心配してくれてるんだよね」

「心配なんかするものか。ただちょっとだけ……気になっただけだ。あんなはしたない格好をしてることも気付かないなんて、他の野郎がどんな目で見ているか……」

 ちょっとどころかものすごく気になっているくせに、そんなことを云って照れ隠し。

「ゆ〜いち」

 名雪は祐一の前でいきなり、ぴょんっと飛び跳ねるように背伸びして。

「んっ!」

「うわっ!」

 驚く祐一の唇に、かるーくタッチするだけの不意打ちキス。

「好きっ……だよ〜!」

 笑顔でそう云ってから、呆然とする祐一を横目に更衣室に入っていったのだった。

「あ、いつ……」

 やりやがった、というような呆然とした表情になる。

 どうにもやられっぱなしなので、心の中で逆襲を誓う祐一だった。が……。

(やっぱり、可愛いな)

 でも、今日は負けかなとも、何となく思うのだった。




















----------後書き----------

 ほのぼのシリーズ。まずは名雪編から。

 こんなシーン、本編のその後にもありそうですね。……ブルマは絶滅危惧種だけど。



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