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-Colorful party Vol.4 親友の親友×2-










登場人物:

●新沼 美穂(にいぬま みほ)
花鈴のクラスメイトで親友。
ショートカットの髪型に強気な眼差し。男勝りでさばさばとした性格の姐御肌。喧嘩も口喧嘩もめっぽう強い。
男子連中が花鈴をいやらしい目で見ていたりすると毎度の如く睨み付けて一喝してくれる。とっても親友思いな熱血娘。

●更志野 新奈(さらしの にいな)
花鈴の親友。色彩屋根裏図書館司書見習い。仕事熱心で優秀で金髪碧眼な美少女。不本意な事情により習得した合気道や関節技は達人レベル。
日々繰り出される館長のセクハラや理不尽な要求を受け流しては防御する毎日。
ツンケンしていそうな、きつそうな見た目と違ってとても穏やかな物腰で丁寧な言葉遣いの娘。

●沖野 花鈴(おきの かりん)
黒髪と一本の三つ編みが特徴といえば特徴な地味娘……が、バストサイズに関しては全然地味ではなかったりする。
悠希君にとっては大切な彼女さん、鈴那と鞠音にとっては優しいお姉ちゃん、美穂や新奈とは親友。お人好しと言われるくらい親切で、みんなからとても慕われている娘。
のんびり屋さんなわりに炊事掃除洗濯と家事は万能。だけど時折ちょっと天然さんっぷりを発揮してしまい、そんなところが可愛いとみんなに思われてる。
とっても恥ずかしがり屋さんで、悠希とはまだまだ清く正しい関係。

●沖野 鈴那(おきの れいな)
花鈴の妹。とっても人懐こくて元気で無邪気なちびっこ。いつも子猫っぽい仕草。
花鈴や悠希になついていて、笑顔で飛びついてはスキンシップするのがご挨拶となっている。
皆に可愛がられているマスコットのような女の子。

●鞠音(まりね)
オッドアイな猫又娘で花鈴や鈴那の親友。通称鞠ねこ。
過去のとある一件により、花鈴小屋をとても優しくも『暖かい場所』として、大切に思っている。彼女にとっては鈴那も花鈴もとても大好きな人達なので、目の前でその二人をいじめたりちょっかいを出したりすると烈火の如く怒る。その様はとっても恐い。暴走したご主人様から花鈴を守るのに欠かせない希有な人材。
鈴那と同じく花鈴や悠希になついていて、すりすりしていくのがご挨拶となっている。

●館長・ご主人様(かんちょう・ごしゅじんさま)
色彩屋根裏図書館館長にして花鈴小屋ご主人様。
いろいろと何かがおかしく間違っている人。高度な科学技術や強大な戦闘能力をろくな事に使わないのが特徴で、その事を誇りにすら思っている。
今日もまた何かろくでもないことを考えているに違いないと思わせる、緑色をした謎の生き物。
ベストカラーはファンタメ○ンソーダの鮮やかな緑色。ファミレスのドリンクバーで選ぶのは真っ先にそれだ。

●魁納 悠希(かいな ゆうき)
花鈴の一歳年下な彼氏さん。とってもらぶらぶ。美少年で純情で熱血漢。
女装がとても似合うけれど、男としての意地があるので無理にさせようとすると激しく怒る。
鈴那と鞠音にとってはまさに優しいお兄ちゃんみたいな存在。




















 それは今になってみると懐かしい思い出話。『彼女』は少し微笑ましい気分になりながら時折思い出す。形としては偶然の出会いだったけれど、もしかすると必然だったのかもしれないな、と。運命とは本当に面白いものだと思うのだった。

 ――ある日のこと。夕暮れを迎えるくらいの時刻に賑やかな商店街を歩いていると。……新沼美穂と言う名の女の子はとある光景を目撃したのだった。あれは確か、学校帰りのことだったなぁ、と、回想するたびに思い出す出来事だった。

(あ、花鈴ちゃんだ)

 目に入るのはいつも見慣れたクラスメイトの後ろ姿。艶やかな黒髪を編んで一房の三つ編みにした、いつも通りの優しく気立てのいい笑顔を見せている女の子。そしてちょっと……いいや、制服の上からでもはっきりとわかる、かなりボリュームのある丸いバスト。美穂にとって花鈴は数多くいるクラスメイトの中でも特に仲良しで、お互いに親友と呼んでいいであろう仲だった。そんなわけで早速声をかけようかなと、そう思うのは当然の流れだけれども、ふとそれが憚られる。何故か? 何故ならば、普段と違い花鈴のお隣には、美穂が知らない人の姿があったからに他ならない。もっとも、別に親友が知らない人と一緒にいたからといって、話をしてはいけないという決まり事はないのだが、何故だか話しかけ辛いような、邪魔をしてはいけないような、そんな気持ちになっていた。

(わ。金髪だ……)

 話かけられなかった理由の一つとして、花鈴の隣にいる人物の特徴が挙げられるかもしれない。バストサイズの割に身長は150cm台前半という小柄な花鈴に比べ、十数センチくらいは高くて細身のすらっとした美少女だった。歳の頃も恐らく花鈴と同じくらいだけど、決定的に異なるのは髪の色。きらきらと輝くような金色の髪を左右に分けて、可愛らしいリボンで留めている。ふんわりとした髪はたっぷりとボリュームがあって、黒髪の花鈴とはまた違った、例えるならば童話にでも出てきそうな感じの美少女だなとか美穂は思うのだった。気になって仕方がなくて更にまじまじと見つめていると、澄んだ青い瞳に気付く。あーもうなんつーか陳腐な例えだけど、宝石みたいだなぁと。そんな風に思うくらいにとにかく印象的だった。

 外国人のお友達の方かぁ、すっごく綺麗な人だなぁ、としばらく見とれてしまったけれど、何故だか気付かれてしまうのを恐れて目を逸らしてしまった。心の中ではもう少しまじまじと見つめていたかったのだけども。

(花鈴ちゃんとどういう関係なんだろ? ……って、お友達に決まってるよね。ん……あれ? どういうって、どういうことなんだろう? どうしてそんなことが気になってるのかなあたしは。それにしても避けることもないのになぁ)

 何だかちょっぴり釈然としないものを感じながら、彼女はその場を離れるのだった。










親友の親友×2










 誰しも友達と言えるような関係のクラスメイトは数多くいたとしても、お互いに親友だと認め合える関係は幾分限られるものだろう。彼女……新沼美穂にとっても大体その通りだった。

 ――ショートカットだけどボーイッシュと言うよりも男勝りで豪快。身長も高めでスポーツ万能で喧嘩も強く、時には男子連中を震え上がらせるくらいドスをきかせた声を出してみたりしたりする。一見クールで姉御肌で頼りになって何故だかやたらに女生徒に好かれたりするけれど、本人は同性に好かれてもねぇ、と困り顔。そんな美穂のクラスメイトにして一番の親友はと言えば、まるで正反対のおっとりさんなのだった。時折思う。どうしてこのおっとりしたほんわかな娘とあたしは仲良しなんだろうか、と。共通点なんて殆どないんじゃなかろうかと不思議に思うけれど、きっとどこかで波長と言うべきか馬が合うのだろう。

「美穂ちゃんおはよ〜」

「あ、花鈴ちゃんおはよ」

 朝。登校中に出会っていつも通りのご挨拶。そういえば、と美穂は昨日見かけた外国人のお友達さんの事を聞いてみようかな、と思ったのだけれども、それは可愛らしい闖入者により遮られた。いつものよーにぎゅむ〜っと抱き着いてくるふにふにした柔らかな感触。誰が抱きついてきたのかはすぐにわかる。

「美穂おねえちゃんおはよなの〜」

「鈴那ちゃんおはよ〜。今日も元気だねぇ」

 それは美穂が予想した通り、花鈴の妹の鈴那だった。小柄な花鈴よりも更に一回りも小さくて、人懐こい子猫のように愛らしい。美穂も可愛さのあまりついつい頭をなでなでしてあげてしまったりすると、鈴那は本当に嬉しそうに笑顔を見せる。子供扱いしたら怒っちゃうかな、と最初の頃は思ったけれどそんな事は全くの杞憂だった。美穂は毎度の恒例事業の如く、今日も優しく頭を撫でてあげるのだった。

「ふにゃにゃんにゃん」

「ふふ」

 鈴那とのやりとりを見て花鈴も楽しそうに微笑んでいる。何だかこう、いつもお決まりの風景なのだけど、この姉妹と一緒にいるとそれだけでほんわかしてきちゃうな〜と、美穂は思うのだった。そんなわけで美穂は楽しくお話に花を咲かせながら登校することになり、結局昨日目撃した花鈴の外国人なお友達さんの事を聞くのを忘れてしまったのだった。そのことは授業が始まってからようやく思い出したのだが。

(ま、いっか。別に問いたださなくてもねー)

 そしてそのまま印象的な美少女のことも記憶の彼方へ、忘れてしまう……と、いうことにはならなかった。





ある日の午後。





 どこかの誰かが体験したシチュエーションと似ているけれど、視点はガラッと入れ替わる。

(あれ? 花鈴ちゃんだ)

 いつしか美穂が目撃した金髪碧眼な少女、新奈が買い物をしに商店街へとやってきたら、向こうの方に制服姿の親友、花鈴の姿を見つけた。折角だから声をかけようかなと思ったが、憚られてしまった。お友達が側にいるようで、二人で楽しそうにお話をしているから。別にお友達と一緒だからといって避けなくてもいいのだけど、お邪魔しちゃ悪いかなと思ってしまったのだった。それでも、去り際にちらっと眺めて気付いたことがあった。

(うーん)

 何だか、ほんわかしてのんびり屋な花鈴とは性格が全然違いそうなお友達だなぁ、と思った。細身だけど姿勢が良くて骨格がしっかりしてそうな体型で、凜とした表情は強気な性格が滲み出ていて、怒って睨み付けられたりすると眼光も鋭そうで威圧感を放ちそう。もしかすると何かしら格闘技でもやっているのかもしれないですね、とか新奈は推測したのだった。何となく、打撃系とか強そうです、と。その結果は当たらずとも遠からず。美穂は格闘技自体は専門ではやっていないけれど、喧嘩の強さは並の男子以上なのだったが、この時点で新奈が知る由もなかったのは当然のこと。それにしても花鈴と普段どんなお話をしているのかなと、少し興味を持った。

(今度、花鈴ちゃんに聞いてみようかな)

 二人の制服姿をちょっぴり羨ましく思いながら、その場を後にすることにした新奈だった。何しろ荷物もちょっぴり重たかったので。その大部分は、昼食時に職場の上司兼雇い主兼創造主がドカ食いする食材で占められていた。もっとも、折角丹精込めて作ってあげてもやれ味が今一つだの、相変わらず個性が感じられない料理だだの、味付けが平凡すぎるだの散々言われているのだった。それだけ酷評されるのならば怒って作るのをやめればいいのだが、新奈はどこか諦めているのか達観しているのか、上司の暴言や嫌味に対し『……もういいです』と、溜息をつきながら差し出してしまうのだった。まずいとか言うのなら毎度おかわりなんてしなければいいのにと思いつつ。

 ともあれ、それきり美穂と新奈の間接的な接点は途絶えた。……と、思われた。しかし、誰もが予想もしない形で再び接点は生まれるのだった。

 ――ある日の午後。三度、商店街の一角という場所。

「あ」

「あ」

 それが初対面の第一声だった。お互い全く同じタイミングで、声の大きさもトーンも全く一緒。それどころか、表情も心情も同じような感じで、挙句の果てに瞬きのタイミングすらぴったり。例えるならそれは、話をしていて何故か声がハモった時のような、シンクロ率の高さが感じられる瞬間だった。

 混乱しまくる美穂。思考がぐるぐるとループを繰り返す。

(この人は……。あ、あれ。えっと。えーっと。な、何て言えばよかったんだっけ? あ、あれあれ。あ、ああ……そう言えばこの人、私の事知らないんだったっけ。あれ? えっとどうなんだったけ? 何だか知っているようなそんな感じがする。って、な、何で!?)

 もっとも、新奈は新奈で混乱していた。

(こ、声出しちゃいました。つい……あ、って言っちゃいました。き、気まずいです……。あ、あれ……。この方は花鈴ちゃんのお友達だけど、私のことは知らないはずでしたよね、そういえば)

 このようなどっちつかずな状況を打開するには行動に動くしかない。美穂はこれまでの人生の中で、迷わずそのように行動してきた。大体の場合においてそれは上手くいっていた。

「あ、あの」

 次の一手は新奈だった。戸惑いながらも何とか出たような声。そして、新奈に声をかけられて美穂はと言えば、先手を取られ受け身になってはいけないと攻撃的な姿勢を貫こうと決意した。

(え、ええいままよ!)

 そして劣勢を覆すべく思案し、思考をオートマチックモードに切り替えて、何も考えずに混乱の果てに出た言葉と言うべきかドラマのような台詞はとても衝撃的なものだった。

「あ、あ……あなたはっ」

 どうしてこうなったんだろうと後悔する事は人生の中で多々あれど、後々考えても全く理由がわからなかった。それほどまでに動転していたのだろう、恐らくは、だけど。

「あなたは沖野花鈴ちゃんの一体何なのですかっ!?」

 その瞬間、辺りの空気が凍りついたように感じられた。

「え?」

 絶句し、一瞬ぽかーんとしてしまう新奈と、意味不明で頓珍漢で猛烈に恥ずかしくて大失敗だった言葉を発してしまったことに気付いて赤面する美穂。何もそんな、初対面の相手に喧嘩でも売ってるかのように強気の口調で言わんでもいいだろうに。

(って、うああああっ! 違う違う違う全然違うちっがーーーうっ! どこの百合関係な人よそれはっ! あたしは一体何を口走ってんだああああっ!)

 それになにより、完璧に自分の趣味を疑われるような、誤解されるような強烈な一言だった。それもあろうことか街中と言う公衆の面前で堂々と叫ぶように言い放ったもんだから、周囲の視線が痛いこと痛いこと。おばさんもお姉さんもお嬢さんもお兄さんもおじさんもおじいさんも、新奈と美穂の二人のやりとりを見ていてとっても『百合〜』な関係なのかなとか、あるいは『痴情』のもつれではないのかと勘違いしてしまったり、どきどきしながら横目でちらりと見つめたり、ひそひそとお話をはじめたりしていた。同年代の女の子に限っては色々と想像したのか恥ずかしくて顔を真っ赤させたりしていた。

(ねえ聞いた?)

(あの子達、百合? 女子校?)

(修羅場なのかしら?)

(痴情のもつれ?)

(うっわぁ、歪んでいるわねぇ)

 いろんな声がひそひそと聞こえてきて、二人は絶句してしまう。

「……」

「……」

 お互い、初対面の印象はお互い思いっきり気まずいものになってしまった。美穂はもとより、言われた方の新奈も新奈で顔を赤くするものだからますます事態は悪化。

「あ、あの……」

「ああああっ! ご、ごめんなさいっ! 違う違う違う! 違くて! そうじゃなくて! ええっと、そのっ!」

「は、はいっ! えっと! ち、違うんですね? な、何となくわかります!」

「ええええっと! と、とにかくこっちに来てくださいっ!」

「は、はいっ!」

 新奈も美穂もこのままでは壮絶に生殺しな状態だと気付いて、とにかく二人はその場をそそくさと一目散に逃げ出すことにしたのだった。周りからはきっと『逢引?』とか思われたことだろうけれど、今はそれどころじゃないのだった。

 ――そうこうして何とか恥ずかしすぎる場をやり過ごし、どこぞの喫茶店にでも入って落ち着いてからのこと。二人用の小さなテーブルの上には紅茶とグレープフルーツジュース。周りからの痛すぎる視線もひそひそ話も消え、やっとこさ真っ当にお話をすることができるようだった。特別好きという分けではないのだけど、最低限何か一つは頼まなければならなかったので何も考えずに適当に頼んだグレープフルーツジュースを一口飲んで、ふう、と一息をつく美穂。

「……ごめんなさい。私と花鈴ちゃんはそーいう邪な関係じゃないです。完全に気が動転してました」

 心の底から、穴があったら入りたいと思い小さく縮こまっている美穂。そんな彼女の溜息混じりの謝罪に対し、新奈は完全に理解を示してくれるのだった。

「い、いえ。……あの。花鈴ちゃんのお友達さん、なんですよね?」

「そ、そうです。そうなんです。花鈴ちゃんとは入学した時からの付き合いで……って、どうしてあたしのことをご存じなんですか? てっきり、あたしだけが一方的にあなたの事を知っているのかなーと思っていたんですけど、どうして」

 美穂の疑問に対し、新奈は落ち着いて説明してくれる。

「あ……。えっと、それはですね。この前商店街であなたと花鈴ちゃんが二人でお話をしているのを目撃したんです。それで覚えていたんですよ。後になって、あのとき声をかければよかったな、って思ってたんですけど、それで……」

「ああ、なるほど。そういうことでしたか。それで合点がいきました。……実はあたしも同じような感じで。この前花鈴ちゃんとあなたがお話しているのを目撃してたりするんです。商店街で。やっぱり、あの時遠慮せずにお声をかけていればよかったですね、こんなことなら」

 お互いに抱いていた疑問が氷解。納得して、やっとこさ落ち着きましたね、と二人揃ってホッとしながら一息。そして互いの素性を更に明らかにして打ち解けることになるのだった。

 色々と互いに質問形式の会話をしていきつつ、美穂は言った。

「花鈴ちゃんって……可愛いですよね」

 ずっと抱いていたけれど、恥ずかしいので本人の目の前では決して言えなかった本音。そしたら新奈は微笑を見せながら、はっきりと頷いた。完全同意といった感じに。

「はい。本当にもう」

 二人揃って共通の親友の素顔を思い浮かべる。可愛い笑顔。誰に対しても優しくて人気があって、妹の鈴那や鞠音にも思いっきり慕われて、いつも抱きつかれたりじゃれつかれている姿。家庭的で料理を作るのが好きなところとか、身長は小さいのにバストサイズだけは特大で、それ故か男子達のいやらしい視線に晒されてばかりで、トラウマになっているのかとても恥ずかしがり屋で、何だか思わず守ってあげたくなるようにいたいけなところとか。

「あの。こういうことを言うと、誤解されるかもしれませんけど」

 新奈は少し考え、迷い、恥じらいながら言った。

「もし。もしも、です。もしも自分が男性だったとしたら……。花鈴ちゃんは、その……恋人になってほしい娘だな、って、強くそう思います。……私。今、ものすごく恥ずかしいことを言っているかもいれませんけど、でも本当にそう思うんです」

 ああ、と美穂は頷いた。自分も全く同感なのだから。

「そうですね。本当にもう、守ってあげたくなっちゃいますよね。うちの男子連中がいやらしい目で見るのもわかる気がするなぁ」

 お人好しと言えるくらいに親切で、だけどそれゆえに疑うことを知らなくて、無防備で見守っていないとどんなひどい目にあうかはらはらしてしまうようなところがある親友。人一倍の恥ずかしがり屋さんなのに、丸くて大っきい胸の膨らみがとっても目立ってしまってる女の子。運命は意地悪だなと毎度の事ながら思っていた。

「彼氏さんがいい人で、本当によかったですよね」

 二人は心の底からそう思った。新奈はくすっと笑いながら一人の人物を思い浮かべる。花鈴と同じく面識のある人物の名は……。

「ゆー君、ですね」

「はい。悠希君です」

 美穂も新奈と同じように微笑ましい気持ちになっていた。ゆー君こと悠希君は花鈴の一つ年下の少年。とっても純情で、熱血漢で、花鈴を大切に思う気持ちは誰にも負けないであろう男の子。その割に美少年で、時折『ボーイッシュな女の子』とか周りから言われたりしている。

「相思相愛ですよねぇ。あの二人」

 美穂は少し苦笑したように、言う。花鈴と悠希。二人のやり取りを思い浮かべると、それだけで微笑ましい気持ちになっていく。

「熱々ですよね。ふふ」

 ――話ははずむ。美穂のターン。例えば、学校でのこと。

「その時、水着姿の花鈴ちゃんを男子連中がちらちら見てたので一喝してやりました。こらーーーー! お前ら何じろじろ見てんだよっ! って」

 美穂は強面になりながら、水泳の授業中のエピソードを語る。視線に晒され、恥ずかしそうにもじもじしている花鈴はか弱くて、それが更なる嗜虐心をそそられるのかもしれない。新奈はくすくすと微笑む。きっとクラスの男子連中諸君は美穂の一喝にびびって逃げ出したに違いないと思ったから。

 新奈のターン。自宅でのこと。新奈は思い出しながら語る。

「私はたまに花鈴ちゃんに料理を教えてもらうんですけど、こう……基本の技術が違い過ぎると言いますか、時々自信無くしますね。どうしてそんなにてきぱきと手際よくできるの、って。どんなに練習しても、私にはああはできないなあ、って思っちゃいます」

 新奈が言うと美穂は別次元の話とばかりに答える。悲しいことに、美穂が料理や家事はからっきしだということを自他共に認めているのだから。料理となると、花鈴は普段のおっとりのんびり具合からは想像も付かない程手際が良くて、動作が早いのだった。一度見たことがあるがまさに『はやっ!』と思う程圧巻だった。

「できるだけでもすごいです。……にしても花鈴ちゃんは家事万能ですよねぇ。何というかこう、おかーさんみたいです。本当にもう、女の子してるなーって思います。見ていると段々自分に自信が無くなってきます。本当に同性かよ、って思うくらいにですね」

 お母さんみたいとはまた、的確な表現かも知れません。けれど本人が聞いたら気を悪くするか、あるいは照れるかな、と新奈は思った。でも、その表現がとてもしっくりくるのは確かな訳で、言い換えてみると……そう、確かにあの娘はとても母性的なのだとわかる。その言葉ならごく自然に親友のことを説明できるのではないだろうか。新奈は美穂の言葉に同意しつつ、言った。

「あ、それわかります。すっごく母性的なんですよね。鈴那ちゃんや鞠音ちゃんも完全になついてますし」

「ええ。鈴那ちゃんと鞠ねこちゃんですね。可愛いんですよね〜。あの娘達」

 花鈴のところに遊びに行く度に、人懐っこくじゃれついてくる二人の女の子のことを思い浮かべる。美穂にとっても新奈にとっても想像するイメージは同じで、無邪気で元気でとっても可愛い妹二人。美穂も新奈も微笑が漏れる。

 こうして話を続けていくうちに、いつしか二人は完全に打ち解けていった。

(新奈さんって、素敵な人だなぁ)

 美穂が新奈に対して抱いた印象はそんな感じ。話をする前は、綺麗な人だけどちょーっときつそうなところがありそうかな、と、そんな印象があったのだけど、そんなマイナスイメージは完全に払拭された。穏やかな物腰に、とっても常識的な人だなと今では思っていた。

 それに対して新奈が美穂に抱いた印象は。

(優しい人ですね。美穂さんは)

 二人にとって共通の親友のことをとても大切に思っている優しい人、と思った。外見はやっぱりきつそうで強気で姐御肌だけど、実際にお話をしてみると気さくで楽しくていつまでもお話をしていたくなっていく。

 心の底から楽しい、と二人は揃って思った。





…………





「そういえば」

 どちらからともなく、その話題は出た。

「新奈さんの上司って、もしかして……緑色のあんちくしょうですか?」

(あんちくしょうって……。まあ、日頃からそんな風に呼ばれるようなことをしていますからねぇ)

 断片的ながら、新奈がおかれた環境や生い立ち等のエピソードを総合すると、ある一人の人物が思い浮かぶことになる。色彩屋根裏図書館館長にして、花鈴のマスターでもある緑色のあんちくしょう、通称みなるでぃ改と言った。とても無礼でふざけた野郎でマイナスイメージ溢れる無頼漢だった。

「ええ、まあ。全身緑色をされているあの方です」

 美穂にはあんちくしょう呼ばわりされた人物だが、新奈の言葉遣いはとても丁寧だった。新奈にとっては上司兼同僚兼雇い主兼創造主でもある緑色の丸い物体。とても助平で傍若無人かつ、神にも等しき最強最悪の戦闘能力をもつあらゆる面において規格外の男というか物体というか謎の生物。……のわりに、日々花鈴にいたずらやセクハラをするたびに鞠音にどつきのめされたり、新奈に襲いかかったりするたびに体ごと投げられたり関節をねじ曲げられたりされている、すごいようでいてどこかヌけている男。

「……大変ですね」

「……まあ。毎日のように襲いかかってきたり、私の体を触ろうと変ないたずらを仕掛けてくるくらいですが」

「くらい、ってじゅーぶん危険だと思います。訴えるなり警察に突き出すなりした方がいいんじゃ。……っていうか、花鈴ちゃんにもいたずらをしていないでしょうね」

「残念ですが……している、でしょうね。それもいっぱい。でも、その度に鞠音ちゃんにボコボコにされているようですけど」

 美穂はああ、と思った。緑色のあんちくしょうと花鈴小屋の猫又娘鞠音とのやりとりはなかなかに壮絶で、その光景は何度となく目撃したことがある。花鈴の事を大切に思っている鞠音により殴られ蹴られひっぱたかれ噛まれ引っ掛かれ、最近では新奈に伝授されたサブミッションを駆使したり投げ技をかけたりしているそうな。そんなわけでいつも『ぎゃーーーー!』だの『ぐえっ! ぎぶぎぶっ!』だの『ぐふぉっ!』だの、見苦しい悲鳴が響いているのだった。そんな呆れた実情に美穂は溜息をつきながら、親友の事を思った。新奈も、残念ながらこればかりはどうしようもないとお手上げ状態だった。

「はぁー……。もう、あんのどスケベ野郎……。花鈴ちゃんが不憫でならないわ。さぞかし悠希君も心配してるでしょうねぇ」

「ええ。それはもう」

 出会って間もないのに、いつしか二人の間には強固な協力関係ができあがり、一緒に親友を守ろうねとそんな同盟が自然に生まれていった。





そんな時





(お野菜とお肉も買ったし、後はもう大丈夫。鞠ちゃんが大好きなお刺身もちゃんと買ったから、今日はご馳走だね。ふふ)

 鈴那と鞠音は喜んでくれるかな。妹達の笑顔を思い浮かべて嬉しくなる花鈴。と、そんな時の事だった。

(あれ?)

 意外に思うような光景を目撃。

(あれれ? 美穂ちゃんに、新奈ちゃん?)

 たまたま買い物をしに商店街を通りかかった花鈴は、喫茶店の中に見知った姿を発見した。変わった組み合わせを一目見て、疑問に思うことがいくつか生じてきたけれど、直に聞いてみるのが一番かなと思い、店内に入ってみることにした。その時は、買い物袋の中から飛び出しているネギが『おいお前。すんげぇ所帯じみているぞ』とか後にご主人様に言われることになるけれど、そんなことは知る由もなかったがそれはまたさておき、目的の人物に近づいて声をかけてみる。

「美穂ちゃん、新奈ちゃん」

 噂をすればなんとやら。話題の中心にあった人物が突然現れて、美穂と新奈はびっくりしてしまう。いつも通りの姿。一本の三つ編みをリボンで留めている少女、沖野花鈴のご登場。

「っ!」

「わあっ!」

「あ、ごめんね。びっくりした? ……二人はお友達だったの?」

 二人とも花鈴にとっては共通の親友だけど、当然の事ながら繋がりがあるとは知らなかった模様。にっこりと笑顔を見せる花鈴に、美穂は何だかいけないことをしているような気持ちになってしまった。何せ、花鈴の事を肴にして楽しくおしゃべりをしていたわけで、いけない内緒話をしていたような気持ちになってしまったのだった。新奈も新奈で、ここでこういう展開になるとは予測していなかった模様。

「え、あ……。う、うん。ま、まあね〜」

 ま、それなりにかくかくしかじか、とはぐらかしながら曖昧に説明できるかなと美穂は思った。花鈴は深く詮索してくるような娘でもないし、問題はないだろう。

「ご縁とは、とても不思議なものですよね」

 新奈も微笑みながら、これまでのいきさつを丁寧に説明し始める。もちろん、部分的に端折りながら。すると、へえ〜、そうなんだ〜と、花鈴は我が事のように嬉しそうに頷くのだった。ごく自然な様なのだけど、美穂にとってはまぶしいくらいに魅力的だった。

(ああ、やっぱり可愛いわこの娘は。どうしていつもこんなふうに優しく笑えるんだろ。っていうか新奈さんも可愛いし綺麗だし、なんなのよこの黒髪おっとりほんわか美少女と金髪碧眼ミステリアス美少女のコンビは。ああ、自分に自信無くすわ本当に)

 美穂は花鈴と新奈を見て改めてそう思った。二人ともため息が出てきそうなくらいに可愛いなぁ、と。でも、先程新奈が言った事を思い出して見る。もしも自分が男性だったと仮定したら……。魅力的な美少女二人に囲まれてるわけで。

(これって両手に花、よね。まさに。って、何だかそれっておっさんみたいな発想かも。あー。あたしって、やっぱだめだ)

 むー、とか唸りながらしかめっ面をしていたせいか、怪訝そうな花鈴に不思議がられてしまう。

「美穂ちゃん、どうしたの?」

「ん? あ〜。今日も大っきいな〜って」

 さすがにそんなことは口に出しては言えないので、適当にはぐらかしてみる。花鈴の細い二の腕同士に挟まれて僅かにふにゃりと形を変えているところをジトーっとした細目で見ながら。

「え? ……もう、美穂ちゃんどこ見てんの〜!」

 一瞬何のことかわからない花鈴。恥じらい、頬を赤らめる表情は美穂と新奈が想像していた通りの姿。

「だってー。どしても目についちゃうんだもん。それ」

 可愛い親友についつい軽口をたたいてみたくなってしまう。いじめてみたくなるような困らせてみたくなるような、これじゃあたしも男子連中と同類じゃん、と思うけれど止められない。

「美穂ちゃんのえっち!」

「あっはっはっはっは」

 美穂の高笑いに花鈴はますます恥ずかしさが込み上げてきて、両腕で体を抱え込むようにして胸を隠すのだった。そんな花鈴と美穂のやりとりを、新奈はおかしそうに微笑みながら見守っていた。ああ、親友同士のやりとりだな〜とか思いながら。

 このようにして親友の親友同士もまた仲良しになっていくのだったとさ。










おしまい













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