冬の嵐 −TheSideStoryofSayuri−

ども。お久しぶりなMinardi改です。
佐祐理「あははー。今回は私のお話なんですね〜(^^)」
ああ。
今まで、ど〜にも佐祐理さんのお話のネタが浮かばなかったんだけど、何とか完成したよ。
佐祐理「楽しみです〜(^^)」
と・・・とにかく、今回は文字数がひじょーにやばい状態になってるので、早速いきましょう(汗)
では、ごゆっくりどうぞ〜♪
あ、それと、この作品は18禁です。
では、どうぞ・・・・。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






























ヒュゥゥゥゥゥ・・・・・






























風。・・・また、風・・・・。






























ザァァァァァ・・・・・






























雨。また・・・雨・・・。






























冬だというのに






























風が吹き荒れ






























雨が、乾ききった大地を・・・叩く・・・。






























まるで






























怒りをぶつけるかのように






























天変地異の前触れかと、思わせるほど・・・






























強く、荒々しい・・・・






























季節外れの・・・






























雨。





























時にそれは・・・






























全てを拒み、跳ね返す・・・






























そのたびに人は・・・苦しみ・・・






























耐え・・・生き続ける・・・






























やがて雨は雪に変わり






























凍てつくような寒さが






























訪れる・・・。






























それから・・・






























氷の如く・・・冷たい






























悲しみが・・・






























はじまる。






























スッ!

差し出された一枚の写真・・・。
「佐祐理。お前、この男と結婚しなさい」
「はぇ・・・・!?」
突然のことだった。
お父様の一言から全てがはじまった。






























「この人は私と同派の議員の一人息子だ。きっとお前を幸せにしてくれるだろう」
「そ・・・そんなの嫌ですっ!」
気がついたら私は叫んでいました。
そんな大切なこと、勝手に決めてしまうなんて・・・。
「どうしたんだ佐祐理。いつもお父さんの言うことを聞いてくれているのに・・・。今日に限って」
「で・・・でも・・・・」
「佐祐理。あなたは良い子なんだから『はい』といいなさい!」
・・・そ、そんな・・・お母様まで・・・。
「・・・いやですっ!佐祐理は結婚なんて・・・絶対に嫌ですッ!!」
「佐祐理ッ!お前のためを思って言ってるんだから、私の言うことを聞きなさいッ!」
「お父様のお願いなのよ!言うことを聞きなさい!」
「・・・・・・・・」
・・・・・どうして・・・。
どうしてそんなことが言えるのだろう?
お父様のお願いだから?
お父様が決めたことだから?
私は何でも言うことを聞く『良い子』だから?
それとも・・・・・何?
ただ一言だけで・・・・。
全てが決められてしまうというの?
・・・・・・嫌・・・・・・・。
冗談じゃないです。
私の心の中には・・・・もう・・・・・。
大好きな方が・・・・存在するというのに・・・・。
誰よりも・・・・大好きな男の方が・・・・・。
それなのに・・・・・・・。
「・・・どう・・・して・・・」
涙が込み上げてきた。
「どうしてそんなことが言えるのですかッ!!」
自然に言葉が紡ぎ出されていく・・・。
「私の・・・・・私の気持ちなんか全部無視して・・・・・・!」
いつも・・・・いつも・・・・!
「佐祐理ッ!それがお父様に対する口のききかたですかッ!謝りなさいッ!」
「ふ・・・ふざけないでくださいッ!私には・・・・私には・・・・もう・・・・・大好きな方が・・・・いるんですよッ!・・・・それなのに・・・それなのにッ!・・・会ったこともなく、好きでもない人と・・・・結婚しろと・・・・・いうのですかッ!?」
「佐祐理・・・。お前の気持ちもわからない訳でもないが、我々とその男では身分が違う!」
身分って・・・そんなの・・・。
人が人を好きになるのに・・・・身分なんて関係あるの?
「お父様は、あなたの幸せを願っておっしゃっているのですよ。結婚しなさい」
・・・違う・・・。
私の幸せを思ってだなんてタテマエだわ・・・。
お父様もお母様も・・・嘘をついている・・・。
だって・・・・。
お父様は政治家・・・・・・権力者です・・・。
一度権力を握った人間は、ソレを保持しようとすると・・・よく言いますから。
この結婚は恐らく・・・政略結婚でしょう・・・。
派閥内部での、権力保持と・・・・拡大を目的にした・・・・。
そうとしか考えられません・・・。
例えそうじゃなかったとしても・・・・嫌・・・。
「・・・・・・・っく・・・・・・・・・・・・・お父様と・・・・・お母様に・・・・・・・・何が・・・・・わかるというのですかっ?・・・・・あのときだって・・・・・・あのときだって・・・!」
弟が・・・・・一弥が・・・・・・・・!
あのときだって・・・・・・・!!

パシィィンッ!!

お母様の平手が飛んだ・・・。
でも・・・そんな痛みなんて・・・・。
感じなかった・・・。
忘れろだなんて・・・・。
「・・・・っ!!」
「あの子のことは・・・・忘れなさいって言ったでしょうッ!」
「・・・佐祐理・・・。一弥のことは・・・忘れるんだ!」
そんなこと・・・・できません!
・・・忘れられるはずがない・・・・。
忘れたくない・・・。
絶対に・・・。
「忘れろなんて・・・・そんなこと・・・・・できませんッ!」
「忘れろといっとるンだッ!佐祐理!!」

ダンッ!

語気を荒めるお父様・・・。
・・・・・!
ひどい・・・・。
どうして・・・・?
どうしてそんなことが・・・・・
言えるの?
もう・・・・・わからない・・・・・・・
何もかも・・・・・・・
「うっくっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひどい・・・・・・・・・・ひどすぎます・・・・・ぐすっ・・・・」
もう・・・・・・・何も・・・・・・・信じられない・・・・・・。
「・・・・っく!!」

バタンッ!!

「佐祐理ッ!!」

ダッ!!

・・・・私は、無意識のうちに家を飛び出していた。
お父様とお母様の・・・・叫ぶ声も・・・・耳に入らない・・・・・・
目の前は、何も・・・・・見えなかった・・・。
強い雨風と・・・・
止めどなく流れる・・・・涙に、遮られて・・・・






























シトシト・・・・・・サァァァァァ・・・・・・・・・・・

夜の街を冷たい雨が、つつみはじめた・・・。
しばらくしたら雪に変わるのであろう。
冷たい雨・・・。
「真冬だというのに大雨か。珍しいなぁ」
窓の外を見ながら、何気なく呟く祐一。
今は夕食前。俺はテーブルに座り、時を持て余していた。
外の寒さとは違い部屋の中は暖かく、明るかった。
まるで、別の世界にいるかのように・・・。
「祐一。お皿並べて」
「ああ。わかった」

カチャ・・・カタ・・・

名雪がキッチンから、鍋に入ったクリームシチューを持ってきて、テーブルの上の鍋敷きに置き、皿に分ける。
鍋の中からは熱い湯気と、クリームシチュー特有の甘い香りがしてくる。
「・・・鍋掴みも猫柄なのか?」
「そうだよ。えっとね、右の二匹が『ここあ』と『みるく』で左が『ちょこ』と『かかお』って名前なんだよ〜」
「ああそうかい。はぁ・・・」
やっぱりか。いかにも名雪らしいなぁ。
俺は苦笑しながら、再び窓の外に目をやった。
「あう。祐一、なに外見てんの?」
真琴が不思議そうに俺の顔を覗いた。
「別に・・・」
外は相変わらず強い雨が降っている。
時がたつに連れて、強くなっているようだ。
「さっ。できましたよ。食べましょ」
料理が全部できあがったのか、秋子さんもエプロンを外し、席に着いた。
「いただきま〜す。ふ〜ふ〜・・・このシチューおいしいよ〜」
「あう〜、あついよ〜・・・・でもおいしいよ〜、はふはふ・・・・」
あつあつのシチューを口にする二人。
シチューの具は、ブロッコリーにニンジン、ジャガイモ、肉。それにコーンも入っている。
いかにも秋子さんらしい、野菜たっぷりのおいしいシチューだ。
「ふふ。いっぱいあるから、たくさん食べてくださいね」
いつもの風景。
家族がそろって食卓を囲む。
嵐の吹き荒れる窓の外と違い、暖かく明るい風景。
ありふれているけれど、かけがえのない風景・・・・。
いつもとなんら変わることのない風景だった。

ザァァァァァァァァァ・・・・・・ッ!

ピカッ!

ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

「きゃっ!」
「あうう〜〜!カミナリ・・・コワイよぉ・・・・ぐすっ」
「ふふ。大丈夫よ、二人とも」
雨は先ほどよりも更に強くなり、雷も鳴り始めた。
近くで落雷があったのか、周囲に大きな音が響く。
「冬の嵐・・・か。本当に珍しいよなぁ」
俺は三度、窓から雨風の荒れ狂う外を見た。
そのとき・・・
「・・・・人?」

ガタッ

思わず俺は立ち上がっていた。
こんな天気だというのに、外に人がいる・・・。
正気の沙汰じゃない!
刺すような雨に打たれて・・・。
一人の人が・・・。
「祐一、どうしたの?」
「・・・ちょっと行って来る!」
「えっ?でも、シチュー冷えちゃうよ〜!」
「すぐに戻ってくる!」

バタン!

俺はドアを開け、嵐の中へと飛び出していった。






























ザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・

外は嵐だった。
強い風が渦巻き、それに加え大粒の雨。
雨風によって視界が遮られ、目の前を見るのでさえ辛い。
人がいるなんて、考えられないくらいの場所に。
『彼女』・・・は・・・・いた。
「さゆり・・・・・さん!?」
「え・・・・・・・・あ・・・・あはは・・・・・・・・ゆういち・・・・・さん・・・・・」
傘も差さず、風に吹かれ・・・雨に打たれながら・・・一人立ちすくんでいた。
頭から爪先まで、ずぶ濡れになりながら・・・。
「ど・・・・どうしたの?・・・・佐祐理さん」
「・・・・・な・・・・・・・なんでも・・・・・ないです・・・・よ。・・・・しんぱい・・・・・しないで・・・・ください・・・・・ゆういち・・・・さ・・・・ん・・・・」
佐祐理の声は小さく、弱々しかった。
雨音に、かき消されてしまうくらいに・・・。
「な・・・・・・何でもないわけないじゃないかッ!心配に決まってるだろッ!どうしてッ!・・・どうして俺にッ・・・・・・何も・・・・・話してくれないんだッ!」
気がついたら祐一は、佐祐理を怒鳴りつけていた。
彼女の煮え切らない態度に苛立ったから・・・。
何もない訳ないのだ。
彼女の綺麗な長い髪から、トレードマークの大きなリボンまで・・・・その小さな身体の何もかもを冷たい雨に濡らし・・・立ちすくんでいる。
彼女の苦悩が・・・・。
彼女が・・・・何かに迷い、苦しんでいるということが一目で伺える。
それなのに、自分に心を開いてくれない、佐祐理の気持ちが・・・祐一にはわからなかった。
・・・・正確に言えば祐一は『気づけなかった』のだ。
佐祐理の心遣いが、自分を『頼りにしていない』と勘違いし、その優しさに・・・・本質に気づけなかったのだ。
それは、お互いの若さ故でもあるのだが・・・。
「ごめん・・・・ちょっと、強く言い過ぎた。とにかく・・・・家の中に入って・・・」
「・・・はい。・・・・・・ぅっ・・・・・ううっ・・・・・」
「・・・佐祐理さん?」

バフッ!

佐祐理は祐一の胸に飛び込み、泣いた。
「うっうっ・・・・ひっく・・・・・ううっ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「さ・・・・さゆり・・・・・さん・・・・」
普段決して見せることのない、佐祐理の涙・・・。
祐一は、戸惑っていた。
それは無理もないことだ。
佐祐理は今まで一度たりとも、祐一の前で・・・・人の前で、弱い姿を見せたことがないから。
今まで祐一は、佐祐理の笑顔だけを見てきたのだから・・・。
いつも・・・・いつも・・・。
自然に『倉田佐祐理』という女性のイメージを、イコール『強い女性』と思いこんできたのだから。
彼女の弟のことを聞いたときも『佐祐理さんは決して泣かない女性』と思いこんできたのだから・・・。
全て、仕方のないことなのだ。
「うぐっ・・・ぐすっ・・・・う・・・ああ・・・ゆういち・・・・・さん・・・・ごめんなさい・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・わたし・・・・・・・・わたし・・・・・こんな・・・・・・ひっく・・・うっ・・・・」
祐一の胸の中で泣きじゃくる少女は・・・。
別人だった。
祐一の知っている・・・・『強い女性』ではなく『脆く、危うい少女』が、そこには存在していた。

ピカッ!

ガラガラガシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!

一瞬、暗闇に光が昼間のように輝き、辺りに雷鳴が轟いた。
「・・・・佐祐理さん。とにかく・・・・中に・・・入ろう」
祐一は、しゃくり上げる佐祐理を家の中へと導いた。
暖かい、家の中へ・・・。






























ぱたん・・・

「祐一さん。どうしたのですか?・・・あら、その人は?」
「秋子さん・・・」
「・・・あの・・・こんばんは・・・すみません・・・こんな格好で・・・・」
玄関には秋子さんがいた。
でも、何と説明したらいいのか・・・さっぱりわからない。
佐祐理さんのこんなに弱い素顔を見たのは初めてだから・・・。
俺は・・・・自分自身、何が起こったのかでさえ・・・・全く理解できていないのだ。
何も考えが浮かんでこなくて・・・途方に暮れていた。
だが・・・。
「ふふ。いろいろと理由(ワケ)がありそうね。ええと・・・」
「・・・・佐祐理です。倉田佐祐理といいます」
「そう・・・。佐祐理さん、でいいわね。私は祐一さんの叔母の、水瀬秋子といいます。初めまして」
「初めまして・・・」
相変わらず秋子さんは全てを見透かしたように振る舞う・・・。
これも人生経験の差なのだろうか?
この人を見ていると、自分がまだまだ子供であるということを嫌と言うほど思い知らされる。
所詮俺は・・・・まだまだガキなのだと・・・・。
「佐祐理さん、このままじゃ風邪引いちゃうから・・・・シャワー浴びてきなよ」
「そうね。それがいいわ。案内するわ」
「・・・すみません・・・」

ぱたん・・・






























再び食卓。
佐祐理さんは今、シャワーを浴びている。
その間に俺達は、中断した食事を再開していた。
「ゆういち〜。あの人だれ?」
「・・・あの人、雨の中ずっと祐一を待っていたんだね。・・・何かきっと・・・すごく、つらいことがあったんだと思うよ。祐一・・・・力になってあげてね・・・・」
興味津々の真琴と、心配顔の名雪・・・。
「あの人は、倉田佐祐理さん。俺の・・・友達・・・だよ。俺達より一年先輩なんだ」
「・・・嘘だよ、祐一」
「嘘じゃないって」
名雪は変なことを言うなぁ。
嘘をついてどんな意味があるというんだ?
「違うよ。『ただの友達』じゃないってことだよ!」
「おいおい!俺は確かに変な野郎だってよく言われているけど、他人に嫌われるようなことはそんなにやってないぞ!」
そりゃまあ、佐祐理さんは『ただ者』じゃあないけど・・・。
「違うよ!」
「何が違うっていうんだ?」
「はぁ・・・もういいよ・・・。倉田先輩、可哀想・・・」
溜息をつく名雪・・・。
「あう。祐一、鈍感・・・」
なっ!
真琴にまで『鈍感』と言われるとは・・・!?
一生の不覚!
こりゃただごとじゃないな!
でも、一体なんだってんだよ!
俺が何をしたってんだよ!
わけがわからん・・・。
「くすっ。祐一さんと佐祐理さんは『友達だけの関係ではおさまりきらないような仲』ということなんですよ」
「はぁ?」
「佐祐理さんにとって、祐一さんは特別な存在・・・・はっきり言えば『一番大切な人』ということなんですよ」
「・・・俺が・・・佐祐理さんにとって・・・特別な人・・・!?」
「考えてみなさい。この嵐の中、ずっとずっと祐一さんを待っていたんですよ。佐祐理さんは」
「・・・でも、俺に言いたいことがあるのなら、電話とか、他にも方法はあるんじゃないですか?」
わざわざこの雨の中、こなくても・・・。
「祐一!・・・・ほんッとに鈍感だよッ!電話じゃ話せないことがあるから・・・・直にお話ししたいことがあるから・・・・わざわざ会いに来たんじゃない!」
「あう〜祐一、全然『おんなごころ』をわかってないよ!」
あうっ!
またしても真琴に馬鹿にされたぁ。
真琴にまで『女心がわかってない』などと言われるとは・・・・。
さっきから女性陣のステレオ攻撃に圧倒されっぱなしだなぁ。
「・・・・それなら玄関のベルを鳴らせば出ていくのに」
「・・・佐祐理さんはすごく責任感の強い・・・優しい人なんですよ。相談したいことがあるけれど『祐一さんに迷惑をかけたくない・・・・。自分自身のことで祐一さんを巻き込みたくない・・・・でも・・・・相談したい・・・・』そう思ったんでしょうね、きっと・・・・。だから家の前でずっと・・・迷っていたんでしょうね」
「そうなのかなぁ・・・・?」
俺の頭の中は終始、はてなマークが渦巻いていた。
やっぱり俺は鈍感なのだろうか?
そんな俺とは正反対に、秋子さん・名雪・真琴の女性三人は全てを理解したかのように優しい顔をしていた。
俺一人が取り残されたみたいで悲しい・・・。
「祐一さん。佐祐理さんの力になってあげましょ・・・・」
女心は高度な数学よりも難しい・・・。
今までの人生で、今日ほど強く感じた日はなかった。
どんなに高速で高性能なスーパーコンピュータが登場しても・・・分析することは不可能だろうな。
本当にそう思う。






























シャァァァァ・・・・・

シャワーの水音が響く。
暖かい水を浴び佐祐理の身体に体温が戻ってくる。
しかし、冷え切った『心』には決して、暖かさが戻ることはなかった。
自分のしたことと、自分の求めていること。
全て独りよがりで、自分勝手なことだ・・・・と・・・。
佐祐理は苦悩していた。
自分の行動全てが矛盾していたから・・・。
「・・・・ゆういちさん・・・・・ごめんな・・・・さい・・・うっ」
濡れた髪をそのままに、佐祐理は俯いた。
何故、ここに来てしまったのか?
絶対的な存在の父から理不尽な要求をされ、つらい目にあったからって。
自分がただ一言『はい』と言ってさえいれば、こんなことには・・・。
自分の一番好きな人・・・・最愛の人・・・『相沢祐一』に迷惑をかけるなどと言うことはなかったのに・・・。
例えそれが、自分自身の気持ちを捨てることだとしても・・・。
最愛の人を巻き込むようなことは避けられたはずだというのに・・・。
佐祐理は、罪の意識にさいなまれていた。
「わたし・・・・どうすれば・・・・どうすれば・・・・いいのですか?・・・おばあさま・・・・・うっくっ・・・ううっ・・・・・」
佐祐理は祖母のことを思い出していた。
激しく野望に満ちた父とは違い、穏やかな性格の老婆の姿を・・・。
いつもいつも、佐祐理を支え、優しく・・・・時には厳しく励ましてくれた・・・。
幼い頃に他界した祖母のことを・・・。
佐祐理はただ、俯くばかりだった。

シャァァァァ・・・・・

シャワーの水音と、屋根を叩く雨音だけが響きわたっていた。
残されたのは佐祐理自身と、一つだけの・・・・悩み。






























カチャリ・・・

パタン・・・

「佐祐理さん・・・」
シャワーを浴び、秋子さんの用意した服に着替えて、佐祐理さんが出てきた。
「・・・倉田先輩、私は祐一の従兄弟の水瀬名雪といいます。初めまして〜」
「あう〜。沢渡真琴・・・」
「・・・あはは・・・初めまして・・・。倉田佐祐理です。佐祐理って呼んでくださいね・・・」
名雪と真琴がそれぞれ自己紹介をする。
だが・・・佐祐理さんはどう見ても空元気だ。
無理に笑顔を作っているように見える。
それに、彼女の目は兎の如く赤くて・・・泣きはらしたことが一目でわかる・・・・。
俺は、そんな彼女になんて声をかけたらいいのか・・・・わからなかった。
こんな俺が・・・佐祐理さんの支えになることなど・・・・できるのだろうか?
正直、自信がない。
けど・・・何とかしてあげたい・・・・絶対に・・・。
「・・・秋子さん。名雪。真琴。悪いけれど、佐祐理さんと俺の・・・二人きりにさせてもらえないか?話を・・・したいんだ・・・」
「わかりました。祐一さん」
「うん。わかった」
「あう〜。うん」

パタン

三人とも俺達に気を利かせてくれたのか、二人きりにしてくれた。
「みんなすまない。佐祐理さん・・・」
「・・・・」
「俺に・・・話してくれないか?・・・・確かに俺は・・・頼りない男かもしれない。だけど・・・・佐祐理さんの力になりたいんだ!」
「ゆういち・・・・さん・・・・」
「・・・でも・・・話してくれないと・・・力になることすら・・・できない」
「佐祐理は・・・・ずっと・・・・ずっとお話ししたかったです・・・・。でも・・・・・・祐一さんに・・・・迷惑を・・・・・・かけてしまうから・・・・・・だから・・・・・うっ・・・・ぐすっ」

ガシッ!

「佐祐理さん。俺は・・・本気で佐祐理さんのことが・・・好きだ!・・・・だから・・・・『迷惑』だなんて思わないで・・・・話して欲しい。頼む!」
気が付いたら俺は、佐祐理さんを抱きしめていた。
強く・・・強く・・・・折れるくらいに・・・・。
「あ・・・う・・・ぐすっ・・・・・・・・ありが・・・・・・とう・・・・・・・ゆういち・・・・さん・・・・・・ひっく・・・う・・・」
これで、彼女の内にある『壁』は崩されたのだろうか・・・。
多分、そうだと思うけど・・・。
そう・・・願いたかった。
そう願わないと、何も・・・はじまらないから。






























「・・・・・」
とつとつと・・・言葉を紡ぐ佐祐理さん・・・。
あれから・・・しばらくの時間(トキ)が過ぎ去った。
佐祐理さんが全ての事実を語るというのは生半可なことではないようだったが・・・。
・・・・俺自身言葉を失っていた。
メディアがよく使うような・・・・ありふれた言葉で表現しようとするのなら『衝撃の事実』とでもいうのだろうか?
やはり、俺と彼女とは住む世界が違う。
そう思い知らされた一瞬でもあった。
「・・・結婚?」
「はい・・・」
信じられない・・・。
信じたくない・・・。
そんなこと・・・・・・嫌だ。
でも・・・・。
「・・・・父は・・・・。戦後日本の・・・・急進的政治家ですから・・・・」
戦後、GHQの農地解放政策によって土地を得、その身一つでのし上がってきたような人物。
利用できるものは何でも利用する。
例えそれが実の娘の未来であろうとも・・・。
何が何でものし上がってやる!
恐らく、そんな感じの・・・・野心と執念に満ちあふれたような男なのだろう。佐祐理さんのお父さんは・・・。
全ては俺の推測でしかないのだが・・・・。
そうとしか考えられない・・・。
「私にとって・・・父は・・・絶対の存在でした。これまでは・・・・でも・・・・」
彼女にとって父親はもう既に、絶対の存在ではない・・・・ということか。
「でも・・・・佐祐理には・・・・・もう・・・・・・」
・・・・・・・・・・・。
「・・・佐祐理さんには・・・『もう』・・・なんだい?」
俺は意地悪だ。
こんなこと、聞くまでもないじゃないか。
だけど・・・・ちゃんと佐祐理さんの言葉で聞いて置かなければ・・・・俺自身の・・・決心が、弱まるような気がしたから・・・。
だから・・・・あえて聞いた。
目の前にいるのは、いつもの佐祐理さんとは違う・・・脆く、弱々しい・・・少女だ。
そんな少女に・・・。
俺は最低だな・・・・。
頬を真っ赤に染め、心の底から絞り出すような声で・・・。
「誰よりも・・・・大好きな・・・・・・方が・・・・・いるから・・・・・祐一さん・・・・・」
それはもう・・・ずっと前からわかっていたことだ。

スッ・・・

「あ・・・・」
「ごめんな。佐祐理さん・・・。全部言わなくていいよ。後は・・・・俺が言うから・・・俺が言うべきことなのだから・・・・」
優しく抱きしめ、キスをした。
「うっく・・・・祐一・・・さん。・・・・佐祐理は・・・・佐祐理はッ・・・・我が儘なのですか?・・・感情的なのですか?・・・・・自分勝手なのですか?・・・・・自分自身の・・・・素直な想いを・・・・・抱いているだけで・・・それだけでも・・・・・それは・・・いけないことなのですかッ?!・・・・・今まで・・・お父様の言うことなら何でも・・・・・・聞いてきたのに・・・・・・・・・言うことを聞かない・・・・悪い子なのですかッ?・・・・・何でも言うことを聞く・・・・人形なのですかッ?・・・・・・・・佐祐理・・・・・・・・は・・・・・ぐすっ・・・・ひっく・・・・・」
佐祐理さんの感情は爆発していた。
今まで、巨大なダムのようにせき止められていた言葉が・・・・・・堰を切ったように・・・・溢れ出していた。
大粒の涙と同時に・・・・。
俺はただ・・・・優しく抱きしめているだけだった。
「佐祐理さん・・・。今日は・・・・もう・・・・休もう・・・・」

カチャ・・・

「それがいいわ」
「秋子・・・さん」
「・・・祐一さん、佐祐理さん。悪いけれど、全て・・・聞かせてもらいました」
予想はしていたけど・・・やっぱりね・・・。
「・・・私には大したことは言えないけれど・・・人生の先輩として一言だけ・・・言わせてください」
・・・・・。
「『思うがままに・・・』ですよ。だって・・・・・あなた達はまだまだ・・・・・若いのですから。くすっ」
ふふっ・・・・秋子さんにはかなわないな。
『思うがままに動け!感ずるままに行動しろ!後は・・・・なすがままに・・・』
前にもそんな感じのことを言っていたっけな。
「・・・・・・・・・・はい・・・・・う・・・・・ぐすっ・・・・ひっく・・・・」
それで迷いが解けた。
ただその一言だけで。
俺も佐祐理さんも。
心を縛っていた縄を・・・・裁ち切り、自由を手に入れたかのように・・・・。
「佐祐理さん。今日は・・・泊まっていきなさい。お家の方には私が電話をかけておきますから」
人を思いやる心・・・というのだろうか?
確かに今の佐祐理さんが家に電話をかけるというのは・・・つらいだろうな。
でも・・・どんなヒドイ人でも親は親だから。
佐祐理さんはどんな目に逢っても『心配かけたくない』と思ってるだろう。
だから、秋子さんは・・・・。
まるで・・・俺達の・・・・全てを見透かしているかのように・・・。
まったく・・・この人には一生かなわないな。
ははは・・・。






























自室・・・。
暗い天井を見上げながら一人、考える。
佐祐理さんの・・・・心の底を覗いたような・・・・感覚がまだ残っていて・・眠れない。
今まで・・・・俺は・・・・佐祐理さんは強くて・・・・決して、泣かない人だと思っていた。
「違う・・・な」
結局俺は、何もわかっちゃいなかったんだ。
人の気持ちなんて・・・例え大切な人の気持ちでさえ・・・何も。
「愛する人のことだって・・・所詮は他人事・・・・そう思ってきたんだろ?」
思わず自問自答する。
自分自身が情けなくて・・・許せなかった。
無力で無知な自分が・・・・・。
悔しい・・・。
心からそう思った。
そのとき・・・。

プルルルル・・・・

「・・・・」
階下で電話の音がした。
「・・・こんな時間に・・・誰だよ?」
誰も出る気配がないので俺が出ることにした。

カチャ

「はい。水瀬です」
『・・・・』
「もしもし?」
『・・・・』
「もしも〜し?」
『・・・・』
「あ〜、こちら亀○公園前派出所。事件発生応答願います。ど〜ぞ・・・」
『・・・・』
「ひょっとして、イタ電か?」
『・・・・』
「おい!何とか言えよこの野郎!」
『・・・・祐一・・・・』
「!・・・ひょっとして・・・舞か?」
『そう』
「まともに返事くらいしろッ!」
まったく!
普段電話かけるときどうしてるんだこいつは?
『・・・・祐一・・・・』
「なんだよ」
『佐祐理を・・・支えてあげて』
「・・・・お前、何故それを?」
『佐祐理の悲しそうな声が聞こえたから』
「どこで?」
『夢の中で・・・』
ホントかよ!?
「・・・わかってるよ!」
『・・・佐祐理は、祐一のこと・・・誰よりも好きだから・・・自信を持って・・・』
「・・・・俺もそうだ。任せておけ」
『・・・・』
「舞?」
『・・・・寝てた』

ガクッ(汗)

お前は名雪かいッ!
そう突っ込みたかったが、舞が名雪のことを知らないんだったのを思い出したのでやめた。
「・・・お前も佐祐理さんの力になってくれ。頼むぜ!」
『わかった・・・・・・・祐一、ありがとう』
「ああ。じゃあな、お休み・・・」
『・・・・お休み・・・・』

ガチャ・・・・

不思議だ。
これが女同士の絆とでもいうのだろうか?
まるでテレパシーみたいだ。
『自信を持って』か・・・。
・・・・・・。
俺は、何も考えずに自室に戻った。






























佐祐理さんは今、隣の部屋で寝ている。
正確に言えば名雪の部屋なんだが・・・。
本当は真琴のやつを部屋から追い出して、一人で寝てもらうつもりだったんだが・・・。

「真琴!お前、佐祐理さんに部屋貸せ!」
「あう〜、じゃあ私は今夜、どこで寝ればいいんだよ〜!」
「お前なら廊下や風呂場やトイレでも大丈夫だ!」
野生の力を発揮する時だぜ。真琴よ!
「そんなのヤダ〜!」
「あ・・・あの・・・祐一さん。佐祐理は・・・どこでも構いませんから・・・・。迷惑かけっぱなしで・・・申し訳なくて・・・・泊めていただくだけでも・・・十分ですから・・・・・・・」
「佐祐理さん・・・・」
心底申し訳なさそうに俯く佐祐理さん。
ああ、なんて奥ゆかしい人なのだろう。
俺は感激のあまり涙が出てきたよ。
それに比べ真琴は・・・・連日連夜、俺に対して悪戯悪戯悪戯いたずらッ!!
悪戯の山じゃねぇかっ!!
「・・・・お前の寝床など風呂場で十分だッ!!」
「あう〜!やだやだやだ〜〜!!」
ええいッ!
強情なヤツめッ!
「・・・佐祐理先輩。それなら私の部屋に来ませんか?」
言い争う俺と真琴を見て、名雪が気を利かしてくれたようだ。
二人とも極度の『ほのぼののほほん』とした性格なので気も合うのだろう。
「名雪さん。すみません・・・」
ちっ・・・命拾いしたな。真琴よ!

・・・等ということがあり、名雪の部屋で寝ている。
しかし・・・これだけで全ての決着が付いたのだろうか?
疑問だけが残った。






























コンコン・・・

布団に入り、先ほどと同じように黙ったまま・・・・天井を見上げていると、不意に音がした。
俺の部屋のドアをノックする音が。
「・・・佐祐理さん?」
「・・・はい・・・」

パタン

「こんな夜遅くに・・・ごめんなさい。起こしてしまいましたね・・・・」
豆電球の僅かな光が、佐祐理さんの顔を照らしだした。
薄暗くて・・・・弱い光が・・・。

ザァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

窓の外の雨は・・・一段と強まっていく・・・。
時折雷が鳴り響き、空がパッと光輝く。

ピカッ!

ドォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!

「きゃっ!」
稲妻の青白い光に照らされる・・・二人・・・。
「・・・いや、起きていたからいいんだ。・・・どうしたの?・・・・眠れないの?」
「・・・・・いえ・・・・祐一さんに・・・・お礼を言いに・・・来たんです・・・」
「・・・・」
「佐祐理は・・・・色んな人に迷惑をかけてしまいました。・・・・自分自信のことなのに・・・・本来・・・全て・・・・・自分自身で・・・・で・・・・解決しなければならないことなのに・・・・・」
「佐祐理さん・・・」
「色んな人に・・・励ましてもらいました。名雪さん・・・真琴さん・・・秋子さん・・・祐一さん・・・。・・・・・みんなみんな・・・・すごく・・・・優しいです。だから・・・・佐祐理は・・・・・もう・・・・大丈夫です・・・・・・・・・」
「・・・・佐祐理さん。実はさっき、舞のやつから電話があったんだよ」
「舞から?」
「そう。・・・俺に『佐祐理さんのこと、励ましてくれ』だってさ。夢の中で佐祐理さんの悲しそうな声を聞いたから・・・俺に電話をかけてきたんだって」
「・・・・あは・・は・・・・。舞・・・・らしいですね・・・うっ・・・ぐすっ」
「ははは。ホントまいったよ。あいつ、俺が『もしもし』って言っても何もしゃべらないからさ。悪戯電話かと思っちゃったよ」
「う・・・ぐすっ・・・・みんな・・・・優しいです・・・・佐祐理は・・・・・佐祐理は・・・・・・・・ぁぅっ・・・・・くっ・・・」
「・・・佐祐理さん。俺は・・・・こんな頼りない男だけど・・・・佐祐理さんのことが・・・・・誰よりも・・・・・・・本気で・・・・・好きです・・・・だから・・・・・」

バフッ

佐祐理さんは大粒の涙を流し、俺の胸にもたれ込んできた。
俺は優しく・・・・受け止める。
「・・・・ずっと一緒に・・・・いたい。・・・・ずっと・・・・守り続けたい・・・・だから・・・・・だから・・・・」

スッ

「・・・?」
佐祐理さんは俺の口に人差し指を当ててきた。
『それ以上はしゃべるな』ということか。
俺は、佐祐理さんを抱きしめながら・・・・言葉を待った。
「・・・う・・・くっ・・・・佐祐理も・・・・祐一さんと一緒に・・・・・いたいです。・・・・・ずっと・・・・・ずっと・・・・・・・いつまでも・・・・・・・・」
佐祐理さんは・・・・・冷たい床に・・・・正座して・・・・。
そして・・・・・無理に・・・・凛とした表情を作って・・・・呟いた。
「祐一さん・・・・・・・・。佐祐理は・・・・・・・私は・・・・・・・・・あなたを・・・・・・・お慕い申し上げます・・・・・うっく・・・・うっ・・・・」
「佐祐理・・・・・さん・・・・」
「でも・・・・・・まだ・・・・・・・・まだ・・・・・・勇気が・・・・・・・だから・・・・」

パサッ!

「・・・!」
冷たい床に、パジャマが落ちる音が・・・。
佐祐理さんは・・・・・一子纏わぬ姿になって・・・・いた。
「・・・・・お願い・・・・です・・・・。・・・・・・・私を・・・・・抱いて・・・・・ください・・・・。・・・・・・・・勇気を・・・・・・・ください・・・・・・・祐一・・・・さん・・・・・」

すっ・・・

「んっく・・・うう・・・むっ・・・」
俺は無言のまま、佐祐理さんの唇を奪った。
・・・深く・・・荒々しい・・・強引な口づけだったが、佐祐理さんは抵抗せずに・・・・俺を受け入れてくれた。
・・・離したくない・・・・絶対に・・・。
心の底からそう思う。
誰が何と言おうが、佐祐理さんは・・・・俺のものだ。

カッ!

ドドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!

「きゃぁっ!」

ギュッ!

雷鳴に驚き、俺の服の裾を握りしめる佐祐理さん・・・。
その様子が・・・怖がっている様子が・・・可愛らしくて・・・。
「はは。大丈夫だよ・・・」
「うっく・・・笑わないで・・・・ください・・・・祐一さん・・・・。いじわる・・・・です・・・えっく・・・・」
「ごめんごめん。でも・・・・」
今までで、一番大きな落雷があったようだ。
窓から見える夜の暗闇が、一瞬昼間のように輝き、抱きしめ合ったままの・・・・俺達の姿を照らし出した。

サラサラ・・・・・

延々と降り続く雨は・・・・徐々に・・・・雪に変わりつつあった。
「・・・さゆり・・・・さん。・・・・雪が・・・・降ってきたよ・・・・・」
「・・・はい・・・」

ポサッ・・・

佐祐理さんを抱きかかえ、優しくベッドの上に下ろした。
その身体は・・・ほんとうに小さくて・・・・軽かった・・・・。
小さな身体に大きな悲しみをしまい込んでいた佐祐理さんを見ていると・・・・。
愛おしい・・・・。
誰よりも・・・・。
離したくない・・・・。
このまま・・・・。

スッ・・・

「綺麗な・・・髪だね・・・」
俺はその、綺麗な髪を撫で、香りを嗅いだ。
石鹸のいい香りがしてきた。
いつもしているリボンは今は外しているようだ。
「・・・ん・・・・・あ・・・・・。祐一さん・・・・・優しいです・・・・でも・・・・・もっと・・・・・・強く・・・・その・・・・祐一さんの・・・・・・・好きにしても・・・・・・いいです・・・・・・私は・・・・・大丈夫・・・・・・・だから・・・・」

フサッ・・・

俺は、ベッドにうつ伏せになっている佐祐理さんの後ろから・・・・・・大きな胸を手のひらに包み、優しく動かした。
「あ・・・・くっ・・・・・やぁ・・・・・ん・・・・・・」
「佐祐理・・・・さん・・・・」
「んんっ・・・・・く・・・・・」
佐祐理さんは・・・・懸命に、声を出さないように・・・・口を閉じている。
そんな佐祐理さんがいじらしくて・・・・。
つい意地悪なことを言ってしまう。
「佐祐理さんて、胸・・・・おっきいんだね・・・・」
大きくて・・・暖かい。
佐祐理さんの・・・・胸・・・。
「・・!!・・・や・・・・やぁっ!・・・そ・・・・そんなこと・・・・いわないでくださいっ!」
思わず顔を、林檎のように真っ赤に染め、抗議する佐祐理さん・・・。
かわいい・・・・。
年上だなんて、感じさせないくらい・・・・・。

キュッ!

「きゃぅっ・・・・!!」
俺はその、柔らかく大きな胸を・・・・下から・・・先の先まで・・・・愛撫する。
「でも・・・・白くて・・・・綺麗だよ」
「い・・・・・・・じわる・・・・・・です・・・・・。ゆういち・・・・・・・・さん」
そんな佐祐理さんの抗議にも耳を貸さず、俺は愛撫を続けた。
胸だけにとどまらず、スラッとした足・・・大きくて可愛らしいお尻・・・そして・・・・下着に隠された・・・・・・・・佐祐理さんの・・・・・大事なところ・・・。
女の子の・・・・見られてはいけない・・・・場所も・・・。
全部・・・。

フサッ!・・・サワワッ!・・・・

「ン・・・・くぅ・・・・あぅ・・・・・んっ・・・・・・・」
連続で胸を攻め、その先端を口に含み赤ん坊のように強く吸うと・・・・目尻に涙を溜め、必死にシーツを握りしめる佐祐理さん・・・。
今まで感じたことのない感覚に、戸惑っているようだ。
「俺が・・・いるから・・・。一緒に・・・・・いるから・・・・・不安に・・・・ならないで・・・・佐祐理さん・・・・・」
それは無理な注文だ。
だけど・・・
「ゆ・・・・・祐一・・・・・さん・・・・・・私は・・・・大丈夫・・・・・だから・・・・・・うっ・・く・・・・・」
「・・・・いくよ・・・・佐祐理さん・・・・」

コクン・・・

少しおびえた表情で・・・・何かにすがるような表情で・・・・佐祐理さんは俺に身を任せた。
・・・・俺は佐祐理さんを強く引き寄せると、躊躇せず一気に貫いた。

ズッ!

「う・・・・・っぐ・・・・・・・ぃ・・・・・・・・・・・た・・・・・・・ぁ・・・・・・・・っく」
佐祐理さんを貫いた感覚は、非常にはっきりしていた。
俺は今・・・・佐祐理さんの・・・・・初めての人・・・になったのだ。
激痛に顔を歪め、必死で耐える彼女を見ていると・・・・罪悪感が込み上げてくるが・・・。
「ぐっ・・ぅ・・・・・・・だいじょうぶ・・・・・・です・・・・・さゆり・・・は・・・・・・だいじょうぶ・・・・だから・・・・あぐっ!・・・くぅっ!」
それはどう見てもやせ我慢にしか見えないが、その想いに答えることが、俺のなすべきことだろう。
俺は佐祐理さんを容赦なく貫いた。

ズッズッズッ!!

「うっぐぁ・・・・・・・ぁう・・・・・・・・・・・くっ・・・・・・・・・・」
「ぅ・・・ぁぁ・・・・・・・・さゆり・・・・・・さん・・・・・・おれ・・・・・・も・・・・ぅ・・・・・ぐっ」
・・・絶頂が近づいてきているのがわかる・・・。
佐祐理さんの・・・『中』は・・・・・甘くて・・・心地よくて・・・・・まるで・・・・・宙に浮いているような・・・・感覚さえ覚える。
「ゆういち・・・・・・・さ・・・・・・・・ん・・・・・・ゆういち・・・・・・・・さ・・・・・・・ぁぅぅっ!」
何度も俺の名を呼び、必死でしがみついてくる佐祐理さん・・・・。
もう、限界だった・・・。
「くっ・・・・ぅぅっ・・・・・ふうっ・・・・・・・・・・・佐祐理・・・さ・・・ん!」
「ああっ!ゆういち・・・・・さん・・・ッ!・・・・・・あふうッ!!ウッぐ・・・・・・」
俺は・・・最後の最後・・・・深く、佐祐理さんを・・・・力の限り・・・・突き上げた。

ズグッ!

「ぅ・・・・・・・・・・・うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」






























ドサッ・・・

絶頂を迎え・・・・・・・力尽き、ベッドに倒れ込む二人・・・。
二人は・・・・・・キスをした。
終わりなどないほど・・・・深く・・・・・熱い・・・・・・口づけ・・・・を。
何度も・・・・何度も・・・・。
お互いの愛を・・・・確かめるように・・・・・。

チュッ・・・!

「ゆういち・・・・・さん・・・・・・・・私・・・・・・・」
「さゆり・・・・・・・さん・・・・・・俺・・・・・・・」

チュッ!

「・・ン・・・・・・・・・・・あいして・・・・・ます・・・・・・・・・ンンッ!」
「俺も・・・・だ」

チュッ!






























チュンチュン・・・・・

「・・・・ん・・・・・ふぁ・・・・・・・もう・・・・・朝か・・・・」

ガバッ

ゴキッ!

「ぐはぁっ!」
祐一は立ち上がったが、痛みを覚え、すぐに俯いてしまった。
そう。
『腰』が非常に痛いのだ。
「い・・・いてぇぇ〜〜!!」
昨晩の情事を思い出し、祐一の顔が熱くなる・・・。
まだまだウブだという証拠だろう。
「・・・・・・佐祐理・・・さん・・・?」
ベッドの上には祐一一人しかいない。
先に起きたようだ。
時間もいいところなので、祐一はリビングに向かうことにした。
一つだけ問題があるとすれば・・・・。
「・・・・どんな顔して会えばいいんだろ?う〜ん・・・・さわやかに『佐祐理さんおはよう』かな?う〜・・・・・・むむむ・・・・それとも『お・・・おはよう・・・ございます・・佐祐理さま・・・』かな・・・?・・・う〜む・・・ちと違うなぁ・・・・」
彼の悩みも、なかなか奧が深いようでした。






























「・・・それでねそれでね。祐一ったらそのとき『洗いっこ』しよう!・・・なんていって、石鹸つきの手で私の体中を触りまくったんだよ〜。さゆちゃん」
「はぇー。祐一さんもえっちさんなんですね〜。なゆちゃん」
キッチンの方から楽しそうな話し声が聞こえてくる。
名雪と佐祐理のようだ。
二人とも極度の『ほのぼののほほん系』の性格なので気もあうのだろう。
昨晩の堅苦しい関係から、すぐに打ち解けたようだ。
お互いを『なゆちゃん、さゆちゃん』と呼び合い、ずっと前から友達だったみたいに・・・・。
その様子が微笑ましいので、祐一は隠れて少しだけ聞いてみた。
が・・・。
「ほかにもね〜。おままごとしたとき『愛の確かめあいごっこ』をしよう!・・・なんていって私をベッドに押し倒したんだよ〜。祐一は〜!」
「はぇ〜。ませてたんですね〜。祐一さんも。あははっ♪」
名雪は嬉しそうに祐一の赤裸々な過去を暴いていく。
「・・・・なッ!・・・・・・名雪ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
「あ・・・・・ゆ・・・ゆういち!!い・・・・いつの間にいたんだよ〜!?」
「今だよ!」
ギロッと睨めつける祐一の視線に、冷や汗をかきながら苦笑する名雪。
「あ・・・・あははー。おはようございます。祐一さん」
「佐祐理・・・・さん」
しかし・・・。
佐祐理の顔を見て、心配そうに呟く祐一。
だが・・・・彼女は、力強く・・・・。
「祐一さん。・・・佐祐理はもう、大丈夫です。・・・・勇気を・・・・いっぱい・・・・もらったから・・・・いっぱい・・・・愛して・・・もらったから・・・・」
いつもの笑顔・・・。
昨日とは別人のようなほど・・・・・錯覚を覚えるほど・・・・。
いつもの・・・・眩しい笑顔・・・・。
「・・・佐祐理は・・・・今日、家に帰りますね」
「・・・・・・・」
「・・・そんなに心配しないでください。・・・・・・・全部・・・・・決着をつけます・・・・・・・だから・・・・・・。祐一さん・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・信じて・・・・・・ください・・・・・。祐一さん・・・・・・」
「・・・・・・・うん。わかったよ」
もう、心配はいらないだろう。
祐一は確信していた。
佐祐理の顔を見れば全てがわかる。
全てが信じられる。
「さっ。朝ご飯にしましょ。祐一さん」
「ああ。・・・名雪ちゃん・・・・・あとでちょ〜っとだけ話があるからね〜。ふっふっふっふっふ(^^)」
祐一は薄く微笑みながら、名雪を脅してやった。
こいつぁ後でオシオキしてやらんとな!
そう思ってるに違いないでしょう。
「ゆ・・・ゆういち・・・・こ・・・・こわいよ〜(;;)」
「あ・・・あははー・・・祐一さん・・・で・・・でも・・・・・面白かったですよ」
「さ・・・・さゆりさんっ!!」
佐祐理は、ちょっと恥ずかしそうに、微笑んだ。
祐一は・・・。

そりゃそうだろう・・・。
色んなことをやったからなぁ〜・・・ガキの頃は。
名雪はこれから、俺にとって驚異の存在になりそーだな(TT)

今後の行く末を想像して溜息をついてましたとさ。

かちゃ・・・

「くすっ。何のお話ですか?」
秋子も、キッチンに現れた。
「あう〜・・・卵焼き・・・いい匂いだよ〜」
真琴も目をこすりながら、降りてきた。

そして・・・・・いつもの・・・・・朝が、はじまる。






























時と共に





























雪はやみ・・・






























風は弱まっていく。






























嵐の後には






























鮮やかな






























青空が






























広がっていた。






























「遅いなぁ・・・」
遠くから見えた彼は、妙にそわそわしていました。
ちょっとだけ、待ち合わせの時間に遅れてしまいましたけど・・・。
彼なら、許してくれますよね?
私も・・・ずっと・・・待ち続けたんですから。
私は・・・早足で駆けていき、叫びました。
ずっと・・・長い間・・・口にしてなかった・・・・彼の名を・・・・。
最愛の恋人(ヒト)の・・・名前を・・・。

「・・・祐一・・・」
「あ・・・・佐祐理・・・・」

一年ぶりの・・・・再会・・・・。
あの日の後、私はお父様に・・・・はっきりと言いました。

『・・・私は・・・倉田佐祐理は・・・。相沢祐一さんのことを・・・・お慕い申し上げています。・・・・だから・・・・この縁談は・・・・・お取り消し・・・・ください!』

強い口調で言ったわけではないのですけど、何故かお父様は・・・少し考え込んでから『わかった・・・』と、言ってくださいました。
その後・・・・・お父様は・・・・引退しました・・・・。
これで、全てが良かったのかどうかは・・・・・いまだにわからないけれど・・・・。
・・・高校を卒業した私は、一人暮らしを始めました。
この街からちょっと離れた・・・・大学に通うため・・・。
最初は寂しかったけれど、舞もなゆちゃんも・・・よく遊びに来てくれるから・・・。
舞となゆちゃんの二人・・・私が思ったとおり気があいましたよ。
舞も、新しいお友達ができて嬉しそうでした。
あははー。私ももちろん嬉しいですよ!
今ではよく三人で一緒に遊んでます。
・・・・でも、彼には・・・・一年間ほど会いませんでした。
二人で決めたことだから。

『祐一さんが高校を卒業するまで・・・・間を置く』

そう決めたのですから。
・・・ひたすら待つだけの恋愛なんて、古いかもしれないけれど・・・。
それが私たちにとって一番いいことだと感じたから。
寂しいけれど・・・・・・・そうしないと私は・・・・彼に・・・・甘えすぎてしまうから・・・・。
二人の関係は・・・・・それだけではいずれ・・・ダメになってしまうと感じたから・・・・。
私たちは待ち続けることを選びました。
一年間・・・・。






























春・・・。






























鮮やかな緑と・・・・美しい花々が、咲き乱れる季節・・・・





























夏・・・。






























灼熱の太陽が、大地を焦がし・・・大粒の雨が・・・潤す季節。






























秋・・・。






























冬の前触れ・・・。虫たちの泣き声が・・・空を舞う季節・・・






























冬・・・。






























静かにつもる雪・・・。孤独に・・・身を震わせ・・・・じっと、耐え抜く・・・季節・・・・






























ツライ・・・






























とても・・・ツライ。






























あの人は・・・・今・・・・・・いかに・・・・?






























私はもう・・・・限界でした・・・・。
「・・・・はや・・・・・く・・・・はやく・・・・・・会いたいです・・・・うくっ・・・・・ぐすっ・・・・」
深く・・・・白く・・・・・・長い・・・・・・・冬・・・・・。
いつまで続くのか?・・・・・と・・・・思いながら・・・・・再会の時を・・・・じっと待つ・・・。
ただひたすらに・・・・。
春が来るのを・・・・・。
そして・・・・。





























また・・・春・・・。






























離ればなれになった恋人が・・・・再び・・・出会う・・・・季節・・・・。






























スッ・・・!

一年分の・・・想いを込めて・・・。
「佐祐理・・・・」
「祐一・・・・」
深い・・・・キスを・・・しました・・・・。






























すべての想いを・・・・






























あなたに・・・・






























贈りたい。






























「祐一。・・・・・私は・・・・・・・あなたを・・・・心から・・・お慕い・・・・申し上げます・・・」






























Fin.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(後書き)
・・・長いお話になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
ゲーム本編で、佐祐理さんは笑顔だけを見せていましたが。
『果たしてそんな完璧な人間なんてそんざいするのだろうか?』
と、思って書きました。
すべては想像ですが・・・
佐祐理さんの・・・弱いところも・・・脆いところも・・・危ういところも・・・・全部、考えられるだけ書いて見たつもりです。
コンセプトは他にもたくさんありますが、長くなってしまったのでこの辺で・・・。
では。
Minardi改の次回作をお楽しみに・・・。
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