-びー・えす・ゆないてっどAfter 〜島流君の恋人〜 前編-
「ふ、ふっふふふ」 ――深夜二時三十五分。辺りの全てが漆黒の闇に包まれ、誰もが深い眠りに落ちていく頃のこと。とってもマッドな雰囲気の笑みがとある室内に響きわたる。 それは東京都の西の端。JR赤梅線でひたすら突っ走った果て、世界的な巨大都市東京の水瓶である奥摩多湖の湖畔に存在する超巨大学園都市。これはその学園群の一つを舞台にした物語。今よりちょっと近未来の極度に進んだ少子化状況により、幾つかの名門校がやむなく合併してできた私立聖摩多川最西東京EFJ高校(しりつせんとまたがわさいにしとうきょういーえふじぇいこうこう)の男子寮の一室。そこでは今、一人の男が何かを作り上げていたのだった。書類や設計図等で雑然としたデスクの上の小さな蛍光灯のみが辺りを照らす中、かちゃかちゃと工具を使い、得体の知れない薬品を扱い、未知のオーパーツを開発しているのだった……。 「もうすぐだ! もうすぐ完成だよあすねん……! 僕の渾身の力作を楽しみにしていてよ!」 悪人では無いはずなのだけどこういう雰囲気なのでクククと自然に悪人的な笑みがこみ上げてしまう。それはさながら世界征服を企む悪の組織のように。けれど実態は大切な人の為に、全ての神経を注いで徹底的に作り上げているだけ。妥協等一切ありはしない。溶接でもやっているかのように、びしびしと火花が飛び散る。そして、一際火花が激しく散った時のことだった。全ては見えた。形作られていくものに満足感を覚える。ウォーターフォール型の開発工程は滝壺へと落ちつつあった。技術的ブレイクスルー間近……。 「ふふふ。ふはっはっはっはっはーーーっ!」 何かに誘爆したかのように部屋全体が火花に包まれた。それと同時に、男の高笑いが響き渡った。体が本能で叫ぶかのように。 彼こそが制服研究会会長。私立聖摩多川最西東京EFJ高校にその人ありとうたわれた天才男子生徒。……島流停留(しまながれとまる)君その人なのだった! ……
アパレル同好会――。女生徒数人の仲良し友達とともに立ち上げたその会は超巨大学園の全体からするととっても小さい規模だった。そしてその中には一人の女生徒が所属していた。とっても元気でちっちゃくてちょこまか走り回る様は小動物のようで可愛らしい。リスみたいともネコみたいとも云われる少女。 「……というわけなの」 「ほよ? ほよよ〜?」 果たして話をちゃんと聞いてるのか聞いてないのか。ぽけぽけしたような声に表情。彼女こそがかの伝説の激闘(=学園発足時における新規正式採用制服選考コンテスト)の末、この学園の正式採用制服デザインを勝ち取った『制服女王』に……見えないけれど、実は他ならないすごい娘なのであった。あすねんこと芹沢明日子(せりざわあすね)……時に16歳のこと。 「かいちょがどーしたの?」 今は丁度お昼時。恐らく寮で作ってきたのであろう、でっかいおむすびをぱくぱく食べながら明日子は首をかしげて友達に聞き返した。小動物のような仕草にくりくりした瞳がとても愛らしい。ほっぺたに付いたご飯粒を指でとってぱくりと食べた。 「どーしたの、じゃないわよ。夜な夜な寮の部屋で奇声を上げたり真夜中に変な音立てたりしてみんな怖がってるんだよ」 「ほぇー。そうなんだー」 あくまでもぽけーっとした受け答えの明日子。目をぱちくりとさせる様が可愛いじゃないのと、明日子を問い詰めている友達は思った。 「そうなんだー……って。あすにゃん何も知らないの?」 「うん。なーんも知らないよ?」 はぁ、と明日子の友達一同でありアパレル同好会の構成員達でもあるみんなは揃ってため息をつく。制服研究会……それはアパレル同好会と同じく小さな規模の任意組織。構成員は島流君と合わせてわずか数人足らずだが、名前と活動内容がとてつもなくアレな上、更に追い打ちをかけるかのように破天荒な会長の性格故に学園生徒会からもじとーっとした眼差しで見つめられる日々。よってクラブハウスなし、年間活動部費は500円という遠足のおやつ代にも事欠くくらいに冷遇されていた。が……島流君はそんな逆境をものともしなかった。 褒めて云うのならばたくましいと云うべきだろう。何と、いつの間にかアパレル同好会のクラブハウスの片隅に居座った揚げ句、勝手にブースをこさえて拠点を作ってしまったのだ。不法占拠とでも云うべきなのだろうか。 「はぁ……。あのねあすにゃん。あの人、あれでもあすにゃんの彼氏さんなんでしょ?」 だったらどうにかしてよ、とその友達は暗に云っているのだった。あれでも、とはそのような奇行があまりにも多すぎるから当然の事。云われる本人にしてみれば『褒め言葉だ』とでも返すことだろう。例えば……『夏場の半袖ブラウスの袖から見えてしまう生々しい脇における女性フェロモンの排出現象についてのレポート』とか、『透けるブラはなぜ透けるのか、その効用と副作用、それに影響される男性器の屹立現象の解明と全国的な犯罪率の関係におけるデータの推移についてのレポート』とか。『ブルマが廃れた原因における科学的観点からの反証と復権における課題。その魅力と材質、女性の肉体とのコラボレーションにおける魅力の証明。紺色と赤色等の色違いにおける効能、男性心理の変化。体操着のシャツを中に入れる人と外に出したままの人との精神医学的差異に関する過去二十年間の統計論』とか。とにかくいくつもの危ない内容のレポートを大真面目かつ綿密に書くものだから、学園側ももっともらしい内容についてはなかなかダメとは一言に言えず、始末におえないのだ。それはそれで学問だと彼は云ってはばからず、誰もそれに反論できないのだったが誰もがやはり体裁は気になる小心者な日本人なわけだ。どうにかしなければいけない。そういう異端児を放置しているわけにはいかない。 で、アパレル同好会の面々は被服繋がりの活動故に、制服研をどーにかしてと云われてしまったのだった。最後の砦と云えば聞こえはいいが、要は始末を押しつけられたわけでとってもいい迷惑だった。 「うん。私のかれしー」 笑顔でおむすびをぱくつく明日子。見るからに、とってものびのび自由に育てられた天然娘。いつぞやの制服採用コンテストのどさくさに紛れて明日子と島流君は清く正しいお付き合いをすることになったのだった。その仲は今も長らく続いてる。つまりは島流君に意見をできるのは明日子しかいないのだった。 「彼女さんだったらあの異常な彼氏君をどうにかしてよ。ただでさえ生徒会からあれをどーにかしろだの、アパレル同好会の下部組織でしょだの云われて突き上げられて鬱陶しいことこの上ないんだから。違うって云ってもわかってくれないし」 下部組織化。それもまたいつの間にかのことだった。既成事実を勝手に作り上げられてしまったのであった。 「うんうん。わかったー。どーにかしてみるー。かいちょに聞いてみればいーんだね」 「そうして頂戴」 ここはひとまず明日子に任せるしかないか。と、アパレル同好会の皆さんはため息交じりにそう思うのだった。事が進展していけばいいけれど。 …………
「というわけなの」 「ふっ。あすねんは純粋だね」 アパレル同好会での会話をそのまんま。それまでの経緯を包み隠す事なくかくかくしかじかと話終えた明日子。島流君は、全てお見通しと云うべき態度で余裕ありありだった。 「そろそろそのようなことを云われる時がくるだろうなと思っていたところさ。そして今、我が愛しのあすねんからとはね。どうやらみんなには多大な迷惑をかけてしまったようだね。後で謝っておくよ。でも、それも全てはこれのためだったんだよ。許してほしい」 「ほへー。で。で。で〜? かいちょーは、お部屋で何やってたの〜?」 とってもわくわくふわふわしたよーな口調で明日子は云った。 「ふふふ。ほかならぬあすねんの問いにお答えしよう。君が開発したその素晴らしい制服を見て、私も発奮させられたのだよ! だけどその答えを聞くのは夜までのお楽しみにしておいてほしい! ここはあえてもったいぶらせてもらうよあすねん!」 論より証拠。そして今夜、僕の部屋に来てほしい。島流君にそう云われて明日子は。 「らじゃ!」 勇ましく敬礼のポーズ。 「ああそれと。わかっているとは思うけれど、決して誰にも見つからないように、ね」 「大丈夫〜大丈夫〜。この制服、ステルス迷彩機能もあるからー。それにそれに、ねこさんの帽子もあるから大丈夫ー」 楽勝楽勝、今時それくらい当たり前だよねとでも云わんばかりの笑顔だ。ねこさんの帽子とは一体何のことだろうか? 「さすがあすねん。完璧だ。潜入工作もばっちりだね」 明日子の才能に感激した島流君。親指を立ててグー。 夜。
「さてあすねん」 「はいにゃ」 深夜二時。辺りは月明かりすら見えない漆黒の闇。巨大学園群と云えども地理上は人里離れた大森林のど真ん中故に静けさに包まれていた。 そんな中、男子寮にはうっすらと明かりのついている窓が一つあった。島流君の部屋だった。 そしてそこには門限などとっくのとうに過ぎたころだと云うのに明日子がいた。制服のステルス迷彩機能(表面上の光学反転機能によるところの透明人間化)に加え、可愛いからついでにかぶってきた猫さんパジャマの帽子がカモフラージュ(他人から見ると、あたかも野良猫が歩いてるようにしか見えない。『何だ猫か』で全てが片付くもの)になり、明日子のぬきあしさしあしの泥棒さん技術の高さも加わりいとも簡単に男子寮の内部に侵入成功していたのであった。 「愛しの君をこの部屋にこんな時間に呼んだのは他でもない。是非見てほしいものがあるんだよ」 「なになに? なになに〜?」 明日子が聞き返す度に猫さんパジャマの帽子の耳がふさふさ揺れてると思えば、なぜか尻尾もスカートの下から覗いてふさふさと揺れていた。きっとそれも明日子によるお手製。彼女は被服に命を吹き込む技能でももっているのだろうか。 「制服女王の君にはやはり……それにふさわしいランジェリーが必要だと思うのだよ。そこで僕は……僕がもてる全ての技術を用いて生み出したんだ。究極のブラ……! そして、至高のショーツをっ!」 島流君による一連の奇行。全てはそのために行われてきたのだった。 「おお〜!」 明日子の可愛らしい歓声が響き渡る。 ――同時刻。女子寮内の某所。
「ふふ。ちょっと大胆かな」 長い黒髪の美少女は片手を高くかざし、もう片方の手を腰に当てポーズを取りながら云った。自らの美貌にうっとりするかのように、すらっとしたスタイルに腰のくびれが美しいので見とれてしまうかのように。 第一演劇部部長、宝塚百合香(たからづかゆりか)は自室にて彼女の背丈(160cm台後半)以上もある大きな姿見とにらめっこしていた。私立聖摩多川最西東京EFJ高校は超巨大学園故に演劇部も複数あり、いつしかそれはトップディビジョン、二部、三部とサッカーリーグにおける下部組織のようにクラス分けがなされ、日々激しい部活動と共に下克上前提の切磋琢磨が行われているのであった。彼女はそのトップディビジョンに属する第一演劇部の部長にしてスター中のスターであり、古い表現を用いるならば『学園のマドンナ』とでも呼ばれることだろう。全学園はおろか、全国的にも名高く君臨するヒロイン中のヒロインだったのである。凜とした大人びた表情も、長く艶やかな黒髪も全て究極のメインヒロイン級であり、明日子のようなほんにゃらぽけぽけ天然娘とは全てにおいて格が違っていたのだった。 ……宝塚さんは今、数週間後に控えた全国公演に備えて厳しい稽古を続ける日々だったが、身につける衣服にも一切の妥協を許さず、深夜遅くまで試行錯誤のコーディネートを続けていたのだった。彼女が持つ抜群のセンスは時として奇をてらう。今はその戦略偵察における第二段階(フェーズU)とも云える状況なのであった。 決して見えざるもの。衣服の下……しかしそれは料理における隠し味。あるいはもしくは、ヒロイン度を加速度的に向上させるようなドーピング薬であるかもしれない。観衆には何も見えなくとも、それを身につけていることにより自分が劇中のヒロインと同化できる。つまりは精神的な支えと云うべきか、お守りと云うべきか最後かつ最強の武器であると本気で思っているのだった。そのようなわけで彼女は今、少し楽しみながら皆に内緒で買ってきたりどこからか入手してきた秘密の下着を試しているのだった。好奇心旺盛な年頃の少女としてはごくごく自然の事だった。 「純白のドレスの下に漆黒のブラとショーツ。そのギャップもなかなか悪くないわね。表の顔と裏の顔とでも云うのかしら。とても、なかなかにおもむき深いものがあるわね」 ふふふ、と彼女は赤いリップを薄く塗りほほ笑む。しかしその目は少女のものではなくなっていく。怪しい赤い光を放っていくのであった。 「ふふ、ふふふ。ふふふふふ! あははっはははっ! 最高よこの感じ! お父様とお母様のいない日にこっそりお家に殿方を連れ込んで激しく揺さぶられているこの感じ!」 よくわからない例えと狂気を帯びた笑み。それは彼女にとって悲劇の予兆でもあったのだった。 …………
「か〜いちょ」 「うん。何かねあすねん」 「私〜。おんなのこ」 「うんうん。それがどうかしたのかね」 「おんなのこがこれからここで着替えるの」 「うむうむ。着替えは女の子における最も可愛らしい仕草、シチュエーションの一つだね」 正しいが行動に反映されていない島流君の一言だった。 「着替えを見られちゃうととっても恥ずかし〜の」 「そう。恥じらいに頬を染めるところなど最高だね。友人とかがふざけて後ろから胸を揉んだりしてきて『きゃっ! やめてよ〜!』とか笑顔で云ったりしたら最高だね」 全然会話が噛み合っていない二人。明日子は島流君が作った下着に着替えたいからこっから出て行けとかあっち行けとか後ろ向いてて見ないでとか、つまりそういう事を云いたいのだった。つまりは島流君との関係は未だにプラトニックで清き正しい交際なのだった。端から見ると余りにも意外な事実だった。 「かいちょ〜のえっち」 しかし明日子の抗議は通らない。 「ふふ。ふはは! えっち上等! 男たるものえっちでなくてどーするかね! さぁあすねん! 今すぐこの最強ブラと縞紐パンなショーツに着替えたまえ僕の目の前で堂々と! そして恥じらいに頬を赤らめ、視線を逸らしながら僕を悩殺してくれたまへっ!」 「う〜〜〜! えっちえっちえっち〜〜〜! かいちょのばか〜〜〜!」 明日子は島流君をぽかぽかと叩くのだった。その様は仲良し兄妹が戯れているかのように見えたのだった。 そうしてよーやくのことで空気を読んだ島流君が部屋から出て行き、明日子は着替えた。……とはいっても下着だけだけど。 「んしょんしょ」 器用に上着を脱がずにブラを着替える。そして完了し、島流君の名を呼ぶのだった。 「かいちょ〜。い〜よ〜」 「ふふふ。どうかねあすねん。僕が作った最強の下着のはき心地は! さぁ、その美麗な姿を見せてくれたまえ!」 「やだ」 島流君の要求をあっさりと拒否する明日子。 「な、何を云うのかねあすねん! そんなつれないことを! せっかく全力で作ったのに! 折角着てくれたんだから見せてくれなければ今までの行動は全て無意味なものだと云っているのと同じじゃないかね!」 愕然とする島流君。 「あたし、おんなのこ〜。おんなのこはみんなとっても恥ずかしがり屋さんなの。ぱんつもぶらも男の子には見せちゃだめなの〜。秘密の花園なの〜」 「がーーーーん!」 そしてあっかんべ〜をするのだったとさ。明日子は見せブラに対して否定派なのだろうか? そしてやがて夜は更けて行く。
けれど、朝。……悪夢は突然はじまった。
異変はイキナリと云うべきか一時間目の授業に起こった。とても密かに、しかし恐怖の胎動は確実に人々の心を脅かしていった。 第一声は、体操着に着替えているであろう女子更衣室からだった。 「えっ!?」 「嘘ぉ!?」 「やだ!」 「何これ〜!?」 一人が異変に気付くと伝染したかのようにそう叫ぶ。 それもそのはずだった。少女達が制服を脱いだその下には、誰もが見知らぬ下着が着けられていたのだから。朝、寮で着替えてから登校するまで着替えなど一切していないはずなのに。まるで寝ぼけていたかのように、手品にでもかかっていたかのように少女達には感じられた。それも黒下着。紫下着。Tバックにローレグに、大事なところが隠れていないような卑猥な下着etc……。あまりにも大胆すぎる下着姿にさせられ、少女達はパニック状態に陥ったのだった。 時間がたてばたつほど事態は悪化していった。とは云ってもそれは全て女生徒達のうわさ話レベルに過ぎなかったが、しかし、誰が何のために……深刻な疑問は解決されぬまま、全ては謎に包まれたまま怪奇現象として語られる事になる。だが。すぐに理由は明らかになる。 ――明日子にとって六時間目の事。その日最後の授業、美術室に行くため教室移動をしていると。 (ほよ〜) 前方から、とってもきれいな人が長い黒髪をなびかせながら歩いてきた。それはとっても有名人な第一演劇部部長宝塚百合香に他ならないのだが、明日子はそこらへんの情報に疎い娘なのでただ単に心の中で『すっごくきれいなひと〜』と、感心しながらすれ違うだけだった。と……。 (ほひょっ!?) 明日子の体に突然電流が走ったかのように何かがびりっと来た。何事もなくすれ違っただけなのに。たまたま? 明日子はそう思い、静電気ってこわいよねとか思っていたが。 (……今の娘!) 明日子とすれ違った後のこと、宝塚さんの目がキッときつめに吊り上がるけど、明日子が知る由もない。 その日の夜。
明日子が女子寮の自室で楽しそうに縫い物をしていると、コンコンとドアをノックする音。開けてみると寮母さんが現れた。何やら手にもっている物を渡される。 「お手紙よ」 「ありがとうございます〜」 誰からだろ? そう思って読んでみる。 『拝啓 晩秋の候。芹沢明日子様にはますますご健勝の事とお慶び申し上げます。この度は私とのガチの決闘に御参加希望を頂きまして誠にありがとうございました。つきましては決闘の日取りでございますが、以下の通りご案内させていただきます……(中略)……以上。くれぐれも決闘の時間は厳守して頂きたく、お覚悟した上で挑んでくださるよう宜しくお願い申し上げる次第でございます。そうして戴かないと結構いろいろ痛い目に遭うでございましてよ。また、重ねてご容赦の程宜しくお願い申し上げますが、決して逃げるんじゃないでございますよこん畜生! で、ございます。敬具』 「ほにょ?」 色々間違っている対外的な文書のようだった。ぱっぱらぱーの明日子にはわけがわからず頭の中に『?』マークがいっぱいになっていく。云ってる事がよくわかんないし、送り主の名前も書いていない。わかんないからこういう時はあたしと違ってとっても頭のいー島流君に聞いてみよーとそーゆーことになった。 …………
相も変わらずステルス迷彩搭載な制服で、何事もなかったかのように男子寮の潜入に成功してる明日子。昨日と同じく島流君のお部屋。 「……」 「どしたの? かいちょ」 お手紙を読み終えた島流君は妙にシリアスな表情になっていた。そして、遠い目をして云った。 「遂に、この時が来てしまったか。全ては予言の通りだ」 全てを知っていたかのような口ぶりだった。いつの間にか島流君の口から誰も知らない予言が飛び出したが適当に云っているわけでもなさそうなので、何か多分あるんだろうそういう設定がどっかに。もしかしたら今適当に考えただけかも知れないけれど。 「ほえ?」 「あすねん。僕には全てがわかったよ。この手紙は……この手紙は宝塚女史からのものだ。宝塚女史とは、この学校の第一演劇部……それも筆頭部長でもある天才女優、将来を約束されている最強の女生徒宝塚百合香によるあすねんへの挑戦状だ!」 その瞬間、衝撃の事実が明らかになった。 「ちょーせんじょー? マウントポジションでふるぼっこ?」 よく分かってない明日子。 「そうだ。今夜は満月。そして伝説の、呪われた黒下着。魅入られた第一演劇部部長……そして、今日一日起こった女生徒たちの下着が突然変化した事件。宝塚百合香とあすねんがすれ違った際の感電したかのような感覚」 島流君は断言する。何故か女生徒たちの噂の内容も知っていたりする。実はかなりの情報通なのだろう。 「呪われた黒下着〜?」 「そう。有名な話だよ。それは数十年も前の悲劇から始まった。私立聖EFJ国際女子学園(しりつせんといーえふじぇいこくさいじょしがくえん)の演劇部のとある部員のものでね。志し半ばにして亡くなった娘の怨念が黒い下着に取り憑き、知らずに身に付けてしまった人を操ってしまうのだ。そうして、すれ違った娘が身につけている下着を黒かったりスケスケだったり穴が開いていたり、卑猥なものにいつの間にか本人も気付かぬうちに取り替えてしまうという恐ろしい呪なのだ! 大胆な下着を身につけたかったのに当時の風潮や人々の反対により成し遂げられなかった。その怨念を込めて、近くにいる娘の下着を全部恥ずかしいものに変えてやれ! と、そのような思考を持つに至ってしまったのだ」 「ほへ〜。たいへん。……でもでも、あたしはなんともなかったよ?」 ふ、と島流君は笑って云う。 「当然さ。何しろあすねんは僕が作った下着を身につけていたのだから。対用呪特殊コーティングがなされている強力なものをね。強力なシールド機能を備えているのだからちょっとやそっとの情報戦ではびくともしないさ。だから彼女とすれ違った際の呪いの強大なエネルギーを跳ね返したから衝撃波……ショックウェーブが起こり、電流みたいなのが流れたのさ」 「ふ〜ん。すごいんだ〜」 何だかよくわかんないけどすごそうだったので感心する明日子。 「でも、どーしてそんなのが?」 「そう。それが問題だ。僕の解析により判明したことだが、この挑戦状には続きが密かに書いてある。恐らくレモン汁であぶり出しをすることを前提に書かれたものであると思われるが、暗号化されたメッセージが書いてあったよ。本日深夜三時半頃、学園の北方十五キロの所にある山中の一角……ススキ野原へと一人で来い、と。きっとそこであすねんと戦おうと思っているのだろう」 「ほへ。けんか〜?」 「いや、これはただの喧嘩などではない。我が校の平和……いや、日本の平和を守るための聖戦に他ならない。ちなみにあすねんがもし来なかったり約束破ったり待ち合わせに遅れた場合」 「どーなるの?」 それはもう、恐ろしいことになる。阿鼻叫喚の地獄絵図だと島流君は云った。 「全女生徒の下着をえっちなものに変えた上に、制服も体操着もジャージもみんなのパジャマも全部ひっくるめて全ての衣服を露出度の非常に高いものに魔改造するぞと書いてある! その呪いからは逃れられない。例えこの学校を辞めたとしても卒業したとしても、一生その地獄は続いてしまう。それどころか、周りの人達も同じ状況へと追い込んでいく。ゆくゆくは日本の全ての女性をそのようにしてしまう。それどころか世界中ですらも! これはそれほどまでに恐ろしい悪夢なのだよ! あすねん、全ては君の力に委ねられたのだ!」 「えええええ〜〜〜! あたしのねこさんパジャマもえっちになっちゃうの〜!?」 制服女王としてそんな事態を放っておけるわけがない! 行け明日子! 戦え明日子! 君には島流君の熱きサポートと共に、素敵な制服と可愛い下着が鎧となってついている! そんな野望を許すわけにはいかない。
明日子は島流君と共に戦いに挑むのだった。
そして……決戦の時。
で、暗い山の中。ライト付きヘルメットを被った明日子がひたすら歩いて辿り着いた先。月明かりが照らす、一面にススキが生えている所。 「はにゃー」 「ふふふ。初めまして芹沢さん。怖じ気付かずにキチンと来たことだけは評価して差し上げますわ。私は第一演劇部部長、宝塚百合香」 「あ。昼間すれ違った綺麗な人だー」 あくまでのんきな明日子。 「お褒めの言葉を頂戴して光栄ですわ。だけど、勝負はきちんといくわよ。……戦闘平野(=バトルフィールド)展開!」 びしびしと辺りに電撃がはじけ飛び、ススキやら笹やらがなぎ倒され……巨大なバトルフィールドが展開された! 戦いの行方は
宝塚百合香の野望とは!?
呪われた黒下着とは!?
全ての謎は次回明かされる!
続く!
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