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桜色のエピソード
-月嶋花子編-















 恋人といちゃいちゃできる機会がとても少ない。そのことを彼女は常々不満に思っていた。色々な事情はあるにせよ、仕方がない事だとは意地でも思いたくない。

「ったく! いつ、どこですればいいのよ!」

 もどかしさがつのり、遂に不満が爆発してしまった。花子が抱えている悩みはシンプルだけど、深かった。

「だからって、俺がお前の部屋に堂々と入り込んでもいいのか? 女子寮の……」

「いいのよ、夕莉がいない時くらい。それくらい多目に見て欲しいわね」

 花子が言うには本日、双子の妹である夕莉は不在とのこと。女子寮にこっそり入り込んでいる(花子によって強引に入り込まされている)ことに後ろめたさを感じている悠真だったが、花子はお構いなしだった。悠真は気が気じゃなくて、誰かに見つからないようにと神経を尖らせてばかり。

「ま、そんなことはいいじゃない。それより、早くしようよ」

 花子は楽しそうにそう言って、悠真を二段ベッドの上段へと誘うのだった。

「ほらほら、早く上がって」

「ああ」

 花子は制服のままはしごを登っていく。ひらひらしたスカートの下に見える白いショーツもソックスも素足も、悠真には全てが眩しく見える。これから始める事が事だけに、下着が見えたところで花子はまるで気にしていない。

「悠真〜」

 待ちきれないとばかりに、梯子を登り終えようとした悠真の腕を握って強く引っ張り、抱きついてくる花子。

「ん〜。ふふふ〜。この感覚、久しぶり〜」

 温もりと感触を思う存分堪能する。長い間この時を待ち焦がれていたのだから、喜びもひとしお。

「花」

「うん? ……ん。んん」

 そんな花子を見ていて悠真も(表情にはまるで表れないけれど)嬉しくなって、さり気なくキスをしてみた。花子は軽く目を閉じて、受け止める。悠真は思い出す。最初はこんな関係ではなかった。名前を呼ぶのですら『花子って言うな!』とか『浅バカ!』とか、強烈に拒絶されるのが常だった。紆余曲折があったものの、それがいつしか親密な関係になり、妹の夕莉が呼ぶように『花と呼んで』と、お願いされるまでになった。花子の天の邪鬼な対応は今や昔のこと。

「ん……」

 暖かい抱擁と少し冷たい唇の感触。このまま時間が止まってしまえばいいのにと、二人揃って思う。

「あ……? 明かり消すの忘れてた」

 ここは二段ベッドの上。とても眩しいところでそんなことをしていたことに全く気付かなかった。途端に恥ずかしくなり、リモコンをいじって常夜灯にする花子。服を着たままということもあって、意識から漏れていたようだ。

「ったく。これじゃ、やりたい盛りの淫乱娘じゃないのよ。……まあ、実際そうかもしんないけど」

「俺も花子としたいって思っていたから、お互い様でいいじゃないか?」

「そう? じゃあ、そういうことで」

 悠真のフォローが嬉しい花子。何だかとてもリラックスできている。やっぱり悠真と二人の時間は特別だった。

「さあこれで準備は万全よ。いっぱい楽しもうね」

 花子の胸元を飾る青いリボンが揺れる。悠真がいつも見馴れている華やかな制服に身を包んだまま、花子は悠真の上に跨がってきた。だが……。

「待て」

「あによ? 犬じゃないんだから、お預けはないでしょうが」

 悠真の制止はとても野暮なものに見えた。

「そうじゃない。いきなりその、するのかって言いたいだけだ」

「へえ。悠真ったら、前戯とか段取りとか、そういうのを気にするタイプ?」

「そういう訳じゃないけど。いきなり入れたりしたら、痛かったりしないのか?」

「あ、なんだ。心配してくれてんの? 大丈夫大丈夫。こんなこともあろうかと、ローションべたべた塗っておいたから。たっぷりとねー」

 白い歯を見せてニカッと笑う花子。何と用意のいいことか。悠真は想像する。花子がこっそりと塗っている所を。可愛らしさがどんどん込み上げてくる。

「そういうことなら、いいぞ」

 ここまできたら、断る理由はない。

「はいはい〜。んじゃ、早速入れちゃおうかな」

 花子はスカートの下に手をやり、ショーツをぐい、とずらす。悠真は自分のものを取り出して、先端を入り口へと宛てがう。花子がはいているスカートの布地を片手で掴んで抑えながら。

「ん……。いくよ。んん……」

 ピタ、と一瞬止まってから、花子はゆっくりと腰を落としていく。強い抵抗を受けながらもずにゅりと埋没していく感触に、花子は少し体を強張らせる。

「んっ。相変わらず、大きくて太いんだから。あ……まだ入ってく。んんぅ。この……悠真のでかちん……。んくっ! はぅっ!」

 体を左右に押し広げられていく圧迫感に、花子は眉を歪ませる。けれど、苦痛ではない。悪態をつきながらも、このじりじりとした感覚がたまらなくいいのだ。

「あ、あぁぁ……ぁ、ぁ。入ってく入ってく。あぁぁ。今、お、奥に当たってるぅ……。あ、あぁ。深いぃぃ」

 それから数秒後。もうこれ以上入らなくなり、やっとのことで挿入が完全に終わる。

「ふうぅ。ぜ、全部入ったぁ。何だろこの達成感。山でも一つ登り終えたみたい」

「満足したのか?」

「ん……。まあね。でも、まだまだこれからだからね。いくわよぉ。んしょっんしょっ!」

 花子はそう言いつつ体を起こし、ゆっくりと上下にうごめき始める。

「はっ! ……あっ! くぅ……! んっ!」

 ちょっとだけ飛ばしすぎたかもしれない。時折歯を食いしばり、圧迫感に耐える。決して辛くはない。

「ふ……はっ……! くはあ、はぁぁ。んっ!」

 腰を浮かせ、ゆっくりと引き抜いてはまた落としていく。しんどいトレーニングでもしているかのような感覚。呼吸が粗く、口元がわなわなと震える。

「はぁ、はぁ。ん……。これ、いい……。はぁぁ。このまま、続けさせて。すごい、いい……」

 悠真は無言で頷く。痛かったり、辛かったりでなければそのまま続けてもらえばいい。

「あ、はぁん。いい、よぉ。……くぅぅっ。この、あたしの中に、あぁぁ……いっぱい入ってきてる感じが……。くぅっ!」

 癖になると言わんばかりに、花子は悩ましげな眼差しを悠真に向ける。決して室内が暑いわけではないけれど、体が火照って顔が汗ばんでいる。

「ねえ。……そこ、物足りなくない?」

「そんなことはない」

 花子の小ぶり……といっても、妹の夕莉に比べたら控えめなサイズの胸に、制服の上からもにゅもにゅと触れている悠真。妹の夕莉の胸は特別豊満だけど、花子のはそれ程ではなかった。悔しいけれど、自他共に認めている事実。

「それならいいけど。物好きね」

「大きければいいってもんじゃない」

「そういうもんかしらね。んっ」

 みし、みし、と二段ベッドの足がフローリングの床と擦れる音が響く。

「あ、ふ。は、あ。あ、ひ……っ! んぁっ! はひっ! あっ!」

「痛かったりしないのか?」

 花子は大丈夫とは言っていたけれど、悠真はつい不安になって聞いてしまう。

「ん。全然、へーき。むしろじわじわ気持ちよくなってきてる。んぁぁ。ほんとに、たまんねー。んくっ! 馴染んできてるみたい。相性抜群、かも。ずにゅずにゅ擦れる感覚が、いい……って。あ……。も、もういきそ。あぁぁっ!」

 まだそんなに激しくしてるわけじゃないのにと、悠真は不思議に思う。

「こんなにすぐ?」

「んー。時間とか、激しさとか、そういうのだけじゃないみたい。タイミングとか、位置とか……気持ちとか。あ……。くぅ……っ。あひっ!」

 はしたない声があまり漏れないようにと、口元に手の甲を当て、耐えている花子。その気持ちとは裏腹に、腰の動きは上下だけでなく前後にも拡大していた。

「腰使い、えろいな。声も」

「え、えろいってゆーな! 仕方ないじゃない。気持ちいいんだから。自然とこうなっちゃうのよ」

「そうなのか」

「そう! あ、あひっ! あ……っ。ごめん。もう、無理! もういかせて……! 我慢できな……っ! あ、あ、ああ、あ、あっ! んああああああああっ!」

 顔を仰け反らせながら長い髪を振り乱し、全身をびくびくっと震わせ、花子は絶頂を迎えた。あまりにもあっという間の出来事だった。

「はぁ、はぁ……。ご、めん。こんな……。あたしだけ先にいっちゃって……。こんなすぐに」

「全然構わないぞ。気持ちよくなってくれてよかった」

「ありが、と。……。ふぅ」

 花子はやがて脱力して、悠真の上に重なるようにしてうつ伏せになった。

「でも。あぁ……。もう少し、このまま……繋がっていたい。重いかも、だけど」

「ああ。気が済むまでいいぞ。全然重くないから気にするな」

 二人の顔が触れ合い、自然なキスをした。

「うぅぅん。悠真、優しい……」

 とろけるような笑顔で悠真に甘える花子。まるで猫が喉を鳴らしているかのよう。十秒、二十秒……それとも数分くらいだろうか。互いの吐息だけが聞こえている、静かな無言の時が続いた。

「ふぅ。休憩完了。……んじゃ。今度はあたしが気持ちよくしてあげる。ん……」

 花子はやがて立ち上がる。悠真の胸に手を当てて力を入れる。ずにゅ、と湿った感触とともに、奥まで入っていたものを引き抜いた。

「ふう。抜けたー。んーっ」

 ぐぐっと腕を伸ばしてから花子は言った。

「っと。その前に。服、脱いじゃうね。……何だか体が火照ってきたから。んなわけで、ちょっと待ってて。んしょ、んしょ」

 制服のリボンから始まり、上着、ブラウス、スカートにソックス……。諸々脱ぎ始めては、ベッドの上からぽいぽいと投げ捨てる。ショーツもブラジャーも遠慮なく。

「完了っと」

「早いな」

 ニカッと笑いながら、花子は悠真に向き合う。

「んじゃ、改めて。お口でしようかな」

 花子は言うが早いか、仰向けで横たわる悠真の上に顔を埋めていた。

「ん」

 ベッドの上段に再びすっぽりと収まる二人。しかし……。

「んぐっ! ……。ぷぁっ。うぅ……ぐぇっ。うぇっ! うぁぁ、の、喉に当たったぁ!」

 勢い良く咥え込みすぎたようだ。

「おい、大丈夫か?」

「んんぅ。だめ。ち、ちょっとむせそうかも。んぐぐっ! 変な味……」

 苦しそうに片目を閉じている花子。そして、悠真のものを自分の中から引き抜いておいて、ろくすっぽ拭いてもいなかったことにも今更気づいたのだった。

「んぐ……。けほっ。ん……ん……んぐ……。よし、もう大丈夫。それじゃ、改めていくわよ。気持ち良さのあまり昇天させたげるわ。あーん……!」

 気を取り直して再度、大口を開けて悠真の股間に顔を埋めようとする花子だったが、異変は突然訪れた。

「ふぅ」

 がちゃり、という音とともに極めてさり気なくドアが開き、夕莉が帰ってきたのだった。何故か浮かない表情で、疲れたようにため息をつきながら。

「ん……。んぇっ? 今の何? 夕莉? って、うひゃおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 一瞬何が起こったのかわからず、悠真のものを咥え込んだまま目を丸くして驚く花子と。

「あれ? 花、寝てるの?」

 当の夕莉は室内が薄暗くて、どうなっているのかよくわからないようだ。

「ねねね寝てるわよ! 寝てたわよ! って言うか、何で帰ってくるのよ! びっくりしたじゃない!」

「え? 泊まり無くなったって、メールしたんだけど? 何だか突然都合が悪くなったとかで、それで」

「……。見てなかったわ」

 悠真とすることに夢中で、メールどころかスマホの存在自体を完全に忘れていた花子。今更ながら、新着メッセージがあるのに気付いたのだった。

「そう。……あれ? 花。何で裸なの?」

「え? ……えっと。えーっと。その。ちょっと、寝苦しいなーって思って。ね、熱でもあるかもしれないわ。もしかしたら、だけど」

 ベッドの上で上半身を起こしている花子と、何故か床に散らばった制服や下着の類を見て、怪訝な表情を浮かべる夕莉に苦しそうな言い訳をする花子。けれど、真面目な夕莉は花子の話をちゃんと聞いてくれる。

「そ、それにその。何だか疲れちゃって……。それで、その。早く寝ることにしたのよ」

「そうだったの。風邪でもひいちゃった? 起こしちゃってごめんね」

 一連のやりとりを聞いていて、悠真は思う。非常にまずい状況だと。これはどうにかしてやり過ごさなければいけないなと。呼吸の音まで気をつける必要がありそうだ。幸い、毛布を体にかぶせておいたので、夕莉に見つかることはなかった。

「あ、あははは。気にすること無いわよ。で、でもでも。裸は流石に無かったわね。さっさと着替えることにするわ」

「そう」

 花子は冷静さを取り戻したようだ。そして、ベッドから降りる前に、横たわる悠真に。

『……絶対に気付かれないで。物音立てないで』

 と、耳元でささやく。悠真は僅かに頷き、了解したと応える。……念には念を入れて、靴を隠しておいてよかったと、悠真は心底思うのだった。当の花子自身は『心配いらないわよ』とか言っていたけれど、万が一の事態が起きてしまった今となっては、自分の判断が正解だったと思える。










悠真にとって、様々な意味で長い夜が始まった。










「花、大丈夫?」

「心配性ね。だーいじょうぶよ。ほら、もう平熱だし。ちょっと寝てすぐ下がったみたいでよかったよかった」

「それならいいけど」

 こういうときはもう仕方がない。嘘も方便。体温計を見せつけて、問題ないことをアピールするパジャマ姿の花子。

「にしても、何でいきなりドタキャンなのよ。ったく」

「仕方ないわよ。お仕事忙しいみたいだから」

 いい加減だと両親に毒づく花子と、優しく微笑を見せる夕莉。

「花は、浅葉くんとデートできたの?」

「え? あ、うん。したわよ」

「そっか。楽しかった?」

「うん。まあ。……はしゃぎ過ぎちゃって、それで熱っぽくなっちゃったのかもしれないわねー」

 姉妹の何気ない会話を、硬直しながら聞いている悠真。

(花……。適当にテレビとかラジオでもつけてくれると、助かるんだが)

 夕莉が寝付くまでこのままでいなければいけないとなると、なかなかしんどい。悠真がそんなことを思っていると……。

「あーそーだ。ねえ夕莉、コーヒー牛乳でも飲まない? とっておきのがあるんだけど」

「そう? じゃあ、もらおうかな。喉乾いちゃったから」

「そりゃ丁度よかった。んでも、ちょっと大人なビターテイストなんだけど。それでもいい?」

「いいわよ」

 素直に姉の厚意に甘える夕莉。何やら物音が聞こえてる。かちゃかちゃ、とくとく、と、そんな音。花子が用意しているのだろう。

「はい、お待ちー」

「ありがと」

 しばらく会話が途切れる。一分か二分か……それくらいの沈黙。

「へえ。本当に喉渇いてたんだ」

 花子の反応から察するに、夕莉は一気に飲み干したようだ。

「うん。……ん。けほっ。本当に、ちょっと大人の味ね」

「だから言ったじゃない」

「そうね。んんっ」

 少し苦しそうにむせる夕莉。その様子に何か違和感を覚える悠真。それからまたも会話が途切れる。今度は更に長く、五分……十分と、それくらい。

「あれ? 夕莉ったら、眠たくなってきた?」

「ん……。そう、かも」

 一体何が起きているのだろう?

「仕方ないなあ。じゃあ、ベッドまで運んであげる」

「うん……。ん……」

「よっと」

 ごそごそと音が聞こえる。同時に、ベッドが僅かに揺れる。夕莉が下の段に運ばれてきたようだ。そして、花子の声が聞こえたような気がした。悠真が恐る恐る身を起こし、下段を覗き込むと。

「悠真、お疲れ様。もう動いてもいいわよ」

「何をやったんだ?」

 悠真の視線の先には制服姿のまま、すやすやと眠りについている夕莉の姿。

「ちょっと、夕莉には眠ってもらおうかなって思って」

「睡眠導入剤でも飲ませたとか?」

「そんなことしないわよ。ただ、飲んでもらっただけ。……ちょっとだけ、度数の高いカルーアミルクをね」

「……」

 何て事を、と悠真は思った。つまりは酒の力で強引に酔いつぶらせてしまったのだった。

「この娘、お酒弱いから。前にも同じような事があったのを思い出してね。悪いとは思ったけど、ちょっと眠ってもらうことにしたわ」

「そ、そうか」

 花子はこういう事まで見越して、そんなものを常備していたのかと思ったけれど、ただの偶然かもしれない。悠真には真実はわからない。

「何でそんなもの持っているんだ?」

「知り合いからの貰い物。ったく、人の年齢も気にしないで強引に渡してくるんだから。まあ、それだけあたしが大人びていたってことなのかな?」

 そんなこともあるのだろうか。色んな人脈のある彼女だから、不思議ではない。中にはちょっとばかり好奇心が旺盛な奴もいるのかもしれない。

「ともかく。早く出て行かないといけないな」

 花子がとった手段の是非ははさておき、この機会を逃すわけにはいかない。悠真がそう言うと花子は……。

「……」

「花?」

「帰っちゃうの?」

 一瞬無言になった後に、思いもよらない反応。花子自身、自分が一体何を言っているのかわからなかったようで『あ……』と、一瞬呆気にとられていた。

「だめなのか?」

 悠真の一言は、心の底を見透かされたように花子には思えた。だめに決まっている。けれど、言えなかった。

「……だめじゃないけどさ。本当に帰っちゃうんだーって。思っただけ」

 不満ではないけれど、何か物足りない。花子はそう思いたかったけれど、それはできなかった。寂しい、と心の底から思った。

「そりゃ、できれば俺も一緒にいたいけど。そういうわけにもいかないだろ?」

「そりゃ、そうよね。うん」

 この状況では絶対に無理なのはわかってはいるけれど諦めきれない。例えるなら、楽しみな遠足の前日から、やみそうにない長雨が降り続いているような、そんな絶望に満ちた気持ちだろうか。

「……」

 ずっと楽しみにしていた悠真との時間。予期せぬ形で中止となって、残念で仕方がない。そんな様子の花子を見て、悠真は……。

「じゃあ、続きをするか」

「……え?」

「簡単には起きないんだろう?」

 すやすやと眠り続ける夕莉をちらりと見る悠真。

「そ、そりゃ。そうだけど。……正気?」

「ああ。続き、したくないのか?」

「し、したいわよ。でも……夕莉の前でだなんて」

「気付かれなければ問題ない」

「でも……」

「続きをしたいって、花も思ったろ?」

「っ!」

 全くその通り。こんな状況でも構わない。続きをしたいと思ったのは、他でもない自分。正直に答えるしかなかった。

「……うん。思った。思っちゃった。夕莉の前でも構わないって」

 花子は、高鳴る鼓動が悠真にも聞こえているかのように思った。

「じゃあ、しよう。ばれないように」

「う、うん」

 嬉しい。けれど、本当にいけない事をするのだとわかる。

(夕莉……ごめん。あたし、したい……)

 心の中で謝る花子。それはどこまでも欺瞞に満ちた謝罪だった。










夕莉が眠るすぐ横での出来事。










「ん……」

 直立する悠真と、床にひざまずきながら股間に顔を埋めている花子。中断してしまった卑猥な行為の続き。

「んぅっ」

 小さな口を目一杯あけて、悠真のものをたっぷりと頬張る。当然、気になるのでちらりちらりと横目で夕莉を見ながらしている。

「んぷっ! んんんっ!」

「気になるか?」

「なるわよ……。そりゃ」

「じゃあやめるか?」

 それは、嫌だ。花子ははっきりとそう思った。

「やめたくない。……口でするだけなら、そんなに音たたないし。んん……んぅ」

 大丈夫、と自分に言い聞かせながら続きをする。亀頭に舌を絡ませ、唇で包み込み、時折喉の方まで深々と咥え込む。

「んんっ! んくっ!」

 しゃぶる度に唾液が増していき、じゅぷ、じゅぷ、と湿り気を帯びていく。

「苦しくないか?」

「んぇっ。ちょっと、苦しい」

「それでも、喉の方まで咥えるんだな」

「だって。んんっ。それくらいしないと物足りないじゃない」

 時折涎をこぼしながら、必死に飲み干すように口を使い続ける。舌で唇を濡らし、すべりをよくしようとする。口からはみ出てしまいそうなものと、必死に格闘しているかのようだった。

「本当に、最低の変態よね。こんな状況で、あたしは……男の……口で咥えてるんだもの」

 自己嫌悪の感情が込み上げて来るけれど、それ以上に体が疼いて止められない。

「気にすることはない。俺も同類だ」

 そんな一言でまたフォローしてくれる。花子はひたすら悠真の優しさに甘えてしまう。

「んぐぐ」

 悠真がゆっくりと腰を前後に動かし始めた。花子は上気した表情で、ただ受け入れる。

「普通にするだけでも堪らないのに、すごくスリルを感じてるんだ。月嶋には悪いと思っているけど」

(そう、なんだ。まあ、あたしもだけど)

「もし月嶋が今起きて俺達の様子を見たら、なんて言うかな?」

(激怒するわね。間違いなく)

 その様が頭に浮かぶ。じゅぷじゅぷじゅぷとリズムよく湿りを帯びた音が響く。口が性器になったかのように、花子には思える。ちゅくちゅくと音を立て、テンポよく体を擦れ合わせる二人。花子の髪を彩る水玉模様のリボンも揺れている。

(あ……。何だか、いい感じ。お○んちん、おいしいかも。ちょっと生臭いけど)

「月嶋……。その、風紀破ってごめんな」

 悠真がそんなことを夕莉に向かって呟いていた。

(さすがにこれは破りすぎよね)

 じゅるり、と舌先で亀頭をなめ回す。手は根本に添えたまま。撫でるように、揉むように転がす。じょりじょりとした陰毛の感触が、花子の手の平をなぞる。花子の唾液と悠真の先走り液によって、手の平はぬるぬるになっていく。

「んぐ、んぐ、ん、ん、ん、ん、ん」

 ペースを掴み、一心不乱にしゃぶり続ける花子。そして悠真は唐突に告白する。

「そろそろ、いきそうだ」

「ほふ? ん……んん。らして、いいわよ。んぐ。んぇっ。飲んじゃう、から。んんんっ」

 それから数十秒間の交わりが続き、やがてどぷり、どぷりと花子の口内に精液が注入されていった。熱いものでたっぷりと満たされていく。水の中にいるわけでもないのに、溺れてしまいそうな感覚。花子は強引に、ごくり、ごくり、と喉を鳴らしながら飲み干してみせるのだった。










…………










 本当にしちゃうんだ、と花子は思った。望んだのは他でもない、自分自身なのに。いざしてみる時になったらまるで実感がわかなかった。パジャマは全て脱がされて、全裸という姿。

「入れるぞ」

「ん……」

 二段ベッドの上段部分に手を付いている花子の後ろから悠真が迫る。狭い入り口を探し当て、力を込めて押し込み、入っていくのが花子にもわかる。

(夕莉……。本当に、ごめん)

 眼下には何も知らずにすやすやと寝息をたてている妹の姿。そんな状況で男と交わるというあまりにも不埒な事をしている。罪悪感が一気にこみ上げてくる。

(気持ちがいいのよ。それで、我慢できなくて……。しちゃった)

 悠真は少しずつ前後に動きはじめていく。気持ちがいいだけじゃない。心が満たされていく感覚がたまらない。

「んっ。あっ」

 堪えようとしていたのに無駄だった。か細くも切なげな喘ぎが漏れてしまう。

「あっ。深、いっ!」

「花。あんまり声出すなよ」

「だって。我慢、できないのよ。……うぁっ。奥に。奥にごつごつ当たってるぅ。うぐっ!」

 二人が交わる速度は段々と速くなっていき、ギシギシとベッドをきしませていく。当然、夕莉の体もそれに併せて揺れる。

「あっあっ。くぅっ。あっはっ、あっあっ。やだぁっ。夕莉の側で、こんな……っ。はっぁっ!」

 嘘だ。余計に興奮してきている。自分の体が悠真のものをみっちりと締め付けているのがわかってしまう。いつもよりも強く、きゅうきゅうと。

「花。締め付けすごい」

 その事実を悠真にも指摘される。誤魔化しようのない事実。

「あっ。くぁっ。本当に、どうしようもない変態ね。あたし……。んひっ!」

「俺も同じだから寂しくないだろう?」

 フォローが上手いんだから、と花子は思う。交わりながらもぐにぐにと、花子のふっくらした尻を両手で掴んで揉み回している悠真。

「はぅっ! あっあっ! そう言われたら……やめられないじゃない。もう。あっ! んぁっ!」

 ぎしぎしという音と共に、ぱちんぱちんと交わる音が響く。セックスをしている音だ、と花子は思う。

「うぅ……。気持ち、いい。だめぇ……」

 夕莉が今にも目をさますんじゃないかと戦々恐々。それでも容赦なく交わりは続く。強く、弱く、小刻みに、早く。緩急をつけた動きに花子は翻弄される。

「うんっ。あっ……上手すぎ……。こんな、こんな……。あっあっ! 気持ちいいよぉぉ!」

 悠真のものが完全に馴染んできたのか、ちょぐちょぐ、と湿りを帯びた音も聞こえてくる。

「あっぁっ! い、いやらしい音……っ! たてないでっ! うああっ!」

「賑やかだな。花の股間が濡れ濡れだから音が立つんだ」

「そんなことっ! あんっ!」

 ギシギシ、ぱんぱん、ちょぐちょぐ、と、色んな音が混じり合っていく。交わりの速度は段々と早まっていき、夕莉に比べれば小ぶりな花子の胸も、ぷるぷると小刻みに揺れる。

「あ、んっ!」

 悠真は背後から手を回し、揺れている胸をむんずと掴み、こね回した。乳首もつまみ、折り曲げる。ぴりりと電流が走るかのような感覚。

「あひっ! あっ! あひぃっ! も、もう、だめ! あああああっ! 胸も……そんなことされたら……あたしっ! い、い……く……ぅっ! くぁぁぁっ!」

 花子はまたも絶頂を迎えさせられた。妹の、夕莉の目の前で。その瞬間、悠真も絶頂を迎えたのか、どぷりどぷりと熱いものが体内に注ぎ込まれていくのが花子にははっきりとわかる。

「あーーーーーーーーーーっ! で、出てる……。奥までいっぱい……。ああっ……あぁぁ……。気持ち……良かったぁ……。はぁぁ……。あぁぁ……。ゆ、夕莉の前で……中に、出されてるぅ……」

 ベッドの支柱にしがみつきながら、ずるずると脱力していく花子。激しい交わりの余韻に浸ろうとしたら。

「ちょっと悠真」

「何だ?」

「いつまで入れてるのよ。いい加減抜きなさいよ」

「まだ抜くつもりはないんだが」

「はぁ? 何それ? って……あっ! う、動くなぁっ! あっあっあっ! ちょっと! 何また抜かずに始めてんのよっ! この絶倫!」

「大きな声出すと月嶋が目を覚ますぞ?」

「あっ! ……うぅ」

 そうだった。目の前に妹がいるのを一瞬忘れていた。そんな風に思っているのに、悠真は意地悪だった。

「あっあっあっあっあっあっあっ! だ、だ、だめぇっ! ちょっと! そんなっ! あああああああああっ!」

 射精されたばかりのものが内部でたっぷりとかき混ぜられ、溢れ出てくる。フローリングの床にぽたぽたと垂れては落ちていく。ばちん、ばちん、と拷問でもされているかのような強烈な突き込みに、花子は顔を仰け反らせながら喘いだ。

「くああっ! あ、あぁぁぁ……っ! だめぇぇぇっ! 激し、すぎっ! またっ! あぁぁぁぁっ! こ、こんなにすぐっ! いやあっ!」

 一瞬意識が遠のきかける。視界が真っ白になったかのように思えた瞬間、花子は三度絶頂を迎えさせられてしまった。










…………










 ここまでしておいて、今更恥ずかしがることはないだろうと、悠真だけでなく花子までもがそう思った。けれど、いざ始めてみることになったら怖じ気付いてしまう。

「くぅっ! こ、こんな!」

 あまりにも信じがたき行為。心の底から変態だと思う。

「もっとしたいって言ったのは花だろう?」

「そ、そうね。……確かにあたしが言ったわ」

 しかも、ねだるように。

「だったらもう、迷うこともないだろう?」

「あんたが正しい。わかってる」

 じゃあ、続きをしよう。そんな空気になったので、花子は息を大きく吸い込んでから、言い放った。迷いを振り払うかのように。

「……お○んこ気持ちいい」

 夕莉が眠り続けているベッドにて、花子は仰向けに寝かされたまま、悠真と交わっていた。

「んっんっ。あぁっ。また、奥にぃ。奥に当たるぅ。んぁっ! ひっ!」

 花子の右側には夕莉の顔。僅かな呼吸までわかるくらいの距離。

「セックス、気持ちいい。悠真の太くて長いので、あたしの子宮をこつんこつんされると……。あっ!」

 そして左側……ベッドの脇にはカメラ。三脚で固定されたデジカメ。スレイプニールという名前までつけた、花子が愛用しているカメラ。もちろん、動画撮影モード。そんな事までしてみたいと、花子は言いだしてしまった。恥辱の記録が撮られていくけれど、止めたくない。後で一緒に観ようねと言ったのは花子自身。

「はぁ、はぁ。……だ、だめ。恥ずかしすぎて……あっあっ! なによ、この……AVの撮影じゃあるまいに。んんっ!」

「もっと恥ずかしい事がしたいって言ったのは、花だろう?」

「そうだけど。想像以上に……んっ! すごくて……あひっ!」

 それだけ興奮する。とは花子は言わなかった。

「もっと、夕莉に話しかけろよ」

 耳元でささやくことを、花子は続けていた。

「んぁぁっ! あっあっあっ! そこ、いいっ! いいよぉっ! 夕莉、ごめん! 気持ちいいのっ! おち○こをお○んこにずぼずぼされて、かき混ぜられるの! 堪らない!」

 ぎしぎしとベッドが揺れる。倒れてしまいそうなくらいに強く。

「もっと言って」

「う、んっ! いくっ! いくいくいくいくいくぅっ! お○んこいいっ! お○んこ気持ちいいっ! お○んこ熱いいぃぃっ! 中に出してぇぇぇっ!」

 強制的に言わされているわけじゃない。自分で率先して口走っている。後でみたら卒倒しそうなくらい恥ずかしい言葉を惜しげもなく口に出している。もし夕莉が今この瞬間、卑猥な夢を見ていたとしたら、きっと自分のせいだ。夕莉は少しうなされているような、そんな仕草をみせているのは気のせいだろうか。

「悠真のおち○ちん大好きぃ! えっち大好き! ファック大好き! 交尾大好き! す、ごい。あ、あ、あ、あっ! い、くぅぅ! また……ずこずこされて、いっちゃうぅぅぅ!」

 夕莉も一緒に揺れる中、花子はまたも絶頂を迎えた。けれど……。

「のわっ!」

 悠真は花子の体をひっくり返す。中から引き抜かないまま。

「ち、ちょっと! これはほんとにダメ! ダメだってば! やばすぎるでしょっ!?」

 大慌ての花子。それもそのはず。夕莉の横に寄り添うだけならまだしも、上に覆いかぶさってしまったのだから。

「あっ! あっあっあっあっあっあっ! あ、あたしもうだめっ! おかしくなっちゃう! バカみたいに感じちゃってるぅっ! はぁんっ! ああんっ! ゆ、夕莉の上でバコバコされて……イきまくってるぅっ!」

 そしてそのまま、悠真の強烈な付き込みが始まった。翻弄されるように、全身をびくびくと痙攣させる花子。堪らずに何かを掴もうとして、夕莉のふくよかな胸の膨らみを揉み回してしまった。

「ゆ、夕莉が起きちゃう! ああああああああっ! ま、またいくううううっ! こんなっ! こんなのだめっ! 意識飛んじゃう! い、いくいくいっくうううううっ!」

 花子は夕莉を抱きしめながら、またも達した。幸いなことに、夕莉が目覚めることはなかった。子宮目掛けて大量の射精が続いていくのがよくわかった。

「あぁぁ。あぁ……。で、出てるぅ。あたしの中に……悠真のせーえき、いっぱい出てるぅ……。お○んぽミルク……どばどば出されてるぅ……」

 ごぽり、と、はっきり聞こえたような気がする。悠真のものが引き抜かれた感触と共に、花子の秘部から白濁した液がとろりと糸を引くように流れて落ちた。夕莉の太股へと。










…………










「ん……」

 休日の落ちついた朝。夕莉は目覚めた。その側にはコーヒカップを片手に持っている花子。

「おはよう。ずいぶんよく寝てたわね」

「あ、あれ。……。わたし、制服のまま寝ちゃったの?」

 生真面目な夕莉は恥ずかしそう。

「そうよ。よっぽど疲れてたのね。顔でも洗ってきたら?」

 ニカッと笑いながら、花子は更に言った。

「ひょっとして、エッチな夢でも見ちゃった?」

「っ! ……か、顔洗ってくる」

 図星のようで、慌ててベッドを出ていく夕莉だった。

(夕莉、ごめんね。それは全部あたしの仕業だったりするんだな)

 夕莉に背を向け、ぺろりと舌を出す花子だった。

「ふぁぁ。ねむいわ」

 コーヒーを飲んだくらいじゃ、この眠気はおさまりそうにない。何せ、昨夜はとってもお楽しみだったのだから。

(悠真も同じかな?)

 夜があける前に、こっそりと女子寮を出ていった悠真の姿を思い浮かべる花子だった。

(それにしても)

 印象的なやり取りを思い出す。悠真との交わりも最後の方。散々攻められ愛撫され、息も絶え絶えな花子は言った。眼下の夕莉を見ながら。

『スタイルいいわよね、この娘』

 それだけじゃない。本当に、可愛い妹だと思う。生真面目過ぎるのがちょっとだけ、玉に傷だけど。

『目移りしちゃったりしない?』

 エッチしたいとか思わない? と、聞こうとしたけれど間髪入れずに悠真は答えた。

『しない。俺にとって一番の人は、お前だ』

 ぴしゃりと一言。もし今また同じことを聞いたら本気で怒られそうだと花子は感じた。

(ドキッときちゃうじゃない。そんなこと言われたら)

 その後の交わりは、一層ハードになったのだった。

(また、したいな)

 心底そう思った。天邪鬼だった自分を、素直な娘にしてしまったあの人と、また……。

「あ、ねえ。花。あのね?」

「んー?」

 そんな風に思っていると、夕莉がおずおずと顔を出してきた。何でも、今回キャンセルになった用件をもう一度ということで。今度は泊まってくるね、とのこと。

「しょーがないわねぇ。留守番しといてあげるわ。感謝しなさいよね」

 言葉ではそんな風に言ったけれど、その日が待ち遠しい。想像すればするほど……。すると。

(あ、やば)

 じゅん、と、股間に熱くこみ上げてくる感触があって、花子は笑顔のまま固まってしまうのだった。



















----------後書き----------


 サブキャラクターの月嶋姉編でした。ゲーム本編にもし個別のシナリオがあったとしたら……という想定のお話です。

 でもって、初回版のART BOOKにて、二段ベッドが云々というキャラクター同士の対談があったので、夕莉ではないけれどそんなお話にしてみました。

 さて、『桜色のエピソード』ですが、何だかんだで残りも僅かとなりました。残すはお子様なティナ編ですが、どんなお話にしたものか。

 引き続きお楽しみいただけたら幸いです。



ご感想を頂けると嬉しいです。





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