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#4 梁谷朋華 -TomokaHariya-



 強気。……というわけじゃないけれど、普段からクールで落ち着いていて、滅多に動じることのない彼女。少なくとも、今の今までは誰もがそういうイメージを抱いていた。
「ごめんなさい」
 そんな彼女が今、う、う、と弱々しく、嗚咽を交えながら泣きじゃくっていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめん……なさ……ぁい」
「おいおい。そんなに泣くなよ朋華ぁ」
 目の前には柔道着を着て、横たわっている彼氏の姿。横たわっている理由は、怪我。肩を脱臼してしまったのだった。
「いい技だったぜ。……っとに、見事な一本背負いだった。完敗だよ。俺の」
 彼女の名は梁谷朋華。女子柔道部に所属している。
 幼なじみでもあり、彼女と同じく柔道部の彼氏、岩田昭吾に練習相手になってもらっていたのだった。
「今日も稽古。付き合ってもらえないかな?」
 いつものように、そう云うと。
「いいぜ」
 といって快く受けてくれた。
 天性の才能肌をもっている朋華に対し、昭吾は地道な努力を重ねて頑張ってはいるものの、なかなか上達スピードが上がらずにいた。マイペースな性格もさることながら、成長のスピードがとても緩やかだったのだ。
 そして、大会が近くて。気稽古に付き合ってもらうのだけど、気合いが入り過ぎていて、彼氏を怪我させてしまったのだった。
「頼むから泣くなよー。俺は大丈夫なんだから、な? スポーツやってりゃこんなんよくあることなんだから、気にすンなよ」
「……うん」
 彼女は華奢な体つきだけど無差別級で、彼氏の方が体重的にも体格的にもはるかに上で。にもかかわらず、実力差は開く一方で、それが彼にとっては嬉しくもあって、反面自分が情けなくもあった。
「それにしても。お前は強いなぁ」
 痛みを紛らわすようにして、感心したように笑う。
「もう、俺じゃ相手不足だな」
「そんなこと……ない……」
 小さいころから、ずっと一緒だった。最初のころは実力も大差なくて……純粋に、楽しかった。
「ここまでしてやったんだから。勝てよなー」
「……うん」
 もし彼が、優しく笑ってくれていなかったら、柔道を辞めてしまいそうだった。それくらい、脆い心。
「俺はさ。好きだぞ」
「……」
「強くて格好いいお前が」
 だから、しっかりしろ、と彼は云っているのだった。
「あり……がと……」
 絶対に負けない、と。彼女は強く誓って。
 そして……彼の怪我が全快する頃、彼女は優勝のトロフィーをプレゼントにと、持ってきたのだった。
「約束。守ったよ」
 彼に負けないくらいの、眩しい笑顔を取り戻して。



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