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佳奈多の恋










(恋、か)

 佳奈多は思う。今現在、自分自身が置かれている状況について一言でまとめようとすると、それ以外に説明する言葉が見当たらないと。

(まさか、私が恋をするなんてね)

 本当に思いもよらない事もあるものだ、などと、自分自身の事なのにどこか他人事のような考え方をしてしまう。悪い癖だと佳奈多は思う。

(偶然よ。きっと)

 まるで反抗期のように、自分に言い聞かせる。思えばいくつもの未来、あらゆる方向へと人生という名のシナリオが分岐する可能性があったはず。それが今はこの様な状況。……本当に偶然なのかしらと疑問にも思ったりしながらたっぷりと時間をかけて、櫛で長い髪を丁寧にとかし続ける。それが終わったら、今度はベッドに腰掛けながら片足を高く上げ、黒く長いソックスを健康的な素足に通していく。ソックスとは対症的に丈の短いスカートの中に、白く飾り気のないシンプルなデザインのショーツが見えている。もっとも、誰かに見られている訳ではないので遠慮をすることはない。佳奈多はとっても無防備な姿をさらけ出し続けていた。

(……)

 妙にそわそわする。落ち着かない。左腕に巻いた小さな腕時計を見つめる。――待ち合わせの時間まで、まだ一時間はある。さっきから何度となく同じ事をしている。

(もう。何してんのよ)

 呆れながらはあ、とため息。

(直枝とはいつも会ってるじゃない? 今日も同じ。……ただ、デート……。じゃなくて。い、一緒に出掛けるだけのことよ)

 思い浮かべるのは一人の少年。直枝理樹。

(……。今日は手、繋いでもいいかな? だめ?)

 付き合い始めてそれなりにたつのに、未だにそんなことすらまともにできていない。これじゃただの友達関係じゃないのよと佳奈多は思い、ため息をつく。

(何? 何なの? その程度の事で何緊張してんのよ私は)

 待ち遠しい。待ちきれない。腕時計の秒針が妙にのろのろ回っていくようでもどかしい。クリスタルガラスのカバーを外して無理やり針を進めたくなる。

(どきどきしてるんじゃないわよ。もう……)

 ふと、枕元を眺め見る。そこには小さな写真立てがあって、理樹がほほ笑んでいる。まるで、そわそわしている自分を見守ってくれているかのように感じる。

(……。私。どきどきしたっていいのよね?)

 照れたっていいはず。気持ちをごまかす必要もない。自分の気持ちに嘘をつき続けて、いつかそれが嘘ではなくなってしまうかもしれない。そんなことを考えて佳奈多は怖くなってしまう。

(好きな人とデートするんだもの。どきどきくらいするわよ、そりゃ。悪い?)

 ふと思い立ち、自分の胸に手を当ててみる。強く握ると鼓動が聞こえてくる気がした。想像もつかないけれど、あの人もこの胸に触れてみたいとか、そんなことを思ったりするのだろうか?

(いいわよ? 触るくらい。何よ。恥ずかしくなんてない。……何されても平気なんだから)

 そう思うけれど、いざ事に及んだとしたらきっと。

(興ざめしちゃうわよね。傷物だから)

 一度程度ならともかく、何度も全てを見せつけてしまったら、きっと彼も……。ネガティブな思考に陥りはじめるけれど。

(そんなこともないか。だから私は好きになったのよ。直枝の事。……きっとそう)

 底抜けに優しくてお人好しで、みんなから慕われている少年。

(そんな人が彼氏なのよね。私の)

 思考の流れは止まらない。

(本当に私でいいの? よかったの? 他に好きな娘、いなかったの? 後悔なんて……していない? ……よかったのよね。でも、そういう私はどうなんだろう?)

 答えは決まっている。

(……。嫌な訳、ないじゃない。……直枝じゃなきゃ嫌よ。いい加減にして)

 はあ、とため息をつく。何に対して?

(だめね)

 この気持ちは嘘じゃない。そんなことも信じられない自分が嫌になる。

(弱気になっちゃって、滑稽よね。最低……。最低ね。ああもう)

 ぱちんと両手で頬を叩いて気合を入れて、ネガティブな思考を振り払う。

「よし」

 再び腕時計を見る。まだまだ時間はたっぷりとあるけれど、出ることにした。そんな時、背後から声。

「佳奈多さん、お出掛けですね」

 ぴょこんと現れたのはルームメイトのクドだった。可愛くて小さくて元気で、まさに妹みたいな女の子。

「うん。あ……ねえクドリャフカ」

「何でしょう? わふぅ」

(この娘ったら、本当にもう……)

 佳奈多はクドを子犬のようだと思う。頭を撫でるとくすぐったそうにしながら嬉しそう。その表情や仕草が本当に可愛くてたまらない。

「あのね」

「はい」

「えっと」

 言葉が出てこない。

「その、ね。……私と直枝って」

 釣り合っているのかな? などと聞こうとして、結局できなかった。

「ううん。何でもない。忘れて」

「佳奈多さん……」

 クドは少し悲しそうな表情をして、やがて佳奈多を勇気づけるように微笑んで言った。

「佳奈多さんとリキはとってもお似合いのカップルですよ」

「そう?」

「はいです。最高に」

 クドの目を見つめる。澄み切った青い瞳。どこまでも続く青空のように綺麗で真っ直ぐに感じる。

「そう」

 間違い無い。この娘は心底そう思ってくれている。それなのに、当の本人が揺らいでいてどうするんだろうと情けなくなってしまう。

「佳奈多さんは……佳奈多さんはその、すごく……素敵な人です」

 クドは一生懸命訴えかける。不器用で、舌っ足らずであろうとも。

「だから、リキが佳奈多さんのことを好きになったのは偶然なんかじゃないです!」

 ちょっとばかり気圧されるような迫力。佳奈多は少しの戸惑いと嬉しさを覚えながら……。

「そう思いたいわね」

 と、返事。





………





「必然、か」

「うん?」

「クドリャフカに言われたの」

「何て?」

「あなたが。……直枝が私の事を好きになってくれたのは、偶然じゃないんだって」

「へえ。クドがそんな事をね」

「いい子よね。本当に」

「うん」

 そんな出会いもきっと、偶然じゃない。二人揃ってそう思いながら頷き合う。

「そうだ」

 たまたま通りがかった雑貨屋の前で立ち止まる。

「寄り道してっていい?」

「勿論」

 拒否する理由なんてどこにもない。なにせ今日はどこにいくわけでもない、目的もない気晴らしの時間なのだから。

「ありがとう」

 それにしても明らかに少女趣味なショップだから、付き合ってくれることにお礼を言った。

「何だか最近の二木さん……」

「うん?」

「あ、いや。何でもな……」

「最後まで言いなさい。気になって仕方がないじゃない」

 佳奈多は理樹とお付き合いを始めるにあたって、隠し事は無しにしましょうね、と約束をしたのを思い出していた。あの時は確か……子供のように右手の小指を差し出して、そして……。

『や、約束……よ。破ったら膨らんだハリセンボン釣ってきて飲ませるから』

『そりゃ痛そうだね』

 何だかわからないけれどとてつもなく恥ずかしかった記憶が蘇る。……それはさておき、隠し事はなしと約束したのだから守ってもらわないと困る。

「最近の佳奈多さん、何と言うか……表情が穏やかになったなーって、そう思っただけだよ」

 理樹はお見通しのようだった。佳奈多も自分自身に変化が訪れている事には気づいている。そのことに時折溜息をついたり、喜んだりもしているのだから。

「……。もっとあなたに好かれたいからよ」

 フッとクールに微笑。余裕を見せつけてやる。が、笑顔の理樹は佳奈多より一枚上手のようだった。

「うん。僕も二木さんのこと、ますます好きになっていくよ」

 さらりと嬉しくも恥ずかしい一言。誰かに聞かれたらどうするというのか。

「ば、バカじゃないの! ますますって何よ、ますますって! ……そんなに好きになられたらその……こ、困っちゃうじゃないのよ……! もう、知らないんだから……」

 何を困る事があるのだろう? 困るはずがないし、何も答えられなかったからとっさに口にした意味の無い言葉に過ぎない。

「どう困るの?」

 笑顔の理樹はとどめを刺しに来た。この勝負は佳奈多の完敗のようだった。

「〜〜〜っ! う、うるさいわね! さっさと入るわよ!」





………





 アクセサリーは見ているだけでも楽しい。それは二人の共通認識のようで。

「ねえ。これとかクドリャフカに似合うかな?」

「うん」

「ん。でも、葉留佳はちょっとイメージと違うかもしれないわね」

「そうだね」

 理樹の台詞はこの時間帯、とても単調。うん。そうだね。概ねこの二つの言葉が交互に繰り返される。今はじっくりゆっくりたっぷり、佳奈多の女の子タイム。理樹はただひたすら合わせてあげる。けれど、時折具体的なイメージについてのアドバイザーとなり、真剣に答えてもあげる。

 かねてより佳奈多は決めていたようだ。妹と、妹みたいに思っている女の子。二人の大恩人に可愛いアクセサリーをプレゼントをしようと。

「あの娘達、喜んでくれるかな?」

「絶対喜んでくれるよ」

「そう?」

「うん。きっと」

「そうよね。うん……」

 理樹の同意に少しホッとしたように、確かめるように頷きながら微笑。優しさに満ちて、包み込むような柔らかい笑顔。

「あ、こっちの方がいいわね。クドリャフカにぴったり。けど、やっぱり葉留佳には違う感じかしら」

 佳奈多が二人のことを大切に感じているんだなと、理樹は改めて思った。




没頭。まさにその一言。





「直枝。ありがとう」

 気がつけば時計の針は大分回っていた。どれくらい夢中になっていたのだろうかと佳奈多は思い、ちょっと恥ずかしくなる。そして同時に、悪いことをしちゃったとも。

「どういたしまして」

 店を出て、しばし歩く。

「退屈だったでしょ?」

「ううん。そんなことはないよ」

 彼はそう言って笑うけれど、何かお礼をしないといけない。佳奈多はそう思った。

「本当に?」

「本当だよ」

 お礼。お礼を言わないと。早く何か……。そう思った時。

「じゃあ、何かご褒美でもくれるのかな?」

 理樹は相変わらず微笑を浮かべながら、そんなことを言った。お調子者のような口調だけど、佳奈多にはいい助け船になったようだった。

「……そう、それ。ご褒美、あげる」

 どうしてそうなるんだろう? 何でご褒美? 主従関係ではあるまいに、目茶苦茶上から目線な言葉だ。

「嬉しいな。で、どんなご褒美?」

「それは……」

 何ができるだろう。どんなことが。喜んでもらえること……。思いつくのは一つ。けれど、そんなことで本当に喜んでくれるのだろうか。

「直枝……」

 一歩前を歩んでいた佳奈多は急に立ち止まり、振り返る。理樹は佳奈多と向かい合う。さて、お礼の準備はできた。ご褒美……ではなくて普通にお礼をしたい。だけど素直になれずに言い出せず、何かを祈るように両手を組んで、すがるような目で理樹を見つめる。そんな時、緩やかな風が二人の間を通り抜けた。

「あ……」

 じゃ、ご褒美あげるわね。なんてことを言おうとしていた佳奈多の短いスカートはふわりと完全に捲れ上がって、飾り気のない白いショーツが露になっていた。高慢になった罰だろう、きっと。

「っ!」

 佳奈多は何が起こったのかわからず、一瞬茫然自失になりながらすぐに両手でスカートを押さえる。表情は睨み付けるようにキッとして、少し怖いくらいきつくなっているけれど、頬は赤らんでいて威圧感はない。

「ご褒美?」

「違うわよっ!」

 ああ、なんて漫才みたいなやりとりだろうと佳奈多は思った。

「見たわね?」

「う、うん」

「最低っ! 最低ね……っ!」

 どうしてこうなってしまうのだろう。佳奈多は運命を呪った。

「ごめん。見えちゃった」

 理樹は全くもって悪くない。なのにどうしてこんな態度をとってしまうのだろう。佳奈多は情けなくなってしまう。

「も、元風紀委員のくせしてこんな短いスカートで悪かったわね! ああいいわよ、見たければいくらでも見せてあげるから! こっちきなさい!」

「え……。わっ!」

 意地っ張りが起こす悪循環。佳奈多は理樹の手をとり、どこか人気のない所へと連れていく。内心は、私は一体何やってんのよ! と、混乱状態なのだけど、とにかくもずかずかと歩む。

 ――そうしてたどり着いたのは公園の片隅。笑顔が引きつっている理樹の前で、佳奈多は両手でスカートをたくし上げようとする。ああもう、どうしてこんな事になってるのよと、そう思うけれどもはや後には引けない。

「ほ、ほら。見なさいよ!」

 強気な言葉とは裏腹に、スカートを掴んでいる両手は小刻みに震えてなかなか上がっていかない。猛烈な恥ずかしさに耐え切れず、ちょっと涙目。

「二木さん。もう、やめようよ」

「……」

「見ちゃってごめんなさい。謝って済むことじゃないけど、許してくれないかな」

 あまりにも素直な理樹に、佳奈多はため息をつく。

「……謝る必要なんてないわ。あなたは何も悪い事なんてしてないのだから。私が馬鹿なだけで。……ごめんなさい」

 向こうの方にベンチが見える。そこで少し落ち着いてお話したいなと思い、佳奈多は歩んでいく。理樹も同じ気持ちだった模様。

「座ろっか」

「そうね」

 しばらくの間、無言。……口を開いたのは佳奈多の方。

「ご褒美なんかじゃない。ただ単に、買い物に付き合ってくれたお礼がしたかっただけ」

「お礼なんていいよ。僕も楽しかったし」

「ううん。そうじゃないの。それも違う。お礼をしたいだなんて、単なる口実……」

 佳奈多は赤面し、俯く。

「口実って?」

「……」

 佳奈多はふと顔を上げ、理樹の口元にキスをした。

「お、お礼よ! したからね!」

 佳奈多は矛盾しまくりで最低、と自分の事を罵った。

「二木さん」

「違う。お礼じゃないのに。ただ、その……直枝とキス……したかっただけなのに。相変わらず意地っ張りで、馬鹿。最低でしょ。本当にもう、何をやっているんだか……」

 どれだけ回り道をしているのだろうか。

「ううん。可愛いよ」

「な……っ! またそういう事を面と向かって! だ、誰が可愛い……って。ん……ん……」

 佳奈多の口に蓋でもするかのように、今度は理樹の方からキスをしてきた。

「二木さん、本当に可愛いよ」

「直枝……」

 そのキスは包み込むように優しくて、照れる余裕すら与えてくれなかった。そうして佳奈多はしばらくの間理樹の温もりに浸っていた。





甘えるだけでは嫌。





少しは大好きな人に尽くしたいと、佳奈多は心の底からそう思った。





 ――人の姿がまるで見えない公園の片隅。芝生の上であり、木陰の下。そしてベンチの裏側という、隠れんぼにぴったりの所。右に理樹、左に佳奈多が腰掛けている。

「ねえ」

「うん」

「お礼。もう少しさせて」

 この際もう、お礼でも何でもいいかも。佳奈多はだいぶ投げやりになっていた。

「いいのに」

「よくない。いいから受け取って」

 押し売りと言われようと構いはしない。佳奈多の決意はなかなかに重かった。

「うん」

 今度はどんなことをしてくれるのだろう。理樹がそう思っていると。

「……二木さん?」

「うん」

「うん、じゃなくて。何してるの?」

「お礼」

「いや、あの」

「言葉だけじゃ、足りない気がするから」

「……」

 理樹がもじもじと身をよじる。佳奈多の手は理樹のズボンに触れ、ぎこちなくチャックをおろしている所。

「服、脱ぐわけじゃないし。手でかぶせてあるから」

「そ、そうだけど」

「大丈夫。大丈夫よ」

 理樹にではなく、自分に言い聞かせるように呟く佳奈多。

「あ……」

 手慣れていないのか不器用なのかあるいは両方か。しばらくごそごそといじくるうちに、やっと理樹のものがぴゅるんと飛び出てきた。佳奈多は右手でそれを掴んで揉むようにしながら指先で弄び、やがてゆっくりと上下にしごき始める。

「ん……。ん〜〜〜っ!」

 軽く掴んだだけなのに、ビクッと全身を震わせた挙げ句離してしまう佳奈多。しばらくしてから勇気を振り絞り、再度握り直す。怖々としながらも一生懸命に。

「な、によこれ。お、大きい……じゃない。すごく……」

 理樹のものは更にむくむくと膨らんでいき、佳奈多の手では覆いきれなくなっていった。

「あ、あ」

 どくんどくんと波打ち、熱を帯びてちりちりとした感触。そして先端からはやがてぬめりを帯びた液体が分泌し始める。佳奈多は全身を硬直化させ、手だけをただひたすら動かしている。

「二木さん。手、汚れちゃう」

「いいわよ。……向こうに水道あるし。んっ!」

 単なる強がり。ぐちゅりとした感触と共に手の平が濡れていき、どうしていいかわからない。

「はあ、はあ……。な、直枝。気持ちいいの?」

 興奮してきたのか、呼吸が粗い。二人揃って同じように。

「うん。最高に。二木さんの手、細くて柔らかくて……好きな人に手でしてもらえるなんて、幸せだよ」

「そう。……おかしいわよね。あれだけ規律規律ってうるさかった風紀委員がこんなことしていて。本当に私……いい加減よね」

「そんなことない。今は二木さん、風紀委員じゃないし。僕の……彼女なんだから。いいんだよ」

「う、ん。……彼女、よね」

 いいんだ。続けても。こんな事をしても。そう言ってくれたことが本当に嬉しい。

(彼氏の……。手で握って、こんないやらしいこと、してるのよね。私)

 リズムカルに音が響く。ずりゅ、ずりゅ、きゅ、きゅ、と。ぬめりを帯びた体液と共に、黒く縮れた陰毛が佳奈多の白い手指に絡みついていく。

「……」

「……」

 互いに無言。互いの小刻みな呼吸だけが響いていく。

「あ、あ……。だめ。出る」

 突如、理樹のものがビクッと大きく震え、先端から噴水のように飛び出していく。射精は二回、三回と続き、孤を描きながら数メートルもの距離を飛んだ。それは佳奈多の手にもかかり、手の平だけでなく甲も指も白くべとべとに汚していった。

「す、すごいわね……」

「はあ、はあ。……って、何舐めてんの!?」

 佳奈多は右手の指にこびり付いた精液をしゃぶっていた。

「ん……? 好きな人の、だもの。いいじゃない」

「そりゃ、そう……だけどさ」

「でも、足りない」

「え?」

「もっと、気持ちよく……させて」

「何を……。わあっ!」

「ん……」

 佳奈多は屈み込み、理樹の未だ勢いが衰えていないものを銜え込んだ。

「ち、ちょっと。誰かに……見られちゃうよ、って。あ、あ」

「ん、ん」

 理樹の言わんとしていることはわかる。けれど、構わないわと佳奈多は思った。

(私……。口でするなんて、初めてなのに)

 躊躇することなく、何も考えずに体が動いていた。そして理樹のものを傷つけないように唇と舌で包み込む。長い髪が垂れてきて邪魔なので片手でかき分けつつ、頭を上下に動かしていく。

「あっあっ」

(あ……。す、ごい……。また、むくむくってしてきた。口の中、いっぱいになってく)

 意図的に唾を出して、舌先であらゆる所をなめ回す。ぬるぬるした感触と共にじゅぷ、じゅぷ、と湿った音。溢れ出た汁が口元を伝い、顎まで流れていく。

(私、今……どんな顔してるんだろ?)

 鏡で見ればきっと、赤面するくらいじゃ済まないほどはしたなくも間抜けな顔をしている事だろう。あんぐりと口を大きく開け、男の勃起したものを銜え込んでしゃぶり尽くしているのだから。

(いいじゃない。別に)

「も、もうだめだよ。離して……。あっ!」

(嫌。絶対に離さない。……いいわよ、口の中に出しまくっても。全部飲んでみせるから。出しちゃいなさいよ。早く)

 準備する間もない。ただ、最初の射精みたいにすごい勢いでくるんだろうなとは思っていた。けれど実際には、佳奈多の想像を超える勢いだった。

「で、出るっ! 離し……あっあっ!」

(ん、ん……あ。ん、な、なによこれ! こんな、非常識な量は……っ!)

 びしゃりと叩き付けるように強烈。それが何度も継続していく。

「ん……んんんんっ! んーーーっ! けほっ! んぐ……んんぅっ!」

 むせ返りかけながらも必死に堪えるけれど、理樹のものを口から離し、飛び跳ねるように立ち上がる。

「ほ、ほら。だから言ったのに……」

「な、によ。んぐ……。これ、くらい。……けほっ。んんんんぅっ! 平気、なんだから。んぐっ! ん、んんっ。ほ、ほら。……大体飲んだわよ。少しだけ、こぼしたけど」

「そこまでしなくても……」

「したかったの。いけない?」

「いけなくは、ないけど」

「なら、いいじゃない。許してよ」

「う、うん」

(……恥ずかしく、ないの?)

 ふと、佳奈多は自問する。

(ないわけ、ない。けど……夢中だった)

 答えの代わりに理樹の手を掴み、自分の胸元に触れさせる。

「わ、わっ!」

 服の上からもわかる程よい大きさの膨らみに、理樹の指がめり込む。

「どきどきしてるでしょ?」

「う、うん」

「馬鹿よね、私。こんなに恥ずかしいことなのに。気持ちもいっぱいいっぱいなはずなのに、迷いもせずにしちゃって、本当に何考えてんだか。恥知らず。最低……。最低よね」

「……」

「軽蔑したでしょ?」

「ううん。してないよ」

 理樹はゆっくりと立ち上がり、佳奈多の体を抱き寄せる。

「僕と、えっちなことしたいって、そう思ってくれたんだよね」

 理樹は佳奈多を木に寄りかからせる。そして、左側に立って佳奈多の短いスカートの中へと右手を入れる。

「お礼。今度は僕の番」

「な、直枝? 何を? あっ」

 佳奈多は直枝の袖を掴んで止めようとするけれど、理樹は構わず手を伸ばし、ショーツの中へと侵入していく。

「んっ!」

「二木さんのここ、柔らかいね」

「あっ! だ、だめ……。んっ!」

 股間をぐりぐりと撫で回される。淡い陰毛に覆われた秘所はあっと言う間に探り当てられてしまう。

「ん、くっ!」

「あったかくて、ふにふにだね。でも、ちょっと濡れちゃってる?」

「そ、れは……」

「誤魔化さなくていいよ。そっか。手とお口でしているうちに、気持ちよくなっちゃったんだね」

 仕方がない事。理樹のものを手と口で愛撫し続けているうちに、込み上げてくるものがあったから。

「割れ目がくっきりしてるね」

「あひっ! な、直枝……もう」

「おあいこだよ。二木さん、僕のものをあれだけしたんだから。僕だって負けないからね」

「あぅっ! ゆ、指……入れちゃ……あっ」

「濡れてるからかな。結構簡単に入っちゃうね。二本もいっぺんに」

「うっ……くぅ! 指が、あっ!」

 つぷ、にゅぷ、くぷ、と割れ目の中を指が縦横無尽にうごめく。

「ぬるぬる感が増してくるよ。気持ちいい?」

「……」

 誤魔化すことなどできはしない。佳奈多は何も答えず、ただ僅かに頷く。

「よかった。じゃ、もっと激しくいくよ」

「あ……。んっ! んんんんっ!」

 くちゅくちゅといやらしい音。理樹の指がずぶずぶと根元まで入ってくる感触。更に増していくぬるぬる感。

「だ、め……! あっ……! んひっ!」

 余りの刺激に佳奈多は脱力してしまう。抱きかかえられて座り込むのも許してはもらえない。

「まだまだ、だよ」

「え……? あっ!」

 佳奈多は背中を木に押しつけられ、ショーツを膝辺りまで下ろされてしまった。あっという間のことに呆然としてするけれど、勿論脱がされただけでは終わらず、あろうことか露わになったデルタに顔を埋められてしまう。

「だ、だめよ! そん、な……とこ。あっ」

「だめって、さっき僕の舐めたでしょ? おあいこだって」

「そ、そうだけど。あ……っ。あっ! し、舌……が! んんっ! ああっ!」

 理樹の舌が割れ目の中へと侵入し、うごめく。ぬめりが増していくのがはっきりとわかる。それは理樹のものだけではない。

(も、ものすごく恥ずかしい……! 恥ずかしい……? い、やっ! だ、誰かに……!)

 何故かふと我にかえり、スカートの布地で理樹の頭を覆って隠す。傍目からは何をしているかわからないだろう。だからといって、恥ずかしさが消えるわけがない。

「二木さんの。どんどん溢れてくる」

「やあぁぁっ! だって……。だって、直枝の舌が……。くぅぅっ! やあっ! そ、そんなに……かき混ぜないで……!」

「わっ」

 一瞬、何かが破裂するようにぷしゅ、ぷしゅ、ぴゅる、と佳奈多の秘所から滴が飛び出していった。

「あ、あ、あ……」

「二木さん、いっちゃったんだね。いっぱい出てるよ」

 佳奈多は全身を震わせながら、堪えきれなかったことにがっくりときてしまう。今も尚噴射は続いて、足元にぽたぽたと滴が落ちている。やがて足から力が抜け、木を背もたれにしたままずるずると沈み込んでいく。そうして大股開きしたまま座り込む。

「二木さんのここ、えっちだよ」

「んっ!」

 にゅず、じゅず、と水音。熟しすぎた果実のような割れ目に理樹の指が侵入してくる。短いスカートに覆い被された中は更に水浸しになっていく。





…………





「はっ……あっ、あっ」

 佳奈多はベンチの後ろに回り、背もたれを両手で掴んで支えにしていた。そうして突き出されたお尻を目掛けて、理樹が前後に動き続けている。スカートが完全にまくれ上がり、時折理樹のものや佳奈多のお尻が見える。

「く、う。絞まるよ」

「ん。そ、そう?」

「すべりもいいし暖かいし……。すぐにいっちゃいそう」

「それは……直枝が指と舌でいっぱい濡らしてくれたからね」

 くす、と佳奈多は笑う。

「服、着ながらだから大丈夫よね」

「うん。きっと」

 何度となく繰り返されるやりとり。死角となっていて外からはよくわからないけれど、不自然に重なりながら揺れ続ける二人はとても不審。

「あっ。こんな、外で……。変態よね。私達」

「うん」

「でも、始めたのは私の方だものね」

「うん。正直、びっくりしたよ」

「ふふ。そうでしょうね。私も、する気なんて全くなかったのだから」

 偶然か、あるいは必然か。こうなった以上、もうどうでもいい。

「ん、ん……。もっと、突いて」

「う、うん。でも二木さん、自分で動いてるから……。これ以上早くすると、すぐ出ちゃいそうだよ」

「ふふ。いい腰遣いしてるでしょ?」

 調子に乗りすぎたかもしれない、と佳奈多は言ってから思った。あまりにも恥ずかしい事をしすぎて、感覚が麻痺しているのかもしれない。理樹の突きに合わせて腰をグラインドさせているなんて、今もって想像もつかないこと。

「あひっ。こ、こんなことしていて元風紀委員だなんて、お笑いよね。本当に。んぅっ!」

 自嘲気味に言う佳奈多。

「いいじゃない。もう辞めたんだから。それに……」

「それに?」

「本当の事言うと、ずっと僕はしたいと思ってたよ。二木さんと、こういうこと。……恥ずかしいし、軽蔑されるかなって思って、絶対に言い出せなかったけど。心の底で、密かにそう思ってた。言ったら怒られるか怒鳴られるか詰られるかなぁって」

「ふうん。んっ。何だかまるで、腫れ物にでも触るみたいな扱いね。あふ……」

「そうじゃなくて。二木さん、嫌がるかなって思って」

「嫌がったりなんか……しない、わよ。好きな人と、することを……。んっ。くぅっ」

「ごめんね。僕はやっぱりまだどこか、佳奈多さんのこと誤解してたかも」

「無理もないわ。私のせいよ。ん、ん……。我ながら素っ気なくて、愛想もなくて、何考えてるか分からないもの」

「二木さん……」

「んっんぅっ。私のこと、もっと知ってほしい。どうしようもない娘だけど……。だから。今までの分も、取り戻したい」

 交わりながら、奇妙な会話。

「遠慮しないで。もっと思いっきり突いて。それで、いっぱいぶちまけて」

「うん。そうするよ」

 佳奈多の華奢な体が軋む程に強く打ち付ける。ぱちん、ぱちん、と生々しい音が響く。

「あっ。はあぁっ! あっあっあっあっあっ! はぁ、はぁ……。す、ごい……。んっ。くぅ……んっ」

「二木さん……。二木さん……。っく、うぅ」

 木々と茂みの緑に囲まれた空間。周りには誰もいない。掴んでいるベンチの背もたれが揺れる。長い髪を振り乱しながら佳奈多は喘いだ。ただ、理樹に突き上げられるがままに。理樹は理樹で、少しでも長く佳奈多と交わり続けてる時間を過ごしたいから、込み上げて来ている快感を必死に堪える。それでもやがて限界は訪れて、佳奈多のお尻に大量の精液がぶちまけられていった。勢い余ってスカートにまでべっとりとかかってしまうほどに強烈な射精だった。





…………





「最低ね。……最低」

 ポケットティッシュでスカートを拭きながら、心底蔑むように、佳奈多はじとーっとした目つきでそう言った。口癖のような、お決まりの台詞を。

「うん。僕、最低だよね」

 理樹は何故か嬉しそうに笑顔。それを見て佳奈多は呆れたのか困惑したのか照れたのか、視線をさ迷わせてため息をついてしどろもどろになっていく。

「ば、バカね! ……最低な訳、ないじゃない」

 最初は大きかった声はだんだんと小さく、やがて聞き取れないようにごにょごにょと曖昧になっていく。

「二木さん?」

「大体、始めたのは私の方だったんだから。それに、思いっきりして欲しいっておねだりもしたし。……いっぱい感じてくれて、出してくれて……嬉しかったし」

「二木さ〜ん?」

 呼びかけに気付いて欲しいな〜と、困った笑顔の理樹。

「はあっ! 直枝じゃない! 最低なのは私! わかってるわよ、そんなこと!」

 佳奈多は開き直ったようにいうけれど、理樹は言う。

「ううん。そんなことない。僕にとって二木さんは、最高の彼女さんだよ」

「な、な……っ! なによそれ! 本当に、口が上手いんだから……。照れちゃうじゃないのよ、もう」

 目を見開いて反抗的な態度をとってしまう佳奈多。

「本当だから」

「な、によ……それ。……直枝。でも、本当……?」

「本当」

 はっきりと言い切る理樹に、佳奈多は何も言えなくなってしまった。

「優しくて、照れ屋で意地っ張りで、可愛い」

「や、優しくなんか……。て、照れてなんて、いないんだから……。誰が意地っ張りよ。……はぁ、もう。最低。……直枝の言う通り、意地っ張りの融通がきかない頑固娘よ私は。でも、可愛くなんてないわよ! 誉めたって何も出ないんだから!」

「うん。確かに不器用で、全部自分で抱え込もうとしちゃうよね。でも、本当に可愛いよ。誤魔化したってだめだからね」

「……可愛い、の?」

「最高に。お世辞抜きで」

「……ありがと。直枝に言われると……嬉しいのに恥ずかしくて、照れくさくて……素直になれないけど……。ありがと」

 嬉しい。心の底からそう思った。

「……」

「二木さん?」

 思っていたことや望んでいたことが、湧き水のように溢れてくる。素直になって、好きな人に甘えて身を任せる。

「ううん。二木、じゃ嫌。名前で呼んで。お願い」

「……佳奈多さん」

「さ、さんは、いらない。さん付けなんてしないで……抜きで」

「佳奈多」

「……も、もう一回。名前で呼んで」

「いくらでもいいよ。か、な、た」

「っ! ん〜〜〜っ! じ、じゃあ……今度は……えっと、かなた……す、好きって、言って!」

「佳奈多……。好き」

「……くうぅぅっ! な、な、何なのよ、もう!」

 顔の火照りが収まらない。

「な、直っ! 直……う、ううん! ダメ……。り、り……」

 今度は自分の番。頑張らなければいけない。佳奈多はそう思う。理樹は微笑したまま、佳奈多に寄り添う。

「り……。うぅ」

「頑張って」

「う……。り、り、き……」

「はい」

 よくできました、と褒めてくれてるかのような笑顔の理樹。

「私も……。り、きのことが……す、好き……なんだからね」

「うん」

 どもりまくりのもじもじしまくり。声が上手く出て来ない。

「ん、ん……。ま、また……。デート……して、欲しい……」

「うん。いっぱいしようね」

「それから、それから……。手、握って……。あ……う、腕も……組んで……欲しい」

 子供がお願い事を言うように、ぎこちなく言葉を紡いでいく。

「全部、佳奈多の望むまま」

「き、キスもして……。え、え、えっちなことも……して」

「うん。さっきまでしていたようなこと、いっぱいしようね」

「……」

 こくこくと頷く。今更ながら、先程までの行為の恥ずかしさが激増してきた。

(も、もう……。は、恥ずかしすぎ……。死んでやるから……)

 そんな事を思っていたはずなのに。

「わ、私、のこと。じゃ、なくて……その……えっと。か……佳奈多のこと……大好きって……そのまま……言って」

 火照りまくった揚げ句、体も精神もふにゃふにゃになっていくように感じられた。

「うん。佳奈多のこと、大好きだよ。……これでいい?」

(……あっ)

 一瞬、胸が高鳴ったような気がした。何かが込み上げたような。

「り、き。私……体……おかしい。変」

 スカートの中で突然じゅく、と滴が大きな泡と共にわき出て、ちょろちょろと流れて落ちる。失禁してしまったかのように止まらない。新たな一線を越えてしまったようだ。

(だめ……。す、好きすぎて……。私、こんな……)

「どうしたの?」

「……はぁはぁ。と、止まらない、の」

「え?」

 佳奈多はよろめきながら立ち上がり、両手でスカートの裾を思い切りたくしあげる。細く柔らかなデルタはぐしょぐしょに濡れて大洪水。物欲しげな眼差しを最愛の人に向け、おねだりをするのだった。

「……もう一回……して……」

「したいの?」

「うん……。理樹とえっちなこと、したいの。入れて……」

「いくよ」

 近づき、重なり合い、そして……ずんっ! と、強い衝撃。やがて佳奈多は体を完全に持ち上げられてしまい、振り落とされないように必死にしがみついていた。首を仰け反らせ、長い髪を思いきり振り乱しながら喘ぐ。意地っ張りな自分と決別するかのように、甘ったるい声で。

「あ、あっあっあっあっあっ! ……あ、ああぁぁっ! だ、めぇ! んふぅっ! す、すきぃ……は、あ……んっ! あんっ! あんっ! はぁんっ! すき! すきぃっ! あっあっあっあっあっ! い、いっちゃううぅっ! ふああぁぁっ!」

 こうしてまた、二人は熱い時を刻み始めていくのだった。










おしまい










----------後書き----------

 さて、PureMix2ndの佐々美編をせっせと書き上げていざ公開……と、思いきや何故か佳奈多のいちゃらぶえっち話。唐突に。

 お話書きはその時々の気紛れ。






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