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#6 八尾紗智子 -SachikoYao-



 彼、村井智也が図書委員なんかになったのは、ちゃんとした理由がある。
「村井君」
「何?」
「あそこの本。とってくれないかな?」
 いいよ、といって本棚の一番上にある本をとってあげる。読書好きな彼女のために。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 理由の説明は、以上のやりとりだけでで充分すぎるだろう。彼と同じ図書委員で、眼鏡と三つ編みがトレードマークの彼女……八尾紗智子と一緒にいたいからという、とっても軟派……いやいや、一途な想いからだった。
 幸いなことに、図書委員なんてなりたがる人はそんなにいるわけがなく、あっさりとなれた。その上、図書委員にされたとしても、実質上さぼりな連中ばかりだった。
(その方が、嬉しいけど)
 掃除とか本の整理とか、普通は面倒くさくてやってられない仕事も、彼女と一緒だととても楽しくて仕方がなかった。
 そんなある日のこと。本の整理で遅くなって、暗くなるまで学校に残ることになったのだった。彼女と二人きりで……。
(今日こそは云えるかな。二人きりだし、誰もいないし……)
 云いたいことは、一つだけ。思い切って、勇気を振り絞って……。
「八尾さん!」
「なぁに?」
 首を傾げて、にこっと微笑む彼女。二本の細い三つ編みが微かに揺れた。
「えっと、あのぉ……その。……お、俺のこと……好き?」
 あなたのことが好きです、と云うつもりが……変なことを聞いてしまっていた。
 彼女はというと、急にそんなことを聞かれて、ちょっと困ったような笑顔になって。
「好きですよぉ〜」
 と。笑顔で云われて一瞬『よっしゃぁ!』と、内心思ったのだけど。……ふと冷静になって、またも聞いてしまった。
「あのぉ……。その『好き』というのは意味的にLIKE? それとも、LOVE?」
 結果的に、これが彼女を気付かせることになったのだった。
「え?」
 ワンテンポ遅れて、やっと意味に気付いて……。
「いや、あの。僕……。実は今の、本気の告白だったんだけど……。告白になってなかったかも、だけど……。付き合ってくださいって、云おうかなって……」
「え、え……」
 天然ボケを炸裂させてしまった彼女と、ウブさ加減を露呈してしまった彼。気まずい空気が漂うと思いきや、彼女は笑って。
「い、いいですよ〜」
 と、決定的な一言を云った。
「え?」
 彼は逆に彼が聞き返す番。
「ほ、ホントに、いいの? 無理してない?」
 と。自分で告白しておきながら、相手の返答に心配になってしまって聞き返してしまったのだった。
 そんな彼を見て、彼女はまたまたおかしくなって吹き出して。
「無理なんてしてないですよ」
 嬉しそうに、楽しそうに。
「私も……村井くんのこと、好きです。だから……お付き合いしてください」
 と、ちょっと古風な感じに云いきったのだった。
「よ……」
「よ?」
「よっ……しゃぁ! やったあっ! 八尾さん好きだぁ!」
 と、思わぬ返答に喜んでガッツポーズを見せる彼と。
「村井君。図書室ではお静かに、ですよぉ〜」
 またまたクスクス笑う彼女。
 お似合いの二人。ハッピータイムはこれまでも、これからも、続いていくのだったとさ。



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