-それYUEに! 弐(に)-
その日は雲一つないさわやかな青空。太陽の光が燦々と照らす校舎の脇にて、人知れずひっそりと存在する花壇に植えられた花々がそよ風に煽られて揺れる。誰が訪れる訳でもない忘れ去られたようなその場所で、可愛らしいピンク色のプラスチック製如雨露を使って丁寧に水をまいていた少女がいた。慈愛に満ちた優しげな表情で、花々を大切に育てていることが一目で分かる。 今、そんなところに一人の男が近寄っていく。例えるならばそれは、赤ずきんちゃんに近づいていく狼のような、とってもよこしまな雰囲気を醸し出しながら。 「ふふふ。君の瞳に乾杯」 そうして突然口を開く。何をトチ狂ったのかそんなキザったいと云うよりも今時かなりダサくも時代遅れな口説き文句をかける男の名は鬼集院翔多郎(きじゅういんしょうたろう)とか云ったそうな。三文字でなんとか院とか云うのが特徴な名前なわけで、大方の予想どおり金持ちのボンボンであり、なおかつ鬼集院財閥の御曹司でもあり、他の男子生徒達は黒い普通の学生服なのに一人だけなぜか白い学生服を着ているという目立ちたがり屋な生徒会長でもある。無論、学校からは許可を得て 着用しているわけである。これもまたお約束と云うべきであろうが、何しろ学園の理事長が父であるからなのだった。とてつもなくダサい奴なのに、何故か女生徒達には大変人気があるのだった。 「え?」 いきなりやってきた男に突然よくわからないことを云われ、ブレザーの制服を着た少女はとっても困ったような笑顔で首をかしげた。長く艶やかな黒髪に、ふっくらとした柔らかそうなバストの少女。彼女こそ本作のヒロイン、北本柚恵(きたもとゆえ)である。見た目どおりきれいな花々が大好きな優しい女の子で、クラスでもみんなに人気のとってもおっとりした性格の美少女さんなのだった。 「優しげな笑顔で花々を愛でる君はとても美しい。ぜひ、僕の家の自慢のガーデンをご覧に入たい。来ていただけるね?」 「え? え? えっと……。鬼集院君?」 実はこの男は柚恵のクラスメイトなのだった。今のやりとりはつまるところ、このキザ野郎によるデートのお誘いなのだったが、当然の如く突然そんなことを云われてもと、柚恵は戸惑うのだった。そもそもクラスメイトと云うだけで大した面識などないわけで。 だが、このキザ男は柚恵の戸惑う心を見透かしたようにふっと不敵に笑う。その一瞬、男の青い目が光ったように感じられた。そして彼はハント(捕獲)完了とつぶやいた。楽勝だぜ。もしくはちょろいもんだぜ、とでも云いたくなるような感じだ。 「あ……」 で、柚恵は催眠術でもかけたようにと云うよりも、実際にかけられてしまい、瞳は虚ろになり表情がぽーっとしていってしまった。そして意識を失い操り人形のように力が抜けてしまった。手に持っていた如雨露がどさりと花壇の上に落ち、水がこぼれる。哀しいかな、もう完全に体の自由を奪われていたのだった。 鬼集院という男はこうして、クラスのみならず学校中の美少女をたぶらかし、強引に魅了し続けてきたのだ。異様にもてる理由は何と云うことはなく、そういうわけだったのである。とても姑息なやつである。 「ふ。北本柚恵君。君はもう、僕の虜さ」 「……」 そんな怪しくも危なそうなアホ男にこのままおめおめと本作のヒロインは連れ去られてしまうのか。柚恵危うし! どうなってしまうのか!? と、誰もが思うであろうその時だった。 「柚恵えええええええええっ!」 「どわぁっ!」 鬼集院の悲鳴。と、同時にばきっ! と、鈍い音がした。グラウンドの向こう。かなり遠くの方からすさまじい勢いで一人の男子生徒が飛来するかの如く突撃して来たのだった。それこそラリーカーが悪路を爆走するかのごとく、激しく土埃を上げる程に。そうして丁度柚恵の側にいたキザ男に激突し、十数メートルくらいは吹っ飛ばしたのに、何事もなかったかのように柚恵に抱き着いていたのだった。 「柚恵えええええい! 昼飯一緒に食おうぜえええええっ!」 そしてその馬鹿野郎は学校内であることも構わず、人目もへったくれもなく突然柚恵にキスをしたのだった。とっても嬉しそうに楽しそうに幸せそうに笑顔で柚恵にキスをしまくったのだった。ライトなキスなんぞじゃ我慢できねぇとばかりにディープなキスをしまくったのだった。もう何というかこの娘が好きで好きで大好きでたまんねぇと叫びそうなくらいぶちゅーーーっとしまくったのだった! 「柚恵ええええええっ! 今日は俺が弁当作ったんだぜ! さぁ食おうぜ! さっさと食おうぜ! 二人で一緒にあーーーんって食べっこしようぜええええ! いちゃらぶランチタイムしよーーーぜぇっ!」 とか云いつつ尚も柚恵の唇を奪いまくるこの男こそ、我らが主人公。こんなノー天気なアホ野郎でも主人公は主人公。名前は……。 「た、かよし……?」 そう。彼は南森高善(みなみもりたかよし)とかいう名前なのだった! 彼は北本柚恵の幼なじみにしてクラスメイトにして彼氏さんにして同居人にして、そして幼いころ指切りげんまんして約束した未来の旦那様だったのだ。 柚恵はこの学校に通うために実家を出て、高善の家に居候させてもらっていたのだ。ところが、ある日突然高善の両親が夜逃げでもしたかのよーに突然海外に移住したために、一つ屋根の下、図らずも甘い同棲生活を営むことになってしまったのだった。しかも互いの両親共々公認してしまっているという、どこぞのえっちなゲームにでもありがちな設定になっていた。 そしてまさに今、お姫様は王子様のキスで目覚めるとばかり、散々キスしてたらそのショックか何かで柚恵は我にかえったのだった。それはそれでよかったのだけど、高善は悪のりをし始めた。 「おう! 何だ、もっとキスしてほしいのかそうかそうかそうか! ほりゃ!」 「ふみゅ! んんんんんっ! んーーー! んーーー! んーーーっ! も、もうっ! 高善ぃっ!」 「遠慮するな遠慮するな。それ、キスキスキス〜〜〜!」 「んにゅーーーーっ!」 端から見ると、いたいけな少女に無理矢理キスをしているというべきか、襲いかかっている光景。それでも柚恵は何とか興奮する高善君を制して落ち着かせた。どうにかと云う感じで。 「ま、キスはまた後でたっぷりするとして。弁当食おうぜ弁当! 今日は俺が作ってきたんだぜ! 見てくれよ! 自信作なんだぜっ!」 いつもは柚恵が高善のお弁当も作ってくれるのだけど、今日は違った。高善は昨日、柚恵に今日は弁当を作らなくていいと云ったのだった。そしてそれには理由があった。 ばこん、と気合いを入れて弁当箱の蓋を開けてみせる。その中にはきらびやかなピンク色のハートマーク。まるでどこぞの夢見る少女が作ったかのような、今時まずありえねぇって云いたくなるくらい乙女チックなハートマークのお弁当だった。そしてきわめつけはそこに『I LoveYue!』と、でかでかと描かれていたのだった。こんなもん教室で食わされた日には生き恥を晒すのと等しいことではなかろうか。事実柚恵もその弁当を見ていてとっても恥ずかしくなってきて、頬を赤らめていく。どうしてこう、この人は私を恥ずかしがらせるのだろうといつも思う。あんまりにも直球過ぎるというか、素直過ぎるというか。 「さぁっ! 食おうぜ食おうぜ食おうぜ! ほらほらほら、レジャーシートも用意してきたんだぜ!」 「う、うん。でも……あの、ちょっと……えっと。鬼集院君が」 柚恵は後ろの方が気になって仕方がない。先ほど高善が無茶な登場をしたどさくさに紛れて吹き飛ばされてしまった男の事だった。彼は無事だろうか? ケガはしてないだろうか? とても心配で安否を確認したかったのだったが、高善はそんなこと気にもとめない。気にとめさせてくれない。放っておけとあっさり云い放つ。 「そんなんいーーーからいーーーから。はいはい柚恵ちゃんあ〜〜〜んしてあ〜〜〜ん!」 「……で、でも」 「でもじゃないの柚恵ちゃん! はい、あ〜〜〜んすんのっ! あーーーんっ! あーーーーーーんっ!」 「え、あ……あ〜……ん」 あまりの強い勢いに押され、ぱくっと食べさせられてしまった。こうして柚恵は無理矢理レジャーシートに腰掛けられさせていちゃいちゃさせられ始めたのだった。小さい頃よくやったおままごとを、成長した今もやってるような感じだ。 「今度は柚恵から頼むよ」 「え……」 「頼むよ!」 無邪気な子供のようにきらきらした瞳で云われて、柚恵は断れなかった。もとよりお人好しな女の子なので、勢いに任されるとどうにもならない。 「う……。た、かよし。あ、あ〜ん……して」 「おお! いいとも! あ〜……」 高善が満面の笑みであ〜ん、と口を開いたその時だった。突如、すさまじいばかりのオーラが二人の背後からせまり、そして……。 「あ〜〜〜〜〜」 相変わらずあんぐりと口をあけたままアホ面して柚恵の箸を待ってる高善だったが、突如手に持った弁当箱が吹き飛ばされた。中身は当然の事ながらひしゃげてしまう。 「あ……。鬼集院君」 「貴様。この僕を怒らせてしまったな」 怒りに満ちた声。それは、吹き飛ばされて向こうの方で伸びていたと思われていた男、鬼集院であった。 「なんたる屈辱。貴様には死をもって償わせてくれよう。はああああっ!」 「だ、だめぇっ! や、やめてぇっ!」 動物的本能で感じる危機感。彼は何だかとても危険な事をしようとしている。柚恵がそれに気付き悲鳴を上げるが遅かった。突如、鬼集院の手から巨大な波動が繰り出され、折角のガールハントを邪魔しやがった無粋な大馬鹿野郎こと高善に向けて放たれた。それなのに高善は気付きもせずに相も変わらず口をあんぐりと開けたまま硬直していた。まだかな、まだかな、と頭の中はお花畑状態。そうして程なくして高善は鬼集院が放った爆風の中に巻き込まれてしまった。 「た、た、高善ぃ〜〜〜!」 「さぁ、君は僕と一緒に来るんだ」 「あ、あ……っ。は、離して……!」 再び捕らわれ、鬼集院の腕の中に抱え込まれてしまった柚恵。だが、高善は死んでなどいなかった。やがて薄れていく爆炎の中、微動だにせぬままぶつぶつと何かをつぶやいている。鬼集院の攻撃などまったく効いていない模様。 「吟味に吟味を重ねた素材。どうすれば大好きな人に喜んでもらえるか、夜もあんまり眠らずに考え抜いた献立。全ては大切な人に幸せになって欲しい。ただその一心だった。そうして俺は今朝、午前三時半頃に目を覚まして必死に作った。二人分の弁当をな。考え抜いた末のハートのお弁当だった。俺の想いを込めた渾身の力作だった。この世界で一番大好きな人……柚恵と一緒に食べたかったお弁当だった。ただそれだけを望んだと云うのに、今ここで全てを台無しにされた……。二つともぶちまけられた……」 さすがの鬼集院もこれにはびっくりなのだった。常人であの波動を受けて無事でいられる者などまずいないのだから。 「なにぃ!? 何ともないだとぉっ!?」 「高善ぃっ! よかった……」 三者三様。驚愕する鬼集院。涙目で高善の無事を喜ぶ柚恵。ボロボロの制服に対し、傷一つ付いていない高善の肉体。 「くああああああっ! 許せん! 俺と……俺と柚恵との関係にちゃちゃを入れやがって! てめぇはとっとと死にさらせやこのど畜生ぉっ! くらえや!」 「ぐぉっ!」 こうして怒りに燃えた高善の逆襲が始まった。瞬間移動でもしたかのようにふっと消え去り、気が付いた時は鬼集院のすぐ側にいた。強烈な蹴りの一撃を脇腹に食らわせてやり、あっと言う間に柚恵を奪還。ごく普通の高校生に見えて、実は秘剣の使い手だった高善が放った必殺奥義。その名も。 「俺の柚恵への想い! 食い物の恨み! 俺のありったけの愛情込めた弁当の恨み思い知れ! 100倍返しの必殺! 爆破らぶらぶ天昇拳!」 見た目はただのパンチで、尚且つ非常に脱力するネーミングセンスであったが、その威力は凄まじかった。今度は鬼集院の身体は爆風の中に包まれていく! 「ぐおおおおおっ!」 ……それからどれほどの時が過ぎ去ったことだろう。辺りは夕焼け色に染まりつつあった。高善の暑苦しいまでの愛に満ちた一撃をもろに受けてしまった鬼集院は完全に吹き飛ばされ、グラウンドの向こうのフェンスをひしゃげさせてめり込みながら気絶していた。悲しいかな、一連の騒動に誰にも気付かれてはいなかったが。 「くっ! まさか、僕をここまで追い込む人間がいたとは……」 ようやくのことで我に返る。と、自らのヤワな肉体にいらだちを隠すことができない。所詮はこの程度か。つまりあの男は自分と同じく普通の人間とは違い、特別なのだと気付く。ならば……自らも力を解放せねばならないようだ。こうなれば容赦せぬぞと誓った。 次の日。
昨日とほぼ同時刻の事。今日も柚恵が花壇のお花に如雨露で水をあげていると……。 「だーれだ?」 「きゃああっ!」 突然の事にびっくりした柚恵は如雨露を落としてしまう。何しろ、やってることが普通じゃないのだから。 それはふにょん、と音がしそうなくらい柔らかな弾力だった。高善は柚恵の背後から音も無く忍び寄り、両手で恋人……柚恵の目を塞いでありがちな台詞を吐いて……と、通常の男ならばそうなるはずなのだが。 「うーん。相変わらず大っきくて柔らかくて可愛いおっぱいだね柚恵ちゃん」 よりによって目ではなくてそんな所を掴んでセクハラしているのだった。もみもみとやらしい手つきで。 「も、もう! だめだよ〜! 高善ぃ!」 頬を赤らめる柚恵に抗議されるけれど高善は手を離さない。それどころかふにふにと揉んでいる。厚いブレザーの上着を着ていてもはっきりと分かる膨らみはクラスメイトはおろか、男子生徒達の憧れの的なのだった。 「だ、だめ……だめ……だめだって云ってるの〜! だ、誰かに見られちゃう……! 触っちゃだめーーーーっ!」 「いーじゃねーか。見せつけてやろうぜ。俺と柚恵の熱き愛に満ちあふれたえっちをよ! そりゃ!」 とか云いながら、高善は柚恵の首筋にキスをした。柚恵と肌を重ね合わせているときは無邪気な子供のように楽しそうな笑顔なのだった。最も、柚恵も彼のそんな笑顔に惹かれているのだけども。 「んっ! も、もう……だめ。だめ。お、お弁当あげないよぉ」 「……え?」 それを聞いて凍りついたようになる高善君。ようやく柚恵の体から手を離した。事の重大さにようやく気付いたかのよーに真面目な顔になる。いい加減いたずらをやめないと、大好きな人が折角作ってくれたおいしいお弁当を食べられないと悟ったのだ。 「それは困る!」 「もぉ。お外じゃえっちなことはダメだっていつも云ってるでしょ」 深くため息をついて幼なじみの常識外れな行動を諌める柚恵。もっとも、お外でなければいいとも取れる発言なのだけども。 「は〜い柚恵先生。わかったわかった。わかったから弁当〜」 「もう……」 仕方ないなぁ、と柚恵は苦笑しながらも高善がくると思って持ってきていたのだった。すぐ側にあったベンチに腰掛ける。そうして蓋を開ける。楽しいランチタイムの始まりだった。 高善は貪るように食い始めた。欠食児童のようにがつがつと。 「お、おおお! うめぇ! ……このだし巻卵、どうやって作るんだ? 教えて教えて!」 「えっとね。これは……」 と、好奇心旺盛で料理の勉強にも熱心な高善に柚恵が教えてあげようとしたその瞬間だった。 「ぐおっ!」 「きゃっ!」 突然謎の突風が吹きすさび、高善の体が吹き飛ばされた。そうしてそのまま背後の校舎に激突し、ぐわっしゃあああんと派手にガラスをぶち破りドアも吹っ飛ばし廊下に飛び出て再びガラスをぶち破って外の木に激突してやっと止まるのだった。廊下と室内に人影が無かったのは不幸中の幸いと云えるだろう。 「た、た、高善ぃ〜〜〜っ!!!!」 涙目になって叫ぶ柚恵だったが。その背後には奴の影。そう。それは例の男によるりべんじと呼ばれる行動であった。 「ふ。下郎め」 鬼集院、復活である。そうしてまたあっさりと、その腕の中に柚恵を捕らえていた。昨日受けた屈辱をそれ以上にして返したのであった。 「やっ! いやっ! 高善! 高善ぃ! 死んじゃやだよぉっ! 離して! 離してぇっ!」 泣き叫ぶ柚恵。高善は倒れたまま動かない。 「諦めろ。諦めて僕と一緒に来るんだ」 「ああ……」 その光景に絶望し、呆然としてしまう柚恵だったが。ひしゃげた資材の向こう側から、何かをぶつぶつつぶやく声が聞こえる。それはむくっと立ち上がり、大きな穴のあいた校舎を通って近くに戻ってきた。衣服が多少破れてる以外に外傷は無さそうだった。 「吟味に吟味を重ねた素材。大好きな人が俺のために丹精込めてつくって暮れたお弁当。愛情、こもりまくり、120%臨界。俺の好みを考えてくれつつ栄養バランスも整えられたメニュー。折角楽しみにしてきたのに。一緒に仲良くあ〜んと食べっこしようとしてたのに。すべてぶちまけられた。この世界で一番大好きな人……柚恵と一緒に食べたかった。ささやかな望み。ただそれだけを望んだと云うのに、今ここで全てを台無しにされた……。ぶちまけられた……。それも昨日に引き続き同じパターンで……。二日連続で……」 無様に横たわりながらぶつぶつと何かを繰り返す高善。突如その体から爆発したかのように熱いオーラが吹き出した。そして……! 「一度ならず二度までもッ! 仏の顔は三度までだが俺の顔は一度もねぇ! 二度あることは三度あってたまるかこの野郎! てめぇの罪は万死に値する! 断罪してくれる! はおあああああああっ!」 「ふ。無駄だ。この僕には貴様の技もどんな攻撃も効きはしない! なぜなら僕は……かの偉大な大悪魔、サタンの力を受け継いだ男だからだ! ふははははっ! あがけあがけ! 貴様は絶対的な力をもつこの僕にひれ伏すのだっ!」 大悪魔サタンの力! 驚きやがれとばかりに何の前触れもなく衝撃の告白! いきなり明かされたとんでもない事実! いかに高善が秘剣の使い手であろうと大悪魔の力を受け継いでいる男では相手が悪すぎる! 鬼集院の全身……強大なオーラで完全に包まれて防御された体には例え戦車の一撃すら効きはしないことだろう。しかし高善は怯む事なく拳を放つ。それは傍から見ればあまりにも無謀な一撃だった。 「るせぇっ! くらいやがれこん畜生おっ!」 「ぐわあああああああああっ!」 だが、その一撃が奇跡を引き起こすことになった。ばきっと一発、高善の怒りの一撃が鬼集院の頬に直撃。そのまま鬼集院はグラウンドのど真ん中まで派手に吹き飛ばされたのだった。先程高善に放った一撃と同じようにずがしゃああと轟音をたてながら、陸上部員達が設置したハードルを一つ一つぶち倒していった。人に激突しなかったのは幸いと云うべきだろうか。 「ぐ、う! な、な、何故だ! 何故効かない! 何故僕のガードが破られるのだっ!? 貴様は一体何者なのだっ!」 「ふん。あめぇんだよてめぇは。てめぇがサタンとかいう奴の力を受け継いでいるってのを聞いてな、俺は今まさに思い出したんだよ! 俺は……俺は偉大なる大天使ミカエルとかいうやつのすっげぇ力を受け継いでる男だということになっ!」 「な、なにぃっ!」 大天使ミカエルの力! それは単なるご都合主義か! あるいは強大な力を持つ二人を引き合わせた運命という名の巡り合わせか! ただ一つ、その力がはったりではないということは確かなのだった。 「高善ぃっ! よかった……」 驚愕する鬼集院と涙目のまま高善の無事を喜ぶ柚恵。 高善の言葉は真実だった。今し方放った打撃の威力。そして、彼自身が身に纏うオーラの凄まじさは鬼集院のそれをはるかに上回っているのだ。 「さて、覚悟を決めてもらおうか。こう見えて俺はSランクの男なのだが、役所が平日昼間しかやってねぇし皆勤賞目指してて受付時間に間に合わねぇから申請に行けずBランクのままだったんだが、今ここで貴様に対してSランクの力を全て解放してやるよ。邪気眼も発動してな!」 何のランクだかはさっぱりわからないが、彼がとっても怒っているのは間違いない。邪気眼とは一体何なのだろうか? ともかくも、高善の怒りは収まらない。鬼集院はしかし……何か秘策があるのかふっと笑みを浮かべる。惨めに口から血反吐を吐きながらも不敵な笑みを。 「ごふっ! ざ、残念だが貴様に僕は倒せない。見るがいい! こっちには人質がいるのだ!」 そうして捕らえていた柚恵を抱きしめるようにして……。 「せぃっ!」 「あ……。き、き、きゃあああああああっ!」 その瞬間、柚恵のブレザーの上着もブラウスもスカートもショーツもブラも強力な電撃を受け、ぼろぼろにされてしまったのだった。 「なっ!? ゆ、柚恵ええええっ! てめぇ何てことをしやがる! 制服だって高ェんだぞこのやろ!」 論点が完全にずれたことを生真面目に力説する高善。 「うぅ。高善のばかぁ……」 当然のごとくいじける柚恵。 「しかも制服をびりびりのぼろぼろ状態などと、何と云ううらやまし……もとい、えろい格好! 柚恵をそんなあられもない姿にしていいのはこの俺だけだ! 制服破るんなら俺に破らせろこの野郎!」 「う、う……。高善ぃぃ〜! ばかばかばかぁっ!」 高善の案の定な反応に呆れ果てる柚恵。 「ふはははあっ! ほざけ! 見たか! 見ただろう! 今からこの女を貴様の前で……いいや、全校生徒の目の前で辱めてくれよう!」 「そ、そんな! いや……」 柚恵は顔を真っ赤にさせてしまう。それもそのはず、これだけの騒ぎを引き起こした上に校舎の一角は破壊されてるわけで、学校中の生徒達が何事かとわらわら集まってきていたのだから。そのことに改めて気付き、柚恵は悲鳴を上げる。 「や、や、やあああっ! やああ! いやあっ! 高善ぃっ!」 鬼集院は柚恵の両腕を背中で縛り上げ、ふっくらした胸を掴んで揉みまわす。柚恵はびくびくと体を震わせながら嫌がる。 「ふふふ。なかなか感度がいいね。北本君は」 「はう! あぅ……や、やっ! やあーーーっ!」 「皆の前で辱められるのはどんな気分だい?」 「やああっ! やあああっ! 高善、助けてぇっ!」 こぼれ落ちる涙に高善の怒りは頂点に達した。 「柚恵。俺の柚恵……今……今っ……助けてやるからな!」 「ふはは! どうしようと云うのだ……ん?」 何か打つ手があるのか、高善は突如姿を消した。そして次の瞬間、鬼集院の顔を片手でがしっと掴んだ。そうして圧倒的な圧倒的な握力で! 「ぬっ!? ぐおおおおおっ!」 「くたばりやがれやコラ! 俺の柚恵の生乳を揉んでいいのは俺だけだあああああっ!」 「ぐごおおおおおおおおおっ!」 高善は鬼集院の顔を掴んだまま天高く飛び上がった。その衝撃で鬼集院は羽交い締めにしていた柚恵の体を離してしまう。柚恵は放り出されながらも解放された。それを見て高善は落ちていく勢いと共に、校庭のど真ん中に憎きあんにゃろうこと鬼集院の顔を思いっきり叩きつけたのだった。ずずんと凄まじい衝撃波が走り、グラウンドが陥没しクレーターと化したのだった! こうして空気の読めない邪魔者は破滅し、去ったのだ。高善は空中に放り出されて落ちてくる柚恵の体を優しく受け止める。完全に解放されたお姫様の手を取る高善は今ここに宣言するのだった。発狂でもしたかのように、とてつもなくとんでもないことを。 「柚恵! 今……学校中の奴らにみせつけてやるからな! 俺と柚恵のらぶらぶせっくすを! 誰もが間違えようのねぇ事実……真実を今ここで語ってやるぜ! ショータイムの始まりだっ!」 「え? えええええっ!? ……はうっ! だめ! いやっ! ……そんなのだめぇっ! 何考えてんの〜〜〜っ!? だめだめだめぇっ!」 高善は、一度こうと決めたらやり遂げる男だった。小学校の卒業式でもそんな決意を表明していたのを柚恵は思いだした。 「……夢だったんだ。ずっと」 と、高善は突如フッと微笑み遠い目をして、穏やかな口調で語り始めた。 「柚恵と……全校生徒の目の前で、みんなに見せつけるようにして……ど派手にがっつんがっつん駅弁FUCKするのがさ!」 男のロマン……もとい、めちゃくちゃなことをふっとクールに笑いながら云う。かなりクレイジーであり、狂気の沙汰である。 「いやっ! こんなのいやっ! 恥ずかしいぃぃっ! やだぁっ!」 それに対し、とっても常識的な柚恵の反応だった。裸にされてしまった今も顔が燃えそうなくらい恥ずかしいというのに高善は更にに無茶をしようとしているのだ。 「大丈夫大丈夫。こんなこともあろうかと手は打ってあるんだよ。しっぽりたっぷりし終わったら大天使ミカエルの力で、みんなの記憶を全て綺麗さっぱり忘れさせることができるんだ。だから心配いらないんだ。安心していいんだよ柚恵」 「はぅ……。あぅ……。だ、だからってぇ……」 そういう問題ではない! だが、高善はあえてそういう問題なのだと云い切って、全裸にされてしまった柚恵の体を優しく持ち上げた。これぞ大天使の力の無駄遣いと云えるだろう。 「柚恵。俺にとってお前は天使だ……。あんにゃろうによってビリビリに破られちまった白いブラが、それはあたかも天使の翼に見えるよ」 「な、何それ〜!? ち、ちょっと高善。……本気……なの!? み、みんな見てるよぉ〜〜〜! 本当にするの!? ここで!? 今!?」 「する! 俺は本気だ! 大マジだ!」 完全に云い切った。如何なる障害があろうと、全て排除して実行すると宣言した! どーいう感性をしているのだろうか。ざわつく群衆の中には親友の姿もクラスメイトの姿も教師の姿すらある。その中で……。 「では! しっぽりたっぷりいっくぜえええええっ! てめぇら見ろ! 見やがれ! 俺と柚恵の……らぶらぶえっきべんふぁーーーーっくうううううっ!」 「はうっ!」 ずん、と音がしたよーな感じだった。柚恵の狭くも柔らかな秘所に、高善の巨大なモノがあてがわれ、一気に埋没していくのだった。 「あ、あ、あああああっ! だめ……あんんんっ!」 「とりゃあああああああっ!」 「はうっ! あぅっ! ああっ!」 抵抗が無駄だと悟った柚恵は、きつく目を閉じてただひたすら振り落とされないように、高善に必死にしがみつく。が……高善は高速回転しながら猛烈な勢いで柚恵を突き上げまくり、全校生徒の人だかりの中を突進し始めたのだった。こーして、一見凌辱してるかのよーに見えるけれど、ただ単に暴走し過ぎている高善による全校生徒への公開えっちが始まったのだった。 「おらおらおらおらおらああああああっ!」 「きゃあああああああああっ!」 柚恵の丸いお尻が、割れ目が、すぼんだ小さな穴が、大きくて柔らかい胸が、桜色の小さな乳首が。柚恵のスタイル抜群な全裸の全てが皆の前にさらけ出されている。周り野郎達から、おおおおおっ! と歓声が上がる。すげえと感嘆の声が上がる。逆に女子達からは、うわぁ! とか、信じらんないー! とか、変態よ変態よおおっ! とか、こんなとこで何考えてんのよ! とか、非難の反応に加えて、顔に手を当てて見ないようにしていつつ気になって指と指の隙間から見てしまったり、息を飲んでドキドキしながら凝視したり、ごくんとツバを飲んで心の中で『す、ごい』とか『おっきい……』とか呟いていたり、ともかく千差万別。先生方は皆『お前達!』とか『あなた達っ!』とか『何をやっとるか!』とか、ともかく常識的な反応に終始していたけれど、高善の周りには近づけないオーラが張り巡らされていてどうしようもない。二人には触れることはおろか近付く事すらできないのだ。 「だ、だめええええっ! だめだめだめだめぇっ! み、みんな見ないでえええっ! 見ちゃいやああああっ! あうううううっ! あああああんっ!」 「ひゃっほおおおおうっ! いくぜいくぜいくぜええええいっ! そらそらそらそらそらあああっ!」 突き上げると同時にディープキッスを何度も繰り返す。高善のテンションは徹底的にハイになっていた。 「ん、んむううううっ! うんんんんんっ!」 舌と舌が絡み合いまくる! 柚恵はあっと言う間に責められていった。 「あ、あ、あんっ! ああああんっ! あっあっあーーーーっ! あんっ! あんっ! ああああんっ! も、もおだめぇぇっ!」 柚恵は振り回されながら、携帯のカメラでパシャパシャと撮られている事に気づく。 「や……やああああっ! だめえええっ! 撮らないで! 撮っちゃいやあああっ! こんなとこ撮らないでえええっ!」 「大丈夫だ柚恵! 人の記憶に加え、電子機器も大天使の力でデータを消去できるからっ!」 天使の力、とても便利。何故かデジタルデバイスにも対応済み。 「そらっそらっそらっそらぁぁぁぁっ! 柚恵えぇぇぇっ! 感じてっかあぁぁぁっ?」 「あ、あ、あ、あ、ああああああんっ! か、感じちゃってる……よぉぉ」 巨大なものが激しく出入りをするけれど、決して痛くない。むしろ体が火照って媚薬を飲まされたような感じ。快感が込み上げてくる。きっとそれも高善の力なのだろう。柚恵はいつしかあえぎ声をあげさせられていた。猛烈に恥ずかしいシチュエーションなのに。みんなの前で全裸にさせられて……恥ずかしい所を全部見られて……。羞恥と快感が交ざり遭い、柚恵は混乱しまくっていた。 「出るっ!」 「あふぅっ!」 そうしてどっぷりと、柚恵の顔に、胸に、お尻に大量の精液がぶちまけられる。もちろんそれだけでは終わらない。 「おらおらおらあああああっ! 今度はこーーーだぜ! 野性的にバックでやったるぜ! 気持ちいいかぁっ?」 「ああああああっ! やっ! あっ! は……げしす……ぎ……。あああああっ! き、もち……いい、よぉ!」 体位を変えて今度は立ちバック。背後からもにゅもにゅと柚恵の胸を揉みしだきながらがっつんがっつんがんがん突き上げまくる。そうしていつしかグラウンドのど真ん中に置かれた朝礼台の上でやりまくり。ぱんぱんと二人の体同士がぶつかる音が辺りに響く。あまりにもインモラルな光景がそこにはあった。 「あっあっあっあっ! あぅっはぅっあんっ! も、もうだめ……もう……もぉだめえぇぇっ! 高善いぃぃっ!」 衆人環視の中、柚恵は絶頂を迎えさせられた。それも一度や二度じゃなく何度も。時に弧を描くほど勢いよく、尚かつ大量に潮を吹かされ、意識すら飛ばされてしまう。激しく揺さぶられ、ゆさゆさと揺さぶられる柚恵の胸。白くて綺麗な肌には汗が浮かぶ。 「みんなの前でえっちするって、どーよ?」 「も、もぉ……しらない……。えっち……。こんなの……だめ……あぅ」 ぽたぽたと結合部から愛液をこぼし、あまりの恥ずかしさに柚恵はぷいと頭を振った。頬を真っ赤に染めながら。そうこうしている間に高善は達していく。 「出るっ!」 「あ、あ……」 高善が射精した。今度は口でしてくれと云った。柚恵はもはや従順に頷くだけだった。 「あ、あむ……んむ……ん、ん、ん」 みんなの好奇の視線が集中する。柚恵はもう……忘れることにした。今はただ、高善を気持ち良くさせてあげないと。それからのことは、高善がどうにかしてくれるんだろう。きっと。彼はいたずら好きだから、わざと自分を恥ずかしがらせて楽しんでいるだけなのだから。だからこんな無茶苦茶なことをしたのだろう。とんでもない人を好きになってしまったかな、と思ったけれど仕方ないのかな、とも思った。だって……柚恵も高善の事が誰よりも好きなのだから。 そうして日は暮れていった。
「で」 夜。南森家の食卓。全てが終わった後のこと。 「結局、伊集院ってのは誰だったんだ?」 「はぁ……」 深くため息をつく柚恵。あれだけのことがあって、今更そんなことを聞く高善に呆れていた。何もわかっていなかったのだった。 「伊集院じゃなくて、鬼集院君だよ。一緒のクラスの」 「へぇ。そんなやついたんだ」 どこまでも、柚恵の事以外は無関心なのだった。 あの後。高善の力により半壊した校舎は完全に修復されて元に戻され、巨大なクレーターと化してしまったグラウンドは普段通りの平らな状態に戻された。それに加え、高善と柚恵の全校公開野外セックスの記憶は誰の頭からも忘れ去られ、携帯カメラのデータなどもすべて削除され、歴史を書き換えたように完全になかったことにされていたのだった。別に俺はそのままでもよかったんだけどな、とかぬかす高善に柚恵は、ばかぁ! と、涙目で非難の眼差しを向けたりしたのだった。 「もぉ」 だが、無関心なようでいて意外に押さえるところは押さえる高善だった。鬼集院の悪行については全校の皆の記憶を奪わず、それどころか完全に晒した上に大悪魔サタンの力も全て打ち消すように失わせておいたのだった。二度と悪行を行わないようにと云うよりも、柚恵にちょっかいを出さないようにという理由だったのだけども。結果、鬼集院は女性の敵とされてしまい自業自得とは云え惨めな学園生活を送ることを余儀なくされたのだった。 「ま、いいじゃないか。そんなことどうでもいいけど、柚恵の飯はうまいな」 心底うまそうに飯を食う高善。昼飯がああ云った形で台なしにさせられたので腹減り状態なのだった。 「鬼集院君、大丈夫かな」 どこまでもお人よしな柚恵に高善は云った。あれだけのことをされたと云うのに、相手のことを気遣ってしまう。 「大丈夫だよ。その孔雀院とかいう奴は適当にポイしておいたから」 「ポイって……。それに、孔雀院って誰……」 相変わらず柚恵の事以外関心の無い高善なのだった。 「それより柚恵さ」 「なぁに?」 「飯食ったら一緒に風呂入ろうぜ」 「もぉ」 またそういう事をと柚恵は思った。熱く、恥ずかしいことを云う高善に、柚恵は溜息をつくのだった。 「今度はおっぱいで挟んでパイズリしてくれよ。あっでも、フェラもいいな。柚恵のフェラ、気持ちいいから。すっごく優しくて舌でぺろぺろしてくれてとけそーなくらいに包んでくれるから」 あれだけ散々したのにまだまだ物足りないようだった。 「あ、後でね。恥ずかしいから……あんまりそういう事云わないで。わかったから」 きっと今日もまた、いっぱいいっぱい愛されてしまうのだろう。 でも、何故だか嫌じゃない。愛されすぎて溜息をついてしまうけれど、望んでいるのは自分の方なのかもしれない。柚恵はそう思ってクスッと微笑んだ。 「高善」 「何だ」 「今度はその。ふ、普通にして……ね」 ささやかだけど、注文だけは付けることにした。そうしないと彼は何をするかわからないから。 「え? 昼間のも普通だったと思うんだけど。ただ、みんなの前でちょっと激しく青姦しただけなんだけど、もしかしてそれって普通じゃないのか?」 高善の表情は至って大真面目。 「どうしてそうなるのーーー!」 呆れまくった柚恵の困ったような叫びがリビングに響くのだったとさ。 それは熱い夜が始まる合図。 おしまい
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