-Colorful party Vol.3 可愛い寝顔-
登場人物: ●ご主人様(ごしゅじんさま) 色彩屋根裏図書館館長にして花鈴小屋ご主人様。 いろいろと何かが間違っている人。高度な科学技術や戦闘能力をろくな事に使わないのが特徴で、その事をかえって誇りに思っている。 今日もまた何かろくでもないことを考えているに違いないと思わせる、緑色をした物体。ベストカラーはファンタメ○ンソーダの鮮やかな緑色。ファミレスのドリンクバーで真っ先に選ぶのはそれだ。 ●沖野 花鈴(おきの かりん) 黒髪とシングルな三つ編みが特徴と言えば特徴な地味娘……が、特大のバストサイズは全然地味ではなかったりする。 悠希君にとって大切な彼女さん、鈴那と鞠音にとって優しいお姉ちゃん。鈴那は実妹で、鞠音とは鈴那も含めてお互いに姉妹と認め合ってる仲。とにかく優しくてお人好しでみんなに慕われている。 のんびり屋さんなわりに炊事掃除洗濯と家事は万能。だけど時折ちょっと天然さんっぷりを発揮してしまい、そんなところが可愛いと悠希に思われてる。 とっても恥ずかしがり屋さんで、悠希とはまだまだ清く正しい関係。 ●沖野 鈴那(おきの れいな) 花鈴の妹。とっても元気で無邪気な小っこい娘。とても子猫っぽい仕草。 悠希の事も実の兄のように慕っていて、笑顔で飛びついてスキンシップするのがご挨拶となっている。 皆に可愛がられているマスコットのような女の子。 ●鞠音(まりね) オッドアイな猫又娘。鈴那達の大親友。通称鞠ねこ。 過去のとある一件により、花鈴小屋をとても優しくも『暖かい場所』と思い、大切に思っている。鈴那も花鈴も大好きな人達と思っているので、いじめたりすると恐い。噛まれたりとか、引っかかれたりとか。怒らせてはいけない。 もちろん悠希にも懐いていて、鈴那共々すりすりしていくのがご挨拶となっている。 ちゃんと優しく接してあげれば懐くと思われる。 ●魁納 悠希(かいな ゆうき) 花鈴の彼氏さん、とってもらぶらぶ。とっても美少年で純情で熱血漢。花鈴の一歳年下。女装がとても似合うけれど、男としての意地があるのでさせようとすると激しく怒る。が、いじり甲斐はありそう。 鈴那と鞠音にとってはお兄ちゃんみたいな存在。 それはとってもぽかぽかした日曜日のこと。空を見上げてみると雲一つない快晴で、まさに布団干しにうってつけの日だった。そんなわけなので、花鈴は二人の可愛い妹、鈴那と鞠音の手を借りて二階のベランダに布団を干すことにしたのだった。 ――それからしばらくして。干し終えた布団を布団叩きでしっかりと埃を払い、取り込んでからのこと。 「ん……」 室内の、きちんと折り畳んで重ねられた布団の上にて、気持ち良さそうに寝息をたてているのはなんと花鈴だった。無邪気で元気でお子様な鈴那や鞠音ではなく、しっかり者の花鈴がどうしてそんなことをしているのかと言うと? 取り込んだばかりのふかふかして暖かい布団にちょっとだけ顔を埋めてみたくなってしまって、そうして普段の疲れもあったのか、すぐに眠気が込み上げてきてしまって、結局今に至るのだった。つまりは、微笑ましいようなちょっとの出来心と言ったところだろう。 「おねえちゃ〜ん」 そんなところにひょこっと現れたのは鈴那。日差しの差し込む明るい室内を見渡し、花鈴の様子を見てきょとんとしながら瞬きを繰り返し、どうしたのかなと不思議そうに覗き込む。くりくりした目はどこまでも真っ直ぐで、綺麗な瞳に花鈴の姿がうつっていた。 「ふにゃにゃ?」 「鈴那どうしたんだみゃ?」 後ろから鈴那の大親友の鞠音もやってきた。猫耳と二房の尻尾がぴんと立っている。 「おねえちゃん寝てるの。とっても気持ち良さそうなの〜」 「ほんとだみゃ〜」 何だか起こしちゃ可愛そうだねと二人は思い、そのままにしておいてあげようということになり、その場を離れようとした。が……丁度その時、チャイムの音がした。鈴那と鞠音は部屋を出て階段をとてとてと駆け下り、玄関まで急ぐ。ドアを開くとそこには見知った顔。 「こんにちは」 「ゆ〜おに〜ちゃんなの〜」 「悠希だみゃ〜ん」 「わわわわっ」 一見するとボーイッシュな女の子と言われてもおかしくないような美少年……花鈴の彼氏さんこと悠希君が遊びにやってきたのだった。鈴那と鞠音は早速飛びつくような勢いでぎゅむっと抱き着いて甘える。悠希も二人を心の底から可愛いなあと思って微笑むのだった。 「そだみゃ。悠希にいいもの見せてあげるみゃ」 「そうなの〜」 鞠音が丁度いいとばかりに思いつき、鈴那もうんうんと同意。悠希が何だろう? と、思う間もなく鈴那に腕を引っ張られ、鞠音に背中を押されて二階へと案内される。そうして『いいもの』が何か、すぐに理解することになるのだった。 「花鈴さん?」 ふかふかの布団の上で可愛らしく寝息を立てている花鈴を見て、悠希は一瞬戸惑うのだった。同時に悠希はとっても失礼なことを考えてしまう、こういう感じの役回りは本来鞠音か鈴那がそれこそ適役なのではないかな、などと。本人達が聞いたら怒りそうなので、面と向かっては言わないけれど。もっとも、この三人の事をよく知る人ならば誰でもそう思うんじゃないかな。しっかりものの花鈴お姉ちゃんがどうしてまた? と、ちょっとだけ不思議に思ったのだった。 「悠希見てみるみゃ〜。花鈴可愛いみゃ〜。ほっぺたぷにぷにだみゃ〜」 そう言って鞠音は人差し指で花鈴のほっぺをつんつんしていた。本当にその通りで、花鈴の瑞々しい肌は白くて綺麗だった。 「おねえちゃん可愛いの〜」 鈴那も何だか嬉しそう。もっとも、この娘はいっつもにこにこ楽しそうにしているのだけど、今は一段と声が弾んでいる。 「あはは」 うん。本当にすっごく可愛いね、と悠希は思った。もうなんだか、ぎゅむっと抱き締めたくなるほどに心がほんわかとしてくる。普段から、僕の彼女さんはものすごく可愛いんです、とか誰彼構わず自慢したくなる時があるけれど、今がまさにそうだった。けれどでも、やっぱり恥ずかしいからそんな風に自慢することはできないんだろうなと思った。 「みゃみゃ! そうだみゃ悠希。携帯持ってるかみゃー? カメラついてるかみゃー?」 「持ってるしカメラもついてるけど、どうしたの? ……って、まさか撮るつもり!?」 「そだみゃ〜。そのまさかだみゃ。貸してみゃ」 思い浮かんだら即実行。鞠音の行動力はものすごく早かった。 「ま、鞠音ちゃん〜! それはいけないことじゃ……って、ああ。遅いか」 悠希が手に持っていた携帯をひょいっと受け取って構える鞠音。意外な程に鞠音は結構機械に強くて、ぱぱっと操作して撮影モードにして一枚激写。ぴろりん、と撮影時の音が鳴り、安らかな、天使のような寝顔が一枚、被写体がブれることもピンぼけすることもなくくっきりと撮られていた。 「撮ったみゃ撮ったみゃ撮ったみゃ〜ん! 早速待ち受けにしちゃうみゃ〜!」 「ちょ! 鞠音ちゃん、流石にそれはだめ〜!」 確かに可愛い写真だけどでもでもでも、と悠希は思った。もしもそんな待ち受けをクラスの悪友連中や女子何かに見られた日にはもう、好奇と冷やかしと悪意の入り交じった連中によって質問攻めにされるに違いない。自分だけが冷やかされるのならまだしも、花鈴にまで迷惑が及ぶのは嫌だった。悠希が言うと、鞠音はすんなり携帯を返してくれた。とっても素直なのだった。 「そうかみゃ? それにしても、花鈴可愛いみゃ〜」 「おねえちゃん可愛いの〜」 それは完全同意だけど。でも、寝顔なんて撮っちゃだめだよねと思いつつ、撮れた写真がとても可愛くて消すのが惜しいけれど、きっと本人は恥ずかしがって嫌がるだろうなあとも悠希は思ってちょっと苦悩。そうだ。ちょっと卑怯だけれども、撮らなかった事にしようかな。秘密にしておこうかな。うん、そうしよう。ということで決着をつけようと思ったがそううまくはいかなかった。 「悠希は花鈴のどんなとこが一番好きなんだみゃ?」 「え?」 それは余りにも唐突な質問だったけれど、悠希が考える間もなく鞠音は笑顔で突っ込みを入れてきた。まくしたてるように、せっかちな感じに。 「みゃっ! やっぱりおっぱいなのかみゃ? 大っきなおっぱいが一番好きなのかみゃ? 触ってみたいと思うのかみゃ〜?」 「おねえちゃんのおっぱい、とっても大っきくてぷるぷるなの〜。鈴那もおねえちゃんみたいになりたいの〜」 鞠音に便乗したわけではないだろうけれど、鈴那も何だかそんなことを言い始めた。無邪気な可愛い妹達は何だか今、悪戯っ子モードのようだった。止めようにも止められない。 「ち、ち、違うよ〜! って、鈴那ちゃん! 何してんの〜!」 「ふにゃにゃ?」 鈴那は笑顔のまま、花鈴の胸を側面からつんつんと人差し指で突いていた。鈴那の細い指が、花鈴の服の上からわかるくらいに大きな膨らみにめり込んでいた。それはとってもいけない事だよと、悠希は言っているのだけど鈴那はやっぱりよくわかっていないようだった。 「そっかみゃ? 悠希、見てみるみゃ〜。花鈴はおでこも可愛いんだみゃ。つるつるだみゃ〜」 今度はまた鞠音が花鈴に近づいて、手で前髪をかき分けてみせる。 「ま、鞠音ちゃん〜。鈴那ちゃんももう……花鈴さんをおもちゃにしちゃだめだよ〜」 とか言っている側から……。 「ふにゃぅ〜ん! おねえちゃ〜ん!」 花鈴の背中に鈴那が飛びつくようにして抱き着いていた。誰よりも大好きなお姉ちゃんの背中に。そうしして甘えたようにすりすりと頬をこすりつける。 「うう、ん……?」 そうして花鈴は目を覚ましたようだった。 「あ、あれ? あれ? あれれ?」 当然の事ながら、一瞬状況が読めなかった。鞠音の顔が目前にあって、背中には鈴那が覆い被さるように抱きついている。そして側には悠希。ああ、と花鈴は思い出した。確か、干していた布団を取り入れて畳んで……ぽかぽかしてふかふかした感じがとっても気持ちよさそうで、ちょっとだけと思いながら顔を埋めていたらすぐにうとうととしてきて、そのまま眠っちゃったんだ、と。恥ずかしい所を見せちゃったな、と思う。 「あは。鈴那ちゃん、鞠ちゃん。ゆー君も……。おはよ」 目元を指でこすりながら、にっこりと微笑む花鈴。 「おねえちゃんおはよなの〜」 「花鈴の寝顔可愛かったみゃ〜。思わず悠希の携帯で撮っちゃったみゃ」 花鈴はまだぼーっとしたまま、そうだったんだ、と一瞬思ってから……。重大な事実に気付く。 「え……ええええ〜!? ま、鞠ちゃん〜! ゆー君本当!?」 「は、はい。本当です。……ほら」 ごまかすことも嘘をつくこともできず、白状するように携帯の画面を見せる。そこには無防備な寝顔を晒す花鈴。一瞬、よだれでも足らしていないか不安になったけれど、それについては大丈夫だった。それにしても余りにも恥ずかしい姿に、花鈴は顔を手で覆いながら絶叫するのだった。 「はうぅっ! け、消して〜〜〜! 恥ずかしいよぉ〜〜〜!」 花鈴の頼みでもそれは……と、悠希は思って頭を下げた。 「ごめんなさい! こんな可愛い写真、もったいなくて……消せないです! 誰にも見せませんから! ……本当にごめんなさい!」 悠希は遠回しに、消さずに宝物にしますと言っているのだった。花鈴はもう、恥ずかしくてたまらない。 「ゆ、ゆー君の意地悪〜!」 「だ、だって、だって! ……可愛いんだもん!」 「か、可愛くないよぉ〜! 恥ずかしい〜!」 悠希と花鈴のそんなやり取りを見ていて鞠音は言った。悪意なんて欠けらも無いのが丸わかりな事を。 「みゃ? どうしてそんなに恥ずかしいんだみゃ? 花鈴は悠希に寝てるところとかいっぱい見られてるんじゃないのかみゃ〜?」 寝顔を見られるとはつまり……。清く正しいお付き合いを続けている二人にとって、鞠音が言う条件には当てはまらないようで、二人揃って赤面してしまうのだった。 「なななな、何を言ってるのかな鞠音ちゃん!」 「そ、そんなことないよ……。鞠ちゃん〜!」 「ふ〜ん。そなのかみゃー。ま、いいみゃ〜。後は二人でごゆっくりらぶらぶしていくみゃ〜」 と、鞠音が言うと。 「ごゆっくりらぶらぶなの〜」 多分、鞠音が言っている意味が何のことかよくわかってない鈴那も笑顔でそう言って、部屋を出て行くのだった。 「も、もう〜。鞠ちゃんったら……。鈴那ちゃんも」 「あ、あはは……」 そうして二人きりになった。今の二人にとって鈴那と鞠音はまさしく嵐のような存在だった。 「写真……。消してくれないの?」 「だって。可愛すぎるから」 「意地悪……」 ちょっと眉を寄せ、頬を膨らませていじける花鈴。だけど悠希にはそんな仕草も可愛くて、ついつい抱き締めてしまう。ぎゅむ、とちょっと強く。花鈴の体は鈴那程じゃないけれど小さくて柔らかくて華奢で、とっても暖かかった。 「わ、わ。ゆー君っ」 「何ですか?」 「何ですか……って、もう。恥ずかしいよ。んんっ!」 まさに花鈴が言っている側から、悠希はキスをした。花鈴は目を見開いて恥じらうけれど、決して嫌じゃなくて、むしろもっとして欲しいと思った。そんな気持ちは簡単に見透かされてしまい、言い返そうとして出た言葉はやっぱり決まっている。 「意地悪……」 「うん。そうなのかも」 「何……してるの?」 やっと唇を離してもらったと思ったら、今度は柔らかな前髪をかき分けられて、花鈴は怪訝そうな顔。 「あ、あの。その……ね。鞠音ちゃんが、花鈴さんはおでこも可愛いって言って、こんな風に見せてもらったから」 「ま、鞠ちゃん〜! 何をしていたの〜!?」 今日はもう、何だか鞠音と鈴那の可愛らしいいたずらに翻弄されっぱなし。 「本当に、可愛いよね」 「え……。あ」 悠希は片手で花鈴のさらさらの前髪をかき分けたまま、おでこにキスをした。そうして無意識のうちに、花鈴の頭をなでなでしていた。 「ん……。ゆ、ゆー君。私が年上なの、忘れてるでしょ?」 「いいじゃない年上だって。可愛いんだから」 「え、え……。あ……んっ!」 今度は花鈴の小さな顎を人差し指の先でくい、とちょっと強く押し上げさせ、無防備な首元にキスをした。こそばゆさに花鈴は喘いだような声を上げてしまう。 「花鈴さん。今の声、えっちだよ」 「だ、だってだってだって。ゆー君が意地悪するから」 そう言われれば言われる程に、花鈴をいじめてみたくなってしまう悠希だった。 「そう。花鈴さん、キス嫌いなんだ。じゃ、もうするのやめちゃおっかな?」 「そっ……んっ!」 そんなの嫌だよ、と言おうとしようとしてまたまた唇を塞がれてしまう。 「冗談、ですよ。でも……本当に可愛いから。だから、いっぱいキスしたくなっちゃったんです」 「意地悪……」 「ごめんね。……怒った?」 「怒ってないもん」 どこか意固地になっていそうな花鈴。 「よかった。嫌われちゃったかな、なんて思っちゃったりもして、少しどきどきしてました」 「嫌いになんてならないもん。その……。えと……。も、もう一回……して」 目を閉じてキスのおねだり。互いの吐息すらはっきりと聞こえる至近距離。ゆっくりと近付いてくる温もりがもどかしい。 「ん……」 「一回だけで、いいの?」 おかわりは? 何て聞かれているみたいに感じる。 「……」 もちろんよくない。ふるふると頭を振って、もう一回して……と、お願い。お望み通りに悠希は花鈴を引き寄せてもう一度キス。 「もう一回?」 「……」 花鈴は悠希の質問にうん、と心の中で呟きながらこくんと頷く。またまたキス。 「花鈴さん。胸がこんなにドキドキしてるのに、もっとキスして欲しいんだ。中毒になっちゃった?」 「だ、だってぇ。……え? 胸……って。ゆ、ゆー君のえっち!」 顔を真っ赤にしながら非難する花鈴に悠希は涼しい顔でさらりと言った。そこは触っちゃいけないところだと、暗黙の了解のように二人で取り決めているから。 「僕じゃないよ? 花鈴さんが大っきな胸を僕に当ててきているんでしょ?」 「ち、違うよぉ。好きで大っきいわけじゃないもん……。えっち」 悠希はまたまたちょっと意地悪モード。何となく自分の行動を理解をしたような気になっていった。僕はこの可憐な彼女さんにちょっと意地悪をしてみて、困ったり戸惑ったり恥じらったりするところがたまらなく見たいんだ、と。それがまた、たまらないくらいに可愛いのだから。 「でも、困ったね。今みたいにキスしたり、こんな風にぎゅむ〜って抱き締めたりしたら、どうしても当たっちゃうよね? やめよっか?」 双方にとって、やめたりなんてできるわけがない。そんなのは嫌。あっちを立てればこっちが立たない状況。 「うぅ……。えっち、だよ……」 もちろん悠希も意地悪の度はわきまえていて、あくまで冗談ですよと毎回誤魔化すように笑って言った。そんなことは花鈴にもわかっているけれど、それでもやっぱり恥ずかしい。 「ごめんね。……さっき、鞠音ちゃんに聞かれたんです。花鈴さんのどこが一番好きなの? って」 鞠音に言われた直球な質問の事を思い出す。 「そうなんだ」 「結局答えなかったけど。鞠音ちゃんは言うんですよ。おっぱいでしょ、って何度も。僕も違う〜って言いましたけどでも」 「でも?」 「やっぱり、大好きかも」 そう言って突然、悠希は花鈴の胸に顔を埋めてみた。手で触るのはだめでも、これならOKかなと思ったから。そもそも、これでOKにしなければ今後抱きしめ合う事もキスし合う事もできないのだから、曖昧なのはご愛敬じゃないかな、といった解釈。 「あ、あ、あ……。も、もう。ゆー君のえっち〜!」 「あはは。ごめんね。……もう、本当に大好きだから」 「んん……ん〜っ!」 もう何度目かもわからないけれど、またまたキス。花鈴は優しいキスで何でもごまかされてる気がしたけれど、でもやっぱり嫌じゃなくて、それどころか優しさに身を任せたくなってしまって、全身で悠希に甘えてしまう。でもでも、やっぱりどこか悔しくて、そもそも寝顔の写真も消してくれなかったわけで、このままじゃ終われないよとばかりに密かに可愛らしい反撃を企てるのだった。 そして……。 ――ある休日のお昼。
悠希はまたまた花鈴のところに遊びにやってきた。愛しの彼女さんから『よかったらお昼ご飯、食べていって』とのお誘いを受けたら断る訳がない。花鈴が作る料理は彼女の性格と同じく、素朴だけれども丁寧で家庭的でおいしくて、みんなが笑顔になってくれるのを何よりも望んでいて、愛情たっぷりだった。 「うまうまみゃ〜ん」 「おいしいの」 「うむ! 美味いぞ。食うぞ食うぞ食うぞおおおおぉ!」 いつも通りの鞠音と鈴那と、ひたすら何も考えず脇目もふらず箸でご飯をかっこむご主人様。そうして花鈴と悠希の二人はと言えば……。 「ゆー君。はい、あ〜んして」 「え?」 悠希は一瞬ドキッとしてしまう。何だか不思議な気持ち。とっても恥ずかしがり屋さんな花鈴が今日に限って、箸であ〜んして、などという大胆なことをしようとしている。これは一体どういう事なのだろう? 「ゆー君。……こういうの、嫌?」 悲しげとまではいかないけれど、残念そうな表情を見せる花鈴。そう言われて嫌などと言える悠希ではなかった。 「嫌じゃないです」 「よかったぁ。……はい、あ〜ん」 ほっとしたのか笑顔の花鈴。悠希はああやっぱり、この娘は可愛すぎると思って何だか猛烈に嬉しくなって、口を思い切り大きく開けてみる。 「あ〜……」 差し出された箸の先をくわえ込んだその瞬間。ぱしゃ、とシャッターを切る音。 「んっ!?」 「……撮ったみゃ。これでいいのかみゃ?」 一瞬の隙をついて、花鈴の携帯で悠希を激写している鞠音だった。 「ふにゃ〜?」 鈴那は相変わらずよくわかって無さそうだけど楽しそうな笑顔。 「うん。鞠ちゃんありがと」 「なっ!?」 「みゃっふっふ。何だか面白そうだから花鈴に言われた通りにしてみたんだみゃ〜ん」 いたずらっぽく笑う鞠音の言にびっくり仰天の悠希。それに対して花鈴はちょっと真剣そうに言ってみせる。 「仕返し、だよ。この前の。これでおあいこだよ〜」 花鈴は改めて鞠音がもっている携帯のディスプレイをまじまじと見つめ、すぐにおかしくなって吹きだして、くすくすと笑ってしまう。 「ゆー君の顔可愛いよ〜。ふふ。あは。ふふふ」 「か、花鈴さん〜! そんな写真可愛くない〜! ああああ、は、恥ずかしいよそんな顔〜! 消して〜!」 「ゆ、ゆー君ごめんね〜。可愛いから、このままで。うふふ。誰にも見せないから〜」 「か、花鈴さん〜〜〜!」 この前とは立場が完全に逆転。花鈴も可愛いだけじゃなくて時折頑張っちゃうような、ただでは負けない女の子なのだった。まさにしてやったりと、ゆーくんに隠れてぺろっと舌を出して悪戯っぽく微笑むのだった。 「ふー。おるぁ、おかわりじゃい!」 ただ一人、周囲の状況に全く流されず我関せず飯を食いまくってるご主人様に、花鈴は笑顔では〜い、わかりました〜、と言いながら席を立つのだったとさ。 おしまい
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