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-びー・えす・ゆないてっどAfter 〜島流君の恋人〜 後編-















 ――奥摩多湖湖畔の北方数キロ。

 そこは真夜中の山中。バキバキと藪をナイフでかきわけ、道無き道をひたすら行く。そうして深い森を越えると突如として密集していた木々が途絶え、視界が開けた。そこはススキが一面に生えている野原。月明りが照らし、夜とは思えないくらいのまぶしさ。そんな所でこれから決闘が行われようとしていたのだった。学園の命運……考えようによっては世界の命運(主に女性の)がかかっている戦いがこんな辺鄙なところでひっそりと誰にも知られずに行われようとしているのだ!

「では、参りますわ!」

 決闘相手の片方。長い黒髪が綺麗な美人、私立聖摩多川最西東京EFJ高校第一演劇部部長、宝塚百合香(たからづかゆりか)さんは古風な口調で云い、アパレル同好会所属の芹沢明日子(せりざわあすね)に勝負を挑んできた。

「参られましちゃいますっ! って、きれーな人消えちゃった!? どこどこどこぉ!? あ、あにゃあっ!?」

 律義に返事を返す明日子は息を飲んだ。宝塚さんの体が突如かき消えたように見えなくなったからだ。まるで幽霊と戦っているかのように感じられた。

「ふっ。そこぉっ!」

「あにゃ!?」

 鋭い刃物のような一撃が明日子に向かって放たれる。それは単なる手刀だったがしかし、空気を切り裂き真空を作り出し、ずば、と音を立てて明日子が着ている制服の上着に穴を空けてしまった。明日子は一瞬何が起こったのかわからず呆然とし、すぐに混乱してしまう。

 そうこうしているうちに、第二波、第三波と手刀攻撃が立て続けに押し寄せ、明日子の大切な制服はあっという間に切り刻まれて行く。

「あにゃ? あにゃ! あにゃーーーーっ!?」

「ふふ。あらあら、この程度でしたわの? 私の見込み違いでして? 私をがっかりさせないでくださいまし!」

「そそそ、そんなこと云われたって……! はふーーーーんっ! やーーーーっ!」

 上着ごと、ブラウスもスカーフもまとめて引き裂かれて、明日子は悲痛な叫びを上げる。対して余裕の宝塚さんはぺろりと人差し指を嘗める。切り裂きジャックのような残忍な表情になって……。





なぜこのようなことになったのか。





 決闘前。明日子は問うた。

「昼間のきれーな人。どうしてあんなことをするの?」

 あんなこととは、みんなの下着を強引にとってもえっちで卑猥で恥ずかしいものに変えてしまったこと。魔法は魔法でも禁じられた黒魔法のようなものだった。突然そんなことをされたものだから、学園中の女生徒を中心にパニック状態を引き起こしてしまったのだ。

 明日子は真剣な眼差しを向ける。その先には微笑する宝塚さんの姿。超巨大学園私立聖摩多川最西東京EFJ高校(しりつせんとまたがわさいにしとうきょういーえふじぇいこうこう)の第一演劇部という、いわゆるトップディビジョンに所属。技量も才能も人望も全て十分。常に努力を絶やさず、どんなことがあっても思い上がって自分を見失うことのない性格。誰に対しても微笑を絶やさず物腰の穏やかな性格で、皆から慕われている。まさに、全てにおいて完璧な人物だった。そんな彼女が何故、呪われた下着に魅入られてしまったのか。

 そう。今の彼女は彼女ではない。つまりは、別の人物の魂が乗り移ってると云えるのだ。

「まず最初に、この娘の名誉のために云わせていただくわ。私はこの娘の体を借りているのに過ぎないの。けれど、この娘は簡単に心を乗り移させてくれたわ。何故か……」

「何故かー?」

「可愛い少女のように好奇心が豊かだったからよ。表面上はクールな優等生を装っているけれど、心の底ではえっちな下着も身につけてはじけてみたい。大胆な下着も身につけてみたい。そして……いつかは好きな人にその姿をさらけ出し、優しく愛撫してもらいたいと夢見る乙女のようなことを強く思っていたわ。それも、人一倍強くね」

 つまり宝塚さんは、一見大人びていて実はごく普通の年頃の少女なようだった。

「うぬにゅ……。そんなえっちな姿、あたしかいちょにも見せらんないよぅ。着てみたくはあるけどぉ……」

 明日子もどこかずれているけど、やっぱり好奇心旺盛な普通の少女のようだった。

「ふふ。私は別に悪いことなどしていないわ。ただ、この娘の望みと私の望みが似ていたから……だから、ついでにこの娘の夢をかなえてあげようとしただけのこと。きっと喜んでくれることでしょう。この娘の以外のみんなも、ね」

 さすがにそれは押しつけが過ぎる理論。明日子は反発した。

「そんなの許さないもん! えっちなのとか大胆なのとか、ぱんつもブラもそういうのはあっていいと思うしあたしだってちょっぴり興味あるもん。でも……でも! みんなみんなえっちなのにしちゃうのはおかしいの! そんなの絶対だめなの! いちごぱんつとかクマさんマークの可愛いのとか、スポーツブラとか、矯正用とか! コットン100%のお子様グンゼパンツとか、いつの間にかえっちに食い込んじゃってたりおぱんつがはみ出しちゃったりするブルマとか! とにかく下着は女の子のロマンなの! 乙女の夢なの! 男子禁制の秘密の花園なの! だから、あたしはみんなのじゆーを守るため戦っちゃうもん!」

 下着への熱い思いを語る明日子。それを見て宝塚さんは頷く。互いの誇りを確認し合い、戦うに値する人物である、と確信したのだ。

「そう。あなたの孤高の決意、よくわかったわ。けれど、戦いを始める前にちょっとだけ、昔話を聞いてもらおうかしら。どちらが勝つにせよ破れるにせよ、私の思いだけは知っておいて欲しいから」





それは半世紀以上も前のこと。





この国で、アメリカとの戦争が始まるよりもさらにずっと前。





あるところに一人のお嬢様がいました。





 とある名門女学院……後々の私立聖EFJ国際女子学園になる前身とも云える女学院に通うお嬢様……。当時の世相は、女性に堅い貞操観念を求める厳格なもの。良くも悪くも男尊女卑の悪しき精神が国民の心の底まで身についていたご時世。

 そんな時代、そのお嬢様は見つけてしまったのです。悪魔の囁きと云うべきか、好奇心をくすぐるものを。一目見た時は、それはもう衝撃的だった。

「まあ、何て破廉恥な下着ですの!」

 と、恥じらいのあまり口ではそう云ってしまい、目を背けてしまうものの。

「でも……」

 身につけてみたい。今では何の変哲もない黒いだけのブラとショーツでありますが、好奇心旺盛な乙女の心をくすぐるには充分な魅力を秘めていたのでありました。けれど、こんな物を身に付けている事が誰かに知れたら何と云われるか。破滅が訪れる事など重々承知だったのです。

 しかしそのお嬢様は悪魔の甘言に従い、誘惑に負けて身につけてしまったのです!

 それからのこと。お嬢様は全て上手く日々を手に入れました。好きな殿方の心を射止め、学業も完璧。お友達も先生方もお父様お母様の評価も完璧。将来は完全に約束されたも同然。このまま幸せな未来が待っているに違いない。誰もが疑うことを知らない日々が続きましたが、悪魔は人間を陥れる前に甘美な時間を用意するもの。

 ある時、偶然お父様とお母様の目に入ってしまわれたのです。大事な娘の体を包む下着がとても破廉恥なデザインをしていたといふことに。当然のことながらそのお嬢様とご両親は激しい口論となってしまいます。ご両親はお嬢様の不埒な行動をなじったりビンタしたり勘当しかけたりして、とにかく徹底的に批判し否定をしてしまいます。お嬢様が泣きながら必死に身につけてしまった理由を説明しても、誰として聞き入れてはくれないのでした。

 その日を境にお父様とお母様、引いてはお友達はおろか淡い恋心を抱いていた殿方とも引き離され、お嬢様は深い絶望に包まれてしまったのです。日が経つにつれ、段々と食事を取ることすら事欠くようになっていき、ご両親やお友達が過ちをおかしたことに気付いた時には既に手遅れなところまで追い込まれてしまって、やがて治療の甲斐なく死んでしまったのです。

 誰からも見捨てられ、全てに絶望してしまったお嬢様が今際の際に放った呪詛の言葉。無理解な人々への恨み。自分を信じてくれなかった最愛の人への叫び。振り向いて欲しいがため……純なお嬢様の魂は悪しき怨念へと変貌してしまったのです!

『皆、このような卑猥で破廉恥な下着を身につけ、破滅してしまえばいいのよ!』

 本来穏やかな性格だったお嬢様ですが、そのような悪意に満ちた残留思念が黒い下着に身に移ってしまったのです。そして、その忌まわしい下着は悲恋の伝説とされ、ずっと女学園の倉庫の奥深くに厳重に封印されていたのであります。ですが、数十年が経過した後、少子化による影響で私立聖EFJ国際女子学園が合併した際に外部に持ち出されてしまったのです。

 その後、たまたま第一演劇部部長宝塚さんの手に渡ることとなり、悲劇が再度引き起こされることになったのです。





そして今。





非業の死を遂げたお嬢様の恐ろしき呪いが復活したのでありました!





「と、云うことなの」

「むむむぅ。何だかよくわかんないけど悲しーお話だったの」

 ぼけーっとしたお馬鹿な明日子の理解力ではよく分からなかったようだった。しかしもう一つ疑問は残る。何故、自分が選ばれて呼ばれたのか。宝塚さんには明日子の考えそうな事などお見通しのようで、きちんと親切かつ丁寧に説明してくれた。やってることはアレだけど、決して悪い人ではないようだった。

「ふふふ。あなただけがこの私の望みをはじき返した。何故かはわからないけれど、他の娘とは違う。だから会ってみたくなったの。そして今、実際に会ってみてはっきりとわかったわ。この制服をデザインしたのもあなたなのね。特殊コーティングを施したプロトタイプ制服だったとはね。そして、着ている下着もただの下着ではないでしょう?」

 あの時。宝塚さんとすれ違い、突然電流が走ったかのように何かがびりっと来たことがあった。きっとそのことを云っているのだろう。他のみんなは全てあの瞬間、下着をえっちなものに変えられてしまったのだ。

「そだよー。あたしの制服はちょっと違うみたいなの。みんなが着てるのは量産タイプだから、そーいう機能は殆どコスト削減のためオミットされてるってかいちょが云ってたのー。それで、下着はかいちょが作った特別タイプなのー。今度あたしも作ってみたいな〜」

 宝塚さんはふっと微笑み、明日子に対する尊敬の念を表明する。そこまで考えていたとは、と。

「素敵ね。可愛いわ。この制服も、できれば私が存命の時に袖を通してみたかったわ」

 だけど……。今は戦わなければならない。誰にも、自分のような思いはさせたくないからと宝塚さんに取り付いたお嬢様の霊は思った。それは明日子も同じ。譲れない思いが激突する。

「では、参ります!」





こうして、激しい戦いが始まった。





「たぁっ!」

「あにゃっ! あにゃっ! あにゃにゃにゃにゃーーーーっ!」

 慌てる明日子。それもそのはず。宝塚さんが手刀を放つたびに制服が切り刻まれて行くのだから。

「んにゃにゃにゃにゃ!? ふふふ、復元機能があるはずなのにぃっ! なんでなんでなんでええええぇぇぇ〜〜〜!?」

 明日子の制服は本来重装甲で、尚かつちょっとやそっとの破損ではすぐさま自動復元されるはずなのにされない。宝塚さんはフッと微笑を浮かべながら云った。

「甘いですわね。そのような機能があなたの制服に備え付けられていることくらいお見通しよ。私の手刀は分子レベルで物質を破壊することができるの。つまり……」

 雑草を根っこから引っこ抜くのと同じ。表面上だけではなく根本的に破壊されては復元など不可能、と云うことだった。つまりは宝塚さんの攻撃はデスペル機能……云うなれば、バリア破壊機構を備えたものなのだ。

「あーーーあーーーーあーーーーーっ! は、は、恥ずかしいよおおおお〜〜〜〜!」

 ずばずばずばと荒野に布地を引き裂く音が響き渡る。明日子の制服はわずかな切れ端を残し、無残な姿をさらけ出していた。いくら二人以外誰もいないような山の中とは云え、お外で裸同然の姿にさせられてしまった。死にたくなるほど恥ずかしい。だが、休むことなく更に宝塚さんの猛攻は続く。

「あにゃにゃにゃにゃ! すすす、スカートはだめだめだめええええっ!」

「ふふ。何を甘いことを云っているの。勝負は非情なのよ! せぃ!」

「はひゅっ!」

 それは最後の砦とでも云うべき布地。すぱっとスカートも裂かれてしまった。ふわっと空気に舞い、落ちていく。明日子危うし!

 しかし、それからが戦いの始まりなのだった。明日子のブラとショーツから、突如まばゆい光が放たれたのだ。

「何っ!?」

 予想外の事象に驚く宝塚さん。

「ひゃうんっ! まぶしっ!」

 明日子も同じように驚く。そう。それは紛れも無い奇跡の光。辺り一帯は数秒間、昼間のように輝いた。

(ふふふ。こんなこともあろうかと、とっておきのものを仕掛けておいたのだよ)

 遠くの方で、ひっそりと一人の男がぼそぼそと何か云いながら戦いを見守っていた。茂みの中に隠れながら戦況を伺うマッドサイエンティストのような風貌の男。制服研究会会長にして私立聖摩多川最西東京EFJ高校にその人ありとうたわれた天才男子生徒。その名も島流停留(しまながれとまる)……明日子の彼氏でもある彼は、ずれた眼鏡を人差し指で押し上げながらニヤリと口元を吊り上げた。

「くうっ! お、驚かせてくれるじゃありませんこと!」

 光りがおさまり、宝塚さんは臨戦態勢を整える。だが、すぐに気付くことになるのだ。

「こ、これは……! ふっ。やってくれるじゃない!」

 明日子と同じように、宝塚さんの制服もびりびりのずたずたに引き裂かれていた。ただ一撃で、あの光はこのような作用を及ぼしたのだ。ともかく二人は互いに下着だけの姿へと変わっていた。これで条件は五分と云うわけだった。

「ふっ。これでおあいこ。戦いは振り出しに戻った、ということなのね。むしろ――最初からこうしておけばよかったのかもしれないわね」

「はにゃー。さむいー。はずかしいよぅー。お嫁さんに行けないよぅー。えっちなのやだー」

 ぷるぷるしながらもじもじする明日子と、腰に手を当ててクールな宝塚さん。

「あなたのその下着。恥ずかしいものに変えてあげましょう! それも、最高に恥ずかしい物に! それが私の勝利条件。負けたく無ければ私の下着を脱がせてみなさい!」

 戦意喪失状態の明日子に宝塚さんの猛攻が続く。だが……。

「うぅぅ。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいぃ〜。やぁ〜ん。はふ〜ん。うぅ〜ん」

 相変わらずもじもじしている明日子だったが、近づいてくる宝塚さんをみて我に返る。そして反撃が始まるのだった。

「恥ずかしいけど……恥ずかしいけど……恥ずかしいけどっ! でもでも、こんな恥ずかしい思いは、みんなにはもうさせないもん! 何だかわっかんないけどかいちょが云ってた最終兵器! いっけぇえぇーーーーっ!」

 明日子の気合いと共にショーツが反応した。白と水色という典型的な縞柄の布地に紐パンという構造のそれが輝いた。そして、両わきを蝶蝶結びで止めている二本の紐が突如しゅるるると伸び、ワイヤーのように強い張力を持ち、鋭利な攻撃兵器と化した!

「なっ!」

 驚愕する宝塚さんの左右をびしゅーーーっとかすめる。その瞬間、ブラの両肩の紐を一撃の下に切り裂いた

(ふっ。これこそがあすねんの紐パンの紐に仕込まれた有線誘導攻撃兵器。インコミングシステムだ!)

 と、相変わらず茂みの中でこそこそしてる島流君はほくそ笑む。新機軸の有線誘導攻撃兵器……。内蔵された超小型高性能マイクロプロセッサの制御もあり、二次元的な動作でありながら全方位攻撃を可能としたのだ。あまり複雑な動きはできないが、予想外の所から繰り広げられる攻撃はとても有効なものだった。

「や……るわね! ならばこっちも一気に行くわよ」

 突撃してくる宝塚さん。思わぬ形で奇襲攻撃を食らったとは云え、まだ肩紐を切られただけ。一気に逆襲するべく接近戦を挑む。狙うは明日子のブラとパンツ! 目の前の小娘を素っ裸にひん剥いた上で裸の方が恥ずかしいと思わせるようないやらしい下着を身につけさせてやるわ! 気迫のこもった特攻だった。

「そこぉっ!」

「あにゃあっ!」

「次ィ、ここぉっ!」

「はにゃあっ!」

 宝塚さんの手刀が何重にも炸裂する! まさに一撃。明日子のブラをずたずたに引き裂いた。あまりの速さに明日子はついていけない。引き裂かれ、露になってしまった可愛らしい大きさのおっぱいを思わず右腕で隠しつつ、明日子も反撃!

「あーーーんあーーーんああああーーーーんっ! えっちえっちえっちいいいいいっ! いやーーーーんっ!」

「な、ん、ですってぇっ!?」

 今の明日子に残された数少ない布地。肌を覆う薄い装甲。縞パンが明日子の叫びに呼応して突如として輝き始めた。赤、青、黄色、緑、紫、白……。その他様々。虹色に輝く光が接近戦を挑んで来た宝塚さんに直撃し、漆黒のブラを文字どおり吹き飛ばした。

(よし。狙いどおり、あすねんのレインボー縞パンアタックが炸裂だ!)

 狙い通り、ということはこうなることが最初からわかっていた模様。島流君は奥の手を用意していたのだった。奥の手より先にもう少しどうにかできないのかと誰もが突っこみを入れたくなるところではあるけれども、とにかくそれは発動した。

「くっ……うっ! 子供騙しはもうやめよ! きぇェェェェーーーーッ!」

 宝塚さんは戦士だった。明日子と違い露になった大きな両胸をかばう事なく、月明かりの照らす空へと舞い上がり、そして下降する。最後の一撃とするべく急降下爆撃を仕掛ける。狙うは明日子の紐パンの左右の紐! そのポイントさえ押さえてしまえば、相手は丸裸。後はどうとでもなる。その一撃は極めて正確に決まった! スパッと簡潔に! 回避不能……明日子はただ、呆然とするだけだった。

「あ、あ、ああっ! あーーーあーーーあーーーーっ! みみみ、見えちゃううううううっ! そこはだめええええええっ!」

 ぱらっとスローモーションのような動きで下の布地が支えを失い落ちていく。明日子も慌てて左手で隠そうとしたものの既に手遅れ。淡い毛に囲まれたそこが見えかける。

 絶句しそうになりながら慌てる明日子。遂に身にまとうものはソックスと靴以外全部剥がされてしまった。あまりにも恥辱極まる格好にさせられて、露出魔と勘違いされてしまうのか! 衝撃のあまり尻餅をついて大股開きのM字開脚というとてつもなくエッチな格好をさせられてしまった。だが……。

 そこでまた、奇跡が起きたのだった。明日子の露にされてしまった股間から、突如高出力なビームが輝いたのだ。その光りは正確に宝塚さんの方へと向かっていく。

「あにゃにゃにゃにゃーーーーーっ! な、な、何何何〜〜〜〜〜っ!? 何なのこれ〜〜〜〜〜っ!」

「な、な、何ですってええええーーーーーっ!? う、う、うわああああああああああああっ!」

 宝塚さんに命中し、爆発。大きな光に包まれて行く二人。

(決まった。な……)

 島流君は全てを理解しているようだった。こうなることも全て。

 明日子のレインボー縞パンが解放(=オープン)される時。すなわち最大稼働時には布地の強制冷却が必要となり、その際空気中への放熱も兼ねて装着者から供給・収束されたエネルギーが股間部分で収束され、攻撃対象に向けて一気に放たれる。まさに玉砕覚悟の決死の一撃なのだった。

(あすねんの下着に備え付けられた最強兵器。その名も……レインボー・キャノン! 完全に勝負はついたな)

 何だかよくわからないことを茂みの中でぶつぶつと呟いている島流君。

「ふ……。私の負け、ね。これほどまでとは、ね」

 宝塚さんは身につけた衣服を全て引きはがされながら、あらゆるものから解放されたように安らかな笑みを見せていた。呪われた下着は消滅し、もうない。もう終わったのだ。全て。

「きれーなひと……。泣いてるの?」

「うれし泣きよ。この戦い、貴方の勝ち。……強い娘に会えてよかったわ」

「そーなんだ……」

「お互い、裸は寒いわね。暖かい場所に戻りましょう」

「うん」

 そうして、不遇の死を遂げたお嬢様の亡霊は満足げな表情を浮かべ、宝塚さんの体から出て行ったのだった。最後の最後に明日子に向かって『さよなら』と云って。





…………





 明け方。女子寮は明日子の部屋。

 誰にも知られることのない決闘は終わり、夜が明けて行く。

「むーむーむむむむむぅ……」

「何をむーむーうなっているのかね、あすねん。むーむー星人にでもなってしまったのかね」

 毛布を頭からかぶりながら、むーむーうなっている明日子に対し、島流君はあくまでもクールだった。

「むーむー星人じゃないもん。かいちょのせいだもん。あんな恥ずかしい事になっちゃうなんて思わなかったもん。お外で裸なんてもうお嫁さんにいけないもん」

「ふっ。しかし、戦っている時のあすねんは本当に美しかったよ」

「褒められても嬉しくなんてないもん。もーめっちゃくちゃ恥ずかしかったんだからぁ! かいちょのばか〜!」

 ぽかぽかと島流君を可愛らしく攻撃する明日子。

「まあまあ。夜が明ける前に決着が付いて良かったじゃないかね。それに、誰にも見られていないし」

「そういう問題じゃないの〜! あんなのもうや〜!」

 あの後。宝塚さんは意識を失い、島流君によって女子寮の自室へと運ばれていったのだ。もちろんステルス迷彩機能を搭載した衣服を来て、こっそりと。恐らく宝塚さんは目覚めたとき素っ裸な事に気付き、びっくりするのだろう。

 そして宝塚さんと同様に素っ裸の明日子がとっても恥ずかしそうにしながら後ろから着いていくのだった。決して露出癖がある訳では断じてないし興奮なんかも絶対しないんだからねと、明日子は何度も繰り返し、島流君はその度に優しく頷くのだった。『ふ。気にすることはないさ、あすねん。そういう野外露出のAV等、今はとてもありふれている自由の時代なのだから』とか慰めになってない慰めを島流君がすると『意味わっかんないよぉ〜! えっちえっちえっち! お外はだめなの〜〜! こ〜ぜんわいせつざいでつかまっちゃうの〜!』と、明日子にぽかぽかと叩かれるのだった。

 学校生活において、とてつもなく恥ずかしくて人には決して云えない体験をしてしまったのだった。

「制服もぼろぼろになっちゃったしー。かいちょのせいだもん」

 後からわかったことだが。明日子の制服があまりにもあっさり破壊されてしまったのにはれっきとした理由があったのだ。

「ふふふ。あすねんには悪いけれど、制服のガード機能を大部分オフにさせてもらっていたのだよ。そうしなければきっと宝塚さんには勝てなかっただろうから」

「ぶーぶー」

 今では改良型の制服が明日子の体を包み込んでいた。島流君は明日子が勝てなかっただろうから、とか云うけれど実際にはああいう姿を見てみたいからやったのだろう。あるいは自分が作った下着の性能を確かめたかったから、とか。

「でも。あのきれーな人に取り付いていた女の人。最後は幸せそうだったの」

「ふっ。そうだろうな。下着に対し真摯に考え、命を張って戦う。あすねんのその姿勢を見て心打たれたのだろう。あの少女の魂は完全に天に召されたようだ よ」

「えっちな下着もいいけどー。でもでもやっぱり、可愛いのとかおしゃれなのとか、色んなものがあった方が楽しいのー」

 きっと、あの少女もようやくのことでそれに気づいたのだろう。気づかせたのは明日子。

「ふっ。あすねん見たまへ。朝日が上っていく。新たな下着の歴史が始まるかのように、ね」

「らいじんぐさんなの〜」

「さああすねん。この下着を着けて欲しい」

「ほよ?」

 島流君が明日子に差し出した下着。それは……。

「上っていく太陽。そして、沈んでいく太陽。鮮やかな月明かりに漆黒の闇……。朝と夜に合わせ、刻々と色を変え光を放つ。今この瞬間を生きている感動を下着の中に閉じ込めてみたのだよ」

「わぁすっごい。なんだかぱんつの表面で太陽が動いてるよー!」

「さぁ、今すぐここで身につけてくれたまへ!」

 天才のようでいてあんまり学習していないであろう島流君の発言はしかし、明日子によって完全に却下される。

「やだ。わたし女の子。着るのはいいけど見せるのはやだっていうか、かいちょのえっちえっちえっちーーーー! かいちょには絶対見せたげないもん! えっちなことばっかりして、このえっちさんーーーー!」

 ぷいっとほっぺたを膨らませながらそっぽ向く明日子に対し、がーーーんがーーーんがーーーんと雷撃を食らったように打ちひしがれる島流君の姿がそこにはあった。





そして今。新たな下着と制服伝説が幕を開けるのだ。





例えば――男子寮にて。





「ふおおおおおおおおおおおおっ! え・く・す・た・しいィィィィィィィッ!」

 とある男子生徒の雄叫びが響き渡る。宝塚さんと同じように、呪われたブリーフを身につけてしまったのだ。男達のパンツを皆恥ずかしい柄のブリーフに変えてしまうという恐ろしい怨念がこもったブリーフを顔にも身に付けていた。変態である。

 ……後日島流君の調査によりそれが明らかになり、最強の下着戦士明日子が討伐隊として派遣……される事になるのだったけれど。

「絶対やだ!」

 というすっごく嫌そうに云った一言で頓挫しかけたのだった。





学園の未来や如何に!?




















おしまい!



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