ナナサク・After Story
「へっへー。見ろ見ろ悟ぅ。かっわいーでしょぉっ」 悟の部屋にて、さくらが見せびらかすように云う。彼女が着ているのは紛れも無く日本の多くの女学生が着用しているであろう正真正銘のセーラー服であった。それも上下ともに濃紺というカラーチョイスで、スカーフまで一色というとてもシンプルなタイプのもの。 「セーラー服か。まさに日本の心だな。いいものだ」 と、よく分からない事をうんうんと頷く悟。それを聞いて誉められたと受け取ったのか、さくらも満更ではないようだ。 「どうよどうよどうよ? マジで似合うっしょ? 現役そのままで通じるっしょ?」 現役と云うけれど、そもそもさくらには年齢があって無いようなものだった。外見的にはまさに女学生。さくらが気取ってくるりんとモデルのように一回転するとひらひらのスカートがふわっと空気に舞う。それを見て悟はふぅむと頷きながら云うのだった。 「なるほど。確かによく似合っているぞ。特に、そうだな。ノーパンなところとか最高だな。まさにパンツはいてないってな感じで全然違和感がないぞ」 「よーくわかってんじゃん。そうそう。ノーパンっていいわよねー。パンツはいてないからスースーしてそれがかえって涼しくていいのよね。この解放感が癖になっちゃう……って、てんめええええええっ何どこ見た上でんななめたことぬかしてやがっかああああこのどすけべやろーがあああああっ!」 ばきっと一発。さくらの鉄拳が悟の頬を強打した。勿論ビンタのような甘っちょろいものではなくジャンケンで云う所のグー。拳を握りしめた本気のものだ。こうしていつも喧嘩が始まるのだった。 「ぐあっ! ってぇなこの馬鹿堕天使! パンツはいてねーぐれぇでぎゃーぎゃー抜かすんじゃねぇよボケ! って云うかてめぇがパンツはいてねぇのは俺のせいじゃねーーーーっ! てめーが勝手にやってんだろうがああああっ!」 悟も負けじとどつき返す。女だからと云って容赦はしない。してはいけない。手加減をすると云う事は相手に大して失礼なわけだ。特にさくらが相手だから男女同権は当たり前。やっぱりグーでバキッと一撃。 「ってぇなコラ!」 「やりゃーーーがったなぁあああっ!」 「ぐげっ!」 「がふぉッ!」 双方共にパンチが炸裂する。そして……さくらの右腕と悟の左腕が交差。クロスカウンター炸裂により双方共にノックアウトし、リングに沈むのであった。しかし、二人とも無駄にタフなわけで。すぐに立ち上がる。今度は今度で取っ組み合いが始まるのだった。 「ぐががががっ! ああぁぁぁあぁっ!? だぁぁぁれのせーーーでこの超乙女なあたしがじょーじのーぱんじょーたいでいなきゃいけねーってんだぁこんへにゃちんやろーがああああっ!」 心なしか、さくらの頬は赤く染まっていた。どんなに強がっていてもやっぱり恥ずかしい模様。 誰のせい? そのワケを話すととても長くなる……こともない。悟は某私立大学に通う学生。そのため実家を出て一人暮らしと云うわけで、アパート住まいなのだった。両親からの仕送りはそれなりにあるけれども、定期バイトも見つけてきちんと真面目にやっているから別段お金に不自由はしていなかった。 が……ただしそれはあくまで、彼が一人で生活をしているという前提に基づいた試算なのであった。つまるところ今まさに、悟の生活に危機をもたらす脅威馬鹿女が一人叫んでいるのだ。 例えばある日のこと。やっと、待ちに待ったバイト代が悟の銀行口座に入金された。そして悟は当然の事ながら生活用品や食料品等の買い物に出掛けるのだがしかし、そこに大いなる悩みが一つあるのだった。 『んぐっんぐっんぐっ! うっめええええええええっ! おぐぁ! ごふぉ! んごぶっ! ぶはぁっ!』 買い物より帰宅後の夕食時。悟の目の前で、どんぶり飯を凄まじい勢いでかっこむ少女がいた。とても普段の美少女と同一人物とは思えない程の食いっぷり。けれど、紛れもなく七瀬・ミナエル・さくらその人である。 『おっ……がわり! ぐう゛ぉっ! げふぉっ!』 むせた拍子にご飯粒が飛ぶ。それはあたかも欠食児童のように、食い物に恨みでもあるかのような勢いがあった。 『……』 部屋の主であり食事を作った本人である悟は無言でご飯をよそる。内心では大いにため息をつき、さくらの底無しの食欲に呆れ果てている。いつものことながら、あっと言う間に炊飯器の中はすっからからんだった。黙って静かにしていれば可憐な美少女なのに、しかしその実態は常人の数倍は食いまくる大飯食らいで粗暴な性格のお馬鹿少女だった。悟はこのところ家計におけるエンゲル係数の増大を気にするようになっていた。買い物による物資の補充もさくらのせいであっという間にすっからからんになりそうなのだから。 また、さくらが今ノーパン状態なのには他にも理由があった。さくらは後先考えない短気で粗暴で傲慢で自信過剰で戦闘能力だけずば抜けている成績不振の落第天使である。悟と偶然出会い、恋仲になり同居に至るまでの経緯はそれなりに恋愛物語しているものではあったが、一度の別れを経て再会した後に問題があった。さくらは結構純情でとにかくひたすら愛しの人である悟に会いたいがため、お上の許可を得られたらその足でろくすっぽ何の準備もせず何も考えず家出娘のよーに天界から降臨したのだった。それこそ着の身着のまま。つまりは……。 「パンツぐらい買ってくれたっていいでしょがこのけちんぼ!」 代えの衣服はおろか、下着すらもっていないわけだった。無論悟も鬼ではないのでさくらの言に首肯……してやりたかったのだが、前述した風景……さくらのあまりの大飯食らいにより予算がかなり圧迫されているので、なかなかうんとは云ってやれないのだった。そしてまた更に別の理由もあった。そちらも原因は全部さくら。 『悟ぅ。新刊買って買って買ってぇ〜。あ、ちょっと。話聞いてよぉ。いけずぅ〜〜〜』 暇なのですることが無く一日中悟の本とかDVDとか見ていたことによりハマってしまった同人趣味。つまりは薄くて高い本こと同人誌を欲しいとねだるのだった。だだをこねるのだった。悟がダメと云うとすねるのだった。わめくのだった。やかましいのだった。そんなわけで、さくらは自分の下着代すら犠牲にして趣味に打ち込むのだった。 とまあ、万事この様な調子だったわけで。悟が呆れ果てて怒鳴りつけるのも合点がいくというものである。 「全部てめぇの自業自得だろうがこのノーパン変態天使がっ! 人のせいにしてんじゃねーよ腐れボケ!」 さて、ここからいつもの恒例。放送禁止用語オンパレードの罵り合いタイム。 「くああああぁぁぁぁっ! それがどうした後先何か考えてられっかぁっぁぁぁぁ! それとあたしのこと変態云うんじゃねええええええっ! この腐れどち○ぽやろぉがあああああっ!」 「誰がどう見てもど変態だろうがこの露出狂な変態天使! てめぇ天下の往来でま○こ晒して実は気持ちよくなってんじゃねーかこのアホ! ぐしょぐしょの濡れ濡れになってんだろ実はっ! あァコラ!」 「んなわきゃねえええええええっ! だらあああああああっ! んなにだぁほなことぬかしてやがっかぁぁぁぁ! てめぇ悟このアホち○こやろおおおおっ! 女のまん○の恐ろしさを思い知らせてやらぁっ! とぇいっ!」 激昂しまくるさくら。遂に暴力に訴えるのだった。平和の象徴たる天使のはずなのに……。 ともかくもさくらは突然垂直ジャンプし、悟の顔を両股で挟み込んだ。かにばさみと云うやつである。猫のような跳躍力は見事で競技者にでもなればものすごく注目されることだろうが、やってることは所詮つまらん痴話喧嘩である。大いなる才能の無駄使いである。 「んぐおおおおおあっ! て、てんめぇこの大馬鹿女がぁっ! なにきたねーとこなすり付けてやがんだこのっ! 離れやがれスカ天使!」 「きいいいいいいいっ! あたしのま○こは汚くなんかねええええええっ! 毎日ちゃんと風呂入ってま○毛でわしゃわしゃ石鹸泡立たせてきれいにきれいにきれーーーーええぇえぇに洗ってらぁぁああぁああぁぁっ! ざっけんなあああああああっ!」 「んだぁっ! てめぇ、○ん毛何かに石鹸なすり付けてんじゃねぇよこのド低能っ! 石鹸が汚染されっだろがああああああっ!」 「ばかやろおおおおおおっ! あたしのまん○はきれーに決まってんだろがああああああっ! あたしのま○こナメんなよ馬鹿悟っ!」 「ええい! えええい! 離れろったら離れろっつーんだよこのっ! んりゃああああっ!」 がっしりと両足を悟の顔に絡めてぎりぎりと締め付け離れないさくら。悟はよろめきながらも業を煮やしたのか、舌で刺激して脱力させてロックを解除させるという作戦に出た。 「あーーーっあーーーーっあああああっ! さ、悟っ! てめぇなにま○こに舌なんか入れてんだよ馬鹿野郎ぉッ! や、やめ……あ、あ、ああああっ! こ、このすけべやろおおおおおっ! ナメんなって云っただろがナメんなってこるぁああああっ!」 先程云った『ナメる』の意味が違うけれど、とにかくさくらは喚いた。 「るせぇ! 嫌なら離れろっつーんだよ!」 さくらはキれていた。今はとにかくなんか命令されたら反抗するという悪ガキのような状態になっていた。 「いやっ! やだっ! ぜってぇ離れないんだからぁっ! う、う、うああああっ! だめっだめぇっ! あ、あ、あ……いいい、いっちゃったりなんてしないんだからぁっ! ああああああっ!」 「てめぇ何汁たらしてんだコラ! さっさと離れろおおおおおおおっ!」 いつの間にか気持ちよくて濡れ濡れになってしまっていたらしい。 「やだったらやだやだやだぁっ! きもちいーんだもんっ! うにゃひゃあああああっ!」 喧嘩していたんだか罵りあっていたんだか嬉しいんだか恥ずかしいんだか。さくらはびくびくと体を震わせる。絶頂が近いようだった。 こうして二人の絡み合いは延々と続いた。喧嘩するほど仲が良いと云うが、二人はとても仲良しのようだった。多分。 そして更に、さくらが達した後で……。 「悟ぅっ!」 「ぐわぁっ!」 セーラー服の濃紺スカートがまくれ上がってパンツに覆われていないお尻の割れ目が丸見えのさくら。そんなこと全くかまわず突如悟を押し倒した。そして云う。さくらは今、獲物を狙う獣の目をしていた。 「今度はあたしがやってやらぁ! てめぇのち○こナメさせろおおおおおおっ!」 「や、や、やめええええええいっ!」 自分の秘所を散々舐めたのだから、今度はこっちからだ。不公平は絶対に嫌なのだった。痴女と云うべきか、逆レイプと云うべきかとにかく危ない風景がそこにはあった。ものすごい勢いで悟のズボンのチャックを下ろし、出てきたものに食いついた。 「んごごふぉおおおおおおおおおおおおっ!」 「おわああああああああああああっ!」 いきなりディープスロートでくわえ込んでは引き抜く。舌がつりそうなくらいの愛撫。顔を真っ赤にして、苦しそうに目尻に涙を溜めながらもさくらは頑張るのだった。 やっと喧嘩(?)が一段落した後のこと。
「ううぅ……。何であたしがこんな、男物のトランクスなんてはかなきゃいけないのよ……」 痛し痒し。苦肉の策。さくらのスカートの下には悟のトランクス。サイズはもう、強引に紐で縛って合わせた。もはやプライドもなんもあったものではなかった。 「仕方ねーだろ。それとも、何もはかないままのほうがいいか?」 「もっと嫌!」 そんなことを云いながら某ファッションセンターで買い物をするのだった。 「ねね。悟ぅ」 「ああ。何だよ」 「試着していい?」 「好きにしろ」 ぱんつはともかく、嬉々として安い服を数着持っていっては試着するのだった。それだけ見ればとっても普通の女の子。そういう瞬間だけを限定すれば、彼女の天使の羽もぴったり似合うのだった。 「どうよどうよどうよ? 似合ってるっしょ?」 試着室のカーテンがシャッと音を立てて開く。 「あー。まーいーんじゃねーか別に」 「ふっふっふー」 どうでもいー。投げやりな悟。だけどさくらは知っていた。悟はぶっきらぼうながら、キチンと自分を見てくれていることを。きっと内心、なんだよ結構可愛いじゃねーか等と思っていることだろう。決して口には出さないけれど。さくらにはそれが簡単にわかった。それだけ悟はちらちらと何度も何度もなめ回すように見つめているのだから。勝った……と、さくらは何だかわからないが強く思った。 「わーったからさっさと脱いでパンツと一緒に買ってこい。腹減ったからさっさと帰って飯作るぞ」 心底面倒くさそうにしながらも、服も買ってくれた。 「あいよ。……てぃっ!」 「おわっ!」 さくらは人懐こくにこにこにんまり笑って、そして悟の顔をヘッドロックしながら試着室のカーテンの中に引っ張り込み。 「悟ぅっ」 「んだよ」 「こんにゃろっ! 大好きよぅっ!」 豪雨の後快晴。極端な天気予報のようにいつもはかなりツンツン。けれど時々猛烈に素直。さくらは嬉しさのあまり悟の頬に豪快にキスをした。いつもどつき合い、罵り合いばかりだけど。実は誰よりも大好きと思える仲良しさなのだった。 おしまい
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