Prologue
「ねえ」
何気なく、『彼女』は親友の『彼女』に云った。 「なぁ〜に?」 緊張感の欠片もありゃしない『彼女』は間延びした返事をてきとーに返した。 「ちゃんと戻ってきなさいよね」 「わーってるって。うん。わーってるわーってる」 悪いけれど、その返答は信頼性に乏しいものだった。だからこそ、『彼女』は親友の『彼女』に再度注意を促した。 「もう……。いつもそう云って、普通に戻って来た試しがないんだから」 「たまたまよ。たまたま」 同じようなことが五回、十回、と続いていても、たまたまと云いきる『彼女』だった。 「いつもそうなんだから」 「そ。あたしはいつもそうだよ。……でもね、だからあたしはいつもあたしでいられるの」 自分自身のことを笑って云いきる彼女。 「自分で云ってどうするのよ。開き直らないで」 『彼女』のため息はとても深いものだった。 「へへへ。……じゃー、そろそろ行くね」 「気をつけてよね。本当に」 「ほいほいっと。そんじゃ、行ってきま〜す」 そして、親友の『彼女』は姿を消した。 「もう……。心配だなぁ」 『彼女』の独り言はやはり、ため息混じりだった。 「あーん? どしたぁ?」 そこに、くわえタバコの若い男がやってきて……。 「先生……」 「あァ。あいつが行くのか。そらぁ、ため息の一つもつきたくなるわなぁ。わっはっは」 「もう。笑い事じゃないですよ」 男は注意されてもおかしいようで、笑いながらタバコに火を付けるのだった。 「ちゃんと、戻ってきてよね……」 |