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【MSS 前編】










あれから、多くの時が過ぎていった。










雪が溶けるようにして、姉妹の冷え切った関係も今では元通りになり、そして……。










それぞれが、新たな日常に身を置いていた。










 夕暮れも近い時刻。美坂家にて。

「ただいま。栞、帰ってるの?」

 がちゃりという音と共にリビングのドアを開け、赤いケープが特徴的な制服姿の少女が入ってきた。玄関に妹の靴を見つけ、中にいるのかと呼びかけてみたのだが。

「……なっ!?」










彼女……。美坂香里にとって。










その日学校から帰宅して、最初に目にした光景。










それは、インパクトの塊とも云うべき、ありえないものだった。










 少女のか細く、切ない声と共に、ぱんぱんぱんぱんという激しくも肉感的な音が間断なく響く。それは時間がたつにつれ次第にぱちゅぱちゅと、熟れた果実のように湿り気を帯びたものへと変化していく。

「あっ! あっあっ……ああんっ!」

 香里の妹、美坂栞は今素っ裸にさせられて激しく突かれていた。同じく全裸の男……相沢祐一の、極限にまで大きくそそり立ったものが、栞の華奢な体を貫くようにして何度も何度も出入りしている。

「ゆ、祐一さんっ! ……激しい……ですっ! あっ……は!」

 そこは紛れもなく美坂家のリビングルーム。テーブルにしがみつくようにして、激しい行為に耐えるように手を付いている栞。そして、栞の細い腰をがっしりと掴み、バックからガンガン突きまくっている祐一。そんな、異常すぎる図式。

「あっあっあっあっあっああああっ! はッ……あっあっあぁっあっ!」

 栞は華奢な体をがくがくと揺さぶられ、荒い息を吐く。その反動で、テーブルもぎしぎしと揺れている。

「あ、んたたち……。なにやってんのよ!」

 呆然とするような困惑の後に、非難を込めてそう云うのは当然のことだった。それでも祐一は躊躇せず行為を続ける。

「あっぅっぅっ! はぅっあぅっ!」

「いや、これはだな。香里。え〜と」

 とは云うものの、問いつめられて祐一は返答に困った。声のトーンが低いのは、自ら望んでそのような行為に走っているのではなくて、何かしらのやむにやまれぬ理由があるからだろう。そして……。

「これにはちゃんとした理由があってだな。美坂」

 更に、密かに(というよりも、最初からちゃんと側にいたのだが、悲しいかな存在感が薄かったので香里には気付かれていなかった)側にいた男、北川潤がやっぱり云いづらそうに事情を説明しようとした、が。

「どういう理由があって、人の家のリビングルームで相沢君が私の妹と白昼堂々セックスをしているのかしら?」

「だ、だからだな。ちゃんとした理由があって」

「ゆ、いちさ……んッ! あふっ! あふっ! あ……う、ふっ!」

 小刻みな動きをしたと思ったら一転して、栞の肩を掴んで引き寄せ、ぐじゅっという感覚と共に一気に奥まで挿入。緩急を付けて翻弄する。

「あぅっ! ふ、深……ぃ、です……っぅぅ! ああっ! ひぁっ!」

 更に、小振りな乳房を強めに揉みまくられ、乳首をこねくり回されて、栞は悶絶する。

「美坂。聞いてんのか?」

「……聞いてないわよ」

 こんな状況でも香里は少し落ち着いたのか、ぽかんとしたような呆然としたような、そんな顔をして二人の行為を見続けていた。

「あ、あのな美坂。とにかく落ち着いて聞いてくれってば」

 北川は必死に説明しようとする。

「……」

「こ、これにはだ。マリアナ海溝のように相当深いわけがあってだな」

 その言葉はやっぱり香里に届いていないと分かっていながら、説明を続ける。

「あっ! んんっ! んっんっ! あんっ! はぅっはぅっ!」

 その間も祐一は容赦なく二度、三度、四度と下から突き上げる。奥の方まで深く、えぐるように。それでも、わざと達しないように余裕を持たせている。

「美坂。実はその。あのな」

「……」

 北川の声など届いてはいない。ずっと、まだ子供だと思っていた妹の性行為を見て、驚くやら興奮するやら……。色々な意味で、釘付けにされていたのだから。










何故、今現在このような混沌とした状況になっているか?










その理由は、数日前の出来事だった。









喫茶店、百花屋には美坂栞と相沢祐一という、所謂、結構進んだお付き合いをしている二人と。










そして、おまけに祐一のクラスメイトの北川潤。










そういう顔ぶれで何か相談事。










「み……美坂が。美坂がさせてくれないんだっ!」

 改まって相談事というから何だろう、と思っていたのだが。北川のあまりにもわかりやすい一言に対しいきなりそれかい、と祐一は心の中で突っ込みをいれた。

「……。北川。ますます見損なったぞ」

 やれやれ、と云わんばかりに大きなため息をついてやるのだった。わざと呆れたように、軽蔑するように。もっと悪く云えば、『ばっかじゃねぇの』とか、『んなこと知らねーよ』とか、突き放すような態度を込めて。もちろん、悪友に対するパフォーマンスなので本気ではないのだが。

「まて。ますますってことは、前から既に見損なっていたのか!?」

「当たり前だ。そう……。はじめてお前と会ったその時から、既に見損なっていたぞ」

「んなっ! 知らない人を一体どうやって見損なうんだ!」

 理不尽な言いがかりに当然の事ながら、突っ込みを入れる。

「お前は存在そのものが、見損われるためにあるような感じだった。その触覚を見て、一目で全てがわかってしまったのさ。ああ、こいつは見損なうために存在するようなやつなんだな、と」

 と、遠くを見るような目で喫茶店の外を眺めるのだった。

「わけわからんわっ! って。そんなことより聞いてくれよ! 美坂が、美坂がさせてくれないんだよっ! どうにかしてくれよ! 頼むよっ!」

「その前に、ちょっといいか?」

「な、何だよ」

「おりゃ!」

「ぐおっ!」

 バキッと一発、北川の脳天をどつく。川澄舞直伝の空手チョップだった。

「TPOってのをわきまえような。とりあえず、落ち着け」

 そこは喫茶店という、人の集う公の場所。気付けのための一撃だった。

「う、む。……そ、そうだった。悪かった。すまなかった。……で、でも栞ちゃん! 栞ちゃんならわかってくれるよねっ! 俺のこの気持ち!」

 二人のやり取りに呆然としつつ、突然話を振られた方は、どこか戸惑うように問い返した。

「えっと。……北川さんとお姉ちゃんって、その。……付き合っていたんですか?」

「……。栞ちゃん……。まさか、知らなかったの?」

 そのまさかである。

「はい」

 更に追い打ちをかけるかのように、祐一の口からも驚愕の事実が明らかになる。

「実はな北川よ。俺も知らなかったりするんだなこれが」

「相沢ぁぁぁ〜〜〜! お前もかあああーーーー!」

 北川潤。男泣き。アピールが足りなかったのか、毎日顔を突き合わせる間柄でこうも認知されていないとは想定外もいいところだ。

「つまるところ。お前が云いたいのは、こういうことだろう」

 祐一は改めて、北川が云わんとしていることをまとめてみた。そうしないと北川はぎゃーぎゃーうるさいだけで、話が全然進んでいかないから。

「北川は今、美坂姉こと香里と付き合ってる。で、結構たつのに全然セックスさせてくれない。させてくれるそぶりすら見えない。やりたい盛りのどすけべな北川としてはとにかく香里としたいやりたい入れまくりたいがんがんぶっこみたい。そして香里の体に熱いもんを思いッきりぶちまけたい。以上。三行で分かる現状把握だ」

「ぶはっ!」

 あからさまな云い方に、思わずコーヒーを吹いた北川。

「うわっ! 汚ぇなっ!」

 テーブルの向かいにいたのが祐一でよかった。もしもそれが栞だったら祐一は北川に対し手加減抜きの空手チョップのコンボヒットをたたき込んでいただろうから。

「き、北川さん……」

 それはそうと、当然のことながら栞の北川に対する視線はかなり痛かった。

「し、栞ちゃん! そんな目で見ないで! お願いだからそんな目で見ないで!」

 どんな目かと云うと、呆れたような、軽蔑するような、そんな目。無理もないことだが、なかなか理解されないような、云いようのない悲しみに北川は立ち上がり……。

「ち、違うんだ! 俺は……俺は! 純粋にあいつのことが好きだから! 美坂の体が、体が……体が目当てで付き合ってるわけじゃないんだあああーーー!」

 と、でかい声を出して自己主張しようとしたが。

「やかましい!」

 川澄舞直伝空手チョップ二連撃。

「ぐはっ! す、すまん。つい、興奮して」

 バキッとどつかれ、再度ダウンさせられる北川だった。

「ま、でも。彼氏と彼女という関係なら、何も問題は無いことだが。ちょっと哀れだな」

 とりあえず、助け船を出してやった。友人として見捨てるのも気が引けるし、どうにかしてやろうという優しい気持ちになっていくのだった。

「ど、どうにかしてくれ! 頼むっ! 恩に着るから!」

 北川。切実に、頼んだ。










どうにかしようにも、さて、どうしたものやら。










そんなわけで一応、祐一と栞は北川に全面協力することになったのだった。










「とりあえず第一案」

「何だ?」

「簡単に説明する。まず……」

「まず?」

「香里をどこか二人きりになれるところに誘い込む。話がある、とか何とか口実にしてだ。この時、決していかがわしそうな事を考えたり顔に出したりしてはいけない。煩悩を押さえ込み、生真面目に、鼻の下を伸ばさぬように無心で切り出すのがポイントだ」

 例えば体育倉庫とか、ホテルとか、とにかく誰も来ないような密室に。もっとも、ホテルに連れ込むこと自体いかがわしすぎることなのだが。

「うんうん。……で?」

「そしたらおもむろに、香里の肩に手をかけてだ」

「うんうん。……それで?」

「覚醒するんだ! 野獣と化し一気に押し倒してヤることヤれ! ヤれるだけヤりたいだけヤりたいことヤりまくっちまえ! そして見事に殺(ヤ)られろ!」

「なんかそれはいろいろと間違ってるぞ、おい!」

 女の子とはいえ相手は強気で勝ち気な香里だ。そんなことでもしようものなら鉄拳の一発や二発では済まないことだろう。まず半殺しの憂き目に遭うことは確実だ。祐一にとっても栞にとっても、北川より香里の方が強そう、というのが一致した見解なのだから。

「仕方がないだろう。何しろ相手はあの香里だ。正攻法で落ちるとはとても思えん」

「美坂は猛獣かっ! まあ……。間違いなく俺より遥かに強いけど」

 情けないことに図星のようだった。

「うーん。でも……。お姉ちゃんって、その……。はじめて、なんですよねぇ?」

 話を聞き続けていた栞は恥ずかしいから小声で、二人だけに聞こえるように云った。

「し、栞ちゃん?」

「そうですよね。妹の私が祐一さんと……その、け、経験済みなのに、お姉ちゃんが北川さんとまだ……って、よくないですよね」

 色々な情報を総合した結果。そのような結論に達した。静かな決意と云うべきか、とにかくどうにかしなければいけないと栞は強く思った。

「さすが栞ちゃん! 話が分かる! 俺は嬉しいよ!」

「わっわっ!」

 感極まって栞の両手をぎゅむっと握る北川だったが。

「こら! 栞に触んな!」

 彼氏さんの怒りに触れ、空手チョップを三度くらうのだった。










というわけで、更に色々考えてみた。










夜ばいをかけるとか、二人きりの時イキナリ抱きついてみるとかキスしてみるとか。










それらはどれもこれも、0.5秒で香里の鉄拳が飛んでくることが確定されていて、NGだったが。










そんなわけで、一つの結論に達して。










ただ今実行中なわけで。










 それが、香里に生で祐一と栞との痴態を見せつけるというかなりインパクトの強いものだった。そうやってショックを与えて挑発し、香里をその気にさせようということだ。

 もっとも、栞も祐一も人前でセックスをすることはおろか、裸になることですら最初は抵抗がありまくったのだけども。全ては香里のためということで何とか妥協したのだった。お互いに『今回限り』ということで、他言無用もいいところだ。

「香里。妹はもう経験してるのに、姉のお前は未経験でもいいのか?」

「べ、別に。どうでも……いいわよ」

 明らかに動揺しているというか、悔しがってる香里。言葉の端々に悔しそうなニュアンスがあるから、たたみ込むようにして祐一は挑発を続ける。

「子供っぽい栞もこれだけできるんだから、香里が遠慮することは無いぞ」

「こ、子供扱い……しないでくださ……い。あぅっ!」

「関係ないでしょ。栞は栞。あたしはあたし、よ」

「ふーん。まぁ、口では何とでも云えるな」

「……。何? もしかして喧嘩売ってんの?」

 香里の目が鋭くなり、険悪な雰囲気になっていく。が……それでも祐一は怯まなかった。

「別に。単に、疑問に思っただけだ。……それとも。栞にできて香里にはできないのか? 例えばこういう、こととか。よっ」

「ひゃあっ! あああっ!」

 祐一は栞の中に挿入したまま持ち上げて、テーブルの上に腰掛けて両足を思い切り開き、M字開脚させた。最高に恥ずかしい姿に、栞はきつく目を閉じる。

「よく見えるだろ? 栞の中に入ってるのが。栞のおま○こが」

 わざと卑猥な言葉を云ってみせると、栞はビクッと震えながら恥じらう。

「はぅっ! あ、ああ……ぁぁぁ。は、恥ずかしい……で、す……。見ないでくださ……あ、ああ」

「見せつけるためにやっているんだろ」

 栞は恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆う。それでも姉のことを思うが故に、恥ずかしさを押し殺して腰を動かしていた。無理矢理にでも大胆な所を見せつけなければ意味がないのだから。

「ほら栞。もっと動いて。いやらしく腰をくねらせて」

 栞は云われるがままに、必死に痴態を晒し、香里を刺激する。

「は……いぃぃ! あ、あっ」

「お前。実は北川と付き合ってんだろ? だったら、やってみせろよ。今ここで」

「……。関係ないでしょ」

 それでも、香里はそんな挑発に乗る気は毛頭無いようだ。押しても押してもなかなか思いどおりにならない展開に、業を煮やした栞が口を出す。

「関係なく、ない……です……ぅっ! お姉ちゃんっ!」

「栞?」

 なぜかムキになっている栞に、香里は内心戸惑った。










香里の事情を知っているから。










栞は真剣な表情のまま、問い詰めた。




















続く




















----------後書き----------

 こうしてこのお話は中編へと続くのでありました。

 果てさて、どうなっていくやら。次回をご期待くださいませ。



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