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#1 御邑翔子 -ShoukoMimura-



「おい」
 彼に声をかけてきたのはクラスメイトの女子生徒。
 普段から大人しくてつり目で、どこかプライドが高そうで怖そうでクールで、近寄りがたい雰囲気すらある。クラスでも少し浮き気味の存在だった。
「大武君、ちょっと良いか?」
「え、御邑さん?」
 そんな彼女の名は御邑翔子(みむらしょうこ)。少しずれた眼鏡にロングヘアが特徴といえば特徴だった。
「お願いしたいことがある」
 クラスメイトということで名前だけは知っているけれど、今まで話したこともない相手。
 ……そんな人にいきなり声をかけられて、大武という名の男子生徒は少し戸惑った。
「なにかな?」
「私と付き合ってくれないか」
 それは、唐突過ぎる告白だった。
「え……。何か用事でもあるの?」
 付き合うということが、用事や作業などで手を貸して欲しい、というニュアンスに受け取れたのだが……それは勘違いだった。
「違う。君のことが好きだから、交際を申し込んでいるのだ」
 ちなみに、彼らが今いるところは教室の中だった。告白された本人はもとより、他のクラスメイト達もあっけにとられている。
「答えを聞かせて欲しい」
 けれど、彼女はそのような状況など全く気にしてはいなかった。
「い、今?」
「そうだ」
 彼女ははっきりと頷いた。返事は今すぐ欲しい。否か、あるいは応か答えてくれ、と。その瞳は真剣に語っていた。
「この数ヶ月程のことなのだが。君のことばかり考えてしまって、何も手につかないのだ。だから、答えて欲しい」
 『何も手に付かない』ということなど全く感じさせないほど、とても落ち着きながら、そのようなことを説明口調で述べた。



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