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anxiety relief










 夕暮れ時の、二人以外誰もいない教室にて。なんとなく話を続けて、気が付いたらそんな時間になっていた。

 その二人とは、岡崎朋也と藤林杏。紆余曲折ありながらも、付き合っている仲だった。

「不安なのよ」

 最近、杏の様子が変。というよりも、どこか沈んだような表情を見せることが多かったので『どうした?』と単刀直入に聞いてみたら、そのような答えが返ってきた。

「老後の蓄えがか?」

「そんなんじゃないわよ」

「冗談だよ」

 茶化そうとするも軽くスルーされる。

「もっと真面目な話」

 杏が頭を振ると、肩くらいまで伸びかけた髪がさらりと揺れる。

「あんたとあたしの関係」

「長続きするのかな、と?」

「……」

 悩みの根本を推測して突っ込んでみたら、当たりだったようだ。

「あのな。何でそんなこと気にするんだ。俺達、別にすれ違ってるわけでもなし、お互い浮気なんかしてるわけでもなし。極めて順調だろう?」

 浮気でもしようものならぶち殺されそうだし、そもそもする気など全くない、と朋也は心底思っていた。杏もそんなことはわかっているのだったが。

「理由なんかわかんない。けど、今の関係も……いつか壊れてしまうんじゃないか、って。何故か不安になる時があるのよ」

「そんなこと考えるな」

「考えたくて考えてるわけじゃない。考えちゃうのよ」

「そうか」

 今の二人の関係は、杏の妹……椋を傷つけて、その上で成立したのに。何故そんなことを考えてしまうのだろうか。

「怖いの」

「……。どうすればそのネガティブ思考、消せる?」

「わかんない」

 それが分かれば苦労はしない。普段の明るく活発な彼女は、まるで別人のように沈んでいるのだった。

「よし。こういう時はお約束のショック療法だ」

 云うやいなや、いきなり杏を抱き寄せてキスをした。

「……んっ!?」

「どうだ?」

「なっ! な、な……い、いきなり何すんのよっ!?」

 思い切りが良いというよりも、暴走気味な朋也だった。確かにショック療法ではあったが。

「キスでストレス解消、のつもりだったんだが。嫌だったか?」

「そんなわけ……ないけど。いきなりだから」

「効果ありのようだな」

 驚きと恥ずかしさで悩み事など一瞬にして吹っ飛んだ。

「そうかも、しれないけど」

「じゃあ、もっと調子に乗っていくぞ」

「な、何をするつもりよ?」

「久々に、やろう。俺達にはえっちが足りない!」

 身も蓋も無い云い方に、杏は固まってしまう。

「……」

「……」

「な、何よ。やるなら……じ、じらさないでよ!」

 と、云いつつ受け入れ体勢は万全な杏だった。

「いや、な。ここではさすがにどうかな、と」

「キス、してきたじゃない」

「それくらいならまだしも。それ以上のことになると、な」

 云うまでもなく、とっても恥ずかしい行為なのだから、場所が適切ではなかった。

「じ、じゃあ。どこでならいいのよ」

「お前んち?」

「ダメ。みんないる」

「うちにも親父がいるからな」

 そうなると、外部の施設しか手はなくなる。

「云っておくが。その手のホテルに行くような金などないぞ」

 購買のパンを買う程度の持ち合わせしかない。とっても情けないことと思いつつ、どうにもならない。

「あたしだって、そんなに小遣いもらってるわけじゃない。バイト代も……」

「あの原チャリですっからからん?」

「うん」

「八方塞がりだな」

 では、どうすればいいのだろうか。

「とりあえず、一に人が来ない。二に外から見えない。三に、声や物音があまり響かないところ。となると、そうだな……トイレとか?」

「やだ! そんなとこやだ!」

 一通り条件は満たしているが、ムード以前にあんまり長居したい場所ではない。

「贅沢云うな。じゃあ……屋上とか?」

「外なんて嫌! それに、そんなところでしてたら、誰かに見られちゃうわよ!」

「そんなこと云われてもな。っていうか、既に学校ですること決定かよ。なんというインモラルな」

「だって。仕方ないじゃない」

 何という相談をしているのだろうか。

「じゃあ、資料室……は、だめだな。あそこには人がいるし。図書室……も、だめか」

 思い浮かぶは宮沢有紀寧と一ノ瀬ことみの顔。両者とも部屋の主のようなものだった。

「はぁ……。もういいわよ。別に、しなきゃいけないわけじゃないし」

 気分的に落ち込んでいて、たまたま不安になっただけだから大丈夫、と杏は云った。だが、もう既に朋也は……。

「いや、だめだ」

「何が?」

「ここまで話してきて、想像していたら……俺が辛抱たまらなくなってきた」

「あ、んたねぇ」

 朋也の股間はもっこりと盛り上がって臨戦体勢になっているのだった。杏も呆れてしまうくらいくっきりと。

「よし。ならば、あそこだ」






……









 そうして選んだのが。

「どうしてこんなとこ知ってるのよ」

「さあ、どうしてだろう?」

 薄暗く、所狭しと物や戸棚やらが並んだ所。何を隠そう理科準備室だった。校舎の片隅に忘れ去られたように存在しているため、放課後人が来ることはまず無いだろう。

「この部屋、よく鍵を閉め忘れている事があるんだよな」

「あんた。授業はさっぱり聞いてないのに、そういうことだけはよく覚えてるわね」

「褒め言葉として受け取っておこう。で、どうだ?」

「どうだも何も。するんでしょ?」

「うん。する。……ああ」

「何よ?」

「お前の後ろのそれ。ムードの欠けらも無いけど、我慢してな」

「え? ……ひっ!?」

 お約束のように、人体模型。解剖型のと、そのまんま骸骨なのと二つあった。その他に、寄生虫とかグロテスクなものも多数。

「べ、別に。……気にしないわよ。そんなの」

 一瞬びっくりしたようだけど、大丈夫なようだ。

「じゃあ、いくぞ」

「う、うん」

「スカート、たくし上げて」

「……」

 頬を赤らめながら、紺色のスカートをゆっくりとたくし上げる。少し躊躇いながらも淡い水色の下着が露わになる。

「脱がすぞ」

「ん……」

 杏は視線を逸らして僅かに頷く。朋也は杏の下着をゆっくりと、膝あたりまで降ろす。

「俺たち最近。してなかったよな」

「あ……や!」

 朋也は杏の股間に顔を埋め、舌を這わせる。突然の事に、たくし上げたスカートを押しつけて隠そうとしてしまう。

「隠すな」

「だ……って。いきなり、そんなとこ」

 きつく目を閉じながら、再度必死にスカートを掴んで堪える。

「いきなり入れたら、痛いだろう」

「だけど。あっ。あぁぁ」

 薄い茂みをかき分けながら、柔らかな秘部を舌で愛撫する。と、そんな時。朋也は杏の異変に気付いた。

「杏。お前……さっきから何震えてるんだ?」

「……っ!」

 辺りも暗くなりかけて、場所が場所で行為が行為だけに灯りを付けるわけにもいかない。そんな中で、杏は少し震えていた。

「まさか、怖いのか? それ」

 それ、とは背後の人体模型君二体。僅かな月明かりに照らされてうっすらと浮かび上がる様は、正にホラー。

「……そう、よ。あ……あたしだって、女の子……なんだから」

 最初は平気なフリをしていて、実はとても怖くて我慢していたのだった。

「怖いなら怖いって云えばいいのに」

「だって。……い、云えるわけ、ないじゃない」

「どうして?」

「今更……」

 強気な女の子、というイメージが定着してしまっているからか、素直になれなかった。

「そっか」

「……」

「可愛いな。お前」

「あ……」

 朋也は体を起こし、杏を抱きしめてキスをした。

「お前の弱さ。知ってるつもりだったんだけどな」

 杏を不安にさせていたのは、そういう所に無神経だった自分が原因なんだろうな、と、朋也は悟っていた。

「とも、や」

「好きだぞ杏。不安にさせてごめんな」

「あたしも。好き……」

 そして、緊張を解くためにもう一度キスをして、どちらからともなく一つになっていく。

「う、あ……ぁ」

「ゆっくり、入れるからな」

 まだ僅かにしか濡れていないので、ゆっくりと傷を付けないように下から押し上げていく。

「う、ぐ。……ん、あ、あ。はぁぁぁ……あ」

「もう少しだ」

 杏はず、ず、と入ってくる圧迫感に耐えながら、朋也の体にしがみつく。

「あ、ああぁ……あ。朋也ぁ……」

 そして抵抗が無くなり……奥まで入り込んだ。

「全部、入ったな」

「……。うん。入っちゃった」

「お前の中。すごい締め付けだな」

「朋也のだって、熱い……わよ」

 そしてまた見つめ合って笑う。

「あ。だめ。動かさ……ないで。んん……」

 杏の右足を持ち上げて、ゆさゆさと上下に揺さぶる。

「無理。気持ちよすぎて……」

「あっあっあっ」

「声、出すなよ」

「だって……」

 中で熱いものにうごめかれて、甘ったるい声を出してしまう。

「じゃあ、こうだ」

「んん……っ」

 むさぼるかのように深いキスをしたまま、一気に腰を振る。

「んんっ! んぅっ! んんんぅっ!」

 ずちゅずちゅと、湿った音を立てて交わり続ける。







そして、そのまま二人は達して……。








 部屋の片隅で、はだけた服もそのままに、二人は寄り添っていた。

「朋也」

「うん?」

「何でもない。……呼んでみただけ」

「そっか」

「そ」

 何故だかとても嬉しそうな杏。

「朋也」

「何だ?」

「もう少し、このままでいさせて」

「ああ」

 云われるまでもなく、彼女の気が済むまで寄り添っているつもりだった。

 窓の外には星空が広がっていて、二人でぼんやりと眺めていた。

「朋也」

「うん」

「……」

 右手と左手を絡ませて、杏は上目使いで云った。

「好き」

 そんな杏に、朋也は何も云わずに唇を重ねる。

「ん……」

 キスをしたまま、杏の制服の膨らみに手をかけてまさぐる。

「あ、ん。……朋也。今度は口で、してあげるね」

「大胆だな」

 スカートを脱ぎ、下着も身につけていない杏は剥き出しのお尻を突き出すようにして四つん這いになった。そして、朋也のものに手を沿えて、大きく口を開けてくわえ込む。

 動物のような、とてつもなく恥ずかしい格好も、朋也のためならできてしまう。

「あむ……。ん……ぅ」

 杏は一生懸命に、歯を立てないように大事に、奥の奥までくわえ込んで……口と舌で愛撫をはじめた。同時に朋也は杏の丸いお尻に手をかけて、優しく撫ではじめる。

「気持ちいいぞ」

「んん、んぅ」

 じゅず、ずじゅ、とすするような水音を立てて、濃厚な愛撫は続いた。朋也が達するまで……。








 時間は更に過ぎ、真っ暗な帰り道。








「ね。朋也」

「ん」

「好き」

 唐突な言葉だった。普段、憎まれ口ばかり叩いてる彼女だから尚更。

「……。照れるぞ。いきなり何だよ」

「ん。……好き。って、好きな人に素直に云えることが、こんなに楽で幸せだなんて、思わなかった」

 だから、意味もなく云ってみたくなったのだった。ずっと我慢していた言葉だったから。

「お前。意地っ張りだもんな」

「うん」

 本当のことだから、反論しない。そのことでずっと自分をごまかして、大切な人を傷つけてきたのだから。今はもう、素直になれる。

「今日は、ごめんね。変なことで不安になったりしちゃって」

「謝るのは俺の方だ。お前に……彼女にそんな思いさせちゃ、ダメだよな」

「じゃ。お互い様ってことで」

「うん」

 笑顔で、おやすみのキスをするのだった。




















----------後書き----------

 まあ、たまにはクラナドの短編でも。シリーズものは書いてて疲れるので適当に。

 ということで、ぇち度はちょっと低めだけど杏のほのぼのものを一丁。

 いかがでしたでしょうか?



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