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天から舞い降りしもの










 春先のある日のこと。祐一は陽気に釣られて外に出てみるのだった。

「ふあ」

 綿菓子のように柔らかな空気に思わず眠気を感じると、雲一つ無い青空を丸ごと飲み込むかのようにして口を開け、思いっきりあくびをした。……が。

「ふああ……んごっ!」

 いきなり空から降って来た柔らかい布状の何かが顔に当たり、面食らう。

「な、なんだこりゃ?」

 引きはがすかのように両手でびろーんと広げてみる。

「ぱ、ぱ、ぱぱっぱ……。パールラ○ス? じゃなくって! こ、これは!」

 呆気に取られてわけのわからないことを呟いてしまう。冷静になって見てみると?

「……。ぱ、パンツ?」

 恐らくベランダに干してあったであろう、女性用の黒い下着だった。

「名雪の、か? それとも秋子さんの? それにしても、黒パンとは大胆な……」

 瞬時に察しがつく中。まばたきを数回繰り返しながら、まじまじと見つめる。結構どころじゃないほど大胆でもあるかもしれないデザインだった。仮にそれが名雪のものだとしても秋子さんのものだとしても、黒という色自体がとても似合わないくらい刺激的だった。

「って。何してるかな俺は。ちゃんと返さないとな」

 踵を返してベランダに向かおうとしたその時。

「あ。祐一〜!」

「のわっ!?」

 ベランダに名雪が現れて、祐一の姿を見つけたのか呼びかけてきた。突然の声にびくっとした祐一ははずみで、ポケットに下着を突っ込んでしまう。明らかな不可抗力なのだったが、誤解は不和を呼ぶもの。

「どこかにお出掛けするの?」

 名雪はそんなことにはまるで気づいていなかったようだ。笑顔がとても可愛らしいが、祐一は後ろめたさにしどろもどろになってしまう。

「え。あ。その、ちょっと気晴らしに商店街にでも行こうかな〜。なんて……」

 そんなつもりはないのに、何故か誤魔化すことになってしまった。

「わたしも行く〜。ちょっと待ってて〜」

 名雪は元気にベランダを出ていくのだった。

(って。……これじゃ俺はまるで下着泥棒じゃないかっ!)

 とか思うけれど時既に遅し。……とまあそんなわけで予期せず、可愛い彼女と楽しいデートタイムがはじまるのだった。

「お待たせ〜」

「あ、ああ。行こうか。うん」

 でも祐一は『バレでもしたら』と戦々恐々で、ポケットの中身が気になってしかたがなかったのだった。





その日の夜。





「うーむ」

 祐一は、自室にてうなっていた。

(こりゃ返さないとまずいよな)

 手には黒下着。ひたすら渡しそびれてしまったのだった。

(しかし、今更何と云って渡せばいいんだ……)

 洗濯物の取り込みはとっくに終わっているだろうし。何気なく元あった場所に戻すのは不自然極まりない。

(ど、どうしよう)

 悩み、迷う。だが、そんなとき。

「祐一〜」

 こんこんと小さなノック。

「どわっ!」

 その後に続く小さな声は、名雪だった。

「入っても、いい?」

「あ、あ、ああ。いいぞ! ……はっ!?」

 祐一の手には名雪の下着。慌ててまたポケットに隠す。

(ああもう! また隠してしまった!)

 隠さなかったらそれはそれで色々誤解されそうだが。

「ど。どうしたんだ?」

「えっと。あのね……」

 名雪は何か相談事でもあるのか、もじもじとしている。

「な、何だ?」

「その……。えっと……」

 とても恥ずかしいことなのだろうか。頬がほのかに赤く染まっていく。

「な、何だよ?」

「わ、わたしの……知らない?」

 肝心のところはごにょごにょと聞き取りづらくて、祐一は問い返してしまう。

「は?」

 名雪は困ったような表情で、改めて説明する。

「あ、あのね。その……。ベランダに干していた下着がね。一着、どこかにいっちゃって」

 風にでもあおられて飛んでいってしまった、とでも思っているのだろう。

「祐一、知らない……と、思うけど。見つからなかったら、一緒に探して欲しいな、って」

 ものがものだけに、見つからなかったら嫌なのだろう。とても不安そうな表情になっていく。

(……。俺は。こいつにそんな思いをさせていたのか)

 そんな名雪を見て、祐一は自分の行為を恥じた。経過はどうあれ……彼女が抱いている不安の原因になってしまっているのだから。

「名雪」

「うん?」

「ごめん」

「え?」

 事態が飲み込めていない名雪。

「最初に謝っておく。……。絶対誤解するだろうと思っていて渡せなかった」

「え? え?」

 そして、隠し持っていた下着を名雪に渡した。

「昼間、玄関の外に出てあくびしてたら、これが俺の顔に降って来た。で。その時いきなりベランダから呼ばれたからびっくりして思わず隠してしまった。……そうしないと絶対下着ドロと勘違いするから」

 誤解がないように、落ち着いて説明する。

「そ、そうだったんだ」

 恥ずかしさに名雪はしどろもどろになる。事情は完全に理解したけれど……。

「というわけだ。誤解すんなよ?」

「うん。……しない。ありが、と」

 それきり話が途切れて、部屋の中にはとても気まずい空気が充満する。

「……」

「……」

「……大胆、だな。黒って」

「ゆ、祐一」

「あ、ああ」

「えっと。その……」

 名雪は何を思ったのか。

「ゆ、祐一に見せてあげる、ね」

 と、云った。

「え?」

 一瞬何のことかわからなかった祐一に、名雪は後ろを向きながら云った。

「着たところ……だよ」





そして、名雪の部屋にて。





「後ろ向いてて」

「ど、どうせ見せるんなら一緒だろ?」

「そんなこと、ないよ」

 着替えという行為は異性に見られるものではない、ということだった。

「そうか」

 別にこだわることでもなかったので、素直に従う。

 買ったばかりの、お気に入りの下着だから、着たところを祐一に見せてあげる。と、何を思ったのかいきなりそんな展開になっていた。

「……」

 ゆっくりと上着を脱いで、ぱさ、と床に落とす。続いて、じじー……とスカートのチャックを外して落とす。

「まだ向いちゃだめ、だよ」

 名雪にその意図はないのだろうけれど、焦らすようにゆっくりした手つきになってしまう。

「ああ」

 最後に下着を着替えて。そして。

「……。い、いいよ。こっち向いて」

 祐一は無言のまま振り返る。そこには下着姿の名雪がいた。

「えへへ」

 悪戯っ子のような笑みを見せて、両手を背中で組んでいた。

「可愛い、でしょ?」

「……」

 細く、くびれたウエストにふっくらしたバスト。すらっとしたスタイルの名雪は健康的で愛らしくて、祐一を完全に魅了した。

「祐一?」

 祐一は衝動的に名雪に近づいて。そして……。

「あっ。だ、だめだよ」





いきなりキスをして、ベッドに押し倒した。





 二度、三度と繰り返される立て続けのキスに、名雪はなすすべなかった。

「ん、ん、んん〜! 祐一〜!」

 誘われているようでいて、名雪の性格からして完全に天然だということがわかっていて、逆にそんなところが可愛くて。祐一は手を出してしまった。

「お前。可愛いよ」

「あっ……。だめ」

 両足を掴んで大股開きをさせると、黒い下着に覆われた秘部が露になる。

「ひゃっ!」

 秘部の形をなぞるようにして撫で回すと、名雪はくすぐったさに身をよじる。何度かそれを繰り返したら、今度は指で押し込むようにして、布地の上から名雪の秘部をつんつん、ぐりぐりとつつく。

「ゆ、祐一〜。そんないきなり。ん、んっ」

「……」

 祐一は無言のまま名雪の唇を塞いで、ブラをまくり上げた拍子にふるると震えてる胸を揉む。

「あっ……あっ! だ、め」

 少しひんやりとした祐一の手に、名雪はビクッと震えながら感じた。

「名雪のここ。柔らかいな」

「あっ……。は、恥ずかしいよ……。こんな格好」

 大股開きさせられて、名雪は手で顔を覆って恥じらう。けれど祐一は気にも留めずに下着の上からねじ込むようにして指を押し込み、ぐにぐにとうごめかせる。

「はぅっ! あっ! んんっ!」

 下着姿を見せるだけのはずが、いつの間にかこんな事になってしまっていた。けれど、嫌な感じはしなかった。

「名雪。濡れてきたぞ」

「う、うぅ。……洗ったばかりなのに〜」

「汚したのは俺じゃないからな」

 しれっと云う祐一だった。そうさせたのは他でもない自分なのに。

「祐一がいきなり、こんなことするからだよ〜」

「名雪が誘うからだぞ〜」

「そんなつもりじゃなかったのに……」

「下着姿が可愛かったから。ついつい押し倒しちゃった、ということで。名雪の責任だな」

 誤魔化しもせず云う祐一に、名雪はくす、と笑った。

「うれしい……。けど、恥ずかし……あ」

 祐一は名雪の下着をずらし、僅かに湿った秘部に先端を押し当てて……。

「いくぞ」

「う、ん」

 ぐっ……と力を入れて、一気に押し込む。





……





「あ……あ、あ……ああっ」

「うあ。また出る……」

 何度となく肌を重ね合わせて、祐一は達しかけていた。

「祐一。気持ちいい?」

「うん。最高に」

 名雪の中は暖かくて、きゅうっと締め付けてくる。心地よい快感に、祐一は背筋を震わせる。

 何かを堪えるかのような祐一の表情に、名雪は嬉しくなって祐一の体を抱きしめる。

「わたしも。……んっ。気持ちいいよ」

 好きな人と一つになっている。それだけで名雪は充分だった。

「そっか」

「んんっ。……もっと早く動いても、いいよ」

「わかった」

 祐一はラストスパートとばかりに動かしはじめる。ギシギシとベッドがきしむのも気にせずに、互いの吐息を感じ合う。

「あっあっあっあっ! はぁあっ!」

「くっ」

 程なくして、祐一は名雪のお腹に思いっきり射精した。





それから……。





 二人は裸のまま、ベッドで添い寝していた。

「ね。祐一」

「ん」

「祐一は、どんな下着が好き?」

「トランクス」

 ブリーフ派ではないようだ。

「女の子の、だよ」

「えっちなのとか」

 名雪はくすっと笑って云った。

「どんなの?」

「穴が開いていたり、すけすけだったり」

 冗談で云ってるとわかっていて、本気で答える。

「ふふ。じゃあ、今度。そういうの、着て見せてあげるね」

「楽しみにしてる」

「ね。祐一」

「ん」

「えっちするの、好き?」

 もそもそと、仰向けに寝そべる祐一に寄り添う。

「名雪とするえっちは大好きだぞ」

「わたしも〜」

 軽くキスを交わす。

 微笑む名雪が可愛くて、祐一はぎゅっと抱き締める。

「んにゅ〜。祐一ぃ」

 そしてお尻を触る。

「……あん。祐一のえっち」

「名雪こそ。あんなえっちな下着着てたくせに」

「そうだね」

「それにしても。どうしてまた、黒下着なんてものを買ったんだ?」

 それはあまりにも名雪のイメージに合わないものだったから。

「んーとね。祐一がびっくりするかな〜って、思ったの」

 ぺろっと舌を出して悪戯っ子のような表情になる。最初から見せるつもりで買ったらしい。

「びっくりしたよ。思いっきり」

「でも。わたしもびっくりしちゃった……」

 このような展開になるとは彼女も思っていなかったようだ。

「そっか」

 そう云いながら、名雪の胸を揉み、乳首をつまんで転がす。

「くすぐったいよ〜」

「なあ名雪。俺、またしたくなってきた」

「じゃあ、また」

「今度は名雪が上になってくれよ」

「うん」

 そして名雪は仰向けに寝そべる祐一の上にまたがって、先端を手で押さえて、腰を沈める。

「あ、あぁ……。はぅっ……ん……」

「俺は動かないから。えっちな腰づかい、いっぱい見せてくれよな」

「うん。いくよ……」

 ゆっくりと、動き始める。大股開きして、名雪の中に入ってく様がくっきりと見える。

「あ、ああ……。あ、あ……」

 名雪が腰をくねらせるたびに、甘い吐息が部屋の中に溢れて行く。

「あっ……はっあっ……。祐一。んっ……好き……」

 切なげなあえぎはとても淫靡。

「俺も。……っく。締まる……っ!」

 ぷるぷると揺れる乳房を揉み回す。

「祐一。思いっきり……出して、ね。あっあっあっ!」





二人はさらに大胆になっていく……





これもすべて





えっちな下着の魔力のせい、かも?





----------後書き----------

 名雪には黒下着も似合いそうだなと思う次第でありまして。

 この二人はえっちぃシーン中の会話が、意味もなく微笑ましそうだなと思いました。



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