-びー・えす・ゆないてっど 中編-
それは、彼女の自己紹介からはじまりました。 「明日子はぁ〜。お裁縫とか服つくったりするのが、とってもとってもだ〜いすきな普通の女の子です〜」 彼女の第一声はどこか天然ボケが入ったように間延びしていて、とっても可愛らしいものでした。 「ふふふ。やはり僕の目に狂いはなかったよ。あすねん……。君の力を今こそ、見せつけてやるのだよ」 「ほへ〜?」 ビデオカメラをかまえ、撫で回すように撮影するのは制服同好会会長島流君。彼らは今、戦略的な意味合いも込めてプロモーションビデオなどという物を製作中なのでありました。 「よし! ではまずは! 売店でトリプルのアイスクリームを二つ買って、ベンチで待ってる彼氏んとこに笑顔でとことこ駆けていくような青春の一ページ的爽やかイメージのシーンから! 一丁元気にいってみよー!」 今時ドラマでも無さそうな、ベタベタなワンシーンであります。ともかくも、明日子は云われたとおり、トリプルのアイスを両手にもってとてとてと駆けて行くのでありました。 「ほいさっさ!」 島流会長の趣味に走りすぎているからか、制服コンテストのプロモーションというよりも、既にアイドルビデオのよーになってきたのはあまり突っ込んでは行けないところでありましょうか。しかしながら、予想外のことは良く起こるものでして。 「おまたせ〜。って! ……あにゃにゃにゃにゃっ!?」 そんな訳で演技力などはともかくとして、実際にそういったシーンを再現しようとしたのだけど。突然、明日子は困ったような声を出してしまいました。何が起こったのかといいますと……? 「あああ、あすねん! そそそ、そんなサービス精神豊富なパフォーマンスをっ!?」 「ちちち、違う違う違う〜〜〜! これはあああ〜〜〜! これは違うのぉぉぉ〜〜〜!」 両手がふさがっている状態で、明日子がはいていた下着……。いわゆるヒモパンツの紐が片方外れてしまったのでございます。薄い布地の下着が短いスカートの下にはらりとたれてしまいました。 「それにしても紐パンとは! ななな、なんて大胆でえろてぃっくで芸術的な姿を! あすねん気合い入りまくりだよ君は!」 「あああ、あうあうあう。みんな見ちゃだめぇぇぇ! えっちぃぃぃ! 見ちゃだめだよぉ〜〜〜! そ、それにそれにそれにぃ〜! 撮影だからしょーぶ下着で来いって云ったの、会長だよ〜〜〜!」 明日子にとって勝負下着というものは、大胆過ぎるヒモパンツのようでありまして。 「うむ。そうだった。我ながら云っておいてよかったっ!」 「ふぇぇ〜〜〜ん! よくないよぉ〜〜〜! 会長のばかぁ〜〜〜! えっちぃぃぃ〜〜〜〜〜!」 当然のことながら、まわりの視線を一手に集めちゃったのです。 そういうわけで、制服オーディション当日を迎えるのでした。
「レディースアンドジェントルマン! 一般参加者の皆様、本日はお忙しい中よぉいらっしゃいました! 私立聖摩多川最西東京EFJ高校、次期正式採用の制服を決めるコンテストが、これより開幕いたします!」 何だかよくわかりませんが、とにかくノリノリの司会者でありました。マイクを掴みながら、小指だけ何故か離しております。 観客席も含め、既に数千人は入っているでいるでしょう超満員の体育館には、ざわめきとどよめきが混ざり合ってボルテージは嫌が応にも高まっていくのでありました。 「これより、予備予選を開幕いたします!」 そんな時、控え室にて制服研究会とアパレル同好会の合同代表組はメイクやらなんやらを施していたのでございます。 「ふふふ。盛り上がってきたな。これだ。この感じだ。わくわくするよあすねん!」 と、やる気満々に眼鏡をぎらりと輝かせる島流君。色々と作戦を考えて、遂にこの日を迎えたのでございます。 「ほへ〜。会長ぉ〜」 「どうしたあすねん。緊張でもしておるのかね?」 そんな制服研究会会長に対し、どこか間延びしてお間抜けな声をあげて、相変わらずお腹が空いてるのかちりめんじゃこのおにぎりをぱくぱく食してる明日子でしたが。ほっぺたにご飯粒がついたのを気付く様子もございません。 「い〜え。予備予選って、何ですか〜?」 「ふ。キミが心配する必要はない。雑魚共がふるいにかけられるところさ」 「ふるい? お〜るど〜? ざ〜こ〜? ざこばさん?」 明日子の頭には、大量のはてなマーク(??????と、いうくらい)が飛び交っていたのでございます。 「心配ない! あすねんが作った最強の強襲用制服に、私が開発した新型超軽量装甲と自動駆動システムを搭載したのだから既に鬼に金棒。そしてなにより、パイロットは他でもないあすねんなのだから! 向かうところ敵なしというところだよ!」 ……制服を着る、のが何故か装着するというニュアンスに変わっているのでした。それにしても、パイロットという表現は何でありましょうか? その謎はすぐに明らかにされるのですが……。 あっという間に、オーディションの開幕時間。
色とりどりの、可愛らしいデザインを着た女生徒達がステージの上に集いました。……余談ではありますが男子の制服は、勝利を収め正式採用が決定された『制服』を参考に作られる、とのこと。やはりまずは女生徒の制服ありきということのようでございます。まずは『華』がなければいけない、ということでございますね、きっと。 「うおおおおおっ! 蛇子様ぁあああああああああっ!」 「ヴァコ様行けえええええええええっ! ばこばこばこばこおおおおっ! ずっこんばっこんずっこんばっこんんんんっ!」 「あすねん負けるなーーーーーーっ!」 観衆は誰一人例外なく熱狂しておりました。みんなとてもノリがよろしいようでございます。 「全校より寄り集まった候補者は58名! この中から厳しい予選を勝ち抜き、最後に残るのはただ一人! ただ一人であります! それでは、諸君らの健闘を祈る! 私立聖摩多川最西東京EFJ高校制服コンテスト、開幕ーーーーーーーーっ!」 そして、それぞれの思いを秘めて……かーーーーんと威勢良くゴングが鳴らされるのでありました。その瞬間! 「きゃあああああああっ!!」 「わああああああああっ!!」 「あーーーーーーーんっ!!」 いきなりのことでした。『ズンッ!』という鈍い衝撃音の後、制服を着た女生徒達のほとんどが、ステージにの上で倒れ込んでしまいました。それはあたかも、何か重いものに押さえ込まれるかのように。 「うゆ?」 立っているのは何が起こったか全く理解できておらず、人差し指を顎にあてて、可愛らしく首をかしげる明日子と。 「ふふ。たわいもないこと」 私立聖摩多川最西東京EFJ高校、現生徒会長にしてブレザー派の急先鋒、横ノ島蛇子様。そして、もう一人。 「情けない。この程度の重力に負けるようでは、摩多川最西の制服として正式採用されるなど夢のまた夢よ!」 現生徒会副会長、頭甲院羽子様でした。 彼女達が云うように、今まさにステージ上の重力は通常よりも重め(死なない程度)にされているのでした。つまり、それに耐えられる強靱な材質が求められていると、そういうことなのでした。テロや犯罪など、常に危険と隣り合わせの現代においてそれは、当然とも云える最低水準なのでございます。 「さあっ! カウントダウンはあと十秒! 十秒の後に立っていられない者は、予備予選脱落ということになります!」 十、九、八、七とカウントダウンは進んでいくけれど、誰一人として立ち上がれません。いえ、立ち上がろうと努力はしているものの、どうにもならないと云ったところでありましょうか。 「云い忘れていましたが、カウントダウンがゼロになるまで、重力は重くなっていっております!」 と、更に恐ろしいことを笑顔で叫ぶ解説者でした。のっけから難易度の高いコンペティションでございます。 「無〜茶〜苦〜茶〜だ〜よ〜ぉ〜!」 「信〜じ〜ら〜れ〜ん〜な〜い〜!」 「ふええ〜〜〜ん! 立ち上がれないよ〜〜〜! 重いよぉぉ〜〜〜!」 常軌を逸したコンテスト内容に、非難囂々な女生徒達でしたが。どう云おうと勝負は勝負。非情なものなのでございます。 「ぜろぉおぉぉーーーーーーっ!」 司会者の口から遂にゼロがコールされ、ステージに立っていたのは! 「わ、私は負けない!」 柔道着風の制服に身を包んだ大柄で一見男子生徒と見間違うばかりの女生徒。柔道部代表、田村川柔香(たむらがわやわらか)と。 「私も! 負けてたまるものですかっ!」 割烹着風の制服に身を包んだ女生徒。料理部代表、山原雄海(やまばらゆうみ)。そしてその他に、剣道部代表、登山部代表、科学部代表……。それぞれ皆、部活動に即した強靱な制服を仕立てて挑んできたのでありました。 「ふふふ。残るのは羽子だけかと思っていたけれど」 ちらりと明日子達を見て、蛇子様は微笑むのでした。 「意外と、骨のある娘もいるのだね。驚いたよ……」 逆に、クールに明日子達の存在を見つめる羽子様でした。 「ほぇ? はぅ? う〜ん。ど〜してあたしは大丈夫なのかな〜? なのかな〜?」 自分は何故か何ともないのに、周りのみんなを見ていてまたまた脳内にはてなマーク嵐状態。そんな明日子の疑問を解くかのように、最前列に座っていた島流君はクールに説明するのだった。 「ふっ。こんな事もあろうかと、あすねんの制服には全身に対G処理を施しておいたのさ。最大出力での駆動時において、高Gの負荷を軽減するために運動モーメントの反作用を用いてだね……」 以下略ということで。そうしないと、何を云っているのかさっぱりわからなくなりますので。 「そ〜だったんだ〜♪ すご〜〜い♪」 何だかよくわからないけどすごいことは確かっぽいと解って、笑顔で喜ぶ明日子でした。 「あすねんの作った制服は、外骨格というべきか、フレームがとても頑丈で優れていたのさ。だから私が作った強力な防御システムを簡単に搭載することができたのさ」 と、よくわからんことをブツブツつぶやく姿はまさに変質者というかアブナイ人でした。 「さぁっ! 予選はまだまだ続きます! 第二弾は、対弾性チェック!」 とか何とか、またまた解説者は危ないことをあっさりとおほざきになりました。 「正式採用される制服には丈夫さが求められる故に、通常の人は吹き飛ばされてしまうくらいのショック弾を打ち込んでその性能を試す。……至極当たり前のテストでございますわ」 「どうでもいいから、早くしてくれないかな」 くすりと微笑む蛇子様に対し、無表情で関心ナッシングな羽子様。余裕ありまくりでございます。 「んにゅー。お腹すいた〜」 対して、もはや何も考えてなさそうな明日子でした。あ。最初からでしたか。こりゃ失礼。 「では、予選第二弾すたーとぉぉぉぉぉっ!」 その瞬間、彼女達の背後には柔らかなクッションが設置され、前方からは、どぱぱぱぱぱっ! しゅぱぱぱぱっ! と、誘導弾タイプのショック弾(高速徹甲誘導弾タイプ)が立て続けに撃ち込まれたのでありました。 「まあ。お戯れ事ですわ」 びしびしと、激しく当たる弾をものともしない蛇子様と。 「つまらないね」 蛇子様と同じくものともせず、付き合ってられないから早くしてくれと云わんばかりに瞳を閉じる羽子様。 「あぅ〜。何か固いものがいっぱい飛んできてるよ〜。でもぉー。あたしが作った制服は〜みんな防弾仕様だから大丈夫〜♪」 こんな事もあろうかと、とでも云いたげに笑顔の明日子でした。ぶっ込まれるミサイルを片っ端からはじき返しておりました。 「全身強化装甲とはね……。ふっ。さすがあすねん。私の期待をまったく裏切らない……素敵だよ。可憐だよ。可愛らしいよ……」 にやりと微笑む島流君と、いぇ〜いと笑顔でVサインの明日子。この二人、精神的には同類のようでした。 「それはそうとぉ〜。……これ、食べられるのかなぁ?」 といって飛んできたもんを口に入れて噛んでみたりしてる明日子。当然んなもん食べられるわけもないわけで。 「あむあむ。む、むむ、む〜。おいしくないよぅ〜」 少し考えればわかりそうなものでありますが。それでもまた、予選は更に続きます。 「む、無念だわ……」 調理部代表、山原雄海は無念のリタイア……。やはり、割烹着風の制服では耐弾防衛能力に問題があったようでありました。 「私は! この程度の衝撃には負けないわ!」 柔道部代表、田村川柔香第二次予選突破! 制服も去ることながら、本人自身の耐久力も抜群だったようでございます! 「さぁっ! 勝ち残ったのは現在四名! 優勝候補筆頭の横ノ島蛇子と頭甲院羽子! そしてダークホースともいえる、アパレル同好会・制服研究会連合チーム代表芹沢明日子! 柔道部代表、田村川柔香! 果たして最後まで勝ち残るのは誰なのか!? 予選第三弾、すたーーーとぉぉぉっ!」 一気に候補者は絞られていきますが、会場内は再び大歓声に包まれます。司会者も観衆もノリノリなわけでございますが、予選第三弾は果たして……? 「ほひ〜? ほひょひょひょーーーーっ!?」 どばぁんっ! と、明日子をはじめとした三人の制服に、野球ボールくらいの火球が立て続けにぶっ放されたのでございます。それで、例の如く司会者の方曰く……。 「制服だけを目掛けているので火傷は大丈夫!」 「大丈夫じゃないよぉ〜。も〜。乱暴な事するなぁ〜。火なんてつけたら普通の服は焦げちゃうじゃないですかぁ〜。……あたしの服は耐火仕様だから大丈夫だけどぉ〜。ぷんぷん」 またしても、スペシャル仕様の制服であることが明らかになりました。飛び交う火球を片っ端からはじき飛ばしている様は豪快でございました。 「ふふ。全くの茶番劇ですこと」 笑顔の蛇子様。 「くだらないね。早く決勝に行きたいよ」 冷めてる羽子様。 他の二人もまるで動じていないので、このまま予選は途切れず次のに進みます。あ、そうそう。 「く……。む、無念……です」 柔道部代表、田村川柔香さんは惜しくもリタイアとなりました。耐久性には優れていても、耐火性までは頭が回っていなかった模様でございます。 「そんなわけで休む間もなく立て続けに予選第四弾! すたーーーとぉぉぉっ!」 段々と説明が億劫になっていき、適当になっていきますが、とにかく今度はどこからかともなく、どしゃーーーーっと大量の水が三人目掛けて放たれました。 「あは。あは。あはははは〜。この制服は〜。じっつは〜そのまんま水着にもなるんですよぉ〜♪ すごいでしょ〜? えっへっへっへっへ〜!」 「ふふふ。さすがあすねん。汎用型の制服だから水中でも抵抗が減殺されて充分高性能を発揮でき、なおかつアクアユニット搭載で温度調整もでき、潤沢なプロペラントを搭載したことにより低温な水中での長時間移動も可能とは。私の期待を裏切らないね。素敵だよ」 相変わらずよくわからんことを不気味にぶつぶつつぶやく島流君はさておき。明日子は水もしたたるいい女、と云わんばかりに生き生きしておりました。余裕しゃくしゃくもいいところです。 「ふ。今時、耐火耐水耐弾耐高G仕様なんて当たり前もいいところなのに」 何を至極当たり前のことを試しているんだか、と溜息をつく羽子様。 「それだけ。国際化に逆行した時代遅れな人が大勢いるということですわね。おほほほ」 何だかんだでこの二人も、ただのチキン野郎ではないようでございました。と、いうよりもこの制服コンテストが段々と奇人変人の寄せ集めになっていく感じがしないでもございません。 こうして
私立聖摩多川最西東京EFJ高校、制服オーディションの
公式予選は終了し
三人の強者が、勝ち残ったのでありました。
「さあ! 時は来れり! 厳しい公式予選を突破したのは三名」 ステージの上には、現生徒会長にしてブレザー派の急先鋒、横ノ島蛇子様。 「ブレザーこそこの世の真理! ブレザーこそ清く正しい答えなのですわっ!」 蛇子様は、勇ましく、優雅なライオンの如く吼えるのでございました。 「うおおおおおおおっ! じゃこおおおおおっ! じゃこじゃこじゃこおおおおおっ! 蛇子様あぁぁぁぁぁぁぁっ!」 蛇子様親衛隊ももちろんのことながら、唸っております! 「おーーーーっほっほっほっほ! 勝つのは私、横ノ島蛇子ですわっ!」 そして、予選を勝ち残ったのはもう一人。 「そうはさせないよ! 蛇子、君の暴走は私が止める……!」 ゴージャスな蛇子様に対し、非情にシックでクールな現生徒会副会長、頭甲院羽子様が蛇子様のコールをかき消すように叫びました。 「ばこぉぉぉぉっ! ヴぁこヴぁこヴぁこおおおおっ! ずこばこずこばこずっこんばっこんずっこんばっこんんんんっ! 羽子様いけえええええええっ!」 羽子様の信奉者達も非常に熱い思いをとっても卑猥な叫びに込めておりました! 「セーラーこそ真の制服となるべきなのです! それを私が今から証明してあげるわ!」 会場のボルテージは否応なしに上がっていき、気分は最高潮! 「そんなわけで今、横ノ島蛇子と頭甲院羽子の二人による決勝戦が幕を切って落とされます!」 予選を勝ち抜き、猛者共を打ち破ってきた二人の戦いが、今はじまるのでございました。 「んにゃ〜〜〜。みんなあたしのこと忘れてるぅ〜〜〜! あたしもいるのにぃ〜〜〜! ひどいひどいひどいぃぃ〜〜〜!」 いつの間にかすっかり忘れ去られすねてしまった明日子を無視して、決勝戦……リングの上での格闘戦がゴングの音とともに幕を開けました! いくら明日子が変な娘だからといって、はなっから眼中にないというのはさすがに無礼ではないでしょうか? でも、そんな個人の事情など無視して戦いは続いていくのでした。悲しいことに、蛇子様と羽子様にとって、明日音の存在は片隅に追いやられていたのでございます。 「てやぁああああああああっ!」 蛇子様の強烈な蹴りがずがっと軽やかに炸裂しました。が……。 「せやっ! とうっ!」 羽子様は実にエレガントに、合理的にその攻撃をびしばしと受け流し、反撃の投げ技を炸裂させました。そしたら蛇子様は素晴らしい受け身でそれを回避したのでございます。 「お〜〜〜。かっちょい〜〜〜! なんだか良くわっかんないけどどっちもガンバレ〜〜〜!」 なんだかんだで明日子はリング脇で観戦者になって、熱くエキサイトしてました。当初の目的を完全に忘れているようですが、果たしてそんなんでよろしいのでありましょうか。 「蛇子! 目を覚ますんだ! この一撃でセーラーの良さを知るんだ! とるぁっ!」 「それはこっちの台詞よ羽子! ブレザーが一番ってこと、まだわからないのっ!? てやっ!」 激しい戦いは次第に、ノーガードの撃ち合いへと発展していくのでした! 主に打撃系中心の攻撃を緩めない蛇子様と、それを柔軟に受け流しては投げ技を仕掛ける羽子様でしたが。やがて決着はつくのでございました。 「これで最後よ! とぇあっ!」 「それはこっちの台詞! おりゃあっ!」 ばきょっといういい音と共に互いの頬と頬に、思い切り勢いの付いた打撃が加わってしまいました。クロスカウンター成功……ただし、二人とも同時にでございますが。 「ぐう゛ぇっ!」 「ごう゛ぁっ!」 「そ、双方ダウン!」 二人とも思い切り吹き飛ばされ、リングに沈むのでございました。 「カウント開始! ワン! ツー! スリー……!」 二人とも賢明にロープを掴んで立ち上がろうとしますが、よほどダメージが大きいのかすぐに倒れてしまいます。 「んにゃー。ガンバレがんばれ〜。二人とも立って〜。立つんだじょ〜!」 明日子は……あなたは一体どちらの味方なのでありましょうか? 「フォー! ファイブ! シックス!」 カウントは続いていきます。刻一刻と迫るリミットですが、二人とも必死に抗うものの、まだ立てないでいました。 「もー。しょーがないなー。あたしが手伝ってあげるよ〜」 その様がもどかしくて、明日子は二人を立たせるお手伝いをすることに決めました。で、ロープを跨いでリングに上がろうとしたわけです。 「セブン! エイト!」 「ふ……ふんぬぉぉぉおうっ!」 「負けるくぁあああああっ!」 蛇子様、羽子様共に再び立ち上がったのでした! ……が! 「んしょんしょ……。あにゃにゃにゃにゃっ!」 ロープは跨ぐのではなく、潜った方が良いのですが。明日子はプロレスとかボクシングとかあんまり詳しくないらしくて、足を引っかけてもがいてます。 「あすねんあすねん。おーいあすねんー」 そんな中。制服同好会の島流君が、とってもいいものを見るかのようににやけながら突っ込みを入れるのでした。 「パンツ見えてるよ。状況の詳細を説明すると、そのチラりズム度は低く、ハミぱんというよりももろパンといったところだね、うむ」 「はふにゃっ!? あああ……あ゛ーーーーーーっ!」 そりゃそうです。明日子は公衆の面前でご自身の生ぱんつ……もとい、パンチらをもろに晒すという羞恥プレイを気付かぬうちにやってしまっていたのでした。ギャラリーは勝負そっちのけで、明日子のぱんつに釘付けになってしまいました。 「今日は縞パンなんだな。大胆なところがとっても素敵だよあすねん。そして、あすねんのむっちりしたお尻の割れ目がくっきりと見える様はなかなかに肉感的で官能をくすぐるよ。ふふふ」 何を冷静かつ客観的に語っておるのでしょうか、この男は。 「あーーーあーーーあーーあーーあーー! みみみ、みんなみんなみんなみーーーちゃーーーだーーーめ〜〜〜〜〜! んひょひょっ!? あ゛ああーーーーーんっ!」 無理矢理ロープを跨いで向こう側にいこうとしたら。ロープの弾力で明日子の軽くて小柄な体はバシュッと勢いよくはねとばされて。 「ナイン! テ……」 必死の思いで立ち上がった蛇子様と羽子様でしたが。突然、弾丸のように吹っ飛んできた明日子によって。 「ぐう゛ぉっ!」 「がう゛ぁっ!」 完全にリング外へと吹っ飛ばされてしまいました。明日子のスーパー頭突きがクリーンヒットというくらい完全に炸裂したわけでございます。 「きゃんっ!」 そして当の明日子は、目を回しながらもふらふらと立っていたのでございます。 「テーーーンッ!」 そんなとき、カウントはテンを数えて……。 「何ぃぃぃっ!?」 「と、いうことはつまり……」 真の勝者が明らかになるのでございます。 「はふぅ〜。おめめぐるぐる……」 当の本人は勝った事すら気付いていない様子でございますが。司会者が告げた真実は一つでありました。 「し、勝者! 制服同好会・アパレル同好会連合チーム代表、芹沢明日子っ!」 「な、んですって……!?」 もうろうとした意識の中で、蛇子様は信じられない事実を受け入れられるわけがありません。 「そ、そんな。アンスコみたいな名前の娘に……この私が負けるとは」 それはさりげなく云ってしまった一言でありましたが、とっても禁句でございます。女の子の名前をアンスコこと、アンダースコートに似ているなどとは思っていても云っては可哀想というものでございます。 「あ……あ……。アンスコ……アンスコ……アンスコ……。ひ、ひっどぉぉぉ〜〜〜い〜〜〜〜! あたしアンスコじゃないもん〜〜〜! あすねちゃんだもん〜〜〜! あしたのこだもん〜〜〜!」 「うむ。確かにそうなんだが、普通はそのままだとあすねんの名前は『あすこ』と読むわけでな。というわけなので、アンスコではなくアソコと例えた方が卑猥であり、尚かつ正しいのではないかと云うべきか、近いのではなかろうかと僕は思うのであったよ」 と、極めて野暮なことを冷静にかつひっどく分析し、突っ込む島流君でした。 「うーーーうーーーうーーー! 会長ひど〜〜〜〜い〜〜〜〜! えっちぃぃ〜〜〜!」 「そうだ! 僕はえっちだ! そして、変態だ! あすねんの縞ぱんちらを目を血走らせながら見て、ふくよかで柔らかそうな肉感に熱く込み上げてくるものを感じてしまっていた!」 んなこと、思い切り自信たっぷりに断言するのもどうかと思われますが……。 「だが……! だが、一つだけ確かなことがある! それは……」 彼の四角いメガネがきらーーーんと光り輝き、格好良い(?)台詞を吐くのでありました。 「究極の制服を着て見事勝利をおさめた今の君は、とっても輝いていて素敵だと僕は思っているということだ! この胸のときめきは……何と説明していいのかわからないくらいさ!」 「え? え? え〜? え〜え〜え〜?」 明日子はそれはそれで困ったような、ちょっぴり嬉しいような、そんな表情になりました。そして、一つの結論へと導かれるのでありました……。 「それってそれってもしかして〜。こ〜い〜の〜き〜せ〜つ〜?」 「世間一般ではそう云われるものかもしれないッ! あすねん! 僕と一緒に、制服を極めよう! 明るい制服の未来を語ろう!」 もはや恋愛なんだか単なる制服フェチなんだかさっぱりわかりません。……が、あすねんと島流君は完全に意気投合していたのでございます。 「あは。あはあはあは。あはははは。おっけ〜〜〜!」 明日子はリングのポストに乗って、そこからクルッと一回転なジャンピングきりもみアタックを島流君にたたき込むのでした。 「ぐおっ! この痛み、心地よき痛み! 僕は……僕は……制服研究会にいてよかった!」 それは、明日子の手作り制服が結び付けた恋の成就!
「改めて! あすねん、優勝おめでとおおおおおおおおっ!」 「おー! 会長ぉぉお〜〜! みんなみんなみんなあ〜り〜がとおおお〜! えいえいおーえいえいおー!」 二人はリングの上に再度上がり、勝利宣言をするのでありました。数千人の大観衆が歓喜を持って向かえ、気分はまさに最高潮! だが
「こ……のまま」 「ひきさがれる……わけがない……でしょう」 リングの下から、這い上がるかのような影が二つ見えたのです!
後編に続く!
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