-One Scene 〜彼と彼女の日常〜-
美坂栞編 暑さも峠を越して、少し涼しいくらいに気持ちいい秋の日。夏と決別したかのように高い空の下、閑散とした公園にて二人は楽しいデートタイム。 「栞」 美坂栞と相沢祐一。二人はベンチに腰掛けて、アイスクリームを食べていた。それはちょっと高級な、カップのアイス。 「はい?」 「あ〜ん」 「え……?」 目の前に差し出されたスプーンに対し、少し困ったような表情の栞。ちなみにそのスプーンは、栞の『マイスプーン』だった。彼女曰く『こだわってます』ということで、祐一もちょっと苦笑い。 「あ、あ〜ん。です」 栞はちょっと戸惑いながらも、結局はぱくっと食べてみる。 「どうだ?」 「ストロベリーもおいしいですね」 「だろ」 「でも。やっぱり私はバニラが一番好きです」 「そうか」 「祐一さんも」 「うん」 反撃、とばかりに栞もスプーンでアイスをすくい、祐一の口元に持って行く。 「あ〜ん、してください」 「えー」 「バニラ。おいしいですよ」 「じゃあ、あ〜ん」 栞の笑顔を見てその気になって、ぱくっと食べる。 「うまいな」 「はい!」 とても嬉しそうに笑う。 「あ。……これって間接キス、ですよね」 「何を今更。……直接がいい?」 「もう。誰かに見られちゃいますよ」 「誰も見てないぞ。それ以前に、誰もいないし」 「誰か来るかもしれません」 「来ないかもしれないぞ」 「もしかすると来ちゃいます」 「もしかすると来ないかもしれないぞ」 「したいんですか?」 「うん」 「ここじゃだめですよ。我慢してください」 もはや完全な堂々巡り。そんなやりとりを楽しむかのように祐一は再度スプーンを差し出す。 「はい。あ〜ん」 「あ、あ〜ん。です」 栞は少し苦笑しながらも、ぱくっと食べる。……けれど、さっきと違うのは。 「ん……ん。んー」 栞の口にスプーンを突っ込んだまま、離さない。 「ん、んん……。ん……」 祐一の腕を掴んで離そうにも、両手は塞がっていた。 「栞の口。柔らかいな」 「んんー。ん〜」 困ったような、くすぐったいような表情。 「舌でなめる練習ってことで」 面白がって云う祐一に対し、栞はちょっと頬を赤らめる。祐一の言葉と表情に、どこかいやらしいニュアンスが含まれていたから。 「ん。んく……。ん、ん……」 結局云われたとおりにぺろ、ぺちょ、とスプーンの底を舌でなめる。丁寧に、念入りに。 「はいOK」 そしてしばらくして、祐一は離してやった。くすくすと笑いながら。 「祐一さん、えっちです」 「でも。栞の舌使い、上手だったぞ」 「もう!」 「はは。ごめんごめん。お詫びに……な」 「あ」 栞の唇に軽くキスをした。不意打ちのように、目を閉じる暇もないくらいいきなり。 「んっ!」 「というわけで。楽しみにしてるよ。練習の成果」 「も、もう……!」 今日は何故か振り回されっぱなしの栞だったけれど。 (そういうことする人には後で、仕返ししちゃいますからね) 心の中で、反撃を誓うのだった。 そんな頃。 「な……。何をしてるのかしら。あの二人は。何よあのバカップルぶりは……」 「なあ」 「なによ!」 祐一達から数メートル離れた茂みの中で、隠れるようにアイスを食べてる二人がいた。祐一と栞のデートをこっそり監視というか覗き見をしについてきていたのだった。 「俺たちもああいうことを」 祐一のクラスメイト、北川潤と。 「いいわよ」 同じくクラスメイトで栞の姉、美坂香里。 「嘘っ!? ……まじ!?」 「自分で云っておいてなによ」 北川はいちゃつく祐一と栞の様子を見て、自分もああいうことをしてみたいなーと、ささやかな望みを抱くのだったが。 「あ、ああ。悪い。そうだな。……美坂がまさかいいと云ってくれるとは思わなかったから」 「いいから早くあーんしなさいよ」 「ああ。あ〜……んがっ!」 がぼっ! と口の中に思いっきりガリ○リ君ぶっ込まれるのだった。 「んおおおおんっ! んごおおおんっ!」 冷たさに悶絶する北川を横目に、香里は祐一と栞の様子を伺う。 「あ、あの二人ったら。……もうあんなに進んでるのね。あ、あー、もうっ! 見てるだけで恥ずかしいわ」 香里が感嘆するくらい、二人の仲は親密になっていた。 「栞。もっかい」 「ダメです! ……今度は私から、です」 キスのイニシアチブは、持ち回り制ってことになっていた。 -おしまい-
----------後書き----------
祐一と栞が食べてるのは、ハーゲンダッツあたりってことで。 香里と北川も、ある意味このお話の(影の?)主人公かもしれません。 ご意見ご感想シチュエーションのリクエスト、誤字脱字報告はBBSまたはWeb拍手にてお願い致します。 |