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-MySweetBanana- AfterDaysその2




















 一言で云うと格好いい。で、実際にはそれだけじゃない。性格だってすっごく優しいから友達も多いし女の子にもてる。春音は愛しの彼氏こと、章ちゃんのことを心底そう思ってる。無論その評価は『大好きな彼氏』だからというような、超が付くほどのプラス補正がかかっているのは確かだけど、贔屓目抜きの客観的な評価もやっぱり変わらない。

 つまりは、もし仮に章ちゃんが自分の彼氏じゃなかったとしても、そのような目で見つめることになるのだろうと思うのだ。

「章ちゃ……」

 ある日のこと。廊下の向こうに章ちゃんの姿をみかけたので、声をかけようとしたところだった。誰だろう、春音の知らない娘と話をしていた。違うクラスの女子だった。名前は分からないけれどとっても可愛い娘だった。すらりとしたスタイルに、整った顔立ちの典型的な美少女だった。後でわかることだけど、学年でもかなり人気のある娘だった。そんな有名人を知らないのは春音が天然ボケで色恋沙汰に疎いから。でも、実際そのような場に立ち会ってみると話は違う。

「あ……」

 どうしてだろう。何かがずきんと痛んだ気がした。

(これって、やきもち……だ)

 春音にもそれくらいはわかった。恐らく、委員会だか生徒会だかの関連でお話中なのだろう。章ちゃんとその娘の会話を遠くから見ていて思った。相手の娘の表情と云うべきか、滲み出てくる感情は章ちゃんと話をしていて『義務だから仕方がない』とか、そんな嫌々したネガティブなものじゃなかった。むしろ逆。憧れの、人気な男の子と思い切って話をしてしまったと云うような、ドキドキワクワクした感じだった。当の章ちゃんは春音と同じように疎くて鈍くさいし、そもそも春音一筋なので美少女が話しかけてきてもどーでもいいと云った態度だった。春音はそれに疑問を持ってしまったのだった。本当にこれでいいの、と。

(章ちゃん。格好いいから)

 章ちゃんは長身で、目鼻立ちが整っていて、一言で云うと美少年。

 それに引き換え自分はと云うと……。クラスでも一番のちびっこで、胸はマッサージや牛乳などの栄養摂取による努力の甲斐なくほとんど増強されていないと云うべきか、一言で表すならまるで膨らんでいないぺったんこ状態。更に小学生かと云われるくらいの童顔で、性格だって小動物のようで好物のバナナを頬張る度にお猿とか子猿とか、果てはうきうき鳴いてみろとか云われる。章ちゃんと釣り合うはずがない。そう思う。

 更に。章ちゃんとお話をし続けてている娘を見ると……。

(ふつー。章ちゃんみたいな人は、ああいう娘と付き合うもんだよね)

 一見すると理想的な美男美女のお似合いカップル。……方や自分と章ちゃんは、身長差のありまくる凸凹カップル。周りで陰口を叩く者だっているかもしれない。『あの娘、どうしてあんな娘と付き合ってんの?』とか。

「はぁ」

 考えれば考えるほどため息が出てしまう。





…………





「ねえ、章ちゃん」

「ああ」

 帰り道。思い切って聞いてみることにした。うじうじ悩んでいると、本当に嫌われてしまうと思ったから。色々と、知りたいことを。

「私のどんなとこが好き?」

「子猿なところ」

 即答だった。考える間もなく出てきた言葉。恐らく、本能でしゃべったのだろう。春音にとってもなんじゃそりゃ! と云った答え。

「あと。ちびっこいので、疲れた時とか寄りかかれる。丁度いい高さで便利だ。つまりお前は俺にとってかけがえのない便利ガジェットというわけだ」

 更に手すりにぴったり呼ばわり。春音は、私はどこの小道具だ〜! と思った。

「うきー! どーせちびっこだよ〜!」

 章ちゃんはがし、と背後から春音の頭を抱くようにして寄りかかる。春音はじたばたするけど、力の差は圧倒的。

「それともう一つ。コンパクトかつ超軽量。モバイル機器のごとく持ち運び自由。そして、ブラいらずの省資源なところ。温暖化防止に貢献しているな」

 どうみても章ちゃんは愛しの彼女さんを完全に馬鹿にしてるのだった。

「ぶ、ブラくらいしてるもん! ……今日は」

 してない日もある模様。衝撃でもないけれど事実が発覚。乳首とブラウスって、擦れ合うと痛そうだななどと思うがしかし。

「何ぃ!?」

「あ、ちょ……ほひゃっ!」

 春音はびっくりしてしまった。章ちゃんは突然、春音のセーラー服の中を覗き込のだのだった。幸い、辺りに人影はなかったからいいけれど。何すんの〜! と、抗議するも完全無視。

「……」

 そして章ちゃんは数秒間沈黙し、悲しそうに顔を覆うのだった。

「ブラが……泣いているぜ」

 我ながら名言だ、と章ちゃんは思った。

「うっきーーーーっ! どーゆー意味じゃ〜!」

「布地で覆う膨らみもまるでなく、肩紐で支える重量もやっぱりまるで無いのでブラ本来の役割を果たせて無い。悲しい。これじゃ肌に当ててるだけだ。無い方がマシ。せめてスポーツブラにしろよ」

「いやじゃーーーーっ! 私だってふつーの女の子なのーーーーっ! スポーツブラなんて意地でも付けないからねっ!」

 誤解してはいけない。決してスポーツブラの機能性やデザイン、果ては意義に問題があるわけではなく、ただ単に年頃の女の子としての意地があるようだった。

 が、それはさておき。ぼろくそに云われる春音のバストだった。おまえのブラはデッドウェイトになっているから、合理性を追求して装甲を軽量化した方が良いぞとかなんとか。散々馬鹿にされたのだった。





もういいもん。





と、春音は自分の部屋で乾燥済みのバナナチップを食べ、頬を膨らませながら思った。





だから見せつけてやることにしたのだ。





嘘泣きの一つでも見せて、悪い女になってやるんだから! と。





 次の日曜日。二人はあらかじめデートの約束をしていて、駅前で待ち合わせ。二人の家はお隣同士なのに、わざわざそんな所で待ち合わせている理由は。『ふつーの彼氏と彼女は、待ち合わせ時間にやって来たら決まって、待ったー? ううん、今来たばかりだからー。とか、そういう風に聞くものだよ』とか、そういうこと。そういうのがいいらしい。つまりは家の玄関を出てすぐ会うというのは合理的ではあるけれど、人間関係における風情とか乙女趣味みたいなものがまるで無いと云っているのだった。つまりはロマンチックにしろーーー! と、そういうこと。もし仮に章ちゃんが時間ぴったりにやって来たとして。待った? と聞いてきたら、実は十五分くらい前から来ていても待っていただなんて絶対云わないで、笑顔を見せるつもりだった。私も今来たばかりだよ、と。

 ところが。

「あれ?」

 待ち合わせ時間のきっかり五分前。相変わらずとっても律儀な章ちゃんがやってきて、春音の前を素通りして向こうの方に行ってしまう。そしてすぐに気付いて、振り返る。もしかして、とか呟いてから。

「春音……か?」

「そうだよ」

 少し強めの口調で云ってみる。彼がそのような行動に出るのは予想済みだったから。

「ひどいよ章ちゃん。彼女さんの顔を忘れて素通りしちゃうなんて」

「いや。だって、なぁ」

 見違えた。と彼は云った。春音の姿は普段のイメージとまるで違っていたのだから。普段……ただゴムで縛っただけの長い髪をほどき、丁寧にとかしてから可愛らしいリボンをつけた。そしてお嬢様のようなロングのスカートに、白いベレー帽。体が小さいから目立たないけれど、今の春音は普段より遥かに大人びて見えた。

「えへへ。すごいでしょ?」

「女って、変わるもんだな」

 か、可愛いじゃないか。どこの美少女だ、等と章ちゃんは思ったけれど恥ずかしいので口には出せない。

「すこーしだけ、ね。化粧水とかリップとか使ってたりするんだなこれが」

 私の勝ち! と、云わんばかりに春音は章ちゃんの腕に抱き着いてきた。ああ、この感じはやはり間違いない。こいつは俺の幼なじみにして彼女さん、春音だ、と思った。バナナ好きの子猿ちっくな女の子だ。

「でも。どうしてまた?」

「ちょっとしたイメチェン、かなー。胸がぺったんこでも、おちびちゃんでも、こんな風に変われるんだよーって、章ちゃんに見てもらいたかった。つまり、女の子は魔法使いなのだー」

 それだけではここまでやる理由として弱い。そう章ちゃんに突っ込まれて、春音はわざとらしくやれやれとため息をついてやるのだった。

「章ちゃんわかってなーい。私。この前学校で章ちゃんが委員会の女の子とお話してるのを見たんだよ。で……すっごく可愛い娘だなーって思って」

「委員会? ああ。あの時か」

 当の本人にとっては、クラス内で必ず何か一つはやらなきゃならない義務と云うべきか役職があって、それに当たってしまったわけで。なのでかったるいし面倒だし、かなり適当にやっていたのだけど。

「一言で云うと相思相愛。美男美女のベストカップル。対して私は自他共に認める貧乳でバナナばっか食べてはうきうき鳴いてる子猿ー。そこでー」

 春音はクルッと背を向けて見せた。長いスカートがふわっと舞う。

「私はちょっぴりお料理をしちゃったのだー。ヤキモチって云う名のねー」

 極めて明るく簡単に云う。

「でー。その日の帰りにさ。私のどこが好きなのーって聞いたのに。章ちゃん、まじめに答えてくれないから。もーいーもん、って思ったの」

 だから見返してやることにしたのだった。

「子猿とかお猿とか、ぺったんこで支えるものが無くてブラが可哀想とかさー。さっすがに私もうぬぬって思っちゃったよ。で。私だって、少しは大人っぽくなれないかなーって思って。レッツチャレンジ、ってとこかな。章ちゃんを見返してやるのだーって、頑張っちゃったー」

 この日のために服を用意して、髪形を変えることにした。姿見を前に、私もやればできるじゃん。うん。美少女してる! と、自信を持った。

「春音。ごめん」

 そんな思いをさせていたとは、想像もつかなかった。

「ん〜。章ちゃん。本当の事を教えて。……本当に、私のどこがいいの? やっぱりこんな風に変わった方がいい? 変わってもだめ? もしね……。もしも章ちゃんが私と無理して付き合ってるのなら、私……辛いよ」

 もしそうなのならば。春音は云った。

「他の娘がいいなら……私、大丈夫……我慢する。だから。別れるって云っても、いいよ?」

 できるわけがない。明るく云おうと思って失敗してしまう。章ちゃんは云った。

「バカ」

 と。今にも泣きそうな春音を見ていると痛々しく感じてきてしまうから。章ちゃんはとても優しい声だった。そして悲しそうでもあった。

「意地でも別れるもんかよ」

 そして、春音の腕を握って引っ張るように連れて行く。こういうときは強引な方がいいと思ったから。

「あ……」

「来い」

 有無を云わせない雰囲気があった。

「お前のどこが好きか。これからじっくりたっぷり教えてやるよ」

 可愛すぎる困った彼女さんには、体で教えてやろうと、章ちゃんは思った。そういう娘には優しいお仕置きが必要だな、と。





二人きりになりたい。





デート内容を急遽変更して、自宅に戻ることに。





今、たまたま両親がお買い物に行って不在ということで。春音の家にした。





可愛らしく彩られた春音の部屋。





 ぱたんと音を立てドアを閉じた瞬間、春音の唇は塞がれていた。その瞬間から何度も続くキス攻めが始まった。春音は抵抗すらできなかった。

「あ……。ん、ん」

 春音はベッドに押し倒され、のしかかられていた。ぎし、とベッドのスプリングがきしむ。

「章ちゃ……ん、ふ」

 目を閉じ続けなければ、恥ずかしくて顔が燃えてしまいそう。

「ん、んんんぅ」

 そのまま唇を離さずに、ずーーーっとキス状態。春音は息も絶え絶えだった。淡いピンク色のシーツを掴んではこらえるけれど、あんまり意味はなかった。熱い感触に、力が抜けてしまうから。

 厳選した勝負服の中に、章ちゃんの手が入って来た。それはやがて小さな胸に触れる。散々可哀想とか哀れだとか云っていた春音のブラをずらして……。

「お前は最高に可愛いんだよ。小さな胸も、何もかも」

 乳首をなでると、少しずつ起っていく。

「んふ」

 ただのキスだけじゃ満足できなくて、舌も絡ませてと促す。その上、ディープキス。

「子猿みたいな性格も、子供っぽいところも。全部可愛いし、好きなんだ」

 誰よりも、と章ちゃんは云う。

「あふ……ん」

 春音の鼓動は限界にまで高まっていた。

「章、ちゃ……あ」

 胸を触られて高まる鼓動を悟られてしまう。章ちゃんは春音の服に手を這わせ、小さな膨らみを揉み回した。

「え……っち」

「こんなもんでえっちとか云うのは早い」

 これからもっともっと、いろんなことをするのだから。

「可愛い胸だな。頑張ってるじゃないか」

 確かに小さいけれど、ほんの僅かに膨らんでいる。春音の努力もそんなに無駄にはなっていないようだ。章ちゃんはその膨らみを乳首ごと指先で撫で回す。ふるんと白い肌とさくらんぼのような乳首は震える。

「あ……。や……」

 ボタンを外し、服の中に侵入。『可哀想なブラ』もたくしあげると、小さな突起。春音の乳首だった。

「春音。俺のこと、嫌いか?」

「そんな。そんなわけない」

 ただちょっと、不安になっただけ。

「俺だってそうだ」

「あ……。んん」

 また、キス。

「だったら悲しいこと云うな。云わないでくれよ」

「あぅ……。ごめん、なさぁ……い……」

 章ちゃんは春音の乳首を左右両方つまむ。ぷにゅ、とした感触。

「なのでこれは再確認。春音が『大好きの』キス。どこが好きだなんて、決められない」

「う、ん。私も……大好き。ん、ん」

 二人とも無我夢中だった。でも、さすがにキスばかりしすぎたかなと章ちゃんは思って聞いた。

「それとももうやめる? キス、嫌?」

「ううん。もっとぉ。ん、ん」

 楽しそうに、嬉しそうに、春音は笑顔。今は思う存分甘えちゃおう、とちゃっかり思った。

「私、キス、好きぃ。もっと、いっぱい、して。あ、んん」

 春音からもいっぱいキス。

「章ちゃん。……大好き。ん、ん」

 キスをし続けるうちに春音の服ははだけていき、恥ずかしい格好になっていた。大股開きさせられて、下着の上から秘所をいじくられる。

「あ、あぅ。恥ずかしいよぉ」

「いいだろ。二人きりなんだから」

「ちが〜う。章ちゃんに見られるのが一番恥ずかしいんだよ?」

「じゃあ、もっと見せてくれ」

「あ……」

 そうして下着をずらし、挿入。さしたる抵抗も無く、奥まで入り込んだ。春音の中は狭くてきつくて暖かかった。

 二人は抱きしめ合い、キスをしたまま交わる。ベッドのスプリングがぎしぎしと揺れていく。

「あ、あ、あ。章ちゃ……ん……ん……」

「春……。本当に、髪も綺麗だな。お前は普段から充分美少女してるぞ」

「ありがと」

 章ちゃんは春音の髪を撫でるように弄ぶ。普段はただ単にゴムでまとめているだけの髪。長くて柔らかくて艶があって、自分が思っているよりも遥かに春音は大人びていて可愛いんだと再発見した。

「待ち合わせの時。冗談抜きで、可愛いと思った。けど、普段の春音と違っていたから……。でも、イメチェンした春音も大好きだ」

「ん、ん。ありが、と。……うれし」

 更にキス。健気で、頑張り屋な春音。

「子供扱いしてごめんな」

「ん、ん……。い〜よ。私、実際子供だもん」

 でもね、と春音は云った。

「でもでも。教えてぇ。……私、お猿だから、これからも章ちゃんにず〜っとくっついちゃって離れないかもしれないけど。それでもい〜い?」

「うん。それでこそ春音だ」

「ほんと?」

「本当」

「嬉しいよ〜。うきうきき〜。んにゅにゅ」

 子猿のような鳴き真似。そうしてまた、キス。

「章ちゃん〜。私、いっぱい動くよ〜。あ、んっ」

 ゆっくりとしていた動きは段々早まっていき、やがて絶頂を向かえる。

 二人はひたすらじゃれ合い続ける。

「お口でも頑張るよ〜」

 裸の春音は笑顔。ここから先は春音ペース。

「さぁ章ちゃん。おとなしくおっきなバナナを出すのだ〜」

「ぎゃーーー! 食われるーーー!」

「うきき。つっかまえた〜。皮を剥いで〜。ぱく〜。ん、ん、ん〜。おいし〜。ん、ん、ん〜にゅ〜」

 章ちゃんのものをくわえ込み始めた。嬉しそうに舌を出し、大事に傷つけないようにしゃぶる。章ちゃんはあっという間にされるがまま。

「ん、んぷ、ん。んん……好き。ん、ん」





そして……。





 春音の部屋が夕焼けの色に染まってくる頃。階下……玄関の方からガチャリと鍵を開けるような音がした。春音の両親が買い物から帰って来たようだ。章ちゃんはフッと我に返り……。

「やべぇ!」

 慌てて今の状況を思い浮かべた。春音と散々戯れて乱れて、いつしか疲れて眠ってしまっていたのだった。

「玄関に靴……」

 章ちゃんは思いっきり青ざめる。いくら顔なじみで幼なじみとは云え、女の子の部屋で二人きり、何をしていたのか想像に難しくないわけで。さすがにそれはまずいだろうと思う。

「章ちゃんお困り〜?」

 と。一緒に添い寝していた春音がくすくす笑っていた。まだ服を着ていなくて全裸で、ドラマのシーンのように章ちゃんに腕枕してもらっていたのだった。

「当り前だ! って」

「えっへっへ〜。章ちゃんの寝顔が可愛くて、ついつい私も忘れるとこだったよ〜。危ない危ない」

 春音は笑顔でビニール袋に入った靴を見せる。こんなこともあろうかと、とでも云わんばかりに確保済み。章ちゃんは心底救われたと思った。

「た、助かった。サンキュ。春音」

「窓から外に抜け出せるよ〜」

 春音の部屋の側には木があって、伝って下に降りられそうだった。

 自宅はすぐ側なのだから、何事も無かったように戻れば問題はないだろう。すぐさま出ることにする。けれど。

「春音。また明日な」

「うん。……章〜ちゃん」

 最後に一回とばかり、春音は目を閉じてキスのおねだり。

「ん」

 触れ合う瞬間。好き、と春音は心の中で呟いた。そうして唇は離れて。

「おやすみ。また明日ね」

「ああ」

 章ちゃんが無事脱出したのを見届けて、春音はえへへ〜と笑うのだった。今日一日、甘えっぱなしだったことを思い出して。そしてもう一つ。肌を重ね合わせながら、大事な事を云った気がした。

「んにゃ〜。私、お猿だから。章ちゃんにずっとくっついて離れないけど〜……って。これってこれってもしかして〜。プロポーズってやつ?」

 云ったとき、そんな意識はなかったけど。思い出すたびに笑顔になってしまう。端から見れば気持ち悪いと云われそう。でも、今は一人だから思い切り笑わせてと、誰に云うわけでもないけれど許して欲しかった。

「そだ」

 明日、このことについて云ってみよう。きっと章ちゃんは恥ずかしがって動揺するはずだから。かなり大胆な発言だから、二人きりのところを狙って云ってみよう。一緒にお昼を食べてる時とかいいかも。でも、ごはんを吹き出されてむせ返られて死んじゃったらやだよぅ、とか思う。食後のティータイムにでも甘えながら耳元でささやいてみようかな。

「うきき。も〜離さないのだ〜。覚悟するのだ〜。……な〜んてね〜」

 章ちゃん専用の可愛い子猿はちょっぴり悪戯好き。そんな悪巧みをひっそりと考えてるのだったとさ。




















おしまい























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