-Colorful party Vol.2 星空Lovers-
登場人物: ●沖野花鈴(おきのかりん) 『花鈴小屋』のヒロインで悠希君の彼女さん。二人はとっても仲良しで雰囲気もあまあま。 おっとりした家庭的な性格で、そのうえとっても巨乳で黒髪がきれいな三つ編み娘。優しい性格で、みんなに慕われているお姉ちゃん。 『UpdateHistory』の新奈の館長こと『ご主人様』にいじられ、セクハラされては新奈と違い抵抗できず、胸とかいっぱい触られてしまってる日々。 ●魁納悠希(かいなゆうき) 花鈴の彼氏さん。一歳年下のはずなんだけど全然そんな感じがしない。二人はとっても仲良しで照れ照れ。 熱くまっすぐな心を持つ男の子で、花鈴とその妹達の事を誰よりも大切に思ってる優しくも熱い性格。 見た目はとっても美少年で、よく友達にからかわれたり女装をすすめられては怒っている。 ●沖野鈴那(おきのれいな) 花鈴の妹。 ちびっこくて元気いっぱいなお子様。人懐こい子猫的なおかっぱ妹。 いつもにこにこしていて、子猫みたいにふにゃふにゃ鳴いてる天然さん。とっても純粋。 かなりのどじっ子だけど、度重なる失敗にもめげず健気に頑張る努力家。 可愛いものが大好きで、よく抱きついてはすりすりしている。姉とは対照的に極度のつるぺた。鞠音とお姉ちゃんと悠希のことが大好き。 ●鞠音(まりね) オッドアイな猫又娘。鈴那達の大親友。通称鞠ねこ。 鈴那に負けず劣らず見た目も中身も子供っぽい。けれど、鈴那と違い短気な性格で、ご主人様の横暴に反抗できる貴重な人材。そしてポニテ。 ねこぱんち、ねこきっく、噛みつきに引っ掻き等、多彩な攻撃を誇る。最近は関節技や投げ技を習得してきた。 ●ご主人様(ごしゅじんさま) 花鈴小屋マスターであり、色彩屋根裏図書館館長。丸く、緑色をした謎の生物。 いろいろとすけべであり、野暮であり、ひどい男。かなりいかれている。日々の行いの悪さは目に余るものがある。 それでもそれなりに慕われているのは、いざと言う時はみんなを助けてくれると思われているから……なのか? 今日も花鈴や新奈にいたずらを企てているようだ。 ●更志野新奈(さらしのにいな) 色彩屋根裏図書館司書見習い。見習いにしてはとても優秀。花鈴達の親友。 金髪碧眼でツインテール。髪質はとってもふんわり。館長曰く足がとても綺麗、らしい。 外見的にはつり目でツンツンしていそうな割に、実はそうではない穏やかな性格の常識人。 館長にいじられ、セクハラされては必要に迫られて覚えてしまった体術を駆使して見事に撃退する日々。 それは秋の頃、夜空に星が輝いていたのが印象的な思い出話。 彼らは今、大森林のど真ん中にいた。そんな大自然に満ちたと言うよりも、それ以外何もないと言った方が適切ではないかと思えるような僻地かつ、山奥のコテージに遊びに来ているのは、毎度おなじみ花鈴小屋の面々。そしてそれに加えて今回は花鈴の彼氏さんこと悠希君も一緒なわけで、みんなでいっぱい遊んで騒いでおいしいものを食べて、暖かくも気持ちのいい露天風呂に入って、最高の一夜を過ごすことになった。これらはつまり、ご主人様が言うところの『貴様ら! 慰安旅行じゃい!』ということなのだった。 「綺麗だね」 「はい!」 にこ、と可愛い笑顔を見せながらそう言う花鈴に対して、悠希も笑顔ではっきりと頷いた。花鈴と悠希は今完全に『二人の時間』を過ごしていた。寝間着のままコテージのテラスに出て、一緒に夜空を眺めているというロマンチックな時間。 「ゆーくん、寒くない?」 「僕は平気だけど、花鈴さんは?」 「大丈夫。……だけどちょっとだけ、寒いかも? ふふ」 一つ一つの会話がとっても甘くて優しくて、お互いを思いやっていることがはっきりとわかる。好きな人と二人きり。外は寒いけれど吐く息は熱く、すっかり白くなっていた。 「そうなんだ」 それじゃあ、ということで気を利かせる悠希はとある提案をすることにした。 「花鈴さん。ココアとか好き?」 「え? 好きだけど」 「じゃあ僕、入れてきますね」 丁度、部屋の中にお揃いのカップと、お湯が入ったポットがあったのを思い出していたのだった。 「あ、待って。私も一緒に行くよ〜」 「わっ」 花鈴はとっても楽しそうに言いながら悠希の右腕を取り、二の腕に抱き着いた。その瞬間ふにゅ、と音がしたかのように、花鈴の大きくて柔らかな胸が当たってめり込んだ。あまりにもはっきりとした感触に悠希はどきどきしっぱなしだったけれど、花鈴自身は全く気付いていないようで、今更ながら花鈴のことをとても無防備な娘だと思うのだった。 (もう……。花鈴さんったら) 本当にもう、一緒にいるだけで楽しいと思う。悠希は思い出す。ある時、花鈴のお友達の娘に笑顔で問われた事があった。『悠希君は花鈴ちゃんのどんなところが好きなの?』と。茶化すでもなく冷やかすでもなく、微笑ましそうに見つめながら問われて悠希は素直に答えた。 すっごく可愛くて、優しくて、親切で、家庭的で……ちょっぴりのんびり屋さんで、とっても妹思いで、鈴那ちゃんと鞠音ちゃんのことをとても大切に思っていて。側に……一緒にいるだけで僕の方までほのぼのしてきて優しい気持ちになっちゃうような、そんなところ……です、と。 悠希の答えに対し、そのお友達は心の底から同意したように、うんうんと頷いてくれたのだった。もっとも、悠希は言ってからあまりの恥ずかしさに赤面したのは言うまでもないけれど、慈愛に満ちた眼差しを向けてくれたのだった。もっとも、そのお友達はちょっとだけいたずらっぽく『そっかぁ。でも、花鈴ちゃんのお胸も好きだよね?』と言った。悠希は無意識のうちにはい、と答えてしまってから、なななな何を言わせるんですかと言ったのだった。 そんな風に、優しさに満ちた二人きりの楽しいティータイムは続く。 「花鈴さんは星座とか詳しいんですか?」 「ううん、あんまり詳しくないよ。ただ……ぼんやり眺めるのが好きなの」 「へえ」 「眠れない夜とかよく、窓の外をぼ〜っと眺めるの」 「そうなんだ」 「綺麗だな〜って思って、ぽ〜っと眺めてて星の数を数えてると、そのうち眠たくなってあくびがでちゃって、いつの間にか寝ちゃってたりするの」 何だかそんな情景が頭の中に浮かんで来る。真夜中に花鈴がベッドに腰掛けて、ぽ〜っと月明かりと星空を眺めているその様はとても可愛らしい。 (のんびり屋さんの花鈴さんらしいなぁ) 「オリオン座が綺麗に見えるようになると、ああもうそんな季節なんだ〜。な〜んて思っちゃったりして」 「ふーん」 暖かなココアの匂いがとっても甘く香る、笑顔のおしゃべりタイム。二人とも、ココアの甘さが乗り移ったように感じていた。 「ねえ。花鈴さん」 「なぁに?」 「もっと暖かくなる方法、知りたい?」 悠希は手すりにココアのカップを置いてから言った。 「うん。教えて〜」 なんだろう、とわくわくしながらお願いする花鈴。そして、次の瞬間。 「きゃっ!」 突然、悠希は花鈴を後ろから包み込むようにして抱き締めた。身長152cmと小柄な花鈴の体はすっぽりと悠希の体の中に収まってしまった。 「ほら。暖かくなったでしょ?」 「そ、そうだけど……」 戸惑い恥じらう花鈴が愛しくて、ぎゅむ〜っと抱きしめると、柔らかくてか細い体は暖かかった。いつだったか、花鈴のお友達が言っていたことを思い出す。花鈴ちゃんは胸だけ特大サイズで、他は本当に細いんだから。とか何とか。 (あーもうっ! 可愛いんだからこの娘はっ!) 一度そう思うと止まらない。大胆なことと知りつつ、色んなことをしてしまいたくなってついつい行動に移してしまう。そういうわけで、花鈴の細くて白い首筋にキスをしてみた。 「ゆ、ゆ〜君……。ん〜っ!」 更に、振り向かせてからおでこにキス。 (可愛い可愛い可愛い。大好き……) 「ん……。ん〜〜〜っ!」 左の頬、右の頬にキス。突然の大胆行為に加えて立て続けにキス攻撃をくらって、恥ずかしさのあまりパニック状態に陥る花鈴だった。 「花鈴さん……。可愛すぎ、です……」 「ゆ、ゆ〜君……。私のこと恥ずかしがらせて、おもちゃにしてる……でしょ……?」 顔はおろか体中が熱く火照っていくのがわかる。好き放題にキスされて、あまりの恥ずかしさに耐えられなくて、ちょっと拗ねたように呟いてみせると。 「うん。……だって、可愛いんだもの」 そんな風にはっきりと言い切る悠希だった。その一言に花鈴は一瞬絶句してしまった。 「でも……私、これでもゆー君の一つ年上なんだよ?」 花鈴の中での可愛らしい『お姉さんの意地』が漏れてしまう。悠希はとぼけたように、え、そうなの? とかわざとらしく言いながら、ちゅ……ちゅ……ちゅ……とまたまた連続キスを繰り返す。 「はふ……」 「ごめんなさい。全然そうは思えないんだけど……。そうだ……」 「……?」 何かを思いついたのか花鈴の顎を指でくい、と顔を少し上げさせて。 「先に離した方が、負けということで……」 「〜〜〜っ!」 ちゅ、と唇にキスをして、そのままずーっと離さずにいてみる……。 (あ……。だ、だめだよゆー君……。こんなの私……もう、恥ずかしくて死んじゃうよ……) 唇を覆うように重ねられて、身体が更に火照っていってしまう花鈴だった。悠希の言う通り、もっと暖かくなる方法は効果抜群。 「ん……んん……」 更に更に、ちょっとした悪戯心がゆ〜君の中で芽生えてしまう。それはちょっとエッチな行為。少しだけ口の中に舌を入れてあげると、花鈴は一瞬大きくビクッと震えてしまう。花鈴はとても敏感だった。 (も、もぉ……だめ。ゆるしてゆ〜君……) 花鈴は身体から力が抜けちゃってふにゃふにゃ状態になって、悠希にもたれ掛かってしまう。そうして、自然と唇が離れていった。さすがにちょっとやりすぎたかなと悠希は思ったけど、してみたかったのだからどうしようもない。 「花鈴さん……。すごい、ドキドキしてる……」 「ゆ、ゆ〜くんの……えっち。意地悪」 悠希はぷ〜っと頬を膨らませる花鈴を見て、愛しくてたまらずに強く抱き締めた。胸と胸が当たって、鼓動がダイレクトに感じられていく。 「も、もぉ……っ。ゆ〜くんだめ。えっち……」 「ごめんね。やっぱりちょっとやりすぎた、かも」 「ちょっとじゃないよぉ。もぉ」 「だって、花鈴さんが可愛いから……。嫌だった?」 「嫌じゃないもん……」 好きな人に可愛いと言われて嫌なわけがない。だけど照れ隠しにちょっと拗ねてみると。 「拗ねてる花鈴さんも可愛いよ。……でも、暖かくなったでしょ?」 「うん……。もうちょっとだけ……このままで、いて」 「ちょっとじゃ嫌です」 「……うん。私も。ちょっとじゃなくていっぱい」 そしてまた二人はぎゅむーっと抱き締め合うのだった。 …………
そんなこんなで、誰も見ていないことをいいことにいっぱいいちゃつきまくって甘えまくってキスし合いまくってから、そろそろ本格的に寒くなってきたのでお部屋に戻ると。 「あ、あれ?」 何かに気づいたのか、悠希が困ったような声を出していた。 「どうしたの?」 と、花鈴が問うと。 「ドアが……外側から閉められてる」 その部屋にはベッドが一つだけ。もっとも、悠希は完全にご主人様との相部屋だとばかり思っていたのだけれども。――そんな時、突然室内の電話が鳴ったので取ってみると、男の声が聞こえた。とても聞き慣れた粗暴な声が。それは色彩屋根裏図書館館長にして、花鈴小屋のご主人様。 「もしもし?」 『にゃふふふふ。やっとあまあまないちゃらぶタイムが終わりやがったかこのバカップル共! ともかく、貴様ら思いなこの俺がバッチリと一晩の段取りを組んでやったぞ。感謝しろこの野郎。崇め奉り、ははー! と、ひれ伏すぐらいに感謝しやがれこん畜生共』 「だ、段取り?」 思わず問い返してしまう悠希。 『ふっ。よく目ぇ開けてその部屋を見さらすがよい。貴様らが今いるその部屋にはベッドが一つしかねぇ! そして今そこにいるのは悠希、貴様と隣にいるでかちち娘の二人のみ! つまりだ、貴様ら二人は一晩一緒にそこで過ごすことになるのだ! ならざるを得ないのだ! それが何を意味するかは分かるであろう?』 「え……」 「なっ!」 瞬時に赤面する二人。またそーいうことを! と、二人は思うのだけど、現実問題お外はとっても寒く、しかし部屋の外には出られない。今まさにガチャンと音がして、お外のテラスへと続くドアも外側から鍵をかけられていた。 『ま、そーゆーわけでだ。段取りは組んでやったから後はせーぜー仲良くくんずほぐれつ、がんがんぱんぱんずんずんずこずこばこばこ突きまくりのあんあん喘ぎまくりな激しくも熱い夜を楽しむがよいっ! ふはっははははははははっ! では、諸君の健闘を祈る!』 そんなことを一方的に言いきり、電話も切ってしまった。……幸いなことに部屋内にユニットバスがあるからトイレは大丈夫なのだけども、恐らくあの人はそこまで計算していたのだろう。さて、どうすればいいのだろう? いろいろと考えあぐねた結果、悠希が花鈴に言うのだった。 「か、花鈴さん。ベッドで寝てください。僕は床で寝ますから」 「だめだよゆー君。風邪ひいちゃう。そんなのだめ」 大切な人にそんなことは絶対にさせられない。もし仮に花鈴が同じ事を言ったとして悠希は絶対にダメ、と止める事だろう。 「で、でも……」 「ゆー君……」 一緒でも大丈夫だから、と聞こえないようなくらい小さな声で花鈴は言った。消え入りそうなくらいに小さな声で。 「花鈴さん。おやすみなさい……」 「うん……。おやすみ」 とは言ったものの、こんな状態ですぐに眠れるわけがなく、しばらく二人、寄り添いあいながらお話を続けたのだった。 「花鈴さんって、可哀想だよね」 唐突にそんなことを言われて、花鈴はきょとんとしてしまう。何のことだろうと思うのは当然のこと。 「え?」 悠希は少し迷いながらも、正直なところを打ち明け始めた。 「すっごく恥ずかしがり屋さんなのに、おっぱいもすっごく大っきいから。何ていうか、神様が意地悪してるとしか思えない」 「も、もう。ゆー君のえっち。何を言ってるの〜」 恥ずかしい事を言われて花鈴は体をよじり、胸を両腕で覆って隠す。確かに自分でも、歳と身長の割に、雑誌のグラビアアイドルの如くたっぷりとボリューム豊かに膨らんでしまった胸だと思った。クラス内でも目立ちに目立って、女の子には『触らせて〜』とかふざけて言われるし、男の子には横目でこっそりじろじろ見られるしで、いいことなど何もなかった。男女混合の体育の時間などもう目も当てられない。花鈴の胸を見るのを楽しみにしている男子もいるくらいなのだから。 「どうしてこんなに大きくなっちゃったの?」 「そ、そんな事知らないよぉ。私だって、困ってるんだから。うぅ……」 「やっぱり、牛乳とか豆乳好きだから?」 「そんなにいっぱい飲んでないよ〜。そりゃ、朝とか寝る前とかお風呂上がりとかに飲んだりしてるけど……。あと、お昼もパンの時とかたまに」 「……十分過ぎると思います」 「そ、そうかな?」 やっぱり天然さんだこの娘は、と悠希はくすくす笑いながら思った。 花鈴の中で数々のトラウマが蘇る。普通に道を歩いてるだけで男の人の露骨な視線を感じたり、たまに満員電車に乗った時などもうどうしていいかわからなくなってしまったことがあった。もっとも、一番酷いのはご主人様である緑色の生命体に日々つっつかれたり、触られたり揉まれたりされてることだろう。あの男は、花鈴の抵抗したくてもできない優しい性格を逆手にとってやりたい放題しているのだった。 「変、だよね。おかしい、よね。やっぱり……恥ずかしいよ。こんな胸……嫌なのに」 思わず泣きそうになってしまう花鈴に、ゆ〜君はちょっと慌てたように言う。そんな風に悲しませる気なんて全くなかったのだから。 「あ、あ……な、泣かないで。変でもないしおかしくもないよ。僕は大好き。すっごく可愛いし」 花鈴の頭を優しく撫で撫でしながら諭すように言う。 「ゆー君……」 「ごめんなさい。忘れようとしたけど無理だったから、正直に言います。前に……その。花鈴さんの胸を間違ったり、成り行きで仕方なく……さ、触っちゃったことがあるけど、その……大っきくて柔らかくて、優しいな……って思ったんです。あ、その……えっと……。え、えっちな気持ち抜きで、ですっ!」 「……ふふ」 優しいと花鈴は強く思った。悠希が好きと言ってくれるのなら、胸が大きいことも悪くないのかも、とも。花鈴は自分が嫌っている胸を好きだと言ってくれた悠希のために、恥ずかしさを押し殺して言うのだった。 「触っても、いいよ? ゆー君なら、平気だから」 「ありがと。でも、無理しちゃだめ」 悠希は優しく花鈴の頭を撫でて、一本に結んだ三つ編みをもてあそびながら言った。艶やかな黒髪がとってもきれいで、三つ編みも可愛いなあと思いながら。 「本音は……すごく、触りたいです。でも、触りません。だって……」 悠希はゆっくりと理由を説明し始める。自分はまだ中学生で、働いてお金を稼ぐことはおろか、社会的にも未熟で世間知らずでまだまだ直情的な子供。そんな子供な自分が欲望に身を任せて花鈴を押し倒してしまったとしたら……。きっと傷つけてしまう。それこそ取り返しのつかないくらいに。そうして多分一緒にいられなくなってしまうことだろう。そんな未来は絶対に嫌だと強く思った。 「花鈴さんの可愛いくておっきな胸……触ったら、絶対えっちなことをしたくなっちゃうと思う。そしたら……」 「ゆ〜君……」 「でも、いつかきっと。一生懸命勉強して、お金も稼げるようになって、みんなに認められるようになったら……その時は」 「……」 花鈴は嬉しそうに目を伏せる。 「その時まで、待っていて欲しいんです。僕の考えって堅すぎる、かな?」 「ううん。そんな事ない。ゆー君ありがと」 優しい思いに感激した花鈴はぎゅむ、と悠希の腕に抱き着いていた。 「わあ! じ、自分から当ててるし! 花鈴さんのえっち〜!」 「だ、だ、だって……。どうしても当たっちゃうんだもん……」 恥ずかしいけれどこれくらいは許してほしいかな、と花鈴は思った。 「もぉ。いけない娘なんだから。ぷるぷるしてて柔らかすぎ……だよ」 「えっち。そんなの、知らないもん……」 「うん。知らなくて、いいと思います」 「あ、あれ?」 「どうしたの?」 「……」 花鈴はあることに気付いて黙ってしまった。抱き着いた拍子に気付いた事。それは、悠希の下半身の方。とっても固く、大きく膨らんでいる事に。 「花鈴さんのせい、だよ」 「え!?」 どうしてそうなってしまったのか、全然理解できていない花鈴だった。 「花鈴さんが僕におっきなおっぱいを押し当てるから……。ドキドキしちゃって……。それで、こんな風になっちゃったんだよ」 「はぅ……」 花鈴に対抗して、悠希も言ってみる。 「触っても、いいよ?」 「ゆ、ゆー君のえっち〜!」 気が付くと何だかおかしくなっていて、二人ともくすくす笑っていた。今更ながら、お互いを想い合っていることがこれでもかと言うくらいにわかったから。 「花鈴さんって、実は結構甘えん坊さんなんだね。抱き着き方が鈴那ちゃんとそっくりだよ」 「あは。鈴那ちゃんとそっくりなんだ。……うん。そうかもしれないね」 意外な一面だった。家庭的でしっかり者で、妹たちに慕われて、母性本能溢れる娘と言われていたし悠希自身、花鈴の事をそう思っていたのだから。 「そうだよね。花鈴さんは、鈴那ちゃんと鞠音ちゃんの、ううん……みんなの優しいお姉ちゃんだから。普段は甘えられっぱなしだもんね。……でも、僕には甘えてもいいよ。何も言わないから」 「ありがと。ふふ」 「どうしたの?」 「ううん。何でもない」 悠希の体に身を任せてとっても幸せそうな花鈴だった。 ――楽しいお話はまだまだいっぱい続く。 「鈴那ちゃんと鞠ちゃんがね……」 「あは。二人とも可愛いなぁ」 小さくて無邪気で子猫みたいに可愛い妹達のお話。 「新奈ちゃんって、可愛いよね」 二人にとって共通の親友のお話。 「はい。それはもう」 「綺麗な髪だよね。青い眼も」 「素敵な人だと思います」 美人の友達の話題になったからか、花鈴はちょっと唐突に前から気になっていた事を聞いてみる。 「ゆ〜君は、どんな娘が好み?」 「花鈴さんです」 即答だった。 「……」 花鈴はもう、とろけそうなくらい恥ずかしくて嬉しくて、悠希の体にぴったりとくっついていた。それは悠希も同じで、恥ずかしさを打ち消そうとして言った一言で、更に恥ずかしくなってしまう。 「ずっと、一緒にいたい……です。いさせて、ください」 「ゆ〜君。それって……プ、プロポーズだよ?」 「あ……。そう、かも」 二人揃ってしばらく硬直してしまう。暗い部屋の中、二人の顔は真っ赤。互いにそんな様子が想像できて、なんだかおかしくなってしまう。そんなことの繰り返し。 「ふふ」 「あはは」 嬉しそうに、けれどおかしそうにくすくす微笑む花鈴。悠希も同じように微笑んだ。 「花鈴さん」 「ゆー君」 ささやくように互いの名を呼び合って。 「大好き」 「僕も」 そして最後にまた、おやすみなさいのキスをするのだった。 …………
一方その頃。噂に上がった妹達こと、鈴那と鞠音はと言えば。 「ふにゃふにゃ〜」 楽しい夢でも見ているのか、しょっちゅう寝返りをうつ鈴那。 「ふみゃあぁ。おさかなのおさしみおいしいみゃ。かりん、おかわりだみゃ〜。みゃああぁぁ」 夢の中でおいしいものでも食べてるのか、寝言を呟く鞠音。 二人は大の仲良し。一緒の布団で気持ちよさそうに、楽しそうに眠るのだった。 更に一方その頃。
「ちっ。夜はまだまだこれからだっつーのに、どいつもこいつも健康的な時間に眠っちまいおってからに。さびしーじゃねーかってんだちくしょー! ……こんな時はそうだ、あの娘に一丁電話をかけてみっか!」 みんなが眠りについてやることが無くて、かといって何だか眠れず暇を持て余したご主人様は強い酒を飲んで豪快に酔っぱらいながら、仕事の相棒こと更志野新奈にいたずら電話をかけていた。 「はぁはぁはぁはぁ。おねーちゃん今パジャマの下にはいてるぱんつの色何? 柄は花柄? レース? 水玉? 縞パン? それとも、はいてない?」 と、あまりにも失礼というか変態的な質問を矢継ぎ早に繰り返す。 『……。何やってるんですか館長』 「ちっ。よく私とわかったね君。『ああもうっ! ふざけないでくださいっ!』とか顔を真っ赤にしてムキになって受話器を叩きつけるように置く展開を想像していたのに、思った以上に冷静なのだね君は」 『もう慣れました。館長のおかげで』 そんな電話をかけてくるのはそもそも館長しかいませんと新奈は思った。 「どういたしまして。それはなによりだ。強くなってくれて嬉しいよ」 慣れたくないけど慣れちゃったというのが正直なところ。時計の針が午前二時を差そうとしていた頃のこと。館長による傍迷惑な嫌がらせが始まった。 「で、君は今何をしておるのかね」 『そりゃ……寝てましたよ。時間が時間ですし。そんな事言うまでもないかと思うのですけど』 「いや、そんなことはない。午前二時はまだばりばりに起きているべき時間だ。テレホーダイの真っ最中じゃないかね? 青春のテレホタイムだよ君!」 『テレホ……って、何ですか』 「何っ!? テレホーダイを知らないのかね君は!?」 『知りません。何ですかそれは?』 「うーむむむ。世代の断絶を感じるぞ……。だめだ、朝が来る! 時間がない! 8時がくるぞおおおおっ! ぎゃああああ、と、テンションが無駄に上がっていったあの頃を知らんとは! 常時接続に慣れちまったんだな皆」 『そうなんですか』 新奈はよくわからないので適当に頷くことにした。 『それはそうと、こんな時間に何の御用ですか』 「あぁ。いやな。前に言ってたとおりウチの連中を引き連れて旅行に来ていてな。俺が空気を読み気を利かしてやって、悠希と花鈴のあまあまバカップルをベッドが一つしかない部屋に無理やり監禁してやったんだが、そしたら急に一人になっちまって寂しくなってだな。ふにゃぅと鞠ねこの二人はとっくのとうに仲良くぐーすか寝ちまっておるし。一人酒飲んでてもつまらんから暇つぶしに君に電話してみたわけだ」 『……そーですか』 館長らしいです。それはまたいらないお節介を、と新奈は思った。また、花鈴ちゃんと悠希君のお二人は本当に災難だったことでしょうねと、とても気の毒に感じたけれど、多分ほんわかするくらいあまあまだけどプラトニックな清く正しい一時を過ごしているに違いありませんねとも思った。それと共に、そんなことのため自分は叩き起こされたのか、と思うと怒りというよりも呆れに似た鬱陶しさが込み上げてくる。とっくに諦めてはいるからどうしようもないのだけれども。 「しかし、ふむ。ぐふふ。パジャマ姿の君も見てみたいぞ」 『……恥ずかしいので嫌です』 段々自分の対応がそっけなく、冷たい性格になっていくような気がしてちょっと心の中で泣けてくるけれど、理解してくれる人もいてくれますよね、と誰かに同意を求めたくもなる。あまりまともに取り合っているときりがないから。特にお酒が入っている時など尚更。酒癖の悪さは天下一品だった。 「ま、それはさておくとしてだ。最初に言った通り君が今はいているぱんつの色と柄と材質と使用している色素まで全てを教えろ。更には全素材の産地証明書と安全証明書も添付しろ! 大急ぎの仕事だから可及的やかに!」 『いやです。……何が産地証明書ですか、もう』 「教えられないというのかね? 今すぐ教えろ。さもないと」 『さもないと?』 「俺のパンツを君宛に送りつける! しかも大量に。しかもしかも全て使用済みだぜ!」 『はあ……』 何を考えているんですかと新奈が言い返そうとしたら、急にチャイムが鳴った。 『あれ? こんな時間に誰でしょう? 館長、少しだけ待っていてください』 「うむうむ。いくらでも待つぞ俺は」 ご主人様は満足げに一人ほくそ笑む。 「ふふふ。予定通りだな。こんなこともあろうかと、深夜2時30分指定で実はすでに送りつけてあったりするんだなこれが。全くもって予定通りだぜ。素晴らしい」 そのころ新奈は玄関先にて途方に暮れていた。あまりにも非常識な時間に、しかもわざわざチャーター便で送り付けられたのは、大型のトランクケース4箱分のパンツ。……無論館長がはいていたもの。種類も柄も豊富で、トランクスやブリーフがケースいっぱいにぎっしりと詰まっていた。 『……』 新奈は呆れ果て、無言。 (こういう時って、例えば『あの野郎……』とか、舌打ちでもしながら言っちゃってもいいものなんでしょうか) 目上の方に対し乱暴な言葉遣いをしてはいけないとは思いつつも、言いたくなってしまうのだったが、やっぱり言ってもいいのではないかなと思うのだった。どこまで下らないセクハラ及び嫌がらせに全力をかけるのだろう。何が彼をそこまで燃え上がらせるのだろう。新奈は絶対に理解できないし、しようとも思わずもう一回ため息をついてしまった。 『館長……。届きました……』 「おお、それは何よりだ! では後はよろしくなっ!」 そして一方的に電話は切れた。後に残されたのは呆然とする新奈だった。 『何が……よろしくな、よ! ああもうまったく! 変態館長っ!』 ああ、つい敬語じゃなくなっちゃった、と新奈はとほほと情けなくなるのだった。今度、花鈴ちゃんと館長の理不尽さについてお話を聞いてもらおうと思った。きっと二人とも同意しあって揃ってため息をついてしまうに違いない。 そして後日のこと。
「なんとぉっ!? 俺のセクハラをセクハラとも思わんとはっ! 畜生なかなかやるな新奈君!」 「ああもう……。何やってるんですか一体」 驚く館長。それもそのはず、真夜中に大量に送り付けたパンツは全て綺麗に洗濯されてしわを取って干されてきちんと畳んでトランクに詰められ、館長に返還されたのだった。理不尽で非常識極まりない館長に対し、あまりにも丁寧かつ優しい対応だった。 「全く、律義すぎるぞ君は」 「じゃ、どうして欲しかったんですか」 「そりゃ、君。あれだ。くんくん匂いをかいでみるとか、頭にかぶってみるとか……」 「はぁ……。しませんっ! してみるわけがないでしょうっ! してたまりますかっ! まったくもうっ!」 さすがに新奈も我慢の限界。館長が驚愕するほど大きな声ではっきりと怒るのだった。 「お、おお。その『まったくもうっ!』っていい感じだ!! 世話焼き女房系の幼なじみキャラっぽいぜ!」 「もう、知りません……」 「まあまあ、そういうな。……というわけで旅行のお土産だ」 「何ですか?」 「悠希のパンツ」 「なっ!」 思わず吹き出しそうになってしまう。 「もうっ! 何て事をっ! 返してあげてくださいっ! またパンツですかっ!」 「ふふふ。返してもいいが、君が行って来たまえ。親友の彼氏さんがはいてたパンツを直に渡しにだね」 にやにやしている館長に対し、ははあ、この男は最初からこれが狙いでこういう嫌がらせをするんですか……。いいでしょう。そういうつもりでしたらどこまでも誠実に対応致しましょう、と新奈は思った。 「ええ。返してあげますよ。大丈夫です。ちゃんと説明しますから。館長がこっそり悠希君のパンツをくすねて私に渡して返して来いと嫌がらせをしてきたので、悠希君にお返しますね。って。じゃ、今から洗濯してアイロンかけして紙袋に包んでから返しに行ってきますからね! 留守番お願いします!」 ばたん、とちょっと乱暴にドアが閉じられた。 「う〜む。……新奈君も段々と語尾にエクスクラメーションマークが似合ってきたな。良い傾向だようむうむ」 後に残されたのは全く反省していない変態が一人だったとさ。 喫茶店にて。
「悠希君。実は、かくかくしかじかで」 ありのままを説明する新奈。 「は、はあ……。そうですか……」 ため息をつく悠希と。 「もう……。ご主人様、何を考えているんですか〜」 一緒に来ていた彼女さんこと花鈴もため息をつくのだったとさ。 おしまい
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