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#10 柊光 -HikaruHiiragi-
典型的な田舎道。二股に別れ、案内図など何もない。いわゆる、手掛かりゼロの場所。
そこで、ドライブ中の男女が車から出て何やら話をしていた。
「ここは右! 絶対右! 道に曲がるったら右に曲がるの!」
地図を見ながら助手席に座る彼女、柊光。その主張は強固で、揺るがない。思いこんだら一直線。
「そうかなぁ。僕は左だと思うんだけど」
それに対し、地図を見ながらのほほんと異を唱える彼、八木沢昭吾。
「いいから右に行ってよ昭吾! 絶対右! あたしの方が正しい!」
二人の関係において、イニシアチブを握っているのは彼女の方。……と、彼らを知る人たちは云うけれど。
「わかったよ。じゃあ、右に行ってみるよ」
彼は笑いながら車の中に入り、エンジンをかけ、右の方へと進路を取る。
「っとに。いい加減カーナビくらい買いなさいよねー」
「お金が、ね」
「もう……」
はは、と笑って云う貧乏な彼。車はもちろん中古車。……もっとも、内装は綺麗だけど。
(でも、そんな三枚目なところが好きなんだけどね〜)
そして、それから小一時間が過ぎて。
「……」
彼らは先程の別れ道まで戻って来ていた。
「……ごめん」
いつものパターンが、そこにはあった。
右に行くという選択は間違いだった。しばらく走った後で、道が途切れてしまい、引き返すしかなくなったのだった。あれだけ散々主張していて、正しくなかったから、少し凹んでシュンとしてしまった彼女。だけど。
「んー。いいじゃない。急いでいるわけじゃないんだし」
「でも」
優しい彼は、いつもそう。
「気にしない気にしない」
こんな時、決して怒ったりしないで笑顔で許してくれる。
「のんびり気長に、ね。ゆっくり行こうよ」
「うん」
私はこの人の、こんなところも好きなんだろうな。と、彼女は思った。
「じゃ、左に行くね」
「昭吾」
サイドブレーキを下ろし、アクセルを踏み込もうとした彼に、彼女は抱きつくようにして……。
「うん? ……わっ!」
「好きよ」
してやったりといった感じに、頬にキス。
「あ、危ないよ〜!」
「だって〜。好きなんだもん。あんたのことが」
回り道をしても、彼と一緒なら楽しいドライブ。
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