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monochrome










 大粒の滴が天より落ちてくる。夕方頃から降り出した雨は徐々に勢いを増し、翌日の朝までそのままの状態が続くであろうとの予報。全国各地の人々に対し、あらゆるメディアを通じて知らされていた情報のはずだった。

 そこは車一台が辛うじて入れるような狭く行き詰まった路地裏。それに加えてこれ以上逃れようの無い袋小路のような所でもあった。不景気の打撃を受けて既に閉店したのか倒産したのかはたまた廃業したのか、事情は憶測で判断するしかないわけだが、随分と長い間シャッターが降りているのは確かであろう。個人商店、あるいはもしかすると単なる倉庫か何かだったのかもしれないけれど、よくはわからなかった。ただ、くすんだ色のシャッターが云いようのない寂しさを引き立てていた。そんな軒下で雨宿りをする二人がいた。

「あーあ」

 杏はため息を付きながらぼやいた。その隣には朋也。

 一寸先も見えないような大雨。それに加えて日没による闇が深みを増していく。辺りには人影はおろか猫の子一匹の気配すら無い。その部分の空間だけ世界から隔絶されたような、切り取られたような感じがした。ざあああ、と流れ落ちる音が全てをかき消して行くなら尚更。

「どうして傘忘れちゃったんだろ。あたしの馬鹿」

 二人はデートの帰りだった。予報すら見てこなかった物臭野郎の朋也は全くの論外なのでさておき、自分の迂闊さを呪う杏。小さな折り畳み傘の一本でもバッグに入れておくんだったと後悔。出かけるときについうっかり忘れていたと云うよりも、入ってるものだと思い込んでしまっていたのだった。

「やまないわよ。この雨」

「そうだな」

 どこか他人事のように朋也は云う。風も徐々に吹きはじめ、嵐のような様相を呈してきた。軒下も完全に無事であるとは云えず、細かい滴が霧吹きで吹きかけたかのように飛んでくる。

「あ……」

 朋也は並んで立っている杏の肩を掴み、引き寄せる。そうしてシャッターに背を付ける。杏があんまり濡れないようにとの配慮だったのだが、それはそれでとても嬉しいことなのだけど、だったら傘くらいちゃんと持ってきてよと心の中で杏はぼやいた。でも、自分も同罪なので表立っては云えない。

「どーすんのよ」

 朝までここでこうして突っ立ってるつもり? と、うんざりしたように目をじとーっと細める。

「どーにもできないな」

 分かり切った答え。絶海の孤島に漂着したような気分。杏は再度ため息を付いた。やはりずぶ濡れになって帰るしかないか。肌にまとわりつく衣服の感触を想像して嫌だなぁ、風邪引かなければいいけど、と絶望的な気分になってしまう。

 デート自体はとても楽しかった。好きな人と一緒に一日を過ごしてきたのだから当然の事。でも、最後にちょっとケチが付いちゃったなぁ、と云ったところ。話すこともすることもないので、杏は朋也の腕にしがみつく。気晴らしのような八つ当たりのような密着モード。

「はぁ」

「ため息つくなよ。幸せが逃げて行くぞ」

「もう既にないような気がするわよ」

「そんなことないだろ」

「どうしてそう云い切れるのよ」

 他愛のない会話の合間。朋也は言葉での答え代わりに軽くキスをした。唇同士がほんの数秒間触れ合うだけのキス。

「……ずるい」

 杏の瞳はそれは反則と云いたげだった。それをされてしまったら絶対に反論できないから。

「嫌か?」

「なわけないでしょ」

 ただ、と杏は云った。

「一回じゃ足りない。もっと」

 一回でも十分なくらいに嬉しくて、頬を緩ませたいくらいに幸せな気持ちになれたけれど、もっとして欲しくもあった。

「誰かに見られるぞ」

「どこのどんな物好きが来るって云うのよ。こんなとこに」

 それもそうか、と朋也は思った。

「あふ」

 今度はディープなキス。意表をつかれて慌てて目を閉じた杏は、ちょっと色っぽい声を出してしまう。

 そうこうしていくうちにいつの間にか二人は抱きしめ合っていた。二、三、四、と頭の中でタイマーが発動してカウント中。お互いにまだ離したくない。無言のカウントが八か九くらいになる辺りで呼吸に苦しさを感じたので離れた。けれどまた呼吸を整えてからもう一度キスをして、今度は五秒くらいのカウントで離した。

「ふ、ぅ」

 杏の顔は火照っていた。頬を赤らめ、切なげな表情。

「な、何……た……ってんの、よ。その……そこ……」

 ごにょごにょと消え入りそうな声は雨音に遮られ、よく聞こえない。

「何だって?」

 抱きしめ合った拍子にわかってしまった事実。

「そ、そこ」

 杏は朋也の股間を指さして、ああ、と朋也は云った。

「っ!」

 朋也は杏の手首を握り、手の平で触らせた。朋也のはちきれんばかりに膨らんだそこはズボンの上からでも鼓動が伝わってきた。朋也は杏に触らせつつ、手早くチャックを降ろした。そうして……。

「握って」

「う……」

 驚く暇もない。びくんと震えるように杏は手をこわばらせ、握る。杏の手は小さくて柔らかくて華奢で、普段の強気が嘘のようにか弱く見えた。緊張でどこか小刻みに震えている。

 そしてそのまま上下にしごいてもらう。

「う、わ。こ……んな外で。朋也ぁ」

「誰も見ちゃいないだろう」

 抗議する杏を軽くあしらう。ゆっくりとしごかせながら、朋也は何気無い動作で杏のスカートの中に手を入れる。制服と同じように短めなものだったので、簡単に忍び込めた。

「ちょっ。何どさくさに紛れて触ってんのよ!」

「ギブアンドテイクだろ」

 そうして薄い布地のショーツの中に潜り込むと、少しざらつきつつも柔らかな感触。陰毛を撫でるように捜し当てる。杏の恥ずかしい所。

「水色か。好きな色なんだな」

「う……」

 割れ目をあっさりと捜し当てられて、杏は恥ずかしさのあまりにかぶりを振る。その間も握ったものを上下にしごくのを忘れない。そうして欲しいと朋也が求めているのだから。杏はとても従順だった。

「前に春原に見られたやつ?」

 図星だった。と云うよりも、どうしてそういうことを覚えているのと思い、かーっと顔が熱くなっていく。

「お、ぼえてないでよ。そんなこと」

「ハイキックなんかするから見られるんだ」

「あ……」

 やがて朋也の指が侵入してきた。僅かな湿りを感じる。それは汗でもなく雨による湿気でもなく……。

「濡れてるな」

「云わないで」

 同類だった。朋也の股間のことを指摘する権利などなかった。恥ずかしさのあまり目尻に涙を溜める杏。じゃあ、と朋也は云ってからキスをした。





…………





「あっ! あっ!」

 ず、ず、とねじ込んでは引き抜いていく感触。

 二人は今立ったまま抱きしめ合いながら一つになっていた。互いに小刻みな動きを合わせる。

「こ、んな……あっ。とこ……で、なんて……んっ」

「着たままだから大丈夫」

 何度となく繰り返す詭弁のような台詞。杏のショーツを僅かにずらして、柔らかくほぐれた割れ目に挿入していた。

「く……。締まる」

「あ、あ……。あたしも……あっ。なんだか」

 くちゅ、くちゅ、と音を立て舌と舌を絡め合わせるキス。互いの温もりを存分に感じ続ける。

 朋也は思う。自分の体に当たる杏の豊かな胸の感触も、支えるために掴んでいるお尻の膨らみも、共に柔らかくて可愛いな、と。

「は、ぁ……。気持ちいいよぉ。あぅっ……あんっ」

 交わり続ける音も、甘ったるい声も、嵐の轟音に全てかき消されていった。

「ん、ん。好き。好きぃ。朋也ぁ」

 朋也にしがみつきながら、うわ言のように好きと呟く杏。

「は……ぁ……あっ! ううんっ!」

 熱い吐息を塞ぐように、ディープキス。

 辺りは暗くて全てが死に絶えたような凄惨な雰囲気。二人以外の全てがモノクロ映像のように白と黒の二色に染まる。そんな中、唯一の生を得たような二人の交わりは、いつ果てる事なく続いていく。











----------後書き----------

 杏のあまあま話。……の、つもり。ナゼか結局えっちな展開になってしまうのは私の悪い癖でしょうか。

 杏はシナリオ上、椋との関係があるのであんまり甘ったるい話は書きやすくないなと思ってきました。

 でもまあ、椋とも完全に理解し合えてると思えば大丈夫なのかなとも思います。




よろしければご意見ご感想をくださいな。








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