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これからも……










「うう、ん……。司さ……ん。これからも私を……尻穴奴隷にして下さい……」

「ぶふっ!」

 休日未明の仁礼家。通称桜屋敷……の、一角。仁礼栖香によるそのような発言を聞いてしまって思わずブッと吹きだしたのは、たまたま彼らが寝ている部屋の側を通りかかった相沢美綺だった。そいでもって聞こえてきたもう一人の声。というよりいびきは、栖香の婚約者であり元教師でもある滝沢司のものだろう。かなり豪快ないびきだった。

「……」

 栖香の異母姉妹であり、おねーさまでもある美綺は栖香の衝撃発言を聞いてしばしぽかーんとし、目がまん丸状態になってしまう。ふすま一つ隔てて廊下まで聞こえて来た台詞は、とってもお堅い優等生な妹には似ても似つかない程過激でマニアックでハードなものだったから。

 夜中に起きてみたら、隣で寝ていたはずの愛しのマイシスターすみすみがいないので、あらやだ司センセのところに夜這いにでも行ったのかにゃーと思いながら、何となく尿意をもよおしてきたのでおっし、トイレ行くか。てなことにしたのだった。

 で、そこでついでに二人の様子でもこっそり見てくるかーとか思いながら、たまたま偶然に遭遇したその声は妙に生々しかったので、恐らく妄想ではなくて過去の記憶の回想でも夢の中でしているのだろうと美綺は推測したが。そうなるとゴシップ好きの彼女のこと、追求せぬわけにはいかない。どこまでどんなことやってんじゃー白状せー、ということだったのだった。

「す、すみすみ。なかなかやるねぇ。さすがのみさきちおねーちゃんも真っ青だよー」

 うんうん、と頷く美綺。そして、こっそりふすまをあけて中へと入る。こうなったらもう迷う理由などどこを探してもありゃしないのだから。  

 中はとっても純和風。だだっ広い部屋の畳の上には布団が一枚枚……。その上で司と栖香は組んず解れつ。要するに、夕べは(まだ明け方だけど)お楽しみでしたね、状態だったわけだ。その目の前に立って、美綺はにんまりと微笑んで。

「あたしも仲間に入れて欲しいんだにゃー!」

 すっぽんぽんぽーんと上着、キュロット、靴下、上下の下着を手早く思い切りよく勢いよく脱ぎ捨て、みさきちは全裸になった! そうしておもむろに、二人が未だ眠りこける布団の中にごそごそと入り込む。布団の中の二人は美綺が予想したとおりに全裸なのだった。

「おおう暖かい。そんじゃ、裸の付き合いといきますかねー」

 人間二人の温もりが、毛布の中で暑いくらいに充満しているのだから。が……。外気に晒されていた美綺の体はひんやりとしているわけで。水の中にドライアイスを叩き込むが如く、煙でも上げそうになるのだった。

「うう、ん……。お……姉様?」

「あらん。すみすみ、おっはよー」

 にっこりと朝のご挨拶をするも、された方はどびっくり。既にバレバレなのだけど、栖香本人としてはこっそり司の部屋に夜這いに来たつもりだったのだから。

「って、ええええええっ! おおお、お姉様! どどど、どうしてこの様なところに!?」

 場所というよりも、シチュエーションを目撃された事が問題なのだった。顔を真っ赤にして狼狽しまくる栖香に、美綺はクールにフッと笑って云った。

「そこにすみすみがいるからさ」

 答えになっていない答えだったが。栖香はもう一つの事に気付く。かなりとんでもない事に。

「そそそ、其れにどどど、どうしてお姉様も裸なんですかっ!?」

 美綺はにや〜っと笑って云った。

「いやん。それをあたしに云わせるかな。ぽっ」

「な、な! ど、どういう事なんですかっ!? 私と司さんが寝ている間に一体ななな何がっ!?」

 と、布団を被ったまま姉妹でそんなことを話していると。当然、もう一人の人物も目を覚ますわけで。

「お前ら。こんなとこで何を……って、おいみさきち」

「何かな義弟クン」

 一応、立場的に近々そうなるのだろうけれど。司としてはちょっぴり複雑なのだった。だって、元は教え子になるわけで。

「義弟云うな。……あえて僕も栖香と同じ事云わせてもらうが。こんなとこで、しかも裸で何やっているのかね」

「いやーはっは。愛しのすみすみがセンセに『これからも私を尻穴奴隷にしてください』なーんて過激なこと寝言で云うからさー。ついついねー。おねーちゃんもびっくりだったのさー」

 あっさりとネタ晴らし。

「ぶはっ!」

「はうっ!」

 それを聞いた瞬間、当然の如く司と栖香はハモったように吹き出すのだった。『寝言でよりによってなんちゅーことを口走っているのですか貴方は』と司は云い『そそそ、其のようなことを云われても』と困惑する栖香。その様は恋人というより夫婦のような感じがした。

「んで、すみすみ。お尻の方ってー。どうだったのかにゃ? どうだったのかにゃ? どうだったのかにゃ? 初なみさきちおねーさまとしては知りたいにゃ知りたいにゃ知りたいにゃーーー!」

「そそそ、其れはそのおおお。いいいいえいえいえいえ! 私は其のようなふしだらな行為は決していたしてはお、おりませんともええそうですとも!」

 動じまくる妹に対し完全におちょくるかのよーに、はしゃぎまくる美綺。否定したところでそんなもん信じるわけがないと云うべきか、バレバレなのだった。最終的にごまかせず、絶句してしまう栖香と司を横目に美綺は追求の手を緩めない。しかし、司はただ者では無かった。少し考え込んでから……。

「どうだった、か。そうだな。一言で云えば……すごかったぞ。うん」

「つ、司さん!」

 開き直ったのか達観したのか、司は遠い目をして過去を語り出した。

「あの頃の栖香は……すごかった。僕がいないときに僕の部屋で一人えっちをしていたり」

「……っ! ななな……なっ!」

「わぁお」

「いや、たまたまトイレに入ってたんだけど。そんな光景を見せつけられたら出るに出られなくてさ」

「すっごーいねぇ」

 司の赤裸裸な報告に美綺も聞き入るのだった。

「で、な。今だから云えるが。栖香と僕が付き合い始めた頃に色々とその、な。できなかった事情があったことは知っているだろう? ほら、栖香の家のこととか操のこととかでさ。それで、栖香は真剣かつ必死に妥協点を探したんだ。……というわけなので、『シリアナード・レイ』さんって誰、と僕も最初は耳を疑ったというか、そう思ったのだけどそういうことになったんだ。……あんまり笑ってはいけないのだよ?」

 とか何とか真面目くさって云うけれど、実際やってることはやってるわけなのであんまりクールには見えないのだった。

「で、その結果。すみすみはお尻専科になったわけだね」

「せせせ、専科というわけではございません! 他もちゃんとしています!」

 なるほどなるほど、と頷く美綺と引き続き顔を引きつらせながら言い訳して、結局恥ずかしくなって絶句する栖香。

「そう。……って、別に専科になったわけじゃないぞ! 時折求められたらするだけだ」

 それではまるでアブノーマル趣味の変態ではないかと司は思ったのだが、実際そうなのかもしれないなとも思ってしまった。というよりも司から求めることはあんまりないわけで。いつも栖香の方からしてください、と求められるのだから。

「そ、そうです! 普段は普通なのですっ! た、ただ。たまにその……して欲しいということがなきにしもあらずということで」

「ホントかなー。もう、お尻じゃなきゃ感じられません! とかとか」

「あ、ありませんっ! ヘンなことおっしゃらないでくださいお姉様!」





で、結局。





「……いいの?」

 悩んだあげく司は渋々ながら承知したが、栖香に念を押す。これが何度目かの確認だろうか? 特例中の特例と云うことで。お尻でするってどうだったの気持ちよかったの最高だったの? と、やかましい美綺を黙らせることにしたのだった。栖香もだいぶやけっぱちになっているのかな、と司は思った。まあ、後ろの方なら……という妥協に至ったわけだった。

 それもこれも全ては始めの頃の話……。話をしていくうちに、栖香は今ではすっかり乗り気になったのだった。

『すみすみ。嫌がってる?』

 と、妹が嫌がることはしない主義の美綺が心配そうに聞けば。

『いいえ。むしろ喜んでいます。お姉様も、お尻の穴での行為の気持ちよさを体験していただけるのですから。とってもいい機会だと思います』

 と、いつしか笑顔になっていたのだった。

「もう致し方ありません、とは思いません。こうなれば、お姉様にも試しにしてもらえば宜しいのですから。私と司さんがお尻でしか感じられないような、変態ではないということを証明してもらうために」

「みさきちも変態になればいい、と云うことかな?」

「『も』って何ですか『も』って! 茶化さないでください!」

 司のさりげない突っこみを聞き逃さない栖香。

「あ、いや」

「にゃはははは。百聞はなんとやらーってやつだね。変態おっけーおっけー」

「では、お願いいたします」

 栖香も改めて司にゴーサインを出すのだった。

「論より証拠ーってのもあるねぇ。まっ。ものは試しってことでー」

「ものは試しでお尻でするかな……」

「いいのいいの。さっ、やっちゃってよ」

「はいはい」

 というわけでみさきち。どきどきの初体験と相成った。……お尻の方の。もちろん、きっちりと柔らかくほぐしてからなので準備はもう大丈夫。

「そんじゃ、いっくよー。お、お、おっおっおっおっ……おお、おおっ! 入ってくよ入ってくよ入ってくよー! あたしのお尻の中にセンセのが入ってく−! すすす、すっごいすっごいすっごいー! ああああっ!」

 仰向けに寝そべる司の上に腰掛けるようにして、ずぶずぶと中に入っていく。美綺は自分の事ながらあっけらかんとして、けらけら笑ってとっても楽しそうだった。その様子を見る限り痛そうな感じもしなかったので、ま、いいかと司は思い栖香もうんうんと頷くのだった。

「……き、きついぞみさきち!」

 が、根本まで入りきる頃に立場は逆転。あまりのきつさに顔をしかめる司。

「へっへー。どうだー。あたしのお尻は癖になりそうだろー。って、うおおう! すんごい圧迫感ー! あっあっあっあっあー! お尻すっごい! ホントに癖になっちゃいそー!」

「お姉様っ! わかっていただけましたか!」

「うんうん! すみすみが病みつきになるのがよーくわかったよー!」

「そうですか。……病みつきになっているわけではないのですが、それはなによりです!」

 姉妹は感激のあまり笑顔で手を握り合うのだった。





そんなこんなで、明け方の情事は美綺の気が済むまで行われたのだった。





「じゃ。ついでに下の方も初体験を〜」

「お姉様っ!」

 息も絶え絶えな司を放置して、元気いっぱいな美綺。さすがにそれは、とばかりに栖香に止められる。

「ついでに、じゃなーーいっ! そっちはさすがにダメだろっ!」

 同時に呆れた司にも止められる。

「えー。何でー? センセとだったらいいよ?」

 僕はよくない。意中の人でもおらんのか、と司は心の中で叫んだ。

「お前も年頃の女の子だろうが」

「その女の子とアナルセックスしておいて今更何云いますかなセンセ」

 既成事実に絶句する司。何だかんだで、じゃれ合うかのような一時は楽しくて暖かくて賑やかで。でも、障子の外にて。





『血縁さえなければなぁ。僕も参加させてもらったのに』





と、美綺と栖香の弟君の正臣君が溜息をもらしているのだったとさ。




















----------後書き----------

 こうなったらもう血縁なんぞ気にする必要ないんじゃないんだろうか、とも思わないでもありません。






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