楽しい指相撲
近くて遠かった将来の事。椋と朋也の二人は小さな部屋を借りて同棲生活中。そんな二人はただ今向かい合って何かをしていた。けれど、とりあえずにらめっこをしているわけではなかったようだ。 「むー」 「むむぅ」 それは夕食後のことだった。互いに小さく唸るような声を出す二人。エプロン姿の椋は目を細め、朋也は少し眉間にしわを寄せている。椋も朋也も今はちょっとばかり集中モード。……親指を除き、右手の四本指を交互に組み合わせて指相撲による勝負中。 「えい!」 「甘いな椋」 「あぅ」 白くて細い華奢な指を上下に必死に動かしては攻勢を続ける椋。椋とは対症的に、大きくて力がありそうな朋也の指は椋の攻撃を度々はねのける。勝負は一進一退の状態が続いていたが、積極的に攻めているのは椋の方。 「む、む〜」 可愛らしくもちょこまかと動かれてなかなか勝負にならないので、業を煮やした朋也はわざと親指を伏せ、椋の指をおびき寄せる。仮に上から押さえられたとしても素早く逃げられる自信があった。だが……。 「そこです!」 「む!」 フェイントのように見えたそれは、押さえ込みの動き。椋の動きはとても早くて、朋也の親指を根元から押さえ込んでしまった。力の差は歴然としているけれども押さえ込まれてしまい、力を込められなくなってしまうという大失態。普通に考えれば朋也の策は無謀なものだったわけで、力任せに切り抜けられるだろうと思っていた油断が敗因だった。そうして数秒が経過する。何とかもがいて抜け出そうとするも、無理だった。 「私の勝ちですね」 「何だか悔しいぞ」 してやったりと言いたげな満面の笑みを浮かべる椋と、悔しそうに口元を歪める朋也だった。 「それじゃ、お願いしますね。洗い物」 「ああ。わかったよ。約束だもんな」 ――それは食後の洗い物を賭けた一大勝負。朋也はがっかりしたように肩を落とす。折角の楽しみを失ったかのように。その思いが口に出てしまう。 「折角、エプロン姿の椋に後ろからいたずらしようと思ったのに」 「わっ。朋也くん、えっちなこと考えてます!」 「こう。背中からむんずと胸を揉んだり、耳元に息を吹きかけてみたり、首筋にキスをしてみたり、無防備なスカートの中に手を入れてみたり」 「はぅ……。な、何を考えているんですか……」 こんな生活をはじめてからしばらくたつけれど、相変わらず椋は恥ずかしがり屋で、朋也のセクハラ発言に毎回顔を真っ赤にさせてしまうのだった。 「そういうことはその……。後で……いっぱい、してください。はぅ……」 言ってから恥ずかしさが込み上げてしまい、爆発するように顔が熱くなってしまう。求められて、決して嫌なわけではなく……むしろいつも優しくしてくれるから身を任せたい。言葉に出さないだけで、自分の方も充分えっちなことを考えていると椋は自覚してしまうから尚更恥ずかしくなってしまう。 「エプロン姿でキッチンにいるからいいんだよ」 どうやら朋也にはそういうこだわりがあり、妄想を抱いている模様。椋は少しため息をつきながら言った。 「キスだけ、ですよ……?」 困り果て、消え入りそうな声で言ってから、椋は軽く目を閉じて顔を上へと向ける。今はそれで我慢してくださいと、優しい椋の気遣いはしかし、好きな人を甘えさせているのと同じことだった。早速とばかりに朋也は嬉々として椋を引き寄せて抱き締めて唇を塞ぐ。椋の体は華奢だけど、出るところは出ていてとっても柔らかくて暖かかった。いつまでもこのままでいたいと強く思わせる程に。 「ん、ん……」 強く、押し付けるようなキス。呼吸が少し途切れ、椋はくぐもった声を出してしまう。朋也は調子に乗って椋の口内に舌を入れ、絡ませる。そして更に調子に乗り、片付けたばかりのテーブルへ椋の体を寝かせてのしかかる。 「ん……。も、もう。朋也くん、だめ……です。あ、あっ!」 首筋に舌を這わされ、敏感すぎる椋はビクッと震えてしまう。もはや朋也の暴走は止められず、椋はされるがまま。段々と体の恥ずかしい部分に手が這わされていき、電流のような感覚に椋は堪えきれない声を出してしまう。 「だ、め。……です、よ。あ、あ、あぁ……はぅ!」 「椋……」 耳元で好きだとささやかれ、椋もかすかに頷き、目を閉じるのだった。 ----------後書き----------
椋×朋也のあまあまものでした。 前回がハード過ぎたので、今度はソフトに。 ご意見ご感想、誤字脱字報告はWeb拍手のコメント欄にて宜しくお願い致します。 |