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暖め上手な人々










 それは真冬の寒い夜のこと。何故だかはわからないけれど妙に目が冴えてしまい、眠れない一時を向かえていたムギちゃんこと琴吹紬お嬢様。

「ねむれません」

 寝る前にコーヒーや紅茶を飲んだりしてカフェインを接種したわけでもなくて、かと云ってお昼寝をしたわけでもないのにどうしてだろう。高級な毛布にくるまれながら左右に何度となく寝返りを打つけれど、そろそろ無理だと諦めを感じてきた。多分しばらくは眠れないのだろうと確信してしまう。

 じゃあこんな時どうすればいいか、ムギはちゃんと熟知していた。眠れない退屈な時もちょっとの空想で楽しい脳内映画鑑賞へと早変わりするのだから。それじゃあ早速始めましょう。まずは設定よね、とムギは思う。例えばどんな設定がいいか? 身近な人を探してはキャスティングを適当に考えてみる。そうねえ、と心の中で呟きながら……そう。例えばけいおん部の面々を思い浮かべてみる。唯に澪、律に梓。皆さんとても魅力的なキャスト陣。脚本も演出も音楽も誰に頼ることなく全て一人で制作する作業はしかし、とても楽しいものなのだ。

 こうしてムギ以外誰も知らないストーリーが幕を開ける。

 ――久しぶりに雪が降り、特別寒いと思える冬の日のこと。自室にて数日後の試験に備えた勉強を終え、夜も更けたので寝ることにした澪。しかしすんなりとは眠れない。生真面目な性格故に本気で集中していたからだろうか、目が冴えてしまっていたのだった。ただ、眠れない理由は他にもあった。それはとてもシンプルな理由。

「さ、寒い……」

 外の雪は止んだようだけれども、入りたての布団はとてつもなく冷たく、寒かった。澪は涙目になりながらかたかたと震え、早く布団の中が暖かくなってくれ、と思うのだがそこに何故か救世主が現れるのだった。何の前触れもなく唐突に、だけどこの世界の創造主たるムギが許可するのだからどんなご都合主義でも問題はないのだった。

「しょうがないなー澪は。でっかい胸しながら寒がりなんだから」

「脂肪が厚いみたいなこというな! どこから入って来たんだ!」

 澪は聞き慣れた声に対し突っ込みを入れる。が、震えながら布団を被ったままでは今一つ迫力に欠ける。

「私は寒さに凍えている澪を助けてやろうと思って来たんだ」

「何がだ! な、何を……わあっ!」

 その救世主こと律はにやにやしながら突然澪の布団の中へと侵入していった。当然のことながら澪は驚き慌てふためき嫌がり暴れ抵抗するわけだが、あっさりと布団の中に侵入されたのが運の尽き。主導権は完全に律が握っているのだった。

「澪の体は暖かいなー」

「やめ……やめろ! こら律! 冗談きついぞ!」

「みーおちゃん」

「ひあああっ!」

 むに、と豊かな胸を揉まれて澪は大きな声をあげてしまうのだった。

 と、このようにもわもわと麗しい情景がムギの頭の中を満たしていき、思わずもだえる。はぁ、と一息つく。寒いはずなのに吐息がとても暖かく感じられ、その先を更に考えてみたくなる。続きはどうしましょうと心の中で問い、お好みのシチュエーションを考え始める。

 そして、ビデオで云う所の一時停止にされていた映像が再び動き始める……。

「ど、どこ触ってるんだ!」

「いやー。暖かくて柔らかいなーと思って」

 両腕をばたつかせたりして抵抗するも懐に入られてしまったが最後。律のいいようにされてしまう。仰向けに寝そべる澪に跨がり、所謂マウントポジション。こうなればもう、押しのけることも引き剥がすこともできはしなかった。

「ぼ、ボタンを外すなー!」

「へえ。澪は寝る時はノーブラ派なんだな」

 パジャマのボタンを一つまた一つと外されてしまい、今度は直に触れられる。左右の胸を同時に。

「うりゃうりゃ。大きくてうらやましいじゃないか」

「ひゃうっ!」

 寒い外にいたのか律の両手はとても冷たく、かじかんでいた。

「り、律……」

「澪。嫌なのか?」

 澪は体をよじることもできず、右手でシーツを掴み、左手の甲を口元に当てて込み上げてくる声を堪える。そんな澪を見て、律は急に生真面目な顔になって問いかけてきた。

 澪は言葉が出てこなく、瞬間的に答えることができなくて絶句してしまう。

「私は好きだぜ。澪が」

 そうしてごく自然動作と云わんばかりに、澪の口元に顔を近づけ唇同士を重ね合わせていた。

「あ……。な、にを……」

 ファーストキスだった。律は澪の思いを見透かしたように云う。にっこりと笑って大丈夫とか根拠もなく前置きをしてから云い放つ。

「私も初めてだ」

 悪気の全くこもっていないその笑顔を見ていると、なぜだか全てを許せてしまう。普段、喧嘩ばかりしている相手なのに、実は誰よりも信頼しあっている仲なのだろう。

 ――そこまで考えて、ムギは赤面し身もだえしまくっていた。あぁん、とか思わず小さく声を出して。それからのことはもう決まっている。続きを早く見たい。そんな気になっていた。

「澪。もう一回するぞ」

「ん……」

 もし嫌なら、拒むのならそれ以上はしない。もう二度と澪を求めることはしないと、律の真剣な眼差しは物語っていた。

 澪も覚悟を決めたのか顔を背けるようなことはせず、目を軽く閉じて律の求めに応じる。

「可愛いな。澪は」

 澪は二度目以降はもう慣れたのか諦めたのかどうでもよくなったのか、律の好きなように唇を奪われてしまう。……突如僅かな吐息が口元に当たっていたのが途絶え、どうしたのだろうと思っていると。

「ひああぁっ!?」

 はだけさせられた胸元から違和感。驚愕し、閉じていた目を見開くと……。

「ど、どこ触ってるんだ!」

「どこって。乳首だけど?」

 律は人差し指と親指で澪の左右の乳首をきゅ、と少し強めに摘まむ。

「んっ!」

 乳首を摘ままれ、引っ張られ、こね回されて澪は恥ずかしさとこそばゆさの余り声を漏らしてしまう。けれど、第三の感触が澪を襲う。

「あああっ!?」

 乳首をもてあそばれたまま、胸と胸の谷間に舌をはわされたのだった。

「や、め……あっ! あっ! んううっ!!」

「綺麗だよな、澪のおっぱい。可愛いしスタイルもいいし、胸も乳輪の形もいいし乳首の色だって薄ピンクだし、本当に嫉妬しちゃうぜ」

 云いながら律は掴んでいた澪の胸を寄せあげ、ふるると揺れる乳首にかぶりつくようにして吸い付いていた。

「あ、あ、あ……」

 辺りは寒いのに体の芯から熱くなっていく。ふさ、ふさ、と胸を優しく揉まれながら乳首を舌で転がされ、吸われる。澪は自分の中に知らない感覚が込み上げてくるのをただ見過ごすことしかできなかった。

「澪。感じてる? ……あ、わかったぞ」

 答えない澪を見て、ははーんと律は悪戯っぽく笑う。そして手早く澪の下半身へと手を這わし、パジャマのズボンを一気に足下まで脱がしてしまった。

「え……!?」

 あまりの早業に澪は何が起こったのか理解することすらできなかった。自分が全裸にされてしまったことにすら気付かない。

 そしてぐい、と両足を左右に開かされる。下着すら一気に脱がされてしまった上にそこまで……我に帰った澪は恥ずかしさのあまり両手で顔を覆う。

「思った通りぐしょぐしょだ。胸責めだけでいっちゃったんだなー」

「見、るなぁ……。う、う……」

 意地悪な律は澪の言葉を無視し、まじまじと見つめている。それどころか今度は顔を埋め舌を這わせ始めた。薄い毛をかき分けて、露わになった割れ目の中へと。しっとりと湿っているのは密かに澪がいってしまったからに他ならない。

「なっ!? ど、どこ舐めて……ああっ!」

「舐めるだけじゃないぞ」

「ああああああっ!」

 舌と指が自分の体の中へと入ってくる。澪は小さなクリトリスを摘まれ、舐められる。恥ずかしいのに溢れ出る蜜が止まらない……。

「ふっふっふー。いいのか。ここがいいのか。れろれろ」

「やっあっ! も、もう……だめ! あ、あ、あ、あ!」

「澪は感じやすいんだなあ。私もうれしいぜ」

「あ、ああっ! あっ! あ、あ……あ……んっ! だ……め……。あ、あ、あーーーっ!」

 澪はひくひくと痙攣し、そうして絶頂を迎えさせられてしまう。あふれ出た蜜が股に幾筋もの線を描き、たれていく。

 その後、裸同士の二人はいっぱい抱き合ったりキスをしあったり、互いの恥ずかしいところを触ったりなめ合ったり指でいじくったり、そのうち疲れたら寄り添いながら暖かくも心地よい眠りに落ちていくのだろう。

 誰も知らない物語を見終え、ムギは幸せそうににっこりと微笑んだ。そうしてやがてうっすらとした眠気が込み上げてくる。これはもういい夢でも見られそうな位に気持ちいい睡魔。澪ちゃんも律ちゃんも、良い夢を見ているといいなと思いながらムギは眠りに身を任せていった。





…………





「――いやー。昨夜は寒くてなかなか眠れなかったよ。布団の中も寒くて」

 軽音部の部室にて放課後のティータイム。澪が云うと律が答える。白い歯を見せからかうようにニカッとした笑顔。

「じゃあ私が暖めてやろうか?」

「お断りだ!」

「どんな想像をしたのかな? 云ってごらんみーおちゃん」

「何も想像してない! してないからな!」

 顔を真っ赤にして恥じらう澪。そんなやり取りを見ていて一番嬉しそうなのはほかならぬムギその人。

「でも、本当に入りたての布団って寒くてたまりませんよね」

 蚊帳の外に置かれていた梓が云うと、ひたすらケーキやらクッキーやらのお菓子を食べたりおいしい紅茶を飲みまくっていた唯がようやく口を開く。

「私は大丈夫だよ?」

「どうしてです?」

 唯はにっこりと笑いながら云う。

「いつも憂が暖めてくれるから」

「先輩……。冗談、ですよね?」

 梓が引きつったような顔で云う。憂はシスコン妹故に、本気で云ってるんじゃないかと疑ったのだった。しかし、ムギはこの時一人強烈な衝撃を受けていたのだが、誰もそれに気付くことはなかった。





そしてまた、猛烈な勢いで生成されたムギの脳内妄想が始まる!





「う〜い〜さ〜む〜い〜」

 それは就寝前のこと。唯は憂の部屋をノックし、とてつもなくだらし無く云う。

「お姉ちゃん。いいよ、入って」

 部屋の主がそう云い、唯はドアを開ける。中は暗く、豆電球だけが付いている。そしておもむろに憂が入っている布団の中へともぐりこむ。そこは既に憂の体の温もりで満たされていた。事前に打ち合わせをしてから十数分程が経過し、そろそろ頃合いだと見計らったのだろう。

「憂暖かい〜」

「お、お姉ちゃんの体、冷えきってるね〜」

 覚悟してはいたけれど、冷たさに憂は苦笑い。まさに人間カイロ。憂は唯の体をぎゅむ、と抱き締め、必死に暖めようと試みる。常に姉のことを第一に考える優しい妹なのだった。

「憂ありがと。好き〜」

「わっ。お、お姉ちゃん〜」

 唯は嬉しそうにお礼を云いつつ、憂の唇にキスをしていた。寒いから暖めてと云う我が儘に対するお礼は、憂にとってもこの上なく嬉しいご褒美。

「私も……。お姉ちゃん、好き」

 憂も恥じらいながら唯とキスをする。

「憂の体、触ってもいい?」

 唯が云う。憂の答えは決まっている。

「うん。触って」

 ……唯の手がもぞもぞと憂のパジャマの中へと侵入していく。唯のまだ冷たくかじかんだ両手が憂のお腹から胸へと触れると、憂はくすぐったそうに身をよじらせる。

「あ……。お姉ちゃん」

 同時に唯は憂のお尻も触り始めた。寒いのはほんの一瞬。すぐに互いの温もりで暑くすら感じることになるだろう。

「ん。だめ……」

 憂が小さく喘ぐ。子供のような唯が体のあちこちを触り始めたのだから……。





ムギは唯の手をがっしりと握り、云う。





「ほえ?」

「そ、そのお話! もっと聞かせてくれませんか!」

 いいわそれ! 最高に! と思うムギはもう、鼻血でも出しそうな位に興奮していた。

 ああ、この短い時間の間で多分そのような妄想をしていたんだな、と常識人な梓は色々と悟り、笑顔を引きつらせるのだったとさ。










----------後書き----------

 朝を迎えるまで、毛布のセッティングなどは結構重要だと思う次第。

 寒い季節。風邪を引かないようにご用心ご用心。



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