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新日本ヴァイオレンス昔話『斬!-ZAN!-』





 ……昔々、あるところ(ポイントN-534-145)におじいさんとおばあさんがおったそうじゃ。

 鬼軍曹で軍の教官ことSDI(SeniorDrillInstructor)なおじいさんは山にある駐留所に新兵の訓練をしに。東側国家の隠れスパイであるおばあさんは河に工作員と接触をしにいったのじゃった。

 そんなのどかで平和な緊張感の漂うある日のことじゃった。

 河に極めて一般的な老人のフリをして洗濯をしにいったフリをしているばあさんじゃったが、じゃぶじゃぶと洗濯物を自然に優しい極めてエコロジーな天然石けんで洗っているフリをしていると、上流から極めて自然かつ違和感のない巨大なものがどんぶらこっこ、どんぶらこっこと流れてきたそうじゃ。それはもうのんびりと、かかってる橋と通る人や車をドガドガバキバキとえげつなくぶっ壊しなぎ払いながら桃はおばあさんの元へと辿り着いたのじゃった。

「おお! でっかい桃じゃ。……おおっ! パカッとひとりでに割れたぞな! ふぉふぉふぉふぉ。こりゃわしゃあえらい驚いたぞなもし!」

 と、すごく驚くフリをするのじゃったが、極めて真に迫っていたのじゃった。……パカッと割れた桃からは、一人のきらびやかな服を身に纏った若い男が現れたのじゃった。そして彼はおばあさんを見てこう呟いたのじゃ。『Oよ。今晩決行す。23:00(ふたさんまるまる)……』と。それを見ておばあさんはにやっと笑い『フフフ。何のことですかえ? わしゃあただの洗濯をしている、ただのしがないスパイなおばあさんですじゃよ』と、これまた誰にも聞こえないようにぼそっと呟いたのじゃ。……だが、そのぎらりと光る瞳は単なるばあさんのそれではなく、陰謀に長けた者の鋭い光を放っているのであったのじゃ!

 さてさて、一方のおじいさんじゃったが。

 凶悪鎌使い・一度狙われたら地獄の底まで追ってくる死神じじい等、いくつもの怖そうな異名を持つ『ジェッド・ハーツマン・豪州軍曹』ことおじいさんは、『山』に日課としている新兵の訓練に出かけていたのじゃった。『山』にはそれはそれは、厳しい訓練場があるのじゃった。そしてそこで、毎日のように新兵が 訓練されて有事に備えておるのじゃった。

「整列! ……どいつもこいつも情けなく××××ひっこめやがってこの○○○○野郎共が! 口で血ヘドたれる前に『サー』と言え! 分かったか糞虫共! 分かったら返事をしろ!」

 ベトナム帰りのハーツマン軍曹は、常日頃から放送禁止用語オンパレードのとってもロックなイかしたじいさんじゃった。おじいさんの優しい号令に対してなまっちょろい新兵達はびくびくしながら『サー! イエス・サー!』という叫び声を思いっきりはりあげるのじゃが、おじいさんには全く不満だったようで『声が小さい! 俺とばあさんのア○ルフ○ックの方がまだ気合いが入ってる!』と、厳しく優しく新兵を指導していくのじゃった。既に還暦をとっくのとうに超しているというのに3人以上のおばば(年齢不問)と一緒に事を致すのが趣味という、かなり好色で化け物じみたじいさんじゃったそうな。

 さて、本日の訓練メニューは何じゃったかというと……。早朝の4時頃『とっとと起きろ! さっさと起きろ! 起きなければそのまま死んでしまえぐずども! マ○かきやめ! 起きないならばそのまま糞まみれのまま死んでしまえ!』という、おじいさんの優しい号令によってみんな起床し、るんるん気分でずっしり重い30Kgの背嚢を背負って、ピクニック感覚で楽しく『爽やか糞兵隊さんマラソン』こと、20Kmのマラソンをこなした後に仕上げとしてナイフ・トレーニングをするのじゃった。そして、トレーニング相手は勿論、おじいさんことハーツマン・豪州軍曹なのじゃった。

 とはいってもおじいさんはナイフは使わず、古き良き牧歌的な時代の産物である鎖がまを手足のごとく使ったそうじゃ。四、五人くらいいっぺんに相手にしても微動だにせず『反応が遅い! 死ぬまでやり直せ!』という一言だけで若き訓練兵をことごとく撃退していったそうじゃ。勿論、新兵達が弱音を吐いたり立ち上がれなかったりすると『この○○○○が! 受精卵からやり直せアホ!』と、優しく気合いをいれてくれるのじゃった。

 そんなわけで若い連中を相手に思う存分運動しハッスルした後、事務処理があるとかなんとか口実をつけて実は兵舎の若くて綺麗なパツキンねーちゃん……もとい、女性士官と色々致すために、今日は山のふもとにあるお家には帰らず泊まることにしたのじゃった。そして、でっかいベッドでかれこれもう五、六回くらいは連続でねぇちゃんをいかせまくり、完全におじいさんが主導権を握って、途絶えることなく色々とぎしぎしあんあんと表現を検閲したくなるような行為が激しく行われている頃じゃった……。

 散々ハッスルしたあとで、筋肉もりもりな腕を枕にしてあげて、ねーちゃんのないすばでぃで白くてモチハダな柔肌と甘い髪の香りを楽しみながら心地良い眠りに身をまかせているところじゃった。……いきなり、辺りがパッと真っ白になったかと思ったら、どーん、どどーんと建物……いやいや、『山』自体が大きな震動に襲われるのじゃった。それも立て続けに、間断なくじゃった。勿論おじいさんはすぐに気付いて飛び起きて、極めて冷静に状況の把握につとめるのじゃった。『何事じゃあっ!』といって豪快にドアを蹴り飛ばして基地司令室に入ったところ、宿直の兵隊さんのお返事は『はっ。状況は依然不明であります!』とか情けないことを云って、一生懸命いろんな所と通信を行おうとしたのじゃったが『ダメです! 妨害電波がひどくて……』と、つまり状況はわからないと。こういうことになったのじゃった。じゃが、百戦錬磨のおじいさんにはそのような言い訳通じるわけがないのじゃった……。『このうつけ者めが! 敵襲に決まっておろうが! さっさと軍司令部と連絡を取らんか! 迎撃準備じゃ!』と、状況を真っ先に把握して、平和ボケしたみんなを怒鳴りつけてから新兵共を不本意極まりないけれど実戦に投入するべく兵舎に向かおうとしたのじゃった。……じゃが、既に全てが遅かったのじゃった。次の瞬間、閃光が全てを消し去ったのじゃった。

「ぐ、ぐおおおおっ! ま、まさか……まさか! ……お、おのれ!」

 恐らく、いや、間違いなく、何者かの海からの一斉砲撃によって、辺り一面火の海と化していったのじゃった! おじいさん危うしじゃ!

「ふぉふぉふぉふぉふぉ! 燃えとる燃えとる! よぉ燃えとりますのぉ。ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ。綺麗ですじゃのう! ふぉふぉふぉふぉ! 綺麗な花火ですじゃのう! おふぉふぉふぉふぉふぉ!」

 一方その頃。『そこ』では入れ歯が外れたよーな、というより実際はずれていて今現在はポ○デントで洗浄中なのじゃが、とにかくそのようにバルタン星人のように不気味な笑い声が響くのじゃった。その笑い声の主は、おじいさんにとっての最愛の人、おばあさんじゃった! じゃが、その正体は……コードネーム『O……OBAASAN(おばあさん)』と呼ばれる諜報部員・スパイなのじゃった! ……そして、彼女の後ろにある艦長席のような椅子に、一人の男が腰掛けているのじゃった。その男こそ、おばあさんの息子とも云える若き英雄、ジークフリード・MOMOTAROじゃった!

「ふふふふ。これではさすがのおじいさん……伝説の男、ジェッド・ハーツマン・豪州軍曹もひとたまりもあるまいな。もはや天下は我にあり。我、MOMOTAROがこの世の全てを支配するのだ! 超機動要塞ONIGASHIMA始動だ!」

 超機動要塞ONIGASHIMA。……それは、東西冷戦時代に旧ソヴィエト連邦が極秘裏に開発していた超秘密兵器なのじゃった! 冷戦の終結と共に開発は中止され、そのまま放置されていたのじゃったが、現代技術をもってしてリストアされ、更に強大なものとして復活したのじゃった! そしてそのことは既におじいさんは全て把握済みだったのじゃった。ONIGASHIMAの調査と占拠を命令していた息子ともいうべき、ジークフリード・MOMOTAROが自分に対し反旗を翻したということが。そして、おじいさんから全てを奪ったという事実がわかってしまったのじゃった。

「うおのれえええええええっ! おのれMOMOTAROォッ! おのればあさんッ! おのるえええええええええぃっ! 貴様らだけは! 貴様らだけは絶対に許さん! 地獄の鬼共などに任せてはおけん! 我が身滅び朽ち果てようとも、貴様らだけは必ずや我が手で葬りさってくれようぞ……! うおおおおおおおおっ!」

 基地全体を徹底的に爆撃され、更なる集中砲火によって手塩にかけて育て上げた部下を皆殺しにされ、爆炎と黒煙に包まれる『山』に取り残されながら必死に走って走りまくって脱出を試み、おじいさんは一人炎の復讐を誓うのじゃった!

 そして、超機動要塞ONIGASHIMAの奇襲とも云える主砲斉射によって、粗方『山』と周辺地域を破壊し尽くし、要塞司令長官ジークフリード・MOMOTAROは戦果に満足し、意気揚々と移動を開始しようとしていたのじゃったが……。『司令長官閣下! 何者かがこちらに向かってきます!』と、機動要塞のメインブリッジにて、オペレータの一人が上ずって怒鳴り声にも似た報告をあげるのじゃった。炎と黒煙に包まれた陸地から、ばごごごごご! と轟音を上げて近づいてくるそれは……爆薬をたんまりと積んだ大型のモーターボートなのじゃった。ただ一人、要塞からの攻撃に執念で生き残ったおじいさんが、玉砕覚悟の特攻を開始したのじゃ!

「何と! おじいさんめ! あれだけの攻撃を受けて尚生きておったのか!? だが、悪あがきに過ぎぬ。そんなちゃちなモーターボート程度でこの要塞に勝てると思うなよ! 主砲発射だ! 撃って撃って撃ちまくるのだ! かの伝説の男、ハーツマン軍曹の全身を蜂の巣にしてしまへッ!」

 ……MOMOTAROの号令により瞬く間に巨大要塞の集中砲火を食らい、四方八方に水煙があがるのじゃった。じゃが、おじいさんはそんなものにひるむわけがなく、『うおおおおおおおおおおおおっ! そんなものわしには当たらぬ! 当たらぬわあああああっ! 平和島競艇の鬼とうたわれたこのわし! ジェッド・ハーツマン・豪州を舐めるでないぞぉぉォッ!』と、気合い充分に絶叫しながらひたすらモーターボートのエンジンを全開にし、前進を続けるのじゃった。右手にはずがががが! っと火花を散らしているマシンガン、左手にはぎらぎら光る日本刀、そして背中には鋭角に切られた竹槍を背負って……。その姿はまさに修羅のものじゃった!

 爆薬を積んだ大型ボートのエンジンを全開にし、最高速で超巨大要塞ONIGASHIMAに特攻するおじいさんじゃったが、そのあまりにも切れる頭脳は冴えまくったのじゃった。『そこじゃああああっ!』と、特殊複合装甲でガチガチに固められた要塞の、数少ない脆い部分……弱点を一瞬にして見抜き『うおおおおおッ!!!!』と叫ぶのじゃった! 『おじいさんは死を恐れてはいないのかっ!?』と、驚愕するMOMOTAROじゃったが、やがて……どどおおおおん! と、轟音上げながらボートが要塞に激突し、ブリッジにも凄まじいばかりの激震が走るのじゃった。

 その爆発の威力はすさまじく、クルー達は皆椅子から吹き飛ばされるのじゃった。じゃが、MOMOTAROだけは素晴らしい平衡感覚を持っておって倒れず『おのれおじいさん。最後まで我が野望を阻むつもりか……!』と、凄まじい眼光で窓の外を睨みつけるのじゃった!

「ぐふっ! お、おのれおじーさんめぇッ! よくも我らをここまで追い込んだっ! ……もたもたするなっ! 損害を報告せよっ! 負傷者の治療もはじめろォっ! そして索敵も強化だァっ! あの不死身じじぃはまだ生きてるやもしれぬぞっ! 必ず先に殺るのだ! さもなくばこっちが殺られるのだぁぁぁっ!」

「はっ! 要塞機関部左に被弾! それによりエンジン出力25%減少! 装甲破損により浸水箇所有り! 現在補修中! ……っ!? て、敵ですっ! 真上に敵影っ! 近距離!」

 おじいさんの捨て身の攻撃により、大打撃を被った巨大要塞ONIGASHIMAじゃったが……。その司令官である美形のにーちゃんジークフリード・MOMOTAROは体を壁に強打し血反吐を吐きつつも的確な指示を懸命に出し続け、衛生班を招集し要塞内部の負傷者の手当をし、破損箇所を修復するのじゃったが。損害を報告するオペレータ(赤鬼さん)の声が突如深刻さを帯びるのじゃった! 全周囲索敵モニターが映す要塞上空。そこには……!?

「やはり生きていたか! 対空放火を放てえええええええぃっ! 撃ち落とせっ!」

「フフフ。遅いわッ! 上を取らせるとはまだまだ! こんな事もあろうかとモーターボートに脱出装置を装備しておいたのじゃ! 死ねええええええぃMOMOTAROおおおおおおぉッ! 全滅じゃあああああああああああああっ!」

 巨大な月を背にした人影が、そこにはあったのじゃ。過激な問題発言を繰り返しながら対空放火をものともせず、パラシュートをバキッと切り離し、急降下してくるおじいさんじゃった。おじいさんは、爆薬を積んだボートで捨て身の突撃をする瞬間に、脱出装置で遙か上空に脱出していたのじゃった。そしてそのまま、要塞の司令部めがけて貫通力の非常に高いミサイルの仕込まれた竹槍を思いっきりバシュッと発射するのじゃった。そして、直撃を受け、要塞司令室にも火の手があがるのじゃった!

「うわっはっはははははははーーーーーーーー! 燃えろ燃えろ燃えろおおおおっ! 何もかも皆すべて燃えてしまへえええええええええっ! うわっはっはははははははーーーーーーーーッ!」

 真上からミサイルの直撃を受け、司令部とエンジンルームにまで火の手があがり完全に足を止められた巨大要塞ONIGASHIMAじゃったが、おじいさんによるすさまじいばかりの攻撃はそれだけに止まらなかったのじゃった。何と、体中に巻き付けておいた手榴弾を一つ一つ引っ剥がしながら、要塞の弱いところ……あちこちの砲塔や結合部分等目がけて投げまくったのじゃった。そのたびに要塞内のあちこちで誘爆が巻き起こり、既に消化のしようもないほど致命傷となったのじゃった。

「……くっ。もはやこれまでか。……だが。おじいさん。あなただけは! ……あなただけは我が手で倒してくれようぞ……!」

「……ふっ。やはり来たか。MOMOTAROよ。わしゃあ嬉しいぞ」

 激しく爆発し、燃えさかる要塞の屋上にて破壊活動をしていたところ、真打ちの登場を知り、ジャキンと鎖鎌を構えながらにやりとニヒルに微笑むおじいさんじゃった。おじいさんは、強い相手と会うととっても嬉しくるんるん気分になり、心高ぶり年甲斐もなくときめいて『はっする』してしまう性癖をもっておるのじゃったが、MOMOTAROも相手に不足などはないのじゃった。そもそもMOMOTAROを手塩にかけて鍛えたのは他でもないおじいさんであり、実力は折り紙付きなのじゃった。これはいわゆる、師弟対決というものなのじゃった。

「おじいさん……。私は、あなたを倒す!」

「フフフ。できるものなら……」

 鞘からじゃきんという音を立て、長く太い太刀を抜くMOMOTAROじゃったが、それに対しておじいさんは『芝刈り』用の鎖がまを構えるのじゃった。

「やってみせるのじゃMOMOTAROォッ!」

 『芝刈り』が意味をするものとは、イコール、これまでに『強敵』を、幾人となく倒してきた、ということなのじゃった。そして、じりじりと距離を取る二人じゃった。『ふふふ。準備運動など、いらぬよな?』と、不適に笑うおじいさんに対し『この一撃でしとめて見せましょうぞ』と、格好好いMOMOTARO じゃった。そして……。

「けええーーーーーーーーーーっ!」

「とああーーーーーーーーーっ!」

ズバッ! すれ違いざまに斬り合い、互いに背を向け合う二人じゃったが……。

「……。惜しいかなMOMOTARO。共におれば儂を越すのも時間の問題じゃったろうに……」

 口を開いたのはおじいさんじゃった。どこか寂しげに笑うおじいさんじゃったが、背後ではMOMOTAROが『ぐはっ! ……無念!』と云って、口から赤い血をどばぶはァッと盛大に出し、倒れ、爆発の中に飲まれるよいうに落ちて行くのじゃった。

 手塩にかけて育てた部下であり、我が子であり、そして強敵であった男。ジークフリード・MOMOTAROを見事、一撃の下に撃破したジェッド・ハーツマン・豪州軍曹ことおじいさんじゃった。じゃが、爆発炎上の続く要塞の中から、一人の人間がすすと油にまみれて命からがらでてきたのじゃった。

「……。ふふ。ばあさんや。朝飯はまだかいのう? わしゃあまだ飯を食っておらんぞぇ〜」

 そこには、最愛の人であり自分を裏切り殺そうとした張本人・おばあさんがおったのじゃった。

「ふぉふぉふぉ。いやですわ。またおじいさんに反撃されてしまいましたわ。おふぉふぉふぉふぉ」

 と。かなりすっとぼけた調子で抜かすばあさんじゃったが。おじいさんはにやりと笑いながら『これでわしが裏切られるの、二八度目かの?』とかいうのじゃったが、おばあさんは『嫌ですよおじいさん。三二回目の間違いですよ』等とぬけぬけとぬかしかえすのじゃったがそれに対してさらに『そんなになるのかのぅ』と、穏やかにボケまくるおじいさんじゃった。そんなにもいっぱい裏切られておるのじゃったが……。

「ふふふ。何度でも……わしを裏切りつづけるがよい。何度でもわしを殺そうとたくらむがよい。……じゃが。そのたびに、ばあさんの企みをわしがぶちこわしてやろう。ばあさんにとって最高の男は、わしなのじゃからのう」

…………。

 ……そんなこんなで、おじいさんとMOMOTAROとの激闘より一ヶ月が過ぎた頃じゃった。おじいさんは相変わらず山に芝刈りと称した新兵の訓練に、おばあさんは相変わらず洗濯と称した諜報活動に精を出しているところじゃった。彼らは再び平和な緊張感溢れる日常を取り戻したかに思われたのじゃった。じゃが……。

「ゴミ溜めに巣くう薄汚いゴミ虫共が! 反応が遅い! 貴様ら全員受精卵からやり直せ!」

 と、素敵なワードを流暢に操るおじいさんじゃったが。『あれがおじいさんことハーツマン軍曹か?』『うむ。間違いない。戦闘力計測装置(スカウター)の値が異常なまでに跳ね上がっておる』『我らの主君を殺した奴を許すことはできぬ』と。新兵達の屋内戦闘訓練を見届けているおじいさんを、背後から何者かがにらみつけるのじゃった。彼らは一体何者なのか!?

 ……MOMOTARO軍の分艦隊司令は三人いるのじゃった。猿渡武昭中将。雉ヶ崎勲中将。犬神助清中将。それぞれ個性は様々であるが、皆一様に若く、忠義に溢れる漢達なのじゃった。そして、彼らが忠誠を誓った主人・MOMOTAROがおじいさんにより、敗れた。

「我ら三人。KIBIDANGOトライアングル! いざ、復讐の時!」

 背後を見せたおじいさんめがけ、彼らは凄まじい早さで茂みの中から強襲攻撃をしかけるのじゃった。

 実はおじいさんには困った性癖があるのじゃった。それは、おじいさんはおばあさんに裏切られるのが趣味なのじゃった。そしておばあさんはおばあさんで、いかにしておじいさんを裏切り陥れてやろうか考えたり実行したりするのが趣味なのじゃった。周りの人間をひたすら巻き込みまくる、とてもはた迷惑な趣味なのじゃったが、おじいさんはおばあさんに裏切られるたびに云いようのない快感を感じるのじゃった。

「ふぉふぉふぉ。わしはただの芝問屋のおじいさんじゃよ」

 立て続けに行われる攻撃を軽々と回避しながら、ひたすらすっとぼけるおじいさんじゃった。おじいさんは今、どのようにしておばあさんの卑劣かつ用意周到な裏切りを撃破しようか考えるのが楽しくて楽しくて仕方ないという、楽しくピクニックに出かける時のようなるんるん気分なのじゃった。

「何っ!? 回避しただと!?」

 背後からの三中将の奇襲攻撃に対し『ふ、来たかひよっこ共め』とばかりに僅かに身体をひょいひょいと動かしただけで全てかわしてしまったおじいさん。明らかに彼らの来襲を予測しておったのじゃった。

「ふぉっふぉ。またわしを裏切ったのかのぉ? 婆さんや」

 とまあ、今日はそんなことがあっただけの何の変哲もないごく普通の一日だったわけじゃった。





…………





 番組の途中ですが、ニュースをお伝えします。本日午後23時頃、千葉県の太平洋沖を震源とする地震が発生し……。地震の規模はマグニチュ……。津波の心配はありませ……

「う゛ゎかものぐァ! ぢしん情報などどうでもええ! 続きを映せ続きをおをおおっ!」

 急に切り替わる世界。……もとい、いきなり切り替わったディスプレイに向かって入れ歯と唾を飛ばしながら怒り、吠えるおじいさん。そして『ほほほ』とのんきに微笑みながら急須でちゃぶ台の上の湯飲みにお茶をどぼどぼつぐおばあさんがいるのじゃった。

「そうですかねぇ。犬さんと雉さんと猿さんのお三方ではおじいさんはご満足頂けなかったみたいじゃのう。ふぉっふぉっふぉ。それじゃあのう、MOMOTAROをのう、サイボーグにして武装強化させた上で復活させて、また反乱を起こさせましょうかのう。裏切りとしては弱いですかのう」

「そうじゃのう。アイデアとしてはありふれてて面白くないのぅ。減点3じゃよ。裏切りとはもっとこう、用意周到かつえげつなくてはいかんのう」

 お茶の間にてそのようなほの殺(=ほのぼの殺伐)としたコミュニケーションが続くのじゃった。互いにぼけているのか本気なのかわからないのじゃったが、かなり二人の空間はねじれきっているのじゃった。

「ふふふふ。それにしてもおじいさん、ずっと私の裏切りを乗り越えて良く生き残れましたねぇ」

 テレビに突っ込みを入れるおじいさんを見て微笑み、ほのぼのととんでもねぇことを呟くばばあじゃったが……。それじゃからこそおじいさんは心の底から愛しておるのじゃった。どんなに若いおなごとあーんなことやこーんなことを日々致しておっても、必ず最後はこのおばあさんのところに戻ってくるのじゃった。

「ふぉふぉふぉふぉ。まだまだ甘いんじゃよ、おばあさんの裏切り方はのぅ。ま、そこが可愛い所なのじゃがな」

「ふぉふぉふぉ。おじいさん。では、このような催し物はいかがでしょうかえ?」

「ぬっ!?」

 その瞬間。おばあさんの背後の障子がぶすぶすぶすっといきなり破かれのんびりと機銃掃射がはじまったのじゃった。弾丸の雨霰がドガガガガッとおじいさんめがけて容赦なく降り注ぐのじゃった。ほのぼのお茶の間で最愛のおばあさんとのおしゃべり中のリラックスムードを狙っての襲撃なのじゃった。とても卑怯で笑顔が偽善なところがおばあさんの性格なのじゃった。その弾丸は全ておじいさんに命中してしまったのじゃった

「ぐわっ! ふ、不覚!」

「おやおや。そのやうな流れ弾にちかい弾丸をあっさりくらってしまうとは、衰えましたかな? おじいさんや」

 おじいさんは脇腹を押さえてうずくまるのじゃった。おばあさんの嘲笑は、おじいさんにとってとても心地良く何ものにも代えられない甘美さを放っているのじゃった。

「ふふふ。まさか……。おばあさんに殺される程、わしゃまだ衰えてはおらんぞぇ。……はおおおおおおっ!」

 気合いを込めて体中に力を入れるとめり込んだ弾丸がぷつっぷつっと全部飛び出してきて、瞬間的に傷口も塞がるのじゃった。更に……。

「反撃開始じゃああああっ! そこォーーーーーーーっ! とぇはァーーーーーーっ!!!!」

 何とおじいさんは、飛び交う弾丸を指や箸でビシッと掴んでは、何倍もの早さで投げ返しはじめたのじゃった。『ぐふっ!』とか『がぁっ!』とか『がふっ!』とか、雑魚が次々に倒れていく中。おじいさんは叫んだのじゃった。

「おるのはわかっておるぞぉ! でてこんかいMOMOTAROおぉォッ!」

 まさか、あのMOMOTAROが生きておるとは!?

 じゃが、おじいさんがMOMOTAROの名を呼んだところで、三人の男達が現れ、立ちはだかったのじゃった。三人の大柄な男達は、事故にでも遭ったかのようにボロボロで負傷をしているが、それでも尚戦いの決意を胸にしておるようじゃった。

「待て!」

「……。誰かと思えば、今日の昼間にわしが瞬殺した犬猿雉共ではないか」

 彼らはMOMOTAROの部下である三中将。猿渡中将。雉ヶ崎中将。犬神中将。じゃった。おじいさんに瞬殺され、やられた描写すらなくやられておったのじゃが、何とか復活して再度戦いを挑んできたのじゃった。主君であるMOMOTAROの無念を晴らすために、おじいさんを倒しにきたのじゃった。『覚悟!』といって、身構えたその時既におじいさんは至近距離まで接近していて既に勝負はついていたのじゃった。

「折角復活してきてくれて悪いんじゃがのう。……とう!」

 ずば、ずば、ずばと手刀を三連発。その一撃で三中将は『ぐふっ!』と、極めてどらくえ的な断末魔の叫びを上げて、またおじいさんに倒されるのじゃった。あっという間にじゃ!

「ふぉふぉふぉふぉ。瞬殺は美学じゃよ。相手に技を名乗らせるどころか戦う余地すら与えさせない。これぞ儂の戦闘美学じゃ」

 そしておじいさんはくるっと向き直り。おばあさんをにらみつけ。

「さて、ばあさんや。答えてもらおうかのう」

「は? なんですかおじいさん。あたしゃ最近耳が遠くなってしまいましてねぇ」

 にこにこにっこりとほほえみながら、耳に片手を当てて聞こえないというジェスチャーを返すおばあさんじゃった。それに対しておじいさんはおばあさんに近づいて、耳元で大きな声で……。

「答えてもらおうかのう、と云ったんじゃよ。この裏切りの言い訳をのう」

「はぁ、そうでしたかのぅ。ところでおじいさん」

「なんじゃな? おばあさん」

 おばあさんは、とってもスローリーかつにこやかな動作で、おじいさんの首筋に鋭利なナイフをさくっと振り下ろしたのじゃった。

「ぐおおおおおっ! 血がーーーー! 血がーーー! おばあさん謀ったぬぁぁぁぁーーーーー!」


「ふぉふぉふぉふぉ。甘いのですじゃよ、おじいさん」

 ぷしゅーっと血が吹き出るおじいさんを見て、にっこりと微笑む外見だけはとっても優しそうな悪魔おばあさんじゃった。そして、苦痛にのたうち回るおじいさんの背後に、ついに……あの男が現れるのじゃった。立場が変わるととっても強気になる情けない三流悪役と云ったところじゃったが、おじいさんは甘くはなかったのじゃった。

「ふふふ。さすがのおじいさんも、おばあさん相手では油断して当然で……ぐふぁあ!」

「甘いのはお前じゃMOMOTARO。おばあさんに刺されるほどわしゃあ衰えちゃおらんぞえ」

 首筋をぶっさされて悶絶していたかと思われたおじいさんはあっさり立ち上がり、MOMOTAROの股間を思い切りゲシッと蹴り上げたのじゃった。なんと、刺されたフリをしていただけなのじゃった。さすがおじいさん!

「おるぁおるあそるぁおるぁああああああっ! ふはは! ふっはっはっははははっ! 思い知ったかMOMOTAROォっ! これが儂の奥義! 真飛翔睾丸潰し旋風脚じゃあっ! つぶれろつぶれろつぶれろぉおぉおぉぉっ! 貴様のゴールド・ボールなんぞこうしてくれるわあああああっ!」

「あぐ! おぐ! ほぐ! ぐぎぎゃごがあああああああっ! はがああああああああっ!」

 おじいさんはとっても楽しそうに、るんるん気分でMOMOTAROの股間をげすげすげしげしけっ飛ばし、サディスティックで心地よい快感に身をぶるぶるわなわなと震わせて悶えるじゃった。

 そのように、おじいさんがMOMOTAROを好き放題いたぶってやっていると、どこからともなく声がしたのじゃった。

「フフフ。噂どおりの強さですじゃな。おじいさんこと、ジェッド・ハーツマン・豪州軍曹殿」

「何奴!?」

 低い声に驚くおじいさんじゃったが、おばあさんは極めて冷静に笑って云うのじゃった。

「ふぉふぉふぉふぉ。わたしの浮気相手のおじいさんですじゃよ」

「あんじゃとぉッ!?」

 おばあさん、堂々と爆弾発言をするのじゃった。さすがのおじいさんも驚愕しまくりなのじゃった。

「おふぉふぉふぉ。わしゃあ今、何か云いましたかのぉ?」

 即座にばればれの言い訳をするおばあさんじゃった。いや、もしかしたら本当に忘れているのやもしれぬが、それはさておくとしてじゃ。

「さよう。儂こそおばあさんの本当の心をつかんだ者。スタンレー・ハナサカおじいさんじゃ」

 MOMOTAROを踏んだままおじいさんが背後を見ると、そこには第二のおじいさんこと、スタンレー・ハナサカおじいさんがおったのじゃった! どこぞの共産圏な国の第一書記を暇つぶしにやっている超大物中の大物。現代風に云えばラスボスとでも表現できるじゃろうか。

「貴様がハナサカか。噂には聞いておるが」

 最強のおじいさんと詠われる者が二人、はじめて出会ったのじゃ! これは熱いバトルにならないわけがあるまいて。

「フフフ。それは光栄の極み。だが……ジェッド・ハーツマン・豪州を葬り去った男として、今日より儂が最強のおじいさんの座をもらいうけるのじゃ。悪く思うでないぞよ」

「フッフッフ。そう簡単にワシを倒せると思っておると、痛い目に遭うぞ。……行くぞッ!」

 そしておじいさんは鎖鎌をかまえるのじゃった。戦う相手が強ければ強いほどわくわくしてしまうどうしようも無いほど救いようのない戦闘民族なのじゃった。

「ぐうぅぅ。み、惨めだ……。ぐえっ!」

 とっても惨めに横たわるMOMOTAROのお腹を踏み台にして、おじいさんは跳躍するのじゃった!

「とおうっ!」

「はっ!」

 二人のおじいさんが上空で交錯する!

 そして……がきぃぃん、とにぶい音が響く中、二人は交錯するのじゃった。

「……。やるのう。スターレン・ハナサカおじいさんよ」

「ふふふ。貴方も噂どおりのお人ですな」

 ただの一刀。その一振りだけで、ハーツマンおじいさんは相手が何を求めて会いにきたのか理解したのじゃった。

「話を聞こうかのう。『死の灰使い』のハナサカおじいさんよ」

「ふぉふぉふぉ。そこまで見破っていたとは。かないませんなぁ」

 ハナサカおじいさんは凄まじいまでの殺気を消し、こりゃ一本取られたわい、とかいいながら、ニコー ーっと無邪気な笑顔を見せるのじゃった。

 はてさて『死の灰使い』とは一体何なのじゃろうか?

「う、うううう……。おじいさん。踏んでる……」

 足元では相変わらずMOMOAROがハーツマンおじいさんに踏まれ、惨めに涙を流しておるのじゃった。










-2010.2.2 ココマデ暫定了-









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