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#7 松谷裕美花 -YumikaMatsutani-
家庭的で、料理が好きで……結構一途な女の子。というキャッチコピーを見れば、大人しい娘という連想をするかも知れないしれないけれど……それは違った。
「こらぁあああああーーーーーー! 達郎! 達彦! 達也ぁぁあぁーーーー!」
どたどたと、玄関に続く廊下を乱暴に走る音が四つ続く。小さいのが三つと、大きいのが四つ。
「うわああああ!」
「ききき、きたぁぁぁあああ」
「にげろぉぉ」
と、いつものように松谷家長女、松谷裕美花と、その弟たちの絶叫が響き渡る。
「風呂から出るときはバスタオルでちゃんと拭けといってるだろがぁーーーーーーっ! どこもかしこもびしょびしょじゃないかくぉらーーーーーっ!」
そして、歳の離れた三人の弟たちの首根っこをとっつかまえては、どつきまわして根性をたたき直すのだったが。
「や。裕美ちゃんこんにちは」
玄関ががちゃっと空いて……。
「……っ……あ!」
「チャイム、何度かならしたけど出てこなかったから、空けちゃった」
高校三年生の彼女より年上の、若い男がそこにはいた。
「せ、先輩〜……。あぅぅ……」
彼女の彼氏であり高校の先輩であり、現在は大学生の園川諒なのだった。裸の弟三人を、制服の上にエプロンを着ておたま片手に追いかけ回してるという、とっても恥ずかしいところを見られて赤面の至り状態。
「諒にいちゃん! 頼むから助けてくれぇ〜!」
「この凶暴ねえちゃん、どうにかしてくれよ!」
「そーだそーだ! 迷惑してんだぞ!」
とか、弟たちが喚く。……が。
「てめぇらああああああっ!!!!」
瞬時にどつきまわされる弟たちなのだった。
「ぎゃーーーーーーっ!」
「わーーーーーーーっ!」
「いってぇーーーーっ!」
ドタバタと、騒がしいことこの上ない。
「あははは。元気だねぇ」
のんきに笑う彼氏君だったが。
「諒にーちゃん! こんなおっかねぇねえちゃんのどこが気に入ったの?」
「そーだよそーだよ。どこが気に入ったの?」
「気をつけないといつかとって食われるぞ!」
「お前らなぁっ! 姉を何だと思ってんのよ!」
どつきまわされてなおも反抗する弟達。根性はかなりのもののようだが。
「んー。……そうだなぁ」
彼は、顎に人差し指を当てて少し考え込んで。
「ちょ……先輩! このバカ共の云うことなんて真面目に考えないでくださいよ!」
「君たちのお姉さんは、とっても優しくて、可愛いんだよ」
そんなことを笑顔で、本人の目の前で云った。
「えーーーーーーーーっ!」
「嘘だーーーーーーーっ!」
「信じらんねーーーーっ!」
否定の大合唱。でも、本当だということを続けて示す。
「本当だって。例えば……この前ね。裕美ちゃんと一緒に買い物行ったんだけど。君たちのお弁当のこと、すごく真剣に考えていたんだよ」
「先輩〜!」
結構天然入ってる彼氏にそんなことを云われて、真っ赤な顔が耳まで赤くなる。
「達郎君はうずらの卵が好きだから、買っていこう、とか。達彦君は唐揚げが好きだから、揚げてあげよう、とか。達也君は野菜が苦手だから、できるだけ食べやすいようにしてあげよう……とか。じっくり、ね。そんな風に、とっても優しいんだよ」
それを聞いて、悪ガキ三人は。
「そうだったんだ……」
「ねえちゃん……」
「ごめんなさい……」
おっかない姉が、実はとても優しくて自分たちの事を考えてくれているということを。
「ん……。もう。ちゃんと云うこと聞きなさいよね!」
「諒にーちゃん!」
「ねーちゃんをよろしくなっ!」
「泣かすなよっ!」
何か少し感動しているような弟達。
「は〜い」
と、笑顔で頷く彼氏。
「てめぇらあああああああっ! 余計なこと云うんじゃねえええええっ!」
「ぎゃーーーーーーっ!」
「わーーーーーーーっ!」
「いってぇーーーーっ!」
調子に乗るなとばかりに弟たちを再度どつきまわすのだったとさ。
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